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色々と違うか

 状況を打開しようとしてからの数日間。俺の周りでは不可思議なことが連続して起こるようになっていた。


 ある時は空から果物が降ってきたり。

 またある時は捌かれた肉がこんもり置かれていたり。

 またまたある時は湖の岸に焚火が燈っていたり。


 謎だ。


 果物が降ってきた瞬間に空を見上げても誰もいない。

 火が手に入ったのは嬉しいが、肉を焼き終わると自然沈下する。


 初めは『なんだこの血溜まりは!? 殺人現場か!?』なんて警戒していたのだが、何回か続くと警戒するのが馬鹿らしくなってくる。


 果物はそのまま食べさせてもらい、肉は焚火の火を借りて焼かせてもらった。

 未だに鳥姿のままだが、俺の食糧事情は一気に改善されたのだ。

 そんなことが連日続き、俺は一つの決心をした。


「そろそろ探索に行くか!」


 俺を手助けしてくれる存在がいることはもう疑いようがないだろう。

 それが神か悪魔かは知らないが、これを利用しない手はない。

 間違いなく来てる! 運命が俺の背中を押している!


 いつ森に入る?

 それは追い風の今でしょ!


 俺の中のじいちゃん(隣)が囁くんだ。

 わしにパンツを穿かせてくれ、と。


 これは人と接触して衣服を恵んでもらえとの天啓に違いない。


 なんだかんだ言いながら身体能力は高いわけだし、森に入るのが危険なら空から攻めればいい。

 見晴らしのいい空中を移動すればそうそう変なやつにも遭遇しないだろう。

 

 俺は無駄に綺麗な両翼を羽ばたかせ、人型の時と同じように抵抗なく宙へと舞い上がる。


 右よし左よし上下前後も問題なし。


「俺の大冒険の始まりだ!」


 そう言って意気揚々と出発した……んだが――


「ん?」


 なにやら前方に豆粒のような黒い物体が。

 凝視してみるとどんどん大きくなってきてる?

 急速にこちらに向かってきているような……?。

 それは近づくにつれて一気に鮮明になり、俺の生存本能が警鐘を鳴らしている。


 鳥! 鳥が来た!


「クヶエエエエエ!」

「ひぇえええええ!」


 俺みたいな小物じゃなくて、全長三十メートルぐらいありそうな正真正銘の怪鳥だ!


 この鳥野郎、大口を開けて俺を捕食する気満々だ!

 俺は即座に逃げ出すが、


「こっち来んなボケェ!」

「クヶエエエエエ!」


 当然伝わるはずもなく、言うことを聞いてくれるはずもなかった。

 どうにかジャンボジェット機のような初激を回避して態勢を立て直すが、怪鳥は旋回してまた戻ってくる。


 誰だよ空中なら安全とか言った奴は!

 誰も言ってないけどね!


「うわっ! ちょっ!」


 怪鳥はこちらに向かいながら再度口を開く。

 今度は奇声など上げないが、代わりに嫌な感じが奴の口に集まっていくような気がした。

 そして大きく膨らんだ怪鳥の胸部。

 空気を大量に吸い込み、そこから一体何をするのか……。


 ――まさか!?


「ぐほっ!」


 感覚に従いその場から離れようとしたが、いきなり脇腹に衝撃が走る。

 あ、あのヤロー、口から空気の弾丸を吐き出しやがった……。


 避け切れずに見事に俺の脇腹にクリティカルヒットして、骨が折れる鈍い音がした。


「げほっ……ふ、ざけやがって。そっちがその気なら俺にだって考えがあるぞッ!」

「クケェエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


「……………………フッ」


 勇ましく吠えた俺だったが、怪鳥の鳴き声で考えを改める。


 運が良かったな。今回は見逃してやろう。自分の幸運に感謝するんだな。


 俺は逃げの一手……というより逃げ一択!

 三十六計逃げるに如かず。生死をかけた戦いなんて無茶ぶりにもほどがある。


 あんなのに勝てるわけねえだろっ!


 俺は墜落に見せかけて森に落ちていく。木々に突っ込んだところで身を翻し、ぶつかるスレスレで着地した。

 痛む脇腹を庇いながら、目立たないように隠れる。

 怪鳥は大きすぎるのか下りてくることはなく、暫くの間は上空でホバリングしていたが、苛立だしげに一鳴きするとどこかに去って行った。


 あ、あぶなかった。

 忘れてた。いくら最近調子良かったとはいえ、ここはサバンナもビックリな野生王国なのだ。油断すれば俺の命なんて軽く吹き飛んでしまう。

 あのファンシーな熊を見たときに思い知ったはずなのに、つい失念してしまっていた。


「いてぇ……」


 怪鳥の羽ばたきが聞こえなくなると、忘れていた痛みがぶり返す。

 羽毛で隠れて見えないが変色ぐらいはしてそうだ。

 骨も折れているだろうし……内臓が無事であることを祈る。


 マズイ。本気でマズイぞ。これは痛恨の失敗だ。病院も薬もない状況でこんな痛手をこうむることになるなんて。


 無理すれば飛べないこともないだろうけど……速度はだいぶ遅くなるだろう。ただでさえモンスター蠢く魔境にいるってのに、こんなザマじゃ逃げ切るなんて不可能だ。


 地上生物ならこちらが先に気づければ逃げられるかもしれないけど、飛行能力がある生き物に見つかったら今度こそ終わる。


 俺は痛む体を引きずって湖の畔に引き返した。

 飛び上がってすぐだったので、距離が離れていなかったのは不幸中の幸いだった。危険生物に出会うことなく辿り着けた。

 戻るとそこには当然のように焚火と、肉、果物が置いてある。とりあえず動けなくて餓死の心配はなさそうだ。


「ありがてぇ……神様のお恵みじゃぁ……」


 俺は肉を焼き、果物と一緒に昨夜、寝床として使った木へと持って行く。よじ登るときに傷が痛んだが、どうにかこうにか楽な体勢で横になる。それだけで鈍痛が和らいだ気がした。

 勘違いかもしれんけどな……。

 一先ず今は身体を休めなければ。当分は引きこもり生活が続きそうだ。


 ……それも、変わらず食料が供給される前提だがな。


 はぁ……俺はいつもこうだ。

 調子に乗って失敗して後悔して……。

 いい加減に学習しろよ。ここは失敗=死に繋がるんだよ。もうバカばっかりやってはいられない。


 ……俺もシリアスになるときが来たのかもしれない。

 バイトをして、日銭を稼いでその日暮らしの生活を送る日常はもう終わりだ。これからは先を見通し、考えて生きていくことになるだろう。

 汗水垂らして必死こいて働いても中卒ってだけで白い目で見られ、蔑ろにされる。

 どれだけ真面目に働いても、評価なんてされずに小言ばかりを浴びせられる現代社会。そんな学歴社会に別れを告げよう。


 昔から我慢して、上司や先輩にこうべを垂れて生きてきたんだ……いいだろう。やってやるさ。

 所詮一度死んで異世界で得た命だ。いまさら未練なんて在ろうはずもない。

 事ここに至って、俺はようやく覚悟ってやつが固まったんだと思う。


 今まで出来なかったことをやってやる。

 目指せ! 安全で安心できる自堕落な生活!

 俺は野生界の引きニートになるっ!







 ……あれ? なんか違うか?



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