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懲らしめてやりなさい

すっかり忘れてました(`・ω・´)


 ブラザーズの処遇について悩んでいたが、落ち着いて話すために拠点まで戻る事にした。食料集めはまた今度だ。

 さっそく移動だ! そう意気込んだものの、そこでぶち当たった問題がブラザーズをどう運ぶかという重労働。


 だってそうだろ? 一人でもゆうに三メートルを超える巨体。その重さは軽く見積もっても測定不能。女性の天敵たる体重計だったら乗る前からギブアップしてしまうだろう。

 そんなのが二人もいるのだぜ? いったいどんな手段で運べというのか。


 ……なんて、そんなふうに思えるのは常識人だけ。だが悲しいかな、ここは人外遍く人外魔境。常識人の常識なんてすんばらしぃ~ものは生息していない。

 白目をむいたブラザーズを軽々と持ち上げたのは我らが頼れるグルー様。

 表情一つ変えずに抱え上げ、引きずるのも(いと)わず拠点まで連れて来てくれたのだ。


「おっふ……クレイジー……」


 漏れた感想に嘘偽りは無い。グルーに敵対したら三秒で死ねる自信がある。

 ちなみにこの感想の中には、道中でブラザーズの腰巻が(めく)れて、その中身を目にしてしまった俺の衝撃も含まれている。くれいじぃ。


 そんなこんなで拠点までも戻り、一息ついたところでブラザーズが目を覚ました。


「ずびばぜんでじだ……」

「もうゆるじでくだざい……」


 平和的に話し合うために連れて来たというのに、濁音だらけで聞き取りづらいながら許しを請うブラザーズ。顔の面積を二倍に腫れさせて、全身隙間無くボコボコにされた可哀想な加害者(ひがいしゃ)二人。

 目を覚ました途端キキにシメられた結果である。


「今回はこれぐらいで勘弁してあげるわ。でも次に私の尊き御方に黄ばんだ牙を向けようものなら、問答無用で干物にしてやるから覚悟しておきなさい。命を奪わないでと仰った主様の温情に奉謝することね」


 ……はて? 温情とはどんな意味だったか。少なくとも瀕死になるまで影で拘束したり、影で巨体を持ち上げて地面が陥没するまで何度も叩きつけたりはしないと思うのだが。


「がんじゃじまず……」

「にどどさがらいまぜん……」

「よろしい!」


 ブラザーズの屈伏に満面の笑みで頷き、誇らしげに胸を張るデスマシーンキキ。

 そんなキキを、何故か元の状態よりもボロボロになっていた小屋の影に隠れて覗き込みながら、ぼくの膝は震度6に襲われています。


 不意にキキと視線が重なり「あっ主様ッ! 私じょうずにできましたかぁ~」なんて甘えてくる神経に戦々恐々。


「見事な手前であったぞキキよ! これからもできるだけ穏便にっ! 可能な限り平和的な解決をするようにな!! なッ!!」


「はい! 今後も主様のお役立てができるよう邁進していく所存でございます!」


 その進む先はいったい何処へ繋がっているのか。

 この少女に逆らうな! 俺の役立たずな生存本能がそう告げている。


 キキとの溝は深い。真の意味での仲間になる日は遠そうだ……意識共有の意味合いで。


「それで主様? 次は誰を従属させましょうか」

「え……?」


 至極当たり前のように次の獲物を探すその姿勢。無いと思います。


 …………本当に溝は深い。

 俺の話聞いてた? 平和的にって言ったばかりじゃん! 元気よく返事してくれたじゃん! なんで従属させるとか不穏な単語が出てくんだよ!


「この者達に案内させて大喰鬼(トロール)の集落を奪いましょうか? それとも……少し逸れた場所に宝樹木(オーロラトレント)が群生しておりますので、奴等を隷属させれば望む果物を望むがまま手に入れることが可能になります。此度は至らぬ私どもの不明が原因で尊き御身を下衆(ゲス)の面前に曝してしまいましたが、同じ過誤(かご)を犯さぬよう、今度こそ万難を排して主様の覇道の礎とさせてくださいませ!!」


「……」


「あぁ――このように主様の傍を片時も離れずにいられる。それはなんて甘美でッ! 愉悦溢れるッ! 時間なのでしょうッ! 主様との愛玩物として逢瀬を重ねられる――あぁ……あぁ、誰もいない、二人だけの空間。不純物の一切を取り払い、主様の全てを私の影鎖で繋ぎ止め、主様の全てを私が御守りする。私は主様の所有物で、主様は私だけの主様。邪魔をする者には等しく滅びを与えましょう! 逆らう者には等しく破滅を招きましょう! この世の全ては主様がためにあるのですから!!」


 蕩けるような表情で恐ろしい妄想を垂れ流す危険思想。たぶん人間だったら邪教徒とかに認定されること請け合いだ。

 …………溝だけではなく業まで深いとは。

 キキの凶行で、一番の恐れを抱いたのは間違いなくブラザーズだろう。


「にいち゛ゃん、コイヅやばいよ。おれごわいよ」

「そうだなおどうどよ、コイヅはイッチ゛まってる。ぜっだいにさがらっじゃいけねえ」


 見上げるような巨体でありながら、肩を寄せ合って震える大喰鬼(トロール)に同情してしまう。

 うちのキキがどうもすいません……。悪い子ではないんですよ、たぶん。


 おいキキ! お前ってば生粋の魔族にまで怯えられてるぞ。さすがの俺もドン引きだ!

 俺は妄想の世界に羽を広げているキキを横目に、ブラザーズを励ます事にした。


「お前らも災難だったな、キキにはあとでちゃんと言って聞かせとくから安心してくれ。……せめて命の保証だけは――」


「ムフっ……ムフふふふふ――アッハハハハハハハハハハッ!!!!」


「……もぎ取れたらいいなぁ…………」


 途中、いまだトリップしているキキを見て自信が無くなってしまう。

 くっ、すまない。今の俺では彼女を止めることは難しいだろう。もしもキキに不信感など持たれた日には俺の生存すら危ぶまれてしまう!

 許せ――とは言わない。だが、お前たちが死んでもお前たちの分まで俺が生きて見せるからな……っ!


「強く生きろよ……」


 本心からの言葉だった。

 ポンっとブラザーズの膝を叩き励ましておく。俺だって挫けそうなのに、当事者であるブラザーズからすれば恐ろしくてそら仕方ないだろう。

 俺にはその気持ちが痛いほどわかるぞ。


「そういえば腹減ってるんだっけな。……ほら、あそこにある肉食うか? ロック鳥の肉なら山ほどあるから遠慮しないでいいぞ」


 せめて幸せな気分で逝ってくれ。そう思い、グリーによって切り分けられた肉の塊をゆびさす。


「ああ、火は通した方が良いか。ちょっと待ってろ、いま――」

「にく~~~♪」

「メシ~~~♪」


 クオンに頼んで焼いてもらうから――という俺の気遣いは見事に無視された。

 さっきまでの悲壮感などまるで無かったかのように目を輝かせ、ブラザーズは喜色満面で肉塊にダイブした。

 ワイルドに手掴みで生肉を口に運び「うめ~~~!」なんて言いながら食す姿はこれまた迫力満点。縁日ではしゃぐ子供だってここまで現金ではないだろうに。


 ……ああそうだった。こいつらバカなんだった。

 あまりにもな変わり身の早さに半ば飽きれ、あまりにも嬉しそうに食べる姿に半ば苦笑してしまう。


「非礼を成した身でありながら主様への供物に無遠慮にも手を出すとは厚顔無恥の極み!! もはや情状酌量の余地無し! 即刻干乾びさせてあげるわ……ッ!!」


 いつの間にかトリップから帰って来たキキが物騒なセリフで近づくのを「まぁまぁ」となだめ。

 無言で指先や肘から刃を出すグリーを「ステイ」と座らせ。

 首に巻き付きながら興味無さそうに欠伸あくびをするクオンを「かわいい」と撫でながら萌える。


 そうこうしている内にブラザーズは食事を終え、ロック鳥の肉が重ねられていた場所には何も残ってはいなかった。


「うまかったねぇ~にいちゃん」

「そうだなぁ~おとうと。はらいっぱいだぁ」


 膨れた腹を擦りながらゲッフと満足そうに笑い合うブラザーズ。まるで自宅のように寛ぐ彼らの頭には、俺たちという外敵の存在は既に無いのだろう。


「お前らなぁ……。ちょいと(くつろ)ぎ過ぎやしませんかね?」

「うっぷ……ちょっとくいすぎちゃったかもね、にいちゃん」

「さすがにくいすぎたな、おとうと」


 しまいにはその場で横になり、俺を無視して我が物顔で就寝の準備まで始めやがった。

 ご飯を食べさせて貰っておいて礼の一つも寄越さないどころか、俺たちをガン無視するとはいい度胸だ。


 その態度はいくらなんでも無礼千万。

 温厚で広く知られる俺としても眉をひそめる振る舞いだった。


 同情し、毒気が抜かれ、ブラザーズのバカっぽさに愛嬌のようなモノを感じ始めていた俺だったが。だからといって何をしても許されると思うなよ。


 そのロック鳥の肉は俺が死線を潜り抜け、キキやグリー、クオンと共に勝ち取った戦果なのだ。

 別に全部食べてしまう事は構わない。だが礼儀作法を重視する元日本人な俺としては、それなりの感謝があって然るべきだと思うわけよ。


「…………グルーさん。少々懲らしめてやりなさい」


 キキでは()り過ぎてしまうだろうという配慮からの人選だ。感謝して欲しい。


「ぎゃああああああああああッ!!!」

「ギャァアアアアアアアアアッ!!!」


 ……もっとも、無慈悲なお仕置きをするグリーを見ていると、そんな配慮など無意味だったかもしれないが。


 もしかしてグルーも溜まってる? ストレス。


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