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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

村雨さん

村雨さん

作者: れきそたん

 完全下校時間も大分前に過ぎた。

 今私は西門から少し離れたフェンスの前にいる。そこには人が辛うじて通れる穴が空いている。

 私は中に入ると渡り廊下から外階段で一気に3階まで昇る。

 この位置から自転車置き場の屋根に移って美術教室のベランダに入り窓から屋内に進入する。

 後は屋上まで普通に階段を使い無断で作った合鍵で外に出れば、たった一人……今だけは私だけの屋上だ。


 夜の学校に進入して屋上に来た理由は、星を観るためだ。なにせ今夜の天体ショーは流星群がやって来るからだ。


「よし!セット完了!」


 望遠鏡のセットが終わると時計を見る、8時50分だ。

 間に合った……。

 天体ショーは夜の9時からだ。


「時間ね」


 望遠鏡を覗きこむのを悲鳴が邪魔をした……かなり近いかも。

 悲鳴が上がった方向に望遠鏡を向けると人が倒れていて近くに黒髪の女の子が立っていた。

 女の子は倒れてる人に一瞥すると顔を上げる。

 彼女に焦点を合わせる


「まさかね……こっちを見てるわけ無いか」


 彼女の髪の毛は外灯に照らされて黒く輝いていた。そして近寄る者を切り殺すのではと思わせる鋭い眼光は冷たく刃物の様だった。

 遠くにいるはずの彼女が近くにいるような錯覚がして私は望遠鏡をそのままに逃げることにした。


 家に帰るとすぐさま毛布を被り夢であることを祈り床に就いた。


 翌日の新聞やTVのニュースは特におかしな点も無くTVのリポーターは商店街で『納豆マグロまん』を独特の味ですねとコメントを残していた。

 結局本日の占いまで見たけど何とも無かった。

 ただ私の占い結果が『新しい出合いの為のラッキーワードが《貴女は私の敵?それとも味方なの?》』だった。使用箇所が限定されてるなと思い、やはりアノときの倒れた人は無事で私の思い過ごしだったのだろうと安心した。


 早朝学校に望遠鏡を仕舞いに行くが、屋上には望遠鏡は無かった。


「あちゃあぁ没取されたかぁ?」


 私は仕方無しにクラスに戻る。

 クラスの話題は謎の殺人鬼の話で持ちきりだった。


 ――なぁ掲示板見た?

 ――殺人鬼の話でしょ、アレって現場に一滴も血が流れていないって話じゃない。

 ――何々それって首筋に赤い糸のような傷痕だけ残して死んでたのが忽然と消えるって都市伝説だろ?

 ――そんなオカルトより今日転校生来るって。

 ――こんな時期に転校って変だよね。

 ――新宿じゃ無いのだから、特殊能力なんか無いよ。


 私のクラスに季節外れの転校生が来た。

 長い黒髪に鋭い眼光…昨夜見た女の子だった。


「じゃあ自己紹介から、お願いしますね」


 担任の先生はなんだか緊張してるみたいだった。


「拙者、母神もがみ 村雨。分け合って厄介になる、恃み申す」


 私は耳を疑った。

 見た目は凛とした美少女と言ってもおかしくない彼女の言葉使いは一言でいうと『変』だった。


 ―――それに彼女めちゃめちゃ私を見てる!……どうしよ。


「じゃあ……席は如月さんの隣が空いているわね」


 ―――えっ私の隣って山本さんだったはず


 隣を見たらやはり空席で、山本さんを探すと廊下側の後ろの席で村雨さんをみていた。

 何かがおかしい。

 静かに席まで移動する姿は、先程の言葉使いも相まって侍と錯覚してしまうほどだ。


「御身気を付けなされよ、やよい殿」


 私はまだ自己紹介をしていないはずよね……。

 それから授業中以外にも村雨さんは、常に私の近くにいた。


「やよい殿!」


 急に村雨さんが飛び付いてきて私はバランスを崩して倒れた。

 村雨さんの胸の谷間に顔を埋めて白檀の薫りで私は酔ったみたいに頬に熱を感じていた。


「村雨……さん?」

「やよい殿暫くこうしていて下され」


 彼女が私の側から離れると周囲には破片と土がばらまかれていた。

 私は上を見ると幾人の生徒が砕けた鉢植えを見ていた。

 ぶるぶると総身を震わせている私を村雨さんはやさしく抱き締めてくれていた。


「貴女は何者なの?……村雨さん」

「……妖刀 村雨。どんな無知でも知っておろう?」


 私は静かに頷いた。

 しかし信じるには情報があまりにも少ない。


「妖刀村雨は日本刀ですよね?」

「急に信じろと言って不信がるのも無理も無いが……村雨の付喪神だ」

「付喪神?」


 付喪神は長い間大切にされた物が神付かみつきとなって意思を持った妖怪変化である。


 村雨さんは右腕の肘から先を日本刀の刃に変化させ私は驚きはしたが信じる他無かった。


「何処か怪我は無いか?」


 私は返事の代わりに、くぅぅぅぅっとお腹の虫が鳴いた。


「ありがとう、でも安心したらお腹空いちゃった」

「学食へ参ろうか?」

「なら……コンビニへ行きましょ!」


 コンビニで納豆マグロまんを2つ購入すると一つを彼女に渡した。

 確かに独特な味だと思ったが、『これは中々』と物凄いスピードで彼女は食べ終えている村雨さんに私の残りをプレゼントした。

 彼女は最後の一欠片を口に入れると思い出した様に話し出した。


「昔、拙者は多くの人の血を見てそして吸ってきた……しかしそれは本意では無かった。拙者を所有する者は狂った様に血を欲した……だから叶えてやっただけだ」

「……本意じゃない?」

「物として奪われ続けてたから拙者は自由になりたかった。地を蹴り、この空が続く限り旅をしたかっただけなのかもしれない……しかし所詮、意思を持っても物は者には成れはしない」

「なら、私と出掛けようよ。はじめ村雨さんは少し怖かったけど……今は好きになれる自信がある」

「でも拙者は自由が怖くなってる。人を殺めすぎた贖罪をしなくてはならない……どうすれば良いのだろう?」

「村雨さんは考えすぎだよ。今度は人を活かす刀になれば良いじゃない」

「活人剣とは見聞くらいは有るが実際どうするのだ?」

「私のお祖父ちゃんなら何か知ってるかも」


 祖父に相談するために村雨さんを家に招いた。

 家に帰ると、祖父は店にいると言われて店内に回る。


「やよい、店に出るならエプロンくらい着けねぇか……ん?客人も一緒かい、だったら座れや」


 私の家はお寿司屋を営んでいる、店内はそれほど混雑していないが馴染みの客は何人か出来上がってきた。


「お祖父ちゃん、活人って何だと思う?」

「やよい、なんでぃ急に!難しい事は山ノ神が考える……でも悩んでるのは嬢ちゃんだろ?」


 流石お祖父ちゃん!


「活人かは解らないが嬢ちゃん中に入んな」


 カウンターの中に入ってエプロンを着けた村雨さん。


「拙者は何を……」

「この包丁を磨いで魚をさばく……それだけだ」


 村雨さんが渡されたのは錆び付いた包丁だった。

 錆び付いた包丁は瞬く間に光を取り戻し、生け簀から鯛を出すと見事な刺身を盛り付けた。

 その一切れは裏が透けて見えるほどで見事なな出来だった。


「嬢ちゃん、名前は?」

「拙者、村雨と申す」


 お祖父ちゃんは、村雨さんの捌いた頭と骨を生け簀に戻すと鯛は切られた事も解らないのか自由に泳ぎ出した。


「……凄いよ!村雨さん!」

「腕は錆びちゃいねぇな……村雨ちゃん」


 『また来い』と言う、お祖父ちゃんはどうやら村雨さんを気に入ったらしい。



 お祖父ちゃんの寿司屋から離れると村雨さんと二人、スーパー39(サンキュー)に向かい白飯おにぎりを購入して、激辛豚キムチたこ焼をフードコーナーで注文をした。

 この豚キムチたこ焼はハッキリ言って単体で食べるのは不可能なレベルの物だ!私もこれ食せる様になるのに一年を費やした。からい思い出だ。


「村雨さんこれが鳴ったらさっきのたこ焼屋さんに取りにいってほしいの」


 待ちブザーを手渡すといそいそとトイレに私は向かった。

 トイレから出ると村雨さんが待っていた。


「随分早くたこ焼出来たんだね……処で荷物は?」


 返事を待たずに壁を村雨さんの右腕が刺さる。

 わざと大きく外しているのに風圧だけで私の髪の毛は数本宙に舞った。


 ―――なんで?


「じゃあ、頑張って踊ろうかぁ……やよい殿」


 突き刺さった右腕を抜くのに手間取ってるらしく、村雨さんが何故こんなことをするのか解らないが……その間に倒けつ転びつでも這々の体でも構わない!兎に角ヨロヨロと逃げるのが精一杯!!


「このままじゃあ死んじゃうよ…やよい殿」


 後ろで破裂音がしたが恐くて振り向けない……振り返るより一歩でも前へ行かないと。

 フラフラ立ち上がると背中に爆風の様な空気の刃が当たり吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がり壁に叩きつけられた。

 肺の中の酸素は飛び出し次なる酸素を求めるが上手く吸う事が出来ない。

 村雨さん……村雨はユックリ近づいてくる。

 カツ……カツ……と鳴る足音と店内BGMの『別れのワルツ』が重なり、本日の私の人生は終了致しましたと脳内に変換させた。


「なんで……私……なの?」

「現場を見られたんだからな、これ迄存命でいられたのだから感謝するが良い」



「我の血肉になれ…人間!」


 ムラサメ?

 今起きている現実を素直に受け止めることが出来ないでいる私がいる。

 確かに私の前で護っているのは村雨だ。

 しかし、私に刃を向けている目の前の女性も村雨に酷似している。


「なぜ……貴女が……村正!」

「ならば何故人間に加担する……村雨ぇ!」


 村正の右腕は刃と成り村雨に襲い掛かるが彼女は右腕一本で受ける。



「その女がそんなに大事なのか!今の攻撃だって余裕で避けられたはず……ましてや受けるなんて……どうしたんだよ!村雨!!……今からでも遅くない……我と来い村雨!」

「姉上は何か勘違いをしておる……拙者は殺生を望んでなぞいなかった……それに、やよい殿はただの女では無い!拙者の初めての女だ!!」


 村正は彼女のお姉さんなら、姉妹で争うなんて……。でも村雨さん勘違いされちゃいますよ村正さんに!


「村正さん、姉妹で闘う意味ってなんなんですかぁ!」

「女よく聞け!ソチが信じる村雨とて武具なるぞ、武具が闘わずしてなんとするかぁ!」


 村雨を弾きやよいに剣先を向けて跳ぶのは村正。

 だがやよいが恐怖で腰が落ちた為間一髪切り抜けた。


「やよい殿ぉぉ!」


 村雨はやよいの近くに寄る。


「村雨さん、一つ聞いていい?」


 無言で頷く彼女。


「村雨さんは敵なの?味方なの?」

「私は心からやよい殿のモノになりたいと思っているでは不足であろうか?」


 私はハッと気付いた……占いが当たっていることに。


「やよい殿に頼みがある……今だけ拙者の主となってくれないか?姉上を説得したい」

「説得なんだよね?危ない事はしないでよね、お願い」

「主様の思うままに……」


 そう言うと私は村雨さんの朱い薄い唇で口が塞がれてしまった。ただ村雨さんの鼓動がすぐ近くに聞こえ……周りがよく見えなくなった。


「えっ?」


 気付けば私の手には日本刀が握られていた。


「女!我が妹を手にする意味が解ってるのだな?」


『やよい殿は拙者が護ります!だから信じてくだされ!』


 頭に直接響く声は村雨さんだった。

 村正の右腕が私に降り下ろされるが、私の身体はどう動けば良いか瞬時に理解していた。


 ―――村雨さんが私を導いてくれる。


 村正の一撃を間一髪避ける、二撃目を出される前に村雨さんを鞘から抜いて受け流す。

 私と村正は互いにスウェイバックで距離を取る。


「姉妹で比べられる私の気持ちが解るか?……人間」


 どうしたのだろう?急に殺気では無い何か冷たい気が私の頬を撫でる。

 村正は何かを伝たいのだろうか?……答えるべき?


「私は、比べられるほど才能に恵まれてはいません……でも村正さんの持ち主だった方達の話は皆さん喜んだと伝られてます」

「名誉や名声……権力。そんなのどうでも良かった!」


 村正さんから殺気は無かった……在るのは哀しみが村雨さんを通じて私に流れてくる。

 凄まじい情報量。

 不思議と私には答え合わせをするように理解していった。


「我等は常に刀である必要があるのだ……だが村雨ばかり人々は欲しがる!村雨ばかり刀として本来の使い方をする……誰も我を一振りの刀と見ない!……それが悔しくて、哀しくて………」

『「それでも姉上は、拙者のあこがれであった!……姉上は正しく在ろうとしていた」』


 村雨さんの気持ちが私の口をついて語りだした。


「それだ!我はその『村正らしからぬ行動』など言われて言動の自由すら奪われる!」

『「それでも姉上は正しく公平であろうとしていたでは無いか!」』

「……村雨《刀としての正しさ》とは何だ?」

『「姉上!」』


 私の身体は、村雨を構え直す。正眼の構えだ。

 村正も構える、殺気が伝わるが冷たい冷気では無い熱い風が流れ込む。心臓がドキドキする。


 ―――楽しい!思い切り打ち合える悦びが全身を熱くする!


 総ての力と技を互いに繰り出す、そこには姉妹の心が……思いやる気持ちが剣技として表現された。

 鋼が打ち合う金属音は彼女達の笑い声にも聞こえた。

 最後は姉妹はボロボロ、私も泥だらけだったが心地よい風が三人を包んでいた。



 ―――後日……―――



「我の身体に傷を入れた責任は取ってもらうぞ!やよい」

「たとえ姉上でもやよい殿に指一本触れさせん!」


 私は今日の占いを日課にしようかなって考えた。

 占いの結果は『本日のラッキーアイテム……日本刀』だった。

 だからでは無い。

 今朝の登校では私の腰に二振りの日本刀が下げられている。


「貴女達自分で歩きなさいよ!日本刀下げた女子高生が何処にいるのよ!!」

『拙者は何時なんどきも離れるつもりは無い!』

『やよいっち安心して、他者には我等三人引っ付いて歩いてる様に見えてるから』

「あぁそうですか!幻覚みせるなら現実に歩いて下さい!」


 騒がしくも楽しい一日の始まりだった。


ホラーは書き慣れて無いですが参加したかったんです。

参加方法がこれで良かったか不安ですが……大丈夫ですよね?参加出来てますよね?


では。

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[良い点] 可愛いとうら○女子ありがとうございました(文句なしにホラー枠です) 九十九神ネタと日本刀良いですよね!
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