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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第五章 三つの世界 編
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第091話 潜入捜査の裏話

 連休投稿1/3日目。

 今回は頼太達と別れサカミへ戻ってからのサリナ側視点のお話となります。


 同時に先週の分のボーナス投稿もしました。連休の連日投稿だけだと思ったかっ、ふはは!

『悪魔さんの異世界体験記』↓よりどうぞー。

http://ncode.syosetu.com/n3157cz/

「――何だと?」

「ですから妙なんですって連中。公都からの使者という割には公国軍の見廻りの連中を避けて、わざわざマイコニド火山を北側に迂回してるんですよ」

「あの山から北側は天響族達の縄張りだろう。それは確かに妙だな……奴等、何故そんな真似をしている?」


 はい、皆様こんにちは。(わたくし)ことサリナを含むサカミ防衛組は頼太さん達と別れた後、特に問題が起こる事も無くサカミの砦町へと帰還致しました。ゴウザさんと合流した際にちょっとした一悶着はあったものの、概ね問題という程でもありませんでしたわね。


「一度殺し合ったこのわたしよりも、三界(こちら)へ来て間もないお前の方がここまでゴウザに敵視をされるとは、お前は一体何をしたんだ……」

「あ、あはは……あまり過ぎた事ばかりを気にするのは良くないと思うんだよ」

「寝言を抜かすなっ!兄貴から聞いたぞ、あの二人は少々暴走気味だったと反省もしているらしいが、お前は確信犯だったという話ではないか!しかも反省の色すら見えんとは、この一件が済んだらあの時の借りを返してやるからなっ!!」

「おぉ怖い怖い。か弱きレディーに向かって厳つい顔した中年が恫喝をするだなんて……もしかして、新手の口説き文句だったりするのかな?」

「ぬがぁああっ!兄貴、やはり今やらせろ!こいつとだけは一度きっちり白黒付けておかねば気が済まんっ!」

「落ち着け、また辺りに損害出して戦の前に出費を増やす気かよ……」

「……大体把握した」


 ええ、何も問題はありませんわ。精々がこの馬鹿が不覚を取って痛い目を見る程度の事ですし。

 それにしてもゴウザさん、あの時はアデルの大戦槌の一撃で首の骨が折れた様に見えましたが、流石は人狼族の到達点である『狼男(ライカンスロープ)』ですわね。あの時も頚骨を折られた状態で血反吐を吐きながらも平然と立ち上がってきましたし、たったの一両日であの重傷が綺麗さっぱりと治っているとは驚きですわ。ヘイホーに戻ったら人狼関連の資料内容の推敲を申請しませんとね。

 ところで今しがた、公都よりの使者達を尾行していた斥候が戻りジャミラさんへと気になる報告をしましたわね。早速会議室のテーブルへこの平原一帯の地図を広げ、ジャミラさんとシェリーが人類そして天響族の大まかな配置を説明しながら幹部達と意見を交わしているようです。


「公国の遣いというのは騙りで、何か別の目的でも持ってきたのか……?」

「いや、そう断じるのは早計だろう。国の裏側を担う組織であれば通常の兵達に見つかるのはまずいという事ではないか?」

「ですが、それでしたら無関係の振りをするなり隠れてやり過ごすなり、他にもやり様がありますよね。天響族と遭遇するかもしれない危険を冒してまであの少人数で目立つ馬車を牽いてまで、マイコニド火山を北廻りする必要があるでしょうか?」

「ううむ……」


 大まかにはこの様な流れですわね。聞くにその使節団は同じ公国の憲兵隊を避け、天響族の出没する危険な山の北側ルートで遠回りをしながら公都へ向かっている模様。何やら不穏な事情がありそうに思われますが……。


「……こうして地図にして見てみれば随分な遠回りになるな。あるいはこのサカミからでも、急げばあの連中に追い付けるのではないか?」


 同じく部外者故に話を聞くのみで地図を見ていたクロノが指摘した通り、天響族の翼を持つジャミラさんや飛行術を習得しているシェリーといった、飛行による直線距離移動が可能な者であれば追い付けそうにも思えます。頼太さん達の移動速度如何では、あちらよりも早く到着出来てしまうかもしれませんわね。


「しかし、既に偵察はあの坊主共に任せているのだろう?それに、斥候達の報告によれば見える付近に大軍を潜ませている様子は無いが、いつ奴等が町に攻めてくるかも分からんからな」

人造人間(レプリカント)達はここ数十年の拮抗してきた状況から、昔程の大量生産はされなくなったと聞くぞ?わたしとシェリーも此方に加わった現状であれば、手練れを幾人か追加で偵察に回す程度の余裕はあるだろう」

「……確かにな。いかに人造人間(レプリカント)相手と言えど数がそう多くはないのであれば、我々のみでも守るだけならば恐らく可能ではある、か」


 あら?クロノさんの発言からすると予想よりは人造人間(レプリカント)の投入数は少ない様に聞こえますわね。話に聞いた人造人間(レプリカント)という存在は粘性生物(スライム)宜しくどんどん増えていくものとばかり思っていましたが……人類領域側ではこの数十年で目に見えた脅威が減り、次は自らの足元に脅威を見出してしまったという事なのでしょうかね?


「ふむ、ならばわたし達が行こうか?思ったよりもこの町の防衛戦力には余裕があるようだからね」

「何を言っているのだ貴様は……顔が割れては潜入する意味が無かろうが」

「勿論仮面でも付けて顔を隠しはするさ。最悪顔が割れてしまっても、本命の潜入面子が居る上での別動隊という事であれば問題は無いんじゃないかな。それに、今は多角的な視点からの情報も必要なタイミングだと思うのだけれども」

「……まぁ、そうなんだがな」


 そうですわね。アデルは基本脳筋思考を好みはするけれど、別に頭が悪いという訳ではないのです。この様に大局に必要な要素を考える事もその気になれば出来るのですよね。この辺りは貴族としての教育を受けた賜物ではあるのでしょうが――そのアデルがこのタイミングで必要だと感じるのであれば、やはり動くべきは今なのでしょうね。

 ふむ……賛同を得られるかは分かりませんが、(わたくし)からも意見を出すだけは出してみるとしましょうか。


「少々宜しいでしょうか。現状を踏まえた上での提案なのですが―――」


 ・

 ・

 ・

 ・


「やぁ、これは凄いな。精霊力を込めるだけで空を飛ぶことが出来るとは……操作は中々難しいけれど、気持ち良いものだね」

「チッ……まさか肉弾戦しか能の無い貴様がまともに精霊力を扱えたとはな」

「失礼だなぁ。これでも一応耳長族(エルフ)ですから。わたしは魔法を操る適正こそ低いけれど、精霊力そのものの扱いには結構自信があるんだよ。獣人族に近い使い方をし続けていたからか、御覧の通りこの『翼』の操作も慣れたものさ」

「じゃれ合いも良いがそろそろ公都上空に入るからな。街の灯が落ちるまでは手前の岩陰で待機するぞ、注意しろよ」

「畏まりましたわ」


 会議を終えて後に直ぐにサカミを発ち、途中休憩を入れながらも飛行し続ける事一昼夜。つい先程になりようやく公都郊外へ到着し、宵闇に紛れ近くの岩陰へと降り立ったところとなります。

 この『翼』、元はジャミラさん達天響族のそれを参考にして作られた推進機構というもので、自前では空を飛べない副官のゴウザさんやその他の方々がジャミラさんを補佐する為に試行錯誤をした成果なのだそうです。戦争が起きると利器の発達が必要に駆られて加速するとは言われますが、これは正にその典型でしょうね。


 その名から連想される通り、生物としての翼の機能を再現する補助機構といった品となりますか。魔法による飛行術程の速度は出せませんが、羽ばたきという動作で更なる推進力を得る事により精霊力の消費は何と、常時術を維持する必要のある飛行術の1/5以下。慣れれば複雑な立体機動や飛行術では不可能な閉所での空中作業等も可能だという話です。お陰で休み休みではありますが、こうして四人共が揃って一昼夜をかけ、最短ルートで公都まで辿り着く事を可能としたのですわ。

 先程のアデルの感想にも出た通り、この『翼』はまだまだ実験段階という事で操作の面でやや難があり、現存するのはゴウザさん用に調整された物とその予備の二基のみだそうです。ですがジャミラさんには自前の翼がありますし、(わたくし)は先日キルケーの治療に使用した魔力回復薬(マナポーション)が残っていましたので飛行術にて……出来ることならばこれを使うのは遠慮願いたいものではありますが、そんな我儘を言っていられる状況ではありませんから。


「それにしても、アンタの案には驚かされたな」

「発想の転換ですわね。先日の使節団が真に公国の代弁者であれば通用はしませんでしょうが、それすらも不明なのであればいっそ、相手方の本営に直接お聞きしてしまうのもありではないかと思いまして」

「サリナらしいね。現役時代は何度その突拍子もない案に巻き込まれた事か。ま、同じ位助けられもしたけれどもさ」


 失礼な。当時も発案こそ(わたくし)の担当だったけれど大体発火点はこいつだったろうに。それはこちらの台詞だわね。


「だが、そんな目立つ真似をしては兄貴の身が危険だ。上空からの接見というものは一見有利に思えるが、遮蔽物を利用出来ない中空に身を置くという点では狙撃してくれと言っている様なものだからな。言い出した以上は確りと、兄貴を護る手立てはあるのだろうな?」

「お任せあれ」


 ゴウザさんにはこう念を押されもしましたが、元より(わたくし)の発案による仕掛けです。そこは万全を期して対応させて戴きますわ。


「サリナの真骨頂は結界操作で創り出した絶対領域による攻撃無効化、そしてそこからの圧倒的な物量で押し潰す飽和攻撃だからね。そういった状況は得意中の得意なんだよ」

「ふぅむ、シェリーとはまた違った意味で厄介だな……あいつの魔法はこちらの障壁が用を為さんし、避け辛い事この上無くて随分と手を焼いたものだが」

「シェリーは相手の防御などお構いなしに攻撃を叩き込む、貫通力に長けたスタイルですものねぇ。あれを障壁の類で防ぐのは至難の業というものでしょう」


 彼女の魔法は全てに貫通属性が付いていますから、釣鬼さんの様に回避をするか、または発動前に術者自身を抑えるしか手立てが無いのですよね。それに対しても出の速い雷系と風系に特化することで対処法の大部分をカバーしていますし、本当に良く考えられていますわね。

 今しがた話題に上ったシェリー達ですが、今回は『翼』の数の制限もありますし、サカミでの守りに当たって貰う事となっております。あの二人は過去にこの公都で今も癒える事のない、心の傷を受けてしまった様ですから、万一公都の面々に揺さぶりをかけられてしまった場合の精神的衝撃等を鑑みた結果ですわね。


「ところで釣鬼達は今頃どの辺りまで来てるんだろうね。もしかして、本当にわたし達の方が先に着いてしまったのかな?」

「今夜であれから二日半になるからな、そろそろ着いていてもおかしくはなさそうなものだが」

「いずれにせよ、俺達も夜の内に闇に紛れて城壁の内部に入っておく必要があるでしょうね」

「ですわね。まずは今の内に夕飯にしておきましょうか」


 言うまでもない事ではありますが、こんな平野部の夜ですから灯りを灯してしまっては公都側から発見されてしまいます。ですので火は焚けず、こうして味気無い保存食を水で戻して胃の中へと落とし込むのが精々といったところになりますか。


「冒険者をしている以上はさ。保存食は生命線だから、それに対して文句を言う気は全く無いのだけれども……」

「――ええ」

「……カップ麺、美味しかったなぁ」

「そうねぇ……保存食としても使えるらしいわね、あれ」


 嗚呼、あの極限にまで調理の手間を廃した作りだというのに、味覚と食感をこれでもかと刺激する味わい。それだけでは無く好みに応じた味付けの多彩さを楽しめたあのお土産の即席麺。(わたくし)、もうあの子達のお土産無しでは生きていけませんわ……頼太さん達、無茶な事をしていなければ良いけれど。






 その日の深夜になって、監視塔の警備が交代する隙を突き城壁を越え、(わたくし)達は公都内への侵入を果たしました。


「――ん。どうやら連中も既に公都に入り込んでいるようだ。あの宿屋の辺りから紋様の波長を感じるな」

「あの位置からならば仮に使節団が裏門側へ迂回しても察知は容易だね、あの子達も中々やるじゃあないか」

「ふん。報酬に見合う分の仕事はしているらしいな」


 ゴウザさんも口調は少々きつくはありますが、あの子達の実力を認めている様子。担当受付としては鼻が高いというものですわ。

 そして翌朝になり、斥候の情報通り使節団は登城を避ける様に街外れの歴史を感じる屋敷へと入っていきました。頼太さん達も隠密スキル持ちの釣鬼さんが先行する形で、付かず離れずといった様子で見事な追跡をしていますわね。


「それにしても、あいつ等との距離を離し過ぎじゃないか?ここまで離れてしまえば此方からも状況が確認し辛いと思うんだが……」

「ピノさんの神秘力感知能力の高さは異常ですから。神秘力感知Sと言えば、半径百メートル程は軽く探査出来ますし」


 ですのでジャミラさんの指摘も最もなのですが、これ以上近づくと(わたくし)達まで捕捉されてしまいかねませんからね。


「うわ、ピノってそんなに感知能力が高かったのか。彼の『破軍棋士』ですらA+程じゃあなかったっけ?」


 アデルの口にした破軍棋士ジェラルド――彼もまた、(わたくし)達の業界では有名な神秘力感知能力持ちの一人となりますわね。(わたくし)達の住むアルカディアにてインガシオ帝国に所属する将官の一人で、自らもまた優秀な斥候でもあった手練れです。

 彼がまだ現場で一隊長格だった頃の逸話として、現在の彼の副官でもある爪舞ボルドォと共に宵闇深まる森の中で的確に相手の配置を見定め、たった二人で百人以上ものワキツのサムライ達を全滅させたというものがあります。これが事実かどうかは兎も角、詰将棋の如く敵軍を破る冷静かつ的確な判断により棋士に喩えられ、以来『破軍棋士』の二つ名で呼ばれワキツ皇国の兵士達からは大変恐れられているそうです。

 話が少々脱線しましたが、ピノさんは神秘力感知能力だけで言えばその『破軍棋士』をも上回る程なのですよね。


「ピノさんはまだ妖精族としてはお子様ですし、破軍棋士と比べれば随分と隙も大きいと思いますけれど。ですが今は潜入捜査中です、もしピノさんが探査をかけ続けていれば(わたくし)達の存在までばれてしまいますからね」

「ううむ……我等人狼族も精霊力の扱いにかけては狐人族に次ぐ自信があるのだが。自然の代弁者とまで言われる程の妖精族ともなると凄いものなのだな」


 本当、ピノさんの鑑定結果を見た時は驚きましたわ……当時は受付嬢のプライドにかけてそんな素振りを表に出す事こそありませんでしたが。

 同じ妖精族でもフェアリー族はピクシー族に比べ精霊力は高めの傾向があるのですけれど、一方感知能力に関しては資質にも左右されるものの、探査を繰り返すことによる鍛錬の成果と言われていますから。ピノさん、妖精の里ではどの様な任に就いていたのでしょうかね?


「おっと、そろそろ戻るらしいな。俺達もそろそろ、仕込みの準備を始めるか」

「では一足先に防御陣の領域設定をしてきますわね」


 どうやら舞台を開演する時間がやってきたようですわ。(わたくし)も担当の仕掛けを再確認しに行くとしましょう。

 さてさて、あの子達はどんな反応を見せてくれることかしらね?

 一話丸々サリナさん。連日投稿時は色々と実験的な試みが出来ていいですのう。

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