第083話 我等UMA捜索隊!
連休2/4日目。本編からの繋ぎも入ってるので微妙に小話になってない気もする。
明日明後日は場面がまた変わります。
サカミの砦町郊外―――
「まずは何処に行こうかな?シェリーさん希望とかあります?」
「うーん、こういったお出かけは久々でして。どうすれば良いのでしょうね?」
先程ピノに聞いたのと代わり映えのない質問をし、やはり似た様な返しを頂いてしまったのだがこれは儀式みたいなものだ。シェリーさんとは出会って数日程、お互い余所余所しい部分もまだあるのでまずは軽いジャブのやり取りをば。
「久々カー。前に行ったのっていつ頃ナノ?」
「――学院に在籍していた頃に、当時のアデル達とピクニックに……」
「ゲッ!?」
げえっ、いきなり重いカウンターが……これには普段そうそうの事では動じない太々しさを持つピノも阿然とした様子で固まってしまった。
「あっ、いえ!そんなつもりではありませんから!気にしないで下さい」
「……ゴメン」
「迂闊でした……」
「あの、その反応だとまるで故人を悼んでいる様に受け取れてしまいますし。どちらかと言えばその返しの方が迂闊では無いかなーと思ったりも、ですね?」
目に見えて落ち込む俺とピノに対し。逆にシェリーさんが敢えて軽い口調を作り慰めにかかるの図。気を使わせちゃって本当すんません。
「ええい、こうなったらあれだ!あの森に行って異世界ホールの有無の調査とついでにUMAでも探すぞ!ピノの神秘力感知に期待するっ」
「オ?UMAって未確認生物の事だっケ?面白そうダネ!」
「未確認生物ですか。確かに心惹かれるものがありますね」
おや、シェリーさんは案外乗り気らしい。半ば自棄で言った提案だったのだが。
まぁ折角乗り気になってくれたんだ、それでは早速森へ行くとしようか!
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「知ってた」
「失礼ナ!」
「わふぅ……」
「ピコ君、元気出して?」
「わぅあぅ」
森へ入ってすぐのこと。俺達は茫然と立ち呆けてしまい、シェリーさんとミチルが落ち込むピコを慰めていた。
先程の重い空気を払拭すべく焦っていた俺達は、どうやら最初から致命的な問題を抱えているという事を認識出来ていなかったようだ。
それは何かと言うと……。
「……そういえばピコの種族のゴルディループスって、成体になるとBランク迄上がるって言ってたっけか」
「言ってたネェ……」
「わぅぅ……」
「私、過去に別の地域でゴルディループスの成体に遭遇した事があるのですが、ピコ君は少し雰囲気が違うと言いますか――頭も良いですし総合的には既に成体に近い域まで達している様に感じるのですよね」
シェリーさんの言う通り、ピコも何だかんだでシルバニアウルフの頃から明らかな格上であった岩軍鶏相手に模擬戦とはいえ勝利したりなど、自身の種族としての格以上には経験も積んでいる。それに野生のゴルディループスとは違い、ずっとピノと共に育ってきたって話だもんな。普通に俺達の言葉も理解している節があるし、相応には頭も良いのも間違いない。
という訳で、俺達が森に入った途端危険度Bランク並の気配を漂わせるピコを恐れ、周りの現住生物達が蜘蛛の子を散らすかの如く一目散に逃げ去っていく様子がピノの神秘力感知で判明したそうで。現在周囲百メートル以内には殆ど動物が居ないんだってさ……ハハハ。
「ぬぬ……しかし調査に不測の事態は付きものだ!ピノ隊員、シェリー隊員!我等UMA捜索隊はこの程度で心折れる事罷り成らぬぞっ!」
「ヤー!」
「ふふ、えいえいおー!ですよっ」
いきなりの計画の頓挫に一瞬どうしたものかと焦ってしまったが、シェリーさんはむしろ完全に肩の力が抜けたらしくにこやかに俺達の号令に応えてくれていた。サリナさんとは違い本当に素直な笑顔だったのでちょっと見惚れかけたのは秘密だ。まぁ結果的には良い方向に転がって良かった良かった。
それから暫く森の中を練り歩き、ピコの気配に対しても恐れる様子の無い生物が感知範囲内に何匹か見つかった。一先ずは直近の気配が佇む場所へ進む事、数分の後―――
「うぅ、ぐすん……」
下生えが途切れ、地面がむき出しになった森内部のとある開けた場所の小屋の前にて、ボロ布を被り泣きながら蹲る小さな子供を発見した。
「財宝を守る巨人ってやつカナ?」
「確か危険度はA-だったか……ピコの気配にも逃げる様子は無かったし、その位はあって然るべきだろうけど」
財宝を守る巨人とは主に小人の姿を取り、宝の埋蔵地の管理をする者として地球の伝承でもそれなりに有名な小人族の一種とされている。その性質故にいつの時期からか巷では完全に別種の魔物扱いをされてはいるが、理想郷の研究者達の間ではそれについては否定的な見解が出されている。過去に交渉を持つ事が出来た数体の事例では、変身前の身体組成は小人族(ドワーフとほぼ変わらなかったという話でもあるし、小人族の中でも特異な能力を持つ者達の末裔では無いかとの見解が多数を占めているのだとか。
財宝目当てに自分の領域に入ってきた人間達には危害を与え、狂暴だが他の妖精の護衛役として里を護る。宝の番人的な存在ってところかね。
神秘力感知により対象の秘める神秘力の強さを感じ取れるピノの前では見た目の誤魔化しが通用する筈もなく、そうと分かってしまえば目の前の泣いた様子も芝居だと察することが出来る。なので早速退治の手立てを相談し始めたのだが……。
「あの、お二人共?そこの小人は本当に泣いていると言うか、私達に怯えている様子に見えるのですが」
「「……え?」」
シェリーさんにそう指摘されピノと共にその小人族っぽい相手を見直すと、確かに俺達の側を見てビクビクとしながら泣いていた……あるぇ?これもしかして俺達が殺人鬼か何かに思われてたりする落ちですかね?
「うぅう……なんだよぅ。何でオイラの領域にまで乗り込んで来るんだよぅ!オイラ別に何も悪い事なんかしてないのに――」
「……頼太が殺るなんて言うカラ」
「てめっ……お前もノリノリで殺る算段練ってたじゃねぇか!」
「はいはい喧嘩はそこまで。まずはお話を聞いてみましょう?」
即座に俺に責任転嫁をしてくれたピノと睨み合いになりお互い唸っていると、見兼ねたシェリーさんが割り込んで俺達を諫めてくれた。うん、至極ごもっとも。
「ええと、いきなり不穏な事言って悪かった。やたら強めの気配が感じられたのに、見た目がそんな可愛い子供だったからな。てっきり伝承に出てくる財宝を守る巨人かと思って警戒しちゃってさ」
「ソウソウ?」
「確かにオイラは財宝を守る巨人だけど、この森でのんびり暮らしてただけなんだよ。あの町にもちょっかいかけた事なんてないし、君達が来ても変身もしてないのに、いきなり酷いよ……」
「本当に申し訳ありません……こちらの二人はこの辺りの常識に疎いので」
さらっと非常識扱いされてしまった辺り少々傷ついたが、まずは話を成立させる為に大人しくしておこう。それにしても、財宝を守る巨人ってもっと獰猛な存在じゃなかったっけ?
「確かに気性の荒い個体も存在しますけれども。殆どの場合、財宝目当ての人間が彼等の領域に踏み込んで問答無用に攻撃を仕掛ける事が多いのですよ。本来彼等は妖精族達の護衛として里を護る素朴な種族で、ですがやはり巨人へ変身した時の外見と『財宝を護る』という言い伝えからでしょうか……欲に目が眩んだ人間達から一方的に悪者にされてしまっている現状ですね」
そんな俺達へと噛み砕く様に説明をしてくれたシェリーさんの言葉を踏まえた上で、俺達がやらかした事を振り返り―――
「誠に失礼いたしました……」
「ごめんなサイ……ボクの里には財宝を守る巨人は居なかったカラ、そういうの分からなかったノ」
二人してその財宝を守る巨人へ対し、こうして土下座を実行する運びとなってしまった。こういう時の対応はやはりまだまだ甘いな、俺とピノは。釣鬼先生だったらまずは警戒をしつつも相手を確りと見極めようとするし、扶祢もどちらかと言えばいきなり問答無用に殺しにかかるタイプではないからな。
「もういいよ。オイラ何時もそんな目で見られてたから慣れてるし……だから寂しいけど里の護衛もやめて此処で一人暮らしてたんだ」
「……そうでしたか」
うっ……これは居た堪れない。町に戻ったらサリナさん達にもお説教を喰らってしまいそうだ。ピノとシェリーさんの二人と顔を見合わせ、どうしたものかと考える。
「そうダ!じゃあキミもサカミの町に来たらどうカナ?あそこの町長は種族とか気にしない奴だシ、守衛の一人として『護る』仕事も出来ると思うヨ」
「おお、良いなそれ!怖がらせたお詫びで連中に紹介するよ。一人こんな所で寂しい思いをする位ならどうだ?一緒に来ないか?」
「それは名案ですね。衛兵の方々も気の良い方々が揃っていますから、きっとお友達も出来ると思いますよ」
「え、いきなりそんな事言われても……オイラ見ての通り巨人になったら醜いし怖がられたりしないかな?」
ピノの提案にそれは名案とばかりに賛同し、俺達は揃って目の前の財宝を守る巨人に誘いをかける。財宝を守る巨人はそんな俺達の急な誘いに戸惑い、疑問を返すがここは勢いで押し切るのだっ。
「大丈夫ダヨ!あの町の衛兵達は巨人程度、大して問題にしない連中が揃ってるカラ!」
「うぇぇ。それはそれで怖いような?」
「逆に言えば正体が巨人である程度の話では警戒される事も無く、町民として受け入れられるって事でもあるぞ。怖がられるの、嫌なんだろ?」
「ええ。あの町は天響族すらも恐れてはいませんからね」
「てっ……ててて天響族ゥ!?あいつら人間以上に問答無用で襲い掛かってくるから怖いよ!」
む、天響族の話になったら更に怖がられてしまった。今は小人の形だから違和感は無いけれども、これで巨人になると言うのだから見た目だけでは判断出来ないものだなぁ。
「アレ?その物言いだと戦ったことあるノ?」
「うん。逃げても逃げてもしつこかったから、可哀相だけど何人かは倒しちゃった事もあるんだ……」
まじか。ジャミラ以外の天響族の実力はまだ見た事が無いので分からないが、仮に一人で複数を相手取れる程なのだとしたら、戦力を欲しがっているジャミラ達には歓迎されそうだな。
「それなら間違いなく守衛としての仕事にも有りつけるんじゃないか?」
「そうですわね――貴方、本当にサカミへ来ません?ジャミラには私が話をつけますわ」
「えぇえ!?」
結局何時まで経っても煮え切らず、痺れを切らしたピノが強引にそいつの手を引っ張りピコの背に括り付けてしまった。傍から見ると怯える子供を拉致する人攫いにしか見えない気もするが、この場には俺達の他に目撃者など居ないからな。これ幸いとばかりに気付かなかった振りをしておこう。
帰り際まだ時間があったので湖へ寄り、これまた俺達の気配に興味を示した水の乙女と遭遇したりもしたのだが。ピノの要らん一言で一悶着起こしたり、溜息を吐きながらのシェリーさんの『お仕置き電流』で揃って痺れてしまったりと、更に財宝を守る巨人の坊主が怯える結果となってしまったものの、ともあれ町に連れて帰る事には成功した。
「オ、オイラはポルタです……財宝を守る巨人だけど宜しくお願いします」
「そうか、改めて俺がこの町の代表の様な者をしている、ジャミラと言う。以後宜しくだな」
「おう、宜しくな坊主!」
「財宝を守る巨人かぁ。俺の故郷にも居たな、懐かしいぜ」
「へぇ、こうして見ると結構可愛いモンだな」
まぁ、俺達の暴風の如き襲撃にも大した被害を受けることが無かったこの町の衛兵連中だ。やはり特に気にする奴もいなかったか。ポルタもこれで寂しさから解放されると良いな。
尚、ジャミラが改めてと言っていたがこれにはちょっとした事情があった。
こいつ、ジャミラを初めて見た時いきなり悲鳴を上げて気絶しやがったんだよね。確かにジャミラは天響族だし、ポルタが怖がりなのは帰りの道中でよく理解出来たのだけれども、流石にA-ランクの魔物として扱われてる割には少しばかり怖がり過ぎじゃあないかなと思う。
「彼等は昔から役目の都合上、虐げられてきた歴史がありますからね……本来は気の優しい種族なのですが」
「ふぅむ。それにしてもこの怖がりは直さないと衛兵としては使えないな。ゴウザ、こいつの教育を頼む――トラウマを刻む様な事はするなよ?」
「アイサー」
ポルタ、ドンマイ。そしてちょっと南無。
そういえばこいつの印象が強すぎて異世界ホールの確認を忘れてたな、まぁまた次の機会があればついでに探すとしようか。
怖がりな巨人がサカミの砦町に合流しました。




