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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第一章 異界との邂逅 編
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第007話 後任と二つの果実

 先日まとまった話を実行に移すべく、俺達は一度日本へと戻り七面倒な手続き諸々をする事にした。

 その中で最も苦労した事と言えば、やはり両親の説得となるだろう。


「駄目だ」

「交渉の余地も無しで一言かよ!?」

「交渉、と言えば聞こえが良いがなぁ。つまるところ勉強もせずに遊びたいだけだろうが。受験の為の浪人ならば一年程度ならどうにかなるにしても、それすらせずに何が社会勉強だ。勉強をする気が無いならせめて働き口でも探して来い!」

「ぐっ……」


 誠に遺憾ながら、正攻法は失敗してしまったようだ。言いたい事は多々あるが、異世界でファンタジィ要素を満喫したいですなんて言ったらそれこそ精神病棟に入院させられかねないし、仕方が無いか。

 悔しさに煩悶するも言われた事は正論なのでその場はすごすごと引き下がり、電話で扶祢にその旨を伝えてみた。


『……アンタ、馬鹿でしょ?』

「これはひどい!」

『それはこっちの台詞なのだわ!一般的に考えたら浪人した息子が現実逃避に遊び歩きたいって馬鹿正直に宣言してるようなものじゃないの。今後の行動を左右する大事な事なんだから、もうちょっと考えてから言おうよ……』

「ぐぬっ」


 あれ、おかしいな……?SEKKYOU要素ってのはこう、主人公が他の面子に対してやるモンじゃなかったっけ?それが現実ではこのように、逆にやり込められ続けて……あぁそうか、俺は主人公じゃあなくってきっと序盤の物語描写的脇役ポジだったんだな。納得納得。

 納得したところで目から汗が滝のように流れ出してきちまったぜっ……ぶわわっ。


 自虐ネタならぬ自虐メタはこの辺りにしておくとして。

 実際俺も含めた現代社会に生きる者としては、拠点を変えるという作業一つにおいてもこのように様々な問題が立ち塞がる訳だ。本気で困ったな……どうすっか。


『うーん。一応契約要項には入っている訳だし、こっちでも伝手を当たってはみるけれど。あまり期待しないでね?』

「おなしゃーす!」

『こっちに頼る気満々じゃない!?ちょっとは頼太も考えなさいよ!』


 へーい。そして全ては解決したとばかりに上機嫌で電話を切り、再びリビングに降りていく俺。


「――フ。親父、明日からの俺は一味違うんだぜっ!」

「……そうか。寝言は寝てる間に言う方が良いと思うぞ」

「ご忠告痛みいる」


 親父、そんな事を言っていられるのも今の内だからな?こうして宣言をするだけした後に、俺は意気揚々と部屋に引き揚げていった。


「……母さん、俺の育て方が間違っていたんだろうか?」

「仕方が無いわ。あの子は昔から一度こうと決めたら痛い目見るまで止まらないから……」

「……そうか、そうだったな。また自爆するまで放っておくしかないか」


 一方その頃、ドヤ顔の息子の宣言を呆れた風に聞いていた両親達がそんな哀しい会話をしていた事実を、その時の俺は知る由も無かったのだ。






 時は流れ――五月某日。


 予てよりの宣言通り、俺達は毎日のように家と異世界を行き来しながら釣鬼による地獄の扱きを受けていた。扶祢は自身でも話していたようにかなりの業前であるらしく、初日以降主に扱きを受けていたのは俺だけではあったのだが。

 その後、特訓メニューに文字通り血反吐を吐きつつ釣鬼と扶祢の立ち合いを見て扶祢の強さに愕然としたり、修行のついでに森の中でサバイバルもどきにより採取した山の幸に二人して中りお互いあまり見せたくない醜態を晒し合ったりと、中々に充実した日々が過ぎていった。

 いつだかに更なる進化を遂げた謎の異世界ホールへ設置されたハプニングエロトラップを目の当たりにしてグッジョブ!!と賞賛し、扶祢に踏み倒された上に生ゴミを見るような目付きで見下された時はちょっとぞくっとキちゃったな。扶祢って口を開きさえしなければ顔の造形そのものはクールビーティっぽい見た目だもんだから、危うく新たな属性に目覚めるところだったじゃあないか。


 そういった日々の修行の甲斐があってか、体術無し&片腕オンリーの釣鬼相手なら何とか十分くらいはもつようになったらしい。

 良い勝負?そりゃ資質Sとか選ばれし力()とかを持つ方々に任せます。幾ら空手をやっていたとはいえ、実戦はほぼ素人な人間がたかだか一月半で大鬼族(オーガ)のスペックをフルに使いこなせる化け物と素手でまともにやり合えるなんて夢は見ちゃいけませんて。釣鬼の場合そこに更に技術と経験が加わるから恐ろしい……のだが薙刀込みとはいえ、今もそんな化け物相手に正面から力負けせずやり合えてる目の前の七尾はもはや人間じゃねぇな。本人曰く妖狐って事らしいし、元々人外ではあるんだけどな。

 そうそう、この世界の近代共通語の文字も合間に色々教えてもらったので多少ならこっちの世界の文字も読めるようにはなったんだ。語学万年赤点の俺にここまで理解させるとは、ここの世界の共通語まじ優秀だぜ。

 ちなみにだが、扶祢は既にある程度書き取りまで出来るようになっていた。こないだちょっとばかりその練習帳を見てみたら、無茶苦茶達筆だった……こりゃ俺が書き取り出来るようになるまでの間は書面に関わる作業は全部お願いした方が良いかもしらんね。

 そんなこんなで釣鬼のこの森に於ける管理業任期切れまで後二週間と迫ってきた頃、後任の大鬼族(オーガ)がやってきた。


「釣鬼の兄貴、お久しぶりっす!」


 身の丈は2m50cmにも届くだろうか?

 釣鬼よりも頭一つ高い巨体、どでかい両刃の戦斧を二本背負い、戦斧を括り付けるための布が胸の前で交差し強調されている大きな双房。どうやら女の大鬼族(オーガ)らしいね。背中の二本はどうみてもツーハンドアックスに見えるんだが、きっとこれ片手で軽々ブン回すんだろうなァ。

 よく見るとオーガという種族らしく牙も生えてて顔形もごつくはあったが、顔立ちとしては結構整っているね。それに、髪も生えてるな?


「釣鬼って、実はハg「俺っちのは剃ってるだけだからな?」――あ、はい」

「はははっ。ここでも言われてるんすか兄貴」

「五月蠅ぇよ」


 俺の名誉の為に言っておくが、失礼なことを口に出そうとしたのは俺ではなく駄狐の方です。人様のコンプレックスかもしれない特徴を迂闊に指摘する程ずれた感性は持ち合わせてないからな、俺!話を聞いた感じ、それは誤解だったようだけれども。


「まぁ久しいな、双果(そうか)。息災で何よりだ」

「兄貴ったら物言いが相変わらずじじむさいっすねー。趣味の釣りといいじーさまより族長くさあだだだだだギブギブギブっす!こめかみ!ミシミシ言ってる!?」

「本当に元気そうで何より!だ!な!どうせだから頭蓋骨も鍛えてやるよ!」

「似合わない外面(そとづら)口調なんかアタイに使うからじゃないっすか!そろそろ骨の繋ぎ目がパックリいきそうだから勘弁してよ兄貴ぃ……」


 自分よりも小さな釣鬼にアイアンクロウをかまされながらいきなり掛け合いを始める後任らしきオーガさん。その迫力のある見た目に反して随分と賑やかそうな性格してんなー。仲も良さそうだし平和で何よりダネ。


「えっと、こちらが後任さん?」

「あぁほらそちらのお二人にも挨拶しなきゃいけないでしょ、こんなザマじゃ失礼だしそろそろ離して下さいよぅ」

「――チッ」


 その双果さん?の泣き言に釣鬼は舌打ちをしながら掴んだ掌を解いた。

 うーん。釣鬼は見た目に反して結構落ち着いた性格してるから、こういった対応をするのは珍しいな。見知りが居るからか中々新鮮なものを見せて貰った気がする。


「初めまして、陽傘頼太と言います。人族の異邦人ってやつらしくて、釣鬼にはこっちに来てからお世話になりっぱなしですね。縁があり今後パーティを組む事になりました、宜しく」

「お初です、薄野扶祢と申します。同じく異邦人で、こちらの分類では狐人族に相当するみたいです。私も釣鬼と、こちらの頼太も一緒にパーティを組んで冒険者をやってみる予定です。宜しくね」

「これはご丁寧にどうも。アタイは双果(そうか)って言います。名前の由来は双斧と、まぁコレをかけてるっすね。うちの部族名付け方が安直なんっすよ」


 ハハハと笑いながら自分の形の良いでっかい果実をもにゅもにゅと。つい見入ってしまい――双果さんとばっちり目が合っちゃって慌てて目を逸らす。その際ちらっと扶祢とも目が合ってしまったが、こちらにはヤレヤレと言った表情で鼻で笑われた。

 イラッときたけど内容が内容なので何も言えないのが悔しいぜ……どうせバレバレなんだったらもっとじっくり眼福を堪能しておけば良かったかもしらんね。


「また随分とエロジジイ的なセンスだわね」

「実際名付け親がエロジジイなんで仕方ないっす。由来を言わなきゃ別に気になる程でもないし、ライタみたいにガン見してくる連中も結構いるけど、ある意味女は見られてナンボっすからね」

「まことに失礼致しました……」

「気にしない気にしない、ライタはむしろすぐ気を使ってくれたし紳士的な方っすよ、アタイの行動も原因だしな」


 そう言いながら屈託のない笑顔を見せる双果。うーん、背は高いというか色々とでかくて最初はちょっと構えちゃったけど、話してみると明るくて付き合い易そうな奴だなァ。こっちの世界の大鬼族(オーガ)ってな皆こんな感じなのかね?


「ところで生まれたての赤ん坊に双果って先見の明があるというか…釣鬼の名前もそうだし、ちょっと面白いね」

「あぁ、うちの部族は――かどうか他の部族の内情を見たことが無いんで分からないっすけど」

「俺等の部族はある程度育ってから個人としての名を貰うからな、その時の特徴なんかで決まるんだわ」


 成程、元服みたいなものか。それなら確かに、二人共イメージ通りに似合った名前と言えなくもない。


「まぁこんな奴だ、実力は鈍っていなければうちの若い衆の中でも族長の孫に次ぐ程だから安心して任せられるんだぜ」

「ちゃぁんと鍛錬は欠かしませんでしたって、何なら試してみても良いっすよ?」

「ほう。なら……いや、俺っちの相手をして引継ぎ前に怪我させちまっても困るしな。ふむ――そうだ頼太やってみねぇか?」


 え、何コレ?他人事のように聞いていたらいきなり渦中に引き摺り込まれたでござる。おかしいな。のんびりとした他愛の無い会話だった筈なのに、気が付けば何時の間にやら目の前に死亡フラグが立っていたぜ……?


「え……あの双斧でスライスされろと?」

「むしろミンチ……?」


 ちょっと目の前が真っ暗になりつつ答える俺。そこに横からの扶祢の補足になってるんだかなってないんだか分からん酷い物言いに、更なるショックを受けてしまった。でも実際やり合ったらそうなる可能性が高いよネ。

 そんな俺達の言葉から想像してしまった事に思い至ったか、しかし言い出しっぺの釣鬼は苦笑を交え説明をしてくれた。


「流石にそこまでは言わねぇよ、勿論無手でだな。双果は力量自体は充分だとは思うが、森の管理人として手加減や気遣いが必要な部分もあるからよ。それの試験を兼ねてという事だ」

「アタイは別に構わないけど。ライタ、怪我させたらごめんよ?」

「お、おなしゃーす」




 そして五分後―――


「それまで!」

「あざー…っす」


 グフゥ。燃え尽きたぜ……。


 流石釣鬼の後任なだけあり、本人曰く得意分野ではないらしい無手でもぱねぇ。それでもここ暫くの修行のおかげか体捌きはそこそこ見れるようになっているようで、一撃即K.Oとはならなかったけどさ。こちらの手は難なく受け止められて全く通じる気がしないんだわ。

 そもそもが反応速度で負けているから、全て受けられて押し返されるので読み云々以前の問題なんだよな。強くなりたいです……釣鬼先生。

 あと何かにつけて揺れるんです、ばるんばるんと。最後も奇襲気味の回転ショートジャンプでたわむ果実をドアップに見せ付けられ、一瞬硬直したところに双果の飛び付きヘッドロックで乙といった流れである。ああ、今も右頬にメロンが…メロンがっ……!


「おっぱい星人め」

「双果如きの色に動揺するとは、緊張感が足りねぇな」

「如きとはしっつれーな、これでも筋肉と脂肪の黄金比を保って毎日ケアしてるんすから!ライタも気持ち良いっすよね?」

「はい…この弾力に富みながらもとても優しい感覚が最高っす」


 この感触。つい歯を光らせながらにこやかにサムズアップしてしまうのもしょうがないってものだよね。


「「おっぱい星人め」」


 うるせぇ!これに素直にならずに何とする!


「アハハハハッ。まぁまぁ、でもライタも聞いてた程素人とは思えない位に練り込めてるんじゃないっすかね?その辺の街の守衛程度なら無手で完全武装相手にしても制圧出来そうっすけど」

「お前ぇもやっぱそう思うか?筋は悪くねぇよな」

「うんうん、磨けば光りそうだよね」

「え、まじで?」


 スパーリング後の感想会では何と全会一致でのべた褒めをされてしまった。こう褒められるとちょっと俺って結構やれるんじゃね?と期待してしまうよな。そんなに上達していたのか……これは顔がニヤついてしまうのも仕方がない事だろう。現在進行形で双果にヘッドロックをかけられ続けているからという訳では決して無い筈だ。


「それよりそろそろ解いてあげないと、そこのおっぱい星人がたれ頼太に変化しそうだわね」

「おっと、ゴメンゴメン。苦しくなかったかい?」

「至福の時間を終わらせちまって悪ぃな」


 三者三様のニヤニヤ笑いを受けて我に返り、名残惜しくも二つの果実から解き放たれる俺。

 くぅ、もう少しこの幸せを噛みしめていたかったぜ……。


 その晩は出逢いへの祝杯を兼ねて、ログハウスにて双果の歓迎会となった。

 何だか追加エピソードのお陰で初期設定よりもかなり頭が悪い頼太になってしまった気がする。きっと異世界ドキドキなテンション故だろう。


※どうでもいいハプニングエロトラップの概要

 赤外線センサーに反応してすねこすりを召喚し同時に回転床を起動、ついで対象に弱フラッシュグレネ効果。同行者(この場合頼太)へと振り向かせつつコケさせ抱き着かせる。更に着物の紐をキャストオフという恐るべきセクハラ兵器。まだ現代世界側に位置していたからか異世界要素の類は一切使われていない模様。縞々でした。

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