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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第一章 異界との邂逅 編
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第006話 TKGと肉壁到来

 更に一日が過ぎ、その日の朝食時のこと。

 俺達はTKG(たまごかけごはん)と昨日の釣り大会の成果である焼き魚を食べながら今後の予定を話し合っていた。釣鬼さんも当たり前のように同席しているが、朝御飯の殆どの食材提供者でもあるし用が済んだからとさっさと別れるのも何だか薄情なので、もう暫し朝の団欒に付き合って貰う事にしましょうか。


「まずは人里に向かうのがセオリーかね」

「そうねー。旅をするにも仕入れ等の拠点は必要になってくるし、幾つかの街で馴染みにはなっておきたいよね」

「ふむ、なら西のサナダン公国までの道中を開拓するのがお薦めだな」


 今後の予定を軽く相談し始めると、釣鬼さんがそんな事を教えてくれた。


「サナダン?」

「ほら一昨日話しただろ、豚頭将(ハイオークジェネラル)が海将やってる国だ」

「あぁ」


 名前はクシャーナだったっけ。確かにそんな名前の港町があるとか言ってた気がするな。この森から西側に進むと平原が比較的多くて過ごし易い環境が続くんだとか。


「この森を西へ抜けると広い平野になっててな。まずこの森を抜けるまでが結構長くなるが、そこから海までは平野沿いに街や村が点在してるんだよな。そんで途中の都市から船で海沿いの港町まで直行出来るって寸法だ。あの平野付近は山や森もそこそこ、街道もあるしギルドで初心者から中級者が修練ついでに稼ぐには悪くねぇ環境なんだぜ」


 入るんだろ?冒険者ギルド――と話を続ける釣鬼さん。昨日俺達が熱く語り過ぎた影響か、どうやら冒険者ギルドに入る前提で話をされているらしい。


「私は時々別荘の管理に様子を見に行ければそれで良いけど、浪人生は立場的にまずそうだよねぇ?」


 残念残念、と言いながらもニヤニヤとした顔を向けてくる狐耳。耳と尻尾の事情が俺にバレてからというもの無理に取り繕う事も無くなって、今も機嫌良さそうにその七尾を揺らしていやがった。おのれ、その内またモフり尽くしてやるからな……!


「ふん、貴重な体験が出来るチャンスをみすみす逃すかよ。こっちで一攫千金を狙うは漢の浪漫という手もあるッ」

「へ~。それで、親御さんにはどう言い訳するのかな?」

「……最悪夏から本気出すということで」

「――ハァ、仕方無いなぁ」


 痛い所を衝かれてつい小声になってしまう俺に対し少々呆れた様子で溜息を吐く扶祢さん。確かにそれについては大いに悩ましき問題なのだけれども。

 だがしかし、これはギチギチに拘束された現代社会から抜け出すチャンスかもしれないんだ。迂闊と言わようとも今は前しか見たくはないっ!


「それじゃあ契約を交わしましょう」

「契約?管狐とかそういうやつか?」


 何だか思わぬところからファンタジィ要素が出てきたな。妖狐の美女を使役する冒険物語……うん、ありだな!


「お馬鹿さん、なんでわざわざ縛られるような契約を自分からしなきゃならないのさ。書面上の取引という意味での契約よ」


 だが俺のワクワク感は一言で切って落とされたらしい。うん、分かってたさ……俺、何の能力も無いぱんぴーですもんね。


「それに私は生まれながらの狐妖だから狐形態なんてものはありませーん、これが本体でーす」

「成程、天然モフられ体型だったってことか」

「……なんなら以降絶対にモフらせないって項目も付け加えようか?」

「全面的に僕が悪ぅございました……提携契約ということかな」

「そ、流れではっきりと約束はしていなかったから一応ね」


 そして具体的な契約内容を煮詰めていく。その内容は以下の通りとなる。


1:頼太は現代社会で扶祢の正体を明かす、またそれに類した言動は一切しない。

2:その見返りとして、まずは二年間、以降は状況により頼太の表向きの社会活動に対し扶祢が世話をする形を取る。ただしヒモになるのは許されない。

3:お互い裏切るような真似はせず、可能な限り協力し合う。理由があって別れる場合は事前にしっかりと話し合い内容を詰める。

4:1の遵守の為、一部の言動にのみ現代社会に対して制限のかかる呪を頼太は受け入れる。


「――うん、大雑把にだけどこんな感じでどうかな?昔話にもあるような悲劇は真っ平だし、出来ればこれに関してはしっかりと決めた上で受け入れて欲しいのだけれども」

「そういう事か。こっちでも似た話は昔はよく聞いたからなぁ、それがあっての種族間不和も根強いみてぇだしな。確かに必要な事ではあるか」


 うん、そうだな。扶祢さんの言う事ももっともだし、釣鬼さんの言う通り必要な事ではあるのだろう。


「分かった、契約を結ぼう」

「あれ、ここボケるタイミングじゃないの?」

「流石にそんな事をして取れる筈の信用を失いたくはねぇよ、時と場合は選ぶさ」

「意外だな」

「ねぇ」


 オマエラ。


 結果、立会人として釣鬼さんも連名で、書面も合わせ契約を行うことになった。体感は皆無だったのが残念だ。光ったりおどろおどろしいモノが出たりも無かったのはちょっと寂しいぜ……。


「じゃあそろそろ出発するんかい?」

「いや、本格的にとなると向こうでの手続きもあるから、そうだなゴールデンウィーク過ぎ――そういえばこっちの暦ってどう読むんだ?」

「お前ぇ等の世界って1年365日のところだっけか?」

「だね、一月が概ね30日で4年に1度閏年といって調整日が1日増えて366日になるけど」

「ならほぼ同じと考えていいな。こっちは1年364日、1/4/7/10の月が31日で他の月が30日、4年に一度3月と4月の間に5日増えて、その五日間は殆どの国でお祭り騒ぎを楽しむ祭典が開かれる感じだ」


 ほー。体感としては季節も概ね日本と同様な感じだし、その辺りで体調を崩したりストレスを感じる事は無さそうでいいな。

 こちらと唯一違う点である祝祭が開かれる五日間というのは争い事禁止の風潮らしく、戦争などしようものなら周囲の国全てが敵に回ってフルボッコにされるのだとか。


「そういった慣習が出来た当時は争い事禁止を逆手に取って武装禁止の五日間の間に意気揚々と隣国に攻め込んだ国もあったようだがよ。周囲全ての国を敵に回して総叩きにされちまって、時の王侯貴族が血祭りに上げられたんだってよ」

「ぶるるっ。怖いけどちょっとスカッとする話だわね」

「益々どっかの世界の独裁国家達に思い知らせてやりたい話だな」


 平和の為には良いことだろうけれども、この世界やっぱり基本思想が面白怖えー。どの辺りでこういった思想や文化の差異ってのが出来るのか、気になるところだよな。

 そして発祥から既に数百年とも言われているその祭りであるが故に現在はある程度形骸化もしているようで、排他色が強いと言われる魔族の大陸や自称神聖国からの旅人達もこの五日がある年の春時はちらほらと見かけるようになっているらしい。

 ちなみに数百年位まで前は属性にちなんだ名前の月日だったが、シンプルな数字の世界の読み方を採用して変更されたそうだ。これも先人たちの努力の賜物というものなんだろう、独特な面倒臭い暦も見てはみたかったけれどもね。


「来年が丁度その祭年だから、見て回るには丁度良い時期に来たな。お前ぇ等」

「へぇ、そりゃ楽しみだ」

「てことは今年中にある程度こっちで基盤を作らないとね」


 基盤、かぁ。俺なんかまだこっちに来たばかりでそういうのには考えが回らなかったな。扶祢さんはもうそこまで考えているのか。何と言うか凄いな、この世界にかける意気込みが違うというか。

 いきなり全てが真新しい環境の中でそんな大規模祝祭を見て回るのも楽しそうだとは思うが。祭りの内容としては相当な大規模かつ種類も多岐に亘るそうだし、どうせなら色々分かった上で見て回りたいよな。


「んで話を戻すけど、こっち側の準備の都合で多分出発は一月半から二月後位になりそうかな。扶祢さんの方の準備はどんな感じだ?」

「頼太君の――もう暫く同行するんだし呼び捨てで良いかな?」

「オッケイ。俺もさん付けがいい加減違和感あったから以後ヨロシク」


 おや、折を見てこっちから切り出そうと思ってたが向こうから言ってきたか。一応昨日のパーティ立ち上げ申請は受け入れられたようだし、もう仲間だもんな。これで本当に気兼ねなく話せるってモンだ。


「じゃあ頼太、の表向きの手続き手配でー……一月もあれば出来るかな?」

「なら少し余裕をもって五月に入ってからになるか」

「だね」

「ふむ……」


 俺達がそこまで決めたところでふと何やら考え込む様子を見せる釣鬼さん。そして少しばかりの沈黙が続いた後、考えが纏まったらしい釣鬼さんが話を切り出した。


「俺っちがこの森の管理人だってことは説明したと思うが」

「あぁ、してたな」

「うん。実は丁度五月の末に俺っちの任期が切れてな、後任に引き継ぐことになってるんだな」

「ほうほう」


 任期切れって事は結構長い間ここの管理人をやってたのか。なら森の事は識り尽くしているだろうし、成程道理で今まで固定の住居というものを持たず、昨日も何の準備も無しにこのログハウスで寝泊まりしていた訳だ。


「もし良ければだけどよ、その後俺っちもパーティに加えて貰えねぇか?」

「「へ?」」

「時期も丁度良いし、これも何かの縁だと思ってな。俺っちも管理人を引退した後はギルドに登録して世界漫遊と洒落込もうかと考えていたのさ」


 そういう事か。釣鬼さんはそこで一度言葉を切り、俺達が頷くのを見た後に再び話し始めた。


「まぁ見ての通り、人類の一員とは言ってもやっぱり種族的に敬遠されちまう部分も多くてな。かと言ってずっとソロってのも味気ねぇし、この数日でここまで俺っちに馴染んでくれるお前ぇ等となら上手くやっていけるんじゃねぇかな、と思ってな」


 いや、それはむしろこちらこそ是非と言いたいが……扶祢さん、じゃないか扶祢と顔を見合わせる。あちらも戸惑いの表情を返してきたが、特に拒否するような雰囲気には見えないな。


「こちらこそお願いしたいけど、良いの?戦力的には私達の方が足手纏いになりそうな気もしないでもないのよね」

「正直俺なんか現状素手じゃ頭の悪いオークやごろつき辺りまでの相手が精々な程度の実力なんだよな。いや勿論大歓迎だけどさ」

「なぁに。戦闘に関してなら俺っちが鍛えてやれるし、武器戦闘や魔法でもおいおい覚えていけばその辺りはどうとでもなるだろ。数日間だが、お前ぇ等と付き合ってみて悪人とも思えんし、何より懐かしさというか付き合い易そうな雰囲気を感じるからな。仲間として求めるには大事な事だ」

「な、なんかそうはっきりと言われると照れるわね」


 全くだ、性格はむしろ釣鬼さんの度量が広いから合ってるだけにも思えるが。だが本音には本音で返さねばなるまいね。


「分かった、こちらこそ宜しくな!それじゃあ早速だけど、仲間なんだしお互い他人行儀はやめて呼び捨てでいいよな?」

「宜しくねっ。今の頼太じゃ正直物足りないし、後でスパーリングお願いしようかな」


 物足りなくてさーせん。その内見返せる位に鍛えてやるからなっ!


「……おう、ヨロシクな!勿論呼び捨てで構わねぇぜ」


 そんなやり取りの中、若干の間を置いて釣鬼がそう応える。うん、これで正式にパーティの結成となる訳だ。それでは新たな仲間達に乾杯といくとしよう。




 それにしても特訓か……ふと釣鬼の筋骨隆々な身体や何故かやたらやる気になっている扶祢を見ながら半ば諦めの境地で思う事。


 ―――地獄の鍛錬がタノシミダー。

 前衛特化ゲットだぜ!釣鬼は森の管理を任されてるだけあってレンジャー系のスキルも満載です。ガチムチ斥候型物理壁なんで前羽の構えで対火炎放射器位まではいけるかもね!

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