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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第四章 日本帰郷 編
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第060話 冒険者たちの夏休み~頼太の場合~

 シルバーウィーク二日目。作中では季節はまだお盆前となります。

「うぁぢ~……」

「今日は今年最高の真夏日だってさ――うわ、館林と熊谷で39.5℃を記録したって」

「そこの二つはいつもニュースに出てくるよな」

「この地球の様に神秘的な影響の薄い世界では、盆地の夏は自然と熱される傾向にあるからのぉ」


 幻想世界での修行を兼ねたテスタープレイを終えた俺達は、短い夏休みへと入っていた。

 シズカがどうせなら夏の間付き合えと要求しきたのを発端とし、俺達は薄野山荘を拠点として夏を満喫する計画を立てている。自分が休む為の口実として、なんて前置きをする辺り、何かしらの組織に属している事は伺えるが――考えてみればシズカの立場というのも随分と謎だよな。やっぱり時空パトロールとかそういうモノで機密扱いにでもなっているんだろうか?


 今回は夏休み第一弾……というかその前に実家とお世話になっていた空手道場の先生への挨拶がてら、故郷の深海(ふかみ)市へ降りる事となった。市とは名ばかりな、山間(やまあい)の田舎町なんだけどな。

 ピノはピコとミチルを連れ山へ山狩りに、釣鬼は川に川釣りという名の命の洗濯にとそれぞれ別行動となった為に、暇人もとい時間の余っているらしき扶祢とシズカの二人が同行していた。

 扶祢は夏祭り用のコスプレに必要な反物を買いに行くついでに何となくお邪魔しようかな、という話だったので分からないでも無いが、シズカまでが同行したのはちょっと意外だったな。ここ半年の疲れを癒すのじゃー、とか言っていたから山荘でゆっくりしているものとばかり思っていたが。


「言うても暇じゃもん」

「ぶっ――」


 大いに納得出来る返しを受け、成程なと頷く俺の隣では扶祢が何故だか吹いていた。


「……何じゃ?」

「や、シズ姉がそんな砕けた口調するのが新鮮でね?」

「そうかぇ?童は普段から割とこんな物言いのつもりじゃがな」

「確かに、シズカって古風な口調ではあるけど結構いい性格してるというか、別に堅いイメージではないよな」

「そ、そうだったのか……」


 まだまだ観察が足りませんな扶祢さん。それにしてもこいつ、横にシズカが居ると妖狐属性が殆ど吸い上げられてしまって、ただの槍術の達人な和風専コスプレイヤーと化してしまうよな……それでも没個性には程遠くはあるんだがね。


「こうして愛しき妹と仲睦まじく歩けるからという理由もあるのじゃがな~?」

「はいはい」


 ふと悪戯を思い付いた風にいつも通りの姉妹のスキンシップとしてシズカが扶祢へと抱き着くが、そろそろ扶祢も慣れたものであっさりとあしらわれていた。シズカは一瞬むっとした様子を見せるが、それも束の間、この茹だる様な暑さに気が滅入った表情を形作ってしまう。


「それにしても今日はほんに暑いのぉ。折角の衣装が台無しじゃわ」

「そう思うんだったらその暑苦しい衣装で抱き着かないでよ。こっちまで汗がー」

「……頼太よ、最近妹が素っ気無くてお姉さん寂しいのじゃが」

「ノーコメ」


 シズカのターゲットがこちらへ移動しかけたのを感じ、俺は触らぬ神に祟りなしマインドにて全力で目逸らしを実行する。つまり、シズカも暇つぶしに何となく付いてきただけって事なのかね、これは。


「取りあえずは家に行くけど、落ち着いたらすぐに道場に出向くからな。それにしても、巫女っぽい衣装も確かに良いけど、何でまたこの炎天下にそんな暑苦しそうな恰好で来たんだ?」

「巷はお盆前じゃ。こことは異なる世界とは言え、童も御先稲荷(オサキトウガ)の席に名を連ねておったでな、元遣いとして恥じぬ身なりをしておるだけじゃ」

「あぁそういえばお前、地元じゃ『シズカさん』って呼ばれてたんだっけ?」

「とは言うても最早百年以上も過去の話よ。既に稲荷の遣いからは外されておるし、あくまで心構えだけじゃがな」

「そんなものか……見えてきたな。あそこが俺の実家だ」


 とある住宅街の一角。二階建てで庭付きの、平凡ではあるが去年ローンも支払い終え、親父の城であり俺の生家でもある一戸建てが視界へと入ってきた。


「ほぉ~、一般的な住宅じゃな。何にせよこれでようやく涼めるというものじゃ」

「私は二度目かな。あ、でもあの時は変装してたんだっけ。初めましてって言っとかないとね」


 そういえば扶祢はあの時男装で別人に成りすましてたんだっけか。その辺り忘れてボロを出さない様にしないとな。

 そして俺は若干の感慨を込めながら、約二か月半振りとなる実家の呼び鈴を鳴らした。ピンポーン。


「……は~い」

「お袋、オレオレ」

「詐欺は間に合ってるので失礼しますね」


 プツッ―――


 ………。


 ―――ピンポーン。


「すんません外国へ高飛びしてた息子の頼太です。詐欺じゃないし厚着の連れもいるんで熱中症になる前に入れて下さいませ」

「あらま随分と早かったね。どこかで昼食べてからくれば楽出来たのに」

「午後は先生の所に顔出そうと思っててね。あまり長居も出来ないからさ」

「何だか随分と慌ただしいね。昼はお蕎麦で良いかい?」

「何でも良いからまずは入れてくれ。この炎天下で突っ立ってるのは流石にきついわ」

「あらら、ごめんなさいね」


 ふぅ。うちのお袋はこういうところがちょっとズレてるんだよな。

 そしてドアが開き、懐かしい様な、まだ三か月だしそうでも無い様な、まぁ見慣れたお袋の顔が視界に入って来た。


「おかえり、頼太……あらあらあら」

「ただいま――何だ?」


 何だろう。お袋の奴、まじまじと俺……じゃなくて後ろの二人を見入っているのか。扶祢は何処となく落ち着かない様子だったが、一方シズカの方は泰然自若の体でひたすら暑そうな表情を浮かべているな。


「ちょっとおとーさん来てよ!頼太が綺麗なガールフレンドを二人も連れて来てるわ!」

「何だとぉぉおおぅ!?」


 ―――ドドドドドッドドッ!!


 そいや今日、土曜だったな……早いところはもうお盆前の連休に入ってたか。


「やぁやぁいらっしゃいお嬢さん方。オイ!こんな暑い場所に立たせっぱなしにしてないですぐ居間に案内しとけ!俺は窓閉めて冷房入れてくる」

「あらまわたしとした事が!ごめんなさいねおばちゃん気が付かずに。さぁさぁこっちにどうぞー」


 こうしてお袋達は言いたい事だけを言ってから、俺達の返事も待たずに二人して家の中へと引っ込んでしまう。その後に聞こえるのはドスンバタンといった荷物を片付けている大雑把な物音ばかり。


「息子の俺には何もなしかい……」

「――ククッ。何とも人の好さそうな親御殿ではないかや」

「あはは。他の人の家に入るのなんて小学校ぶりだからちょっと緊張しちゃうのだわ」

「そうか?それじゃあ大して面白みのない家だけど、いらっしゃいだな」

「うん、お邪魔します」

「それでは童も――お邪魔します」


 そう言って二人は揃って丁寧に家に頭を下げ、玄関をくぐり中へと入る。取り立てて見るべき所も無い平凡な戸建住宅だし、別にそんな大仰にする必要も無いと思うんだけどな。


「まぁまぁ、今時行儀正しくて良い子達じゃないの。で、どっちが本命?」


 いつの間にか戻って来ていたお袋がそんな耳打ちをしてくる……のだが、この程度の小声だとこいつらには丸聞こえなんですよね。案の定シズカはニヤついた顔を向けてくるし、扶祢はと言えば借りてきた猫の様に大人しくしながらも若干顔を赤らめていた。


「違ぇって。外国(むこう)の仕事の同僚だよ。落ち着いたら紹介するからまずは休ませてくれよ」

「なーんだ。っと、ごめんね二人とも、そっちの座布団に座って座って」

「あ、はーい」

「お邪魔するぞぇ」


 そして居間と通された俺達はテーブルに用意されていた冷えたオレンジジュースを飲み、身体に籠った熱を幾分和らげた後にようやく一息を吐く。


「それで、随分と急だったな。今年の夏は研修が忙しくて帰れないと言っていた筈だが」

「あぁ、ちょっと用事で国内へ寄る事が出来てね。少しだけ時間が取れたから盆参りついでに里帰りに寄ろうかなと思ってさ」

「そうか。ええと、そちらのお嬢さん方は?」

「あ、初めまして!(わたくし)薄野扶祢と申します。頼太、君とは同僚でして」

「童は扶祢の……従妹のような者でシズカと申す。今の立場はこやつ等の依頼人(クライアント)に当たるかのかや」


 親父の振った話に二人がそれぞれ名乗る。が、扶祢さんなんで一人称がわたくしになってるんでしょうかね。別に畏まる様な要素は一つも無いと思うんだがなぁ。


「成程、お二人の顔が似ているのは親戚だったからか。そちらのお仕事は詳しくは分かりませんが、この不肖の息子は仕事をしっかりとやれておりますかな?」

「まだまだこれからじゃが、見込みが無いという訳でもなさそうじゃ。今後に期待といったところですな」


 ふぅ、ここで全くなっていないなんて言われたらある意味喜劇ではあったけれども、一応気を使ってはくれたらしいな。シズカ、サンキュ。親父から見えない角度でこっそりと感謝の意を示すと、これまたそっけない顔をしながらも片目を瞑って応えてくれた。何だかんだでシズカって、話の解るやつなんだよな。


「そうでしたか、今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いします……それにしてもシズカさんは独特な物言いですな」

「一応巫女職に就いておりまするので。幼少よりの教育の賜物かこの口調がすっかり身に付いてしまいまして」

「私はシズ姉……シズカに付いて見習いやってます」

「ほぅ、それでこの暑い時期にそういった衣装をしているのですな。熱中症には気をつけませんとな」

「全く以て」


 親父の疑問にうんざりとした顔で溜息を吐きながら、シズカはそう返していた。どうやら巫女路線で通すらしいな、そして扶祢はその見習いポジといった所なのだろう。


「(なぁ、もしかしてシズカさんは見た目通りの年齢じゃあないのか?)」

「(――少なくともかなり昔に成人はしてると思うぞ)」

「(なんと……中学生と言われても違和感が無い位にしか見えないが)」


 こっそりと耳打ちをしてきては俺からそんな事実を聞かされ、その衝撃に親父は思わず唸ってしまっていた。本人としては小声のつもりなんだろうが、どうせ全部聞こえてるんで微妙に返し辛い質問はやめて欲しいものですな!


「まずは一息ついたら道場の方に顔出してくるわ」

「夕飯はどうする?」

「うーん、先生次第かなぁ。無理そうなら電話するから一応用意しといて貰えるかな?あと、泊まれる部屋ってある?」

「お前の部屋はすぐにでも使えるだろうが……母さん、客間って使えるかー?」

「あ、私達裏の山の山荘を管理しているので平気ですよ」

「おやそうだったのか」


 そんなやり取りをしている内に、親父に呼ばれたお袋が部屋へと入って来た。


「貴女達、似てると思ったらやっぱり薄野さんの娘さんだったのね」

「えっ、母をご存知なんですか?」

「二月程前だったかしらね。山荘に引っ越してきましたんでー、って町内に挨拶にいらっしゃってたわよ。お母さん、若々しくて羨ましいわねぇ」

「母上もあれで結構いっとるがのぉ」

「へえぇ~、もしかしてシズカちゃんと扶祢ちゃんも見た目によらず、だったりする?」

「秘密じゃ」

「私は頼太君と同じ十八ですねっ」

「「堂々と歳を言えるのが羨ましいの(わねぇ)」」


 そして入ってくるなりそんな世間話に花を咲かせて始めていた。女三人寄れば姦しいとは言うが、野郎の出番はここには無いな。親父と二人、大人しくしておくとしよう。

 それから一時間程、冷房の効いた部屋でここ数か月の出来事などを話しながら涼んで過ごした。言うまでも無くまずい部分は当然伏せながら、だけどな。


「んじゃ先生の所行って来るわ、今夜は家に泊まるから」

「あぁ、分かった」

「それでは私達はこれで失礼しますね」

「我等の居ぬ間、母上をよろしくお願い致しまする」

「いえいえこちらこそ、またいらっしゃい」


 そして俺達は家を出て道場への道のりを歩き始める。

 先生とも二か月半ぶりか、元気してるかな―――






「ここが俺が通ってた道場だな」

「へぇ、古風で落ち着いた所ね~」

葛見(くずみ)流古武術道場……空手ではなかったのかや」


 俺の紹介に門の上に掲げられた古ぼけた看板を見上げ、シズカがそう聞いてくる。しかしそっちじゃないんだなぁ。


「違う違う、そっちじゃなくてこの看板な?」


 そう言い俺が指示(さししめ)した先には、明るい黄色の立て看板にデカデカと、


「~葛見空手教室~健康の為に始めたい方や初心者さん大歓迎!勿論、熟練者にも満足頂けるメニューを用意しておりますっ♪」


 なんてゴシック体のマジックか何かで書かれた文字が並んでいた。


「何じゃこれ……」

「ここの先生――葛見(くずみ)喜一郎(きいちろう)さんは上の看板にあるある通り、葛見流古武術の跡継ぎなんだけどな。一子相伝って訳じゃないらしいが古武術、ってなると中々弟子入りする人も居ないみたいでさ。若い頃にバイト代わりに始めた空手教室が地元じゃ結構人気があって、今もこうして続けているんだよ」

「へぇー。空手の有段者さんなの?」

「本人は空手五段剣道三段とか言ってるけどな。賞状とかは見たこと無いから怪しいかもな」

「ひよっ子が言ってくれるじゃねぇかよ。そういうのは見せびらかすんじゃなくて実力で示す方針だって、何度も言っておいただろうが」

「うぉっ!?」


 いきなり気配も何も無く真後ろから野太い声をかけられ、俺は思わず飛び上がってしまう。

 そこには、中肉中背ではあるが全体的に引き締まった、だがどこかシニカルな印象の作務衣を着たおっさんが立っていた。


「先生いつの間に。お久しぶりっす」

「カカカッ。相変わらずとんでもねぇ鍛え方をしてるみたいだな。お前ももう十八だから兎や角は言わんが、身体を壊したら元も子も無いからあまり身体を虐め過ぎるなよ?」

「うわぁ、綺麗な気配の馴染ませ方……」

「ほぉ、中々やりおるな」


 本当、この先生は俺みたいにファンタジーな実戦を積んでいるという訳でもないのに、気配が全く読めないんだよな。ただ隠してるってだけじゃなくて周りに馴染むというか、こうして目の前に居る今も、一度(ひとたび)視界より外れてしまえば何処に居るかが全く読めなくなってしまうという。これも、葛見流の古武術独特のものだったりするのかね?


「おや?またえらく可愛いお嬢ちゃん達が二人もか。ウチへの入門希望者かい?」

「いえー、頼太君がこちらへ挨拶しに行くとの事でしたので、用事のついでに付き合ってですね」

「あらら残念。道場一の頼太(こいつ)が居なくなってからというもの、こいつと同年代の連中が張り合いが無くなっちまったと言って足が遠のいててなぁ。ここらで一つ新しい風を!と思ってたんだが」

「ほぉー。こやつ門弟頭をしておったのかや」

「井の中の蛙だったのは元から解ってたけどなー。道場の有段者の中じゃ全員に勝ち越してはいたぞ」


 これでも小学の頃からこの道場にずっと入り浸って育って来たからな。一時期は両親よりも面倒を見てくれていた程の恩人でもあるし、それに報いんと修練に励んだ結果の、俺の数少ない自慢の一つでもあるからな。

 そう言えば同級生のカツラギとか元気してっかなー。卒業してからこの方、ずっとあっちの世界に行ってたから全然顔見てねぇや。


「なーに似合わねえ謙遜してんだ。十五の頃から何度か古流の方の道場破りに逆に挑戦して、返り討ちにした事もある癖によ」


 先生はそんな俺の背を叩きながら呵呵(カカ)と聞きなれた笑い声をあげ、また赤っ恥な事を晒してくれる。知り合いを連れての帰郷っていうのはこんな精神的な辱めが多いものだったんだな、などと頭の片隅で思いつつ、早くも後悔の念が沸き起こってしまう俺でありました。


 ・

 ・

 ・

 ・


「はぁ~~。嬢ちゃん頼太(こいつ)よりも強かったのか。そりゃぁ道場なんか必要無ぇなぁ……」

「いえー。こういう空気は落ち着きますし、私も結構好きですよっ。時々お邪魔したくなりますよね」


 場面は変わり道場内。空手の教室ではなく、奥の古流の側の道場だ。

 日に当たる良い香りのする畳の上で正座をし、俺達はのんびりとぬるい緑茶を啜りながら雑談に興じていた。

 扶祢はリラックスした様子で先生と会話をしているし、シズカなどはその少し浮いて見える巫女衣装が気にならなくなる程に場へ馴染み、背筋に一本筋が入っているかの様な誰よりも見事な正座をしながら寛いでいる。いつもの賑やかなのも良いが、こういう静かな空間も悪くは無いよな。


「でな、こいつ折角の素質があるのに古武術に誘っても乗ってこねぇし、かと言って空手の選手権にも出ようとしなくてな。鍛錬は地道に続けていただけに勿体なくってなぁ」

「あー分かります。初めて会った時も専業の選手か何かかと思ったら、ふっつーの浪人生でしたもん」

「失礼な。今でこそ機会に恵まれて遣り甲斐を感じちゃいるけど、あの時アレと巡り合えなかったら平凡に進学なり就職なりして平凡なおっさんルートに入ってたと思うぞ。人生そんな甘く無ぇって」

「何と言うか、頼太って……」

「もっと上昇志向があれば、って思うよな?本当、勿体無いんだよこいつは」


 何を言ってますか。安定、良い言葉じゃないですか――まぁ今は異世界という飽きることを知らぬ刺激に心惹かれちゃってるんだけれどもさ。


「まぁこんな話も今更か。どら、久々に稽古でもつけてやろうか?」

「構いませんけど。今の俺、結構汚い手も使いますよ?」

「良いねぇ。なら俺も空手の師範としてではなくて、本家の葛見(くずみ)流としてお相手しちゃおうかな」

「げっ……まじっすか」


 先生の本家武術とは初めて相対するな。今まで見た古流の試し合いの中ではかなりえげつない手も数あったからな。再起不能にならない程度には気合いを入れて警戒していかないと。


「じゃあ、審判はぁ……」

「どれ、童がしてしんぜよう。どうせ汝はじっくり見たい方じゃろ?」

「へへ、ばれてましたか」

「うむ、それでは準備は良いかや――始めぃっ!」


 さてさて、今の俺が先生に対してどこまで通用する事やら―――






 久々の手合わせは十分が過ぎたところで審判(シズカ)の止めが入り、一応勝負預かりの形に。ただ先生は俺の成長を楽しんでる感もあったし、実際には胸を借りていただけの状態だったんだろうなぁ。


 余談ではあるが、その後、扶祢が槍を使うことを聞き先生も喜んで木剣と練習用の槍に見立てた棒を用意して立ち会う事となった。しかし先程の俺達の対戦を見てテンションが上がりまくっていた扶祢の手により先生の木剣はあっさりと叩き落とされ、ショックで暫く部屋の隅に蹲るおっさんの図が出来上がってしまったらしい。

 あれは、悲しい事件だったね……。

 軽い小話シリーズのつもりが、のっけからとんだ長文に。

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