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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第四章 日本帰郷 編
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第059話 幻想世界終了~そして夏休みへ~

「試練の洞窟VH(ベリーハード)クリアおめでとぉ~」

「中々得難いデータを取らせてもらったよ。これで公式オープンへの道がまた一歩進むね」

「堪能して貰ったようで何よりだわい。サキさん達もついさっき帰ってきたし、幻想世界(ファンタズムプレイン)は一先ずこれで終わりになるかのう?」


 アベルの街へ戻ってきた俺達を、魔改造トリオが現地の現身(アバター)を用意して出迎えてくれた。これで幻想世界ともおさらばかと思うと、ゲーム内とはいえ少し後ろ髪を引かれる部分はあるがね。


「そうだな。そろそろ異世界(むこう)に戻って本業で動き始めねぇとな」

「体感だけだともう冒険者より幻想世界(ファンタズムプレイン)で動いてた時間の方が長いもんネ」


 異世界組の二人はやはり元の世界が恋しいのか、そんな事を言い合っていた。実際今の俺等ゲームをしてるだけの引籠り状態だもんな。いい加減本業(ぼうけんしゃ)に戻らないと堕落まっしぐらである。


「それじゃあ名残惜しいけれども、この幻想世界(ファンタズムプレイン)をご利用いただき、誠にありがとうございました。またのプレイをお待ちしております」

「製品版の目途がついたらまたおいで」

「さて、溜まったデバッグが僕達を待っている……」

「「うわぁ、考えたくないわー」」


 最後の発言に現実の厳しさを垣間見た気もするが、これにて幻想世界は卒業(クリア)となる。完成したらその内また遊びに来るとしますかね。


 ・

 ・

 ・

 ・


「――お、戻ったの」

「お帰り、久しぶりだねェ」

「わふん」


 幻想世界内の清算を終え日が暮れた頃にログアウトをして現実世界へ戻ると、既にシズカ達は山荘へ帰還をしていたらしくその場で対面する事となった。


(みんな)お帰りぃ……ってピコが金髪になってるー!?」

「エェエエ!?ピコ何ソレ!」

「わふぅ……」


 驚きの声を上げる扶祢とピノ。それもその筈、俺達の目の前に遣る瀬ない様子でお座りをするピコの毛色は全身金メッキの如く。ピカピカと部屋の電灯の光を照り返していたのだ。


「――うむ」

「いや、うむじゃなくてね?」

「あー……シズカのスパルタで、ちょっとね」


 シズカにしては珍しく気まずげに言葉を濁し、そしてサキさんが暴露する。


「いや何、初めは用事の合間の手慰みに軽い修行でもさせようかと思っていたのじゃが、こやつ望外に筋が良いでな。つい……」

「アタシの目から見ても結構きつい修行になっちゃってたからなー。んでやり過ぎた結果がこの有様って事さ」

「わひゅぅ~」


 どうにもはっきりしないので問い詰めてみると、どうやらスパルタをし過ぎたせいで経験値を稼がせまくって進化しちゃったという事らしい。言葉の意味は解ったけれどもちょっと意味が解らんね!


「進化ってンな簡単に……」

「いや、じゃからな?童も振り返ってみるとちとやり過ぎたやもしれぬなぁ、なんて思わぬでもないのじゃ」

「あれはピコくんが哀れだったわー。アタシも出先じゃこの子にお世話になってた手前、今回はあまり強く言えなかったからねぇ」

「なっ!?母上それは汚いぞ!母上とてノリノリだったではないかっ」

「さて、記憶にないねェ?」

「ぬぐぐ……この女狐めが」


 サキさんはサキさんで、あっさりとシズカに責任を擦り付けてどこ吹く風な顔をしている辺り、正に女狐といった感じではあるが。要するに二人してヒャッハーとやらかしちゃって、結果被害者のピコが進化に至ったという訳だ。どんだけー。

 そういえばシズカのサキさんへの呼称から「殿」が消えてるな。この二週間で結構仲良くなっていた様で何よりだ。


「うーん、進化しちゃったのはもうしょうがないとしてさ。今のピコってどんな種族なんだろうね?」

「あ、確か冒険者の登録直後にメモっておいた進化ツリー表があったな。持ってくるわ」

「そういやお前ぇ、当初は調教師(テイマー)も視野に入れてたな」

「金ピカー」


 だな。ミチルが戻ってきてくれたからもうあの表は要らなくなったんだけどな。

 そしてピノがピッカピカのピコに構っている間に部屋へと戻り荷物をガサゴソ……あったあった。


 それによると、


 ウルフ系(無印・フォレスト・グラス・デザート等)

     ↓

 シルバニアウルフ―→グレイシアヴォルフ

     ↓          ↓

 ゴルディループス  リトルフェンリスヴォルフ

     ↓         ↓

 プラチナムビースト   ?????


 となっていた。


「この表で見ると、ピコは正統進化形のゴルディループスに当たるのかな?」

「みたいだな」


 ピコの現在の毛色は光沢鮮やかな金色。シルバニアウルフからの派生の二種ではどうみてもゴルディループスの方だろう。身体の大きさは以前とあまり変わらないのでまだ子供のままなんだろうか?その辺りピノに聞いてみた。


「まだ子供なんじゃナイ?ゴルディループス、っていうのは知らないケド、シルバニアウルフは村にそこそこ居たからネ。大体50歳位で成犬になってたヨ」


 とのことらしい。やはりこいつの故郷でも犬扱いだったんだな。

 ピコの例から見ても分かる通り、ゴルディループスの成体は非常に見栄えが良い。しかし人気の理由としてはその見た目よりもむしろ、知能の高さに依る複雑な命令への対応能力、そして危険度Bランクに匹敵する戦闘力が大きい。よく躾けられた個体には時折強引な買取交渉が持たれる場合もあり、面倒事になるケースが多いのだと以前サリナさんが言ってたっけ。異世界(むこう)に戻ったらその辺りも相談しないといけないか。


「もう一つの派生にあるリトルフェンリスヴォルフの次っテ、多分フェンリスヴォルフだよネ?」

「だろなぁ。何で隠してるのかは解らんけど」

「あ、それは聞いた事ある!実際に確認が取れてない種は基本的に???で表記されてるんだってさ」

「なーる、未確定情報だからか」


 こういったデータ的な書物には、迂闊な事を書いてしまうとギルドの信用に関わるからな。冒険者ギルドもお客様が居て採算がついてこその民間組織なのです。

 そしてフェンリスヴォルフについてだが……地球での伝承でもお馴染み、フェンリス狼、または別名フェンリルと呼ばれる「地を揺らすもの」の意を持つ、有名な北欧神話の怪物である。


「そういえばこっちの神話だと主神を飲み込んだってブッ飛んだ事が書かれてたネ。向こうでも災害(ハザード)級指定種だったッケ?」

「出現情報が出ただけで国が動くレベルだっけか。噂じゃ数百年前にまだ帝国が出来る前の、今で言う帝国領北部地域で出たフェンリスヴォルフは誰かの獣魔が進化したものだって聞くがよ」


 ピノに話を振られた釣鬼が補足する。地球ではお伽話の類だが、異世界(あっち)では実際の出現記録があったらしいな。


「進化すると暴走しちゃうとか?」

「分からん。フェンリスヴォルフに関しちゃ眉唾物な噂が多いからな」

「ボクの耳にした噂も何かの獣魔が進化したってヤツだったヨ。そのフェンリスヴォルフの力を欲したどこかの貴族が飼い主の調教師(テイマー)を計略にかけて殺しちゃって、それに激怒したフェンリスヴォルフがその貴族諸共領土全てを凍らせター、ってヤツ」


 実際の所、伝仮に伝承通りの能力を持っていたとすれば、ありそうな話ではあるよな。


「怖い話だわ」

「まぁ今となっちゃ真実は分からねぇが。その時に現地のギルドから派遣された二十人以上のAランクの猛者達を含めた旧騎士団が、フェンリスヴォルフの討伐と引き換えに全滅したなんて記録も残ってるからな。んで以降、当時の国と冒険者ギルドは衰退の道を辿り、今の帝国が台頭する一つの要因となったって訳だ」


 成程なぁ。北欧神話級とまではいかないが、国が丸々一つ斃れる程となれば十分に災害(ハザード)級と言われても納得出来るレベルの危険度だろう。


「ま、ピコに関してはそっちの心配は無さそうだし良かったな」

「ダネ。ピッカピカー」

「わふわふ」






 さて、それではシズカとサキさんも戻ってきたし釣鬼の経過観察を報告するとしよう。


「ほぉ――どれ、見せてみぃ」

「……ふぅむ?」


 俺達の報告を聞いた二人は興味深げに釣鬼の身体をじっくりと診たり触ったりと、詳細な検査をし始める。


「はいはーい。健全な男子は回れー右」


 途中で釣鬼の服を脱がしにかかったところで、俺を含む野郎三人は追い出されてしまう。真っ先に俺の目が塞がれてそのまま部屋の外まで引きずり出されたのが解せぬ。釣鬼もどうせ気にしてないんだし、ちょっと位良いじゃんね!

 暫く時間がかかる様ではあるし、俺達は先に夕飯を頂くとしますか。


 ・

 ・ 

 ・

 ・


 そしてテレビを見ながらの夕食時も半ば過ぎた辺りになって、釣鬼達三人が部屋を出てリビングへとやってきた。


「施術には問題は無いし、術後の状態も安定してるさね。変化そのものには異常は無さそうに見えるけれども……」

「何がいかんのじゃろうな?」


 診断の結果としては特に異常は無しとのことだった。実際、日常生活を送るだけであれば不都合は無い様ではあるし、特に体調不良という訳でもないみたいだからな。異常が無いのは良いんだが、ならばこの状況は一体どういう事なんだろうな?


「やっぱり夜は吸血鬼としての力が強まって変化が破られる、とかじゃないのか?」

「うーむ、無いとは言い切れぬがのぉ。じゃが……」

「元々アタシ達、狐狸の使う変化っていうのはイメージがモノを言うからね。力の強弱で解けるようなタイプの術じゃないんだよ。吸血鬼の力が強まる事によって変化対象が暴走する、ってなら一時的に解けるのも解らないでもないんだけれどもさ」

「そうなんだー」


 確かに釣鬼を見るに暴走とは縁遠いよなぁ。ふむぅ、イメージねぇ……ん?


「――イメージか」

「じゃな」

「一つ聞くけど、釣鬼は元の大鬼族(オーガ)以外の姿にはなれないんだよな?」

「そうさね。この『化ける』って感覚は実際化けられる種族特有のものだからねぇ」

「我等も化ける切っ掛けを与えただけじゃでな。元々自分自身であった大鬼族(オーガ)の姿にはなれようが、我等の如く任意に姿を変えるといった芸当はまず出来まい。もし仮に強くイメージ出来る親しい知人に化けることが出来たにせよ、どこか違和感は残るじゃろうな」


 成程な。その道の専門家である狐狸でなくば、自身そのもの以外への変化はままならぬ、という事か。それを踏まえた上で、俺は改めて釣鬼へと向き直り一つの問いを投げかける。


「釣鬼、通常吸血鬼と言えばいつ活動すると思う?」

「あん?何だそりゃ。そりゃ日が暮れてからに決まって……」

「「「――あっ!!」」」


 それに対する当然の答え。それが釣鬼の口から出かかったところで何人かが一斉に声をあげる。そう、吸血鬼は日が暮れてから出現し、夜の活動を開始するモノだ。つまりは―――


「強固に過ぎる思い込み(イメージ)が故に、吸血鬼姿(じぶんじしん)に化け直しておるのか!」

「そりゃまた面倒な状態になっちゃってるモンだねェ……」


 無論それだけが原因でも無かろう。施術してすぐ幻想世界(ファンタズムプレイン)で吸血鬼姿のキャラを作り、それに馴染み過ぎてしまったのも要因の一つと言えるだろう。

 技能的には良い修行となった幻想世界(ファンタズムプレイン)だったが、これは予期せぬデメリットが発生してしまったものだ。


「そ……それじゃあ俺っちは自分でこの姿に化けているって事か?」

「施術後すぐであればまだ矯正の余地もあったのじゃろうが、今となってはのぉ……」

「釣鬼君、もう違和感とかは無いんだよね?」

「……そうだな、最近吸血鬼(こっちの)姿にも殆ど違和感が無くなっちまってるな」

「うーぁ、重症だねェこりゃ。長い時間かけてじっくりと念じ続けていけばその内変えられるかもしれないけれど、一度付いたイメージを払拭するのは中々、ねぇ?」

「………」


 ガツンッ、と。釣鬼の頭がテーブルに突っ伏した音が響き――あ、魂的な何かが口から抜け出てきた。


「……感情表現(エモーション)は豊かになったのぉ」

「流石うちの一族の秘伝だねェ」

「これ変化の賜物かいっ!?」


 謎の自画自賛をする狐母娘につい突っ込みを入れてしまう俺でした。釣鬼なむ。






「もう暫くは何も考えずに釣りするっ!釣りしたいっ!」


 釣鬼がちょっと幼くなっちゃったらしいです、精神的に。

 いや、ショックが大き過ぎて若干幼児退行的な気を催しただけなんですけどね。


「そうじゃ、変化の施術に対しての報酬を頂かねばな」

「えっお金取るの?」

「アタシは別に要らないんだけどね。シズカがそう言うなら仕方が無いんじゃないかい?」


 むう、確かにシズカは本来異世界(むこう)での仕事があったにも関わらず、わざわざ今回の帰郷にまで付き合ってくれたことだしなぁ……真っ当な要求ではあるか。


「別に金品などは要らぬが――そうじゃな。汝等、夏の終わり迄此方で童に付き合うが良い。特に扶祢、汝には色々と母上を交えて教えておきたい事もあるでな」

「げっ……」


 シズカはそう言って獲物を狩る肉食獣の如く目を光らせる。扶祢だけは怖気が走った様子で耳と尻尾を総立ちさせていたけれど、俺達は立ち位置的にセーフティな流れだし問題無いな!


「釣鬼も暫く傷心中だしネ~。ボクもこっちの山とか見てみたいナ!」

「そうだな、俺も実家や道場に顔出す時間が欲しかったし丁度良いか」

「おっお手柔らかにお願いします……」

「んん?可愛い妹に優しく教えてやろうというだけじゃのに」


 どうやら決まりの様だ。今日の所は薄野山荘でゆっくり過ごし、明日から故郷の街を練り歩くとしますかね。


「ククッ、ご愁傷さまだねェ。ともあれ、改めて歓迎するよ。軽い合宿のつもりで楽しんでおくれよ」


 と言う訳で、俺達の短い夏休みが始まったのだ―――

 これにて幻想世界関連は一先ず終了となります。日本編はもちっとだけ続くんじゃよ。

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