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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第一章 異界との邂逅 編
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第005話 釣り大会と付け耳詐欺

 翌日―――


 この日は朝一番から釣鬼さんと遭遇したあのでかい池で試し釣りをすることに。どうせなので今後のサバイバル練習を兼ねて釣り大会でも開催するとしましょうかね。賞品も特に無い名前だけの小さい大会だけれども。

 という事で用意周到にも扶祢さんが持参していた釣り竿を使い、早速投げ釣りを開始したのでありますが……まぁ遠投釣りってのは仕掛ける時と釣り上げる時以外は基本的に暇であり、手釣りも並行して行っている釣鬼さん以外は若干手持ち無沙汰となっていた。


「ほ~、んじゃあお前達もほぼ初対面みてぇなモンか」

「そうだな。出会ったのには偶発的な要素が強かったけど、オタ…もとい同類な臭いがプンプンしやがるッッというのが多分馬が合った理由としてはでかいんじゃないかね」


 実際、もうさん付けするのが違和感な位に馴染んじゃってるもんな。その証拠に割と碌でもない評価を口にされたにも関わらず、別に怒る風でもなく肩を落として言う付け耳尻尾付き。


「うぅ…あんまり言い返せないけど。どうせなら見た目も釣り合って欲しかった」

「うるせぇよイケメンでオタとか腐みたいな妄想してんじゃねぇよどうせ俺ぁ凡人面な上に表向き趣味を隠すのに必死なのに実はバレバレで高校最後の文化祭も野郎同士でつるんでたチェリオだよちっくしょおおお!!!」

「いやそこまで自分で自分を卑下せんでも……つか私は腐じゃないっつってんでしょうが変なレッテル貼んな!!」

「やっぱお前ぇ等、類友ってやつか」


 だからこうして雑談も弾むってモンだ。

 そんな俺等のやり取りを半ば呆れながらも楽しそうな様子で見守る釣鬼さん。まぁ今のやり取りを見てもらっても分かる通り、馬が合うってのは間違いないと思うんだがね。


「最初はなんで人族と狐人族がつるんでるのかと思ってたんだけどな。趣味が合うならそういうこともあらぁな、異邦人でもある訳だしよ」

「えっ」

「あっ……」


 あー、そういえばその辺全く説明してなかったな。


「ああそれなんですけど、この耳と尻尾は偽物でして、そういう趣味というか……」

「………」

「偽物?昨日も普通に耳と尻尾も動かしてたし、とても作り物にゃ見えねぇけどなぁ」

「……えーっと」



 ―――なんですと?


 その言葉に思わず身体ごと隣の子へと向き直る俺。それに対し扶祢さんはわざとらしく目を明後日の方向に逸らしてしまう。


「……扶祢さんや、ちょっと俺の顔を正面から見てみようか?」

「や、やぁね。そういうのはイケメンが壁をドンってしながら言うのに限ると思うんだよ?」


 イケメンじゃなくて悪かったな。腐属性はないようだがばっちり乙女回路搭載してんじゃねぇですか君。よくよく見れば確かにその狐耳も妙に背を向けてへたっていたりして、こんな状況じゃなければつい摘まんでみたくなっちまう位だぜっ。


「いいからまずは俺の目を見なさい。あと耳が動いてるぞ?」

「やだー!?見ないでー!」


 これもある意味童心に返ったと言えるのだろうか。駄々を捏ねる子供のような仕草で両耳を抑え、扶祢さんは完全に背中を向けてしまった。頭隠して尻隠さずなんて諺があったりするが、この場合耳隠して尻尾隠さずといったところだな。尻尾も緊張でピンと立っており、更に細かく震えていた。

 もうこれ、本物なのがばれっばれで本来衝撃の奔る場面なのだろうけど、この子の抜けっぷりというかゆるゆるなガードの甘さが際立ってちょっとウズウズとしちゃう訳ですよ。つまり……。


「……うぇひぁ!?」


 とりあえず全力でモフってみた。

 おお、面白いくらいに尻尾が反応しているぜっ。この流れなら耳もイケルッ……!


「ちょっ……」


 もふもふモフモフもふモフ…ドゴスッ。

 

「ぐぅ!?ナイスチン……」


 その後回復するまで容赦無くストンピングをされ続けました……げふぅ。


「カ、カラーテをやっていなければ死んでいた……」

「そのまま死ねっ!」

「ホント仲良いなお前ぇ等はよ。草生えるわ、だっけか?」


 釣鬼さんも早速ネット用語を使いこなし始めているようだ。この人本当にオーガなのだろうか。この世界のオーガは人類の一員とは聞くものの、オタ知識などで伝え聞く俺達のオーガのイメージからはかけ離れた冷静さで頭の回転も悪くはないし、知識量も豊富でスペックたけー。


「んでだ」

「うっ……はい」


 仕切り直しとして俺がコホンと咳払いをして言うと、途端に扶祢さんはガチガチに緊張した様子で正座をし始める。もしかして、怒られ慣れてて今回もそのパターンだと思っちゃったとか……?やべぇ、こんな所も超親近感。つくづく見た目と中身が乖離しすぎだろ。


「この世界の人族と獣人族って仲悪かったりするのん?さっきの釣鬼さんの話だとつるむのは相当珍しいみたい?だけれども」

「そっち!?」

「あぁ、オタ狐さんにはちゃんと後で説明してもらうから後でな」

「うぅ…オタ狐じゃないもん……」


 別にいじめてる訳じゃなくてだな。俺も多少は動揺しちゃってる訳よ?

 お互いちょっと焦ってるみたいだから仕切り直しの為にわざわざ理由を練る時間をあげたんだし言い訳になってない否定はスルーだ。俺様流石優しいぜっ。


「そうだなぁ、昨日も話したように色々とあったお蔭で敵対してるって程ではねぇんだが。人族は人族、獣人族はそれぞれの種族毎に群れる事が多いか。ある程度慣れてきた冒険者ギルドの連中とかになるともはや関係なしに組んではいるみてぇだが」

「なーる、なら一緒に居ても危険視される程じゃないのか」

「そらな、そんな排他的な事をするのは神聖国と魔族の大陸位だろ。だから特に種族単位の問題で心配する必要はねぇよ…っと、フィーッシュ!」


 おー、初めて使うリールなのに手慣れた感じで操作出来てるね、足の指で。流石すぎるわ。

 さて、言うまでも無く釣鬼さんのダントツトップで釣り大会も落ち着き、時間もそれなりに経過したのでそろそろ良いかと振り向いてみたんだが。


「どうせ狐耳なんて100%天然ファンタジィなこの世界じゃ有りふれてるもんね……別に大したことでもないよね。大したことじゃないんだし説明なんか要らないよね……」

「オウフ」


 どうやら狐耳尻尾付きさんは不貞腐れていたようだ。


「あれだ、フォロー頑張れよ」


 釣鬼さんの優しさが心に沁みるぜ……その微笑に若干黒いモノが混じってる気もしないでもないけど。


「まぁ落ち着くんだ扶祢さんや、良いじゃないか狐耳!つい我を忘れて宣言通りモフってしまったよ。あのしっかりと手入れされた整った毛並は至高の感触で、小生感動の極みでありましたぞ!」

「人はそれをセクハラと言うんですー、それにお蔭でグシャグシャになっちゃてセットし直しですー」

「誤解だ!これでもモフリストの端くれ、そんな下劣な感情等抱くわけがないじゃないか!何なら今此処で尻尾のお手入れの手伝いも辞さない覚悟ッ」

「……頼太君?普通の人で言えば逢って数日な男子が女子の耳たぶを指で挟んで弄んだ挙句、髪をモシャモシャにした上で『髪の手入れをしてやるよ』って迫っているようなものだって事は理解出来てるかな?」


 うむ、説得失敗。確かに冷静に考えてみれば下手すりゃおまわりさん呼ばれるレベルの事をしたのかもしらんね、まずいよね。

 仕方が無い、では気は乗らないが方向転換をするとしようか。


「……ッフ。こんな美しい尻尾、本物だと分かれば大半のモフリストは心を奪われずにはいられないに決まっているじゃないか!それに本人の美人度も合わせるともはや魅了の域、流石傾国の流れを汲む狐の一族ダネ!」


 秘技、無駄に爽やかな笑顔できらめく歯を見せながらの褒め殺し!ここ数日話した感じ、扶祢さんは持ち上げられて特に喜ぶような性格には思えないが、褒められて嬉しくない人なぞそうはいないからな。そして獣人とくれば耳や尻尾を褒めるは定石ッ!

 さて、これで流れがどう変わる……?


「――ふん。時間をおいて気を使ってくれたのは嬉しいけどさ、あからさま過ぎる言い方はやめてよね。獣人は耳と尻尾を褒めとけば良いなんてテンプレを……いや、うん、本心から言われた時なら確かに嬉しいけどね?」


 お?効果アリと見た。ならばここはこの勢いで更なる攻勢をかけ目標を一気に制圧するべし!


「いやいやいや、言い方は露骨に過ぎたかもしれないけど言ってる内容は本心に偽り無いぞ。美人な狐人ってだけでウッヒョウって感じだってのにそれが知人!色んな意味で冒険心がくすぐられちゃうね!縁があって本当に良かったと思ってるのは事実だぞ」

「む、むぅ。よくそこまでストレートに言えるものだね……頼太君って実に結婚詐欺師向きに思えるわ」


 結婚詐欺師とは失礼な。だがここまでくればあともう一押しだな、ちょろいぜ扶祢さん。


「まぁこの流れなら言える!こっちの世界を見て回る相棒として俺と組まないか?そのもっふもふの綺麗な九尾の君の隣で一緒に旅を楽しみたいな」

「………」


 ついでなのでどさくさで本題も出してみた。結果的には良い方向に進めたかな。

 しかし、そんな事を考えながら釣鬼さんにミッション完了のサムズアップをしたら微妙な顔で返された。え、何で?


「……なの」

「うん?駄目だったか?」


 やっぱり家の管理の都合とかで無理なのかな?まぁそれはそれで仕方がない。旅っつっても休日毎のピクニック感覚の話だし、ご機嫌斜めを解消出来れば今はそれで良いのさ。


「……九尾じゃなくて、七尾なの」


 ―――ひー、ふー、みー、よー、いつ、むう、なな。


「うわ、半端」

「うわーん、半端言うなー!」

「ご愁傷さん」


 そんなオチが付いたところで俺に合掌をする釣鬼さんであった。知ってるなら先に教えといて下さいよ、先生……。



 その後、扶祢さんの機嫌が直るまで丸一日ご機嫌取りをする羽目になりました。我が褒めくり道は未だ道半ばという事か……。

 色々と台無し。扶祢は本来正体を明かすタイミングがもう少しシリアス場面で本性はクールビューティ口調or妾様へ変更する予定だったのですが、書いてて楽しくなったのでやらかしちゃったぜ。

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