第049話 幻想世界①
「お、来たか」
「やー!……って見た目まんまじゃない」
「よぅ」
「ヨーッス」
文姫さんの言っていた通り、到着したのは俺が一番最後となったようだ。ここがデータベース界か……。
「……なんかあっちの世界とあまり変わり映えしないな」
「だよね。一般的なRPGの舞台って感じかな」
「相変わらずその辺りはよく分からねぇなぁ」
「これがテンプレってやつなのカナ?」
この二週間、山荘のパソコンを使ったインターネット検索や隣町への散策等でこちらへ入り浸っていたお蔭で、識字は兎も角ネットに関する知識は無駄に付いた二人がそれぞれ感想を述べる。
二人とも平仮名と片仮名程度までは読み書き出来る様にはなっており、特にピノは簡単でよく使う漢字まではある程度読める域に達していた。釣鬼はどちらかと言うとアルファベットの方が馴染み易いらしく、
「この言葉の意味はあっちでも使われてんなぁ。結構古い時代から異邦人って居たんだな」
などと零していた。やはり共通で話せる言語がある環境での通訳しながらの勉強は随分と捗るみたいだな。
「そういや聞きそびれてたけど、向こうの世界って世界の名前みたいなモノはあるのか?」
「あ、それ私も気になってた!聞こうとする度にもっと興味をそそられる事があって結局聞けなかったんだよね」
「生活魔法とかな」
「あれも是非身に着けたい技能だよね……」
そうなんだよな。生活魔法もタイミングが悪かったり他の事で手一杯で忘れていて、結局未だ習得に至っていないんだよなぁ。日本に戻って来る前も踏破獣の捜索に狩りにモツ鍋パーティと優先すべき事があったもので……。
「こっちで言う地球、みたいな呼び名か。国や機関によって主張がばらけてて統一した名前、ってのは無ぇんだよなぁ」
「交差世界トカ、円環トカ、ミドガルズ、なんてのもあるよネ」
「何さ、その厨二臭さ……」
二人の羅列するあまりに痛々しい雰囲気満載な候補名に、思わず扶祢がそんな感想を零していた。それ付けたの間違いなく地球の出身連中だろ……。
「こっちに来て厨二病の意味を知ってからはちと恥ずかしくて使いたくねぇ名前ではあるやな」
「だよネ」
やはりこういった感覚は万国共通らしく、釣鬼にピノもあまり名前については触れたくないみたいだな。まぁ向こうに戻ったらサリナさんにでも聞いてみるとしようか。
軽いやり取りも終わり、改めて全員の姿を見回してみる。そこでまず目に付いたものと言えば―――
「釣鬼、結局吸血鬼スタイルにしたんだな」
「おう。現身の見た目をある程度自由に出来る、っつっても女姿じゃ何を弄れば良いのやらだったからな。かと言ってエルフ野郎になった俺っちも想像出来んかったし。だから吸血鬼の姿をそのまま使ってみたぜ」
「ネカマってやつだネ」
「ピノちゃん、それちょっと違うと思うなぁ……」
「ま、この姿も今の俺っち自身ではあるからな」
釣鬼は吸血鬼時の姿にエルフ耳を生やした見た目となっていた。当然だが牙も消え、職特有のゆったりとしたローブを羽織った様子からは、あの何処となく危険な匂いは最早感じられない。
それではお待ちかねのステータスチェックに入るとしようか。
CharacterName:釣鬼 エルフ/僧正
HP 58/MP 102/ST 35
初級属性魔法 1
初級強化魔法 1
初級回復魔法 1
鑑定 1
魔力感知 1
緊急回避 1
受け流し 1
アクロバット 1
釣り 1
「……待て。特に下三つ」
「やっぱり前出て殴る気満々なのね……」
「釣鬼だしネ」
「自由度が売りっつってたからな。軽量級かつ身体能力が低い状態でどこまでやれるかってのを楽しむのも良いんじゃねぇかと思ってな」
このゲームはキャラ作成時に初期の職業スキルの他、最大五つまで任意のスキルが取得可能だ。だからこれについては個々の趣向が強く出易くはあるのだが、こいつ完全にフィジカル系と趣味で揃えていやがった。
「確かにそんな事言ってたけどなー。釣りまでやる気かよ」
「思えば冒険者をやり始めてからあまり釣りが出来てなかったからな……」
「こないだ釣堀行ってなかったっケ?」
「あんな入れ食いの囲いに釣り糸垂らすだけの作業は釣りじゃねぇ!邪道だ!」
さいですか。言いたい事は分かるケドな、あれって完全な娯楽用のスペースだからなぁ。
まぁゲーム内の食糧調達手段の一つとしてはアリっちゃアリか。このゲーム、定期的に飲み食いと休憩を挟まないとスタミナが回復しないシステムだからな。
次いで扶祢を見てみると、手足と尻尾が鱗に覆われ、頭の左右からは側頭部を護るかの如き捻じれた角が生えていた。純白の陣羽織に袴姿で草履履きといった出で立ちだ。
―――いや、別にポーズは取らなくて良いからね?
「扶祢は……竜人のパーツ除けばほぼ変わらねぇなぁ」
「えぇー?格好良くサムライ姿にしたんだけどな。ほら陣羽織とか」
「強いて言えばその位だしな。あとは尻尾の数か」
「袴も草履も見慣れてるし、顔も髪の色もまんまだもんネェ」
CharacterName:扶祢 竜人/侍
HP 125/MP 36/ST 99
刀術 1
二刀流 1
受け流し 1
闘気集中 1
アイスブレス(弱) 1
採掘 1
「あれ、所有スキル少なくないか?どこまでが職スキルだ?」
「闘気集中までの四つだね」
「て事は任意スキルはアイスブレスと採掘ダケ?」
「吐息が種族の固有スキルなんだけど、これ取るのにスキルポイントを4ポイントも使っちゃってねー。他にも尾撃っていうスキル2ポイント使うのが有って、でも尻尾なら自前で動かせるし別にいいかなーと思ってブレスの方を選んだのよ。あとは筋力に関係ありそうな採掘を探索用として取った感じだね」
吐息の種類は火、水、風、酸、氷、雷の中から選べるらしい。ただし氷は4ポイントで雷が5ポイント、他でも3ポイントも使うのだとか。氷属性で敵の動きを鈍らせればシステム的に命中回避の面で大幅に有利になるって事で実用面で選んだんだろうけれども、サンダーブレスも浪漫だよなぁ。
「成程な。じゃあこの闘気集中ってのはどんなのなんだ?」
「……気合い溜め?」
扶祢自身もよく分かっていないらしく要領を得ないので実際に使ってもらったんだが、攻撃防御が一定時間微量upに加えて闘気集中を使った次の攻撃の元威力が1.5倍になる、といった効果なようだ。アクティブの強化系ということかね。
それとスキルを使用してもらった時に気付いたんだが、どうもキャラを「見る」と現時点で付与されている効果が見える様だなこれ。自分の状態に関しては意識すると半透明のステータス窓と共に付与されている効果の残り時間等も見えるのだが、他人のはアイコンとその説明書きしか見えないって仕様らしい。HPバーも頭の上に浮いていた。
三番手はピノ。世界観によってはホビットと呼ばれたり、ドワーフと混同されたりもする小人族と言う種族で、見た目は現実とは違いボブカット風の髪型をして身長が1m20cm程の……性別が男やん。
「ピノはネナベか」
「ウン、どうせなら普段出来ないのをやってみようかなーって思ったノ」
「ピノちゃん一人称ボクだし、違和感も特に無いわね」
「幼女が坊主になっただけか。お子ちゃまには変わりねぇな」
「ウッセ!」
しかしこれまた愛らしい見た目で、その道のお姉さま方に好かれそうなショタっ子になってるな。扶祢が早速ピノを抱きしめようとしてあっさりと躱され、またしてもハグ権争奪戦が勃発していた。
「しかし何でまたフェアリーじゃなくてハーフリングにしたんだ?」
「フェアリーだったらそっちにしても良かったんだけどネ……ピクシー抽選引いちゃったかラ」
「あー、あの大きさじゃ練習にならないもんね」
「ダネ」
レア未選択な勿体ないお化けがここにも一人……あれ、もしかしてレア引けなかったの俺だけ?ぐすん。
それはそれとしてだ。このゲームでのフェアリーは身長1m前後で、ピクシーは30cm程度の大きさとなる。どこかで聞いた設定だなと思ったら実例を参考にして急遽サイズとステータスを変更したのだとか。元はどっちも同じ、30cm位だったらしいね。
CharacterName:ピノ 小人族/盗賊
HP 75/MP 57/ST 109
短剣 1
回避 1
罠感知 1
罠解除 1
弓 1
見切り 1
アクロバット 1
緊急回避 1
採取 1
「こりゃまた見事に回避力重視で」
「ここまで取ると実際の見切りの邪魔になっちゃうかも?」
「ボクは体捌きは素人だからネ。最初はスキルから慣らして覚えていこうかなぁと思っテ」
そういえば姫さんも言ってたな。ピノは真面目に現実世界で役立てる為の練習をするつもりだって。
「でも素人って言う割には、駅ビルでのアクロバット立体機動は十分厄介だったけどな」
「でもあっさり頼太のタックルで捕まっちゃったじゃナイ?それにこの際だかラ、地上での動きの練習もしたかったんだよネェ」
「それなら確かにありかもしれねぇな。俺っちも緊急回避とアクロバットはステータス差の補助のつもりで取得したからなぁ」
それではトリとして――きちんと説明するから全員でじっと見つめないで欲しいな!
「頼太は……さっきも言ったけどそのまんまよね」
「つまんねーノ」
「少しは捻りを加えても良かったんじゃねぇかと、俺っちは思うんだが」
「しょうがねーだろ、レア種族引けなかったんだから……職も召喚師にしたから種族あまり関係無かったしな」
何このがっかりな空気。人間良いじゃん、不得手無しですよ!べっ別に特殊な種族選んで無双したかったなんて思ってなんかねーし!
CharacterName:頼太 人間/召喚師
HP 80/MP 80/ST 65
召喚術 1
召喚獣捕獲 1
初級属性魔法 1
初級強化魔法 1
初級回復魔法 1
受け流し 1
棒術 1
緊急回避 1
アクロバット 1
交渉術 1
「緊急回避とアクロバットの人気に嫉妬です」
「効果の説明を見るとどうしても、な」
「取っちゃうよネェ」
「壁役以外には必須に近いよなコレ」
そう、記述を見る限りこれを1ポイントで取れるのは便利過ぎるなと思ってしまう位の効果なんだよな。この二つ。参考までにスキルの記載内容をここに挙げてみよう。
【緊急回避】火事場の馬鹿力を発揮してどんな体勢からも危険を回避をする事が出来る。更に筋力×n倍の距離をバックステップで確保する。クールタイムはゲーム内二時間。
【アクロバット】変幻自在の体捌きでアクションに割り込みをかける事が可能。更に回避力と両足が地面から離れた状態での全ての判定にLv等倍ボーナス。
こんな効果である。この二つだけ効果が突出しているし、明らかに優遇スキルだよなぁ、なんて話していたら天の声が聞こえてきた。
『あぁソレ、初心者用にセットしておいた救済スキルなのよ~』
「なーる、そう言う事か」
「でもマァ」
「こんな便利なのは取らねぇ手は無ぇよな」
「うぐぐ……壁役の不遇さが」
仲間内で連帯感を感じる会話をする中、一人悔しがる前衛職が居たらしい。扶祢もアクロバット位取れば良かったのにな。
「そういえば召喚師も攻撃強化回復と魔法使えるのかよ。手広くやれて便利そうだな?」
「でも僧正と違って使えるのは初級のみらしいぞ?魔法に特化するならやっぱり魔法使い専門の方が良いみたいだな」
「へぇー。あくまで召喚獣メインで、他スキルは補助みたいなものなのかな?」
という事で俺は若干バランス型に近い器用貧乏職で行く事にした。召喚獣を使える様になりさえすれば直接的な戦力もアップしそうだし、これはこれで楽しそうだ。
「ボクもピコ連れてきて召喚師って手もあったナ~」
「お前、ピコはペットじゃなくて相棒だって言ってなかったっけ?」
「ペットじゃなくて召喚獣なら恰好良さそうだヨネ!」
この辺り、やっぱりお子ちゃまなのでありました。相棒とはいったい……。
ともあれ、これで全員の種族と職が把握できた。いつまでもこんなだだっ広い草原に居るのもなんだし、少し先に見える街へ向かうとしよう。
「それじゃあ、あの街へ向かってレッツゴー!」
「「「おーぅ!」」」
こうして扶祢の取った音頭に全員で合わせ、俺達は街へと向かう。さてさて、街中はどんな感じかな?




