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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第一章 異界との邂逅 編
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第004話 ラーメンと昔話

 実を言うと不可視の謎障壁みたいなものがあって釣鬼さんだけそれに弾かれるかもなんて想像もしてはいたのだけれども、案外あっさりと招待出来てしまった。

 おっかなびっくりといった様子で入ってくる釣鬼さん。だがやはり色々と目を引くようで、一先ず危険は無いと分かってからはログハウス内を興味津々に見回していた。


「うーむ、異邦人専用ってだけあって見慣れないものが多いモンだな」

「そうなのか?特に科学技術って感じのものは無いと思うけど」


 現在釣鬼さんが寛いでいるソファにしても特に気にする事もなく座っていたし、驚いた様子という訳でもないようだが。俺達には違和感を感じる事の無い物と言えば―――


「もしかして、飛行機の模型とか掛け軸辺りかな?」

「このテーブルもだな、金属製でも木製でもねぇのに堅くて材質のムラが殆どねぇだろ。しかもこんな低い型のはあまり見ねぇ。このソファと鞄も触感が妙だしな」


 そんな扶祢さんの指摘に頷きながら補足を入れる釣鬼さん。なーるほどね、文化的な差異の物珍しさってやつだな。合成樹脂も歴史的には割と新しいからな。異文化との交流、さもありなんといったところか。






 その後色々と質問をしたり、逆にされたりと情報交換をしている内に一時間程が経った。


「――改めて、先程は失礼な発言申し訳ありませんでした!」

「本当ごめんなさいっ!」

「いやいや、住む世界が違えば常識の前提もそら変わるわな。気にすんなぃ」


 まずは二人して釣鬼さんに平謝りする事となった。


「まさか大鬼族(オーガ)がこの世界じゃ立派に人間枠だったなんて……あ、これも差別的発言になっちゃうか」

「ハハ、俺っち達はまぁこんなガタイだ。その手の事は言われ慣れちゃいるし、ある意味それが誇りでもあるからよ。本当に気にすんなって」


 という事らしい。

 この釣鬼さんをはじめとするオーガ達は見た目通り脳筋っぽい連中が多いそうだけど、知能も並以上にあるし文化等もしっかりと根付いた生活をしているようだ。角の付いた蛮族(バーバリアン)的な立ち位置なのかな?

 んで釣鬼さんが少し特殊な立ち位置と言っていたのは、単にあの森の南部一帯の管理人をやっているからという立場的な話らしい。例外的に人の言葉を話せる特殊個体か何かなのかと見事に勘違いをしてしまった。


 ちなみに小鬼族(ゴブリン)豚頭族(オーク)は地域によって全くの別物かという程に立ち位置が変わるらしい。この辺のは獣に毛が生えた程度の知能しかない馬鹿だが、街に住む小鬼族(ゴブリン)豚頭族(オーク)は普通に共通語を話せるし、特に他の種族と揉め事を起こしたりすることも無く共生出来ているのだという話だ。上位種族が治める集落では特産物等の交易までしているらしく、一部の突出した個体は軍属までしているのだとか。


「隣の国の大臣の一人は小鬼公(ゴブリン・ロード)っつう話だし、西の海沿いの国じゃ豚頭将(ハイオーク・ジェネラル)が海軍将を任されているとも聞いた事があるな」

「人族だけでも争ってばかりな世界もあるのに、この世界のひと達は上手い具合に共存してるのね」

「まぁ言う程こっちも仲良しって訳でもねぇけどな」


 それにしたって同じ人種同士ですら価値観の違いで諍いが絶えない国も多いのに、こっちでは種族すら違う相手と共に在れる事実がある訳だ。そういった話を聞くと素直に凄いなと感心してしまうね。うちの世界の宗教馬鹿と戦争屋共にこっちの人達の爪の垢を煎じて飲ませたい話だぜ。


「昔はお前ぇ等の言う通り、こっちも随分と揉めてたらしいんだがよ。ある時に起きた事件がきっかけで急速に争いが目減りしていったんだよな」

「ほー」

「面白そうっ。ね、それ聞かせて?」


 何でも大昔に三界大戦という泥沼の大戦争があり、天使族、悪魔族、人族の三巨頭が三つ巴で覇権を争ったという話だ。


 もう夕方になってしまったが興味を惹かれてしまったし、ここはレトルトカレーとカップ麺の出番だろう。

 釣鬼さんも暇潰しがどうとか言ってたし、最悪夜はここに泊まれば問題ない。扶祢さんも泊まり込む気満々っぽいし、これも情報収集の一環ということで話の続きをお願いしてみた。


「美味ぇなこれ。ラーメンなら食ったことあるがよ、携帯食でこのレベルっていうのは凄ぇぜ……」


 そうだろうそうだろう、ラ○先生は偉大なり。

 それにしても既にラーメンがあるのか……この世界予想以上に凄いな。俺達みたいな異邦人――異世界からの旅人もそれなりに居るみたいだし、これもきっと先人達の普及努力の賜物なんだなァ。






 ―――当時の人族は繁栄を極めていた

 

 大空を駆る竜種すらも軽く屠る程の技術を有し、地霊達が届かぬ地の奥底までも到達し、凡そ地上の全てを支配する勢いであった。

 その傲慢さに対する制裁か、ある日天使の軍勢が地上に攻め降りる。だが総勢百万にも達しようかというその天使の軍勢を、人族達はその技術と戦術により数日の戦闘の後に何と半壊させ追い返してしまう。


「今こそ天をも支配する時だ」


 誰が言ったか、その戦をきっかけにまずは天界との戦争が始まる。

 詳細は現在に伝わってはいない。それ故伝承のみが参考となるが、天上との戦争が続いた期間は数年間とも、或いは数十年とも言われている。その中で一進一退の状況が続き互いに少しずつ疲弊をしていった。

 

 そして、悪魔が、動き出す―――


 人族は乾坤一擲の攻勢にかかり、ついに天の軍勢を追い詰める!……が、そこで思わぬ痛手を受ける事となる。その攻勢の裏を突き、手薄になった人族の領域へ悪魔達が急襲をかけてきたのだ。

 当然の如く、主戦力の出払っていた人族の領域はたちまちの内に悪魔達に占領されてしまった。後の無くなった人族は決死の勢いで何とか天の軍勢を追い払い、結果天を手中にするも帰る故郷は既に無く、そのまま天界に移り住んだのだという。

 そして天を追われた天使達は―――


「何と悪魔達の領域へ入り込んでそっちを攻め落としたらしい。人族にやり込まれてボロボロになった天使が何故悪魔の領域を攻め落とせたのかには諸説あるが、主流になってるのは属性の相性差が味方したって説だな。光と闇はお互いどっちかに一方的に強い訳じゃねぇんだが、互いに有効属性だから攻め込む側が有利だったんじゃねぇかって言われてる」


 昔話に一区切りが付き、最後の釣鬼さんの補足が入る。一方俺達はと言えば話を反芻しながらその情景を曖昧ながらに夢想して、しかし割とろくでもない話の流れに若干呆れてしまった。


「何というか棲む領域が入れ替わっただけで全く解決してない辺り不毛だわ……」

「だなぁ、確かにドロドロだ」

「まぁこの話には続きがあってな」


 こうして全ての領域が入れ替わる。

 天へ上った人族はその技術を使いその身を天使の如き姿に変えた。

 地上へ降り立った悪魔は人型へと変貌を遂げ自らを魔族、と名乗る。

 そして魔界へ堕ちた天使達は……魔の色を宿して堕天使と成り―――


 その後も三種族は争いを続け、支配域を数える気も失せる程に入れ替えていった。そのいつ終わるとも知れぬ争いの果てに、全ての力と技術が失われてしまったのだ。


「んで、そうした流れに嫌気が差した他の種族達が連合軍を組んで弱体化した三種族を叩いて、めでたしめでたしみてぇな話で締められる、と」


 そう言いながら釣鬼さんが丁度ラ○の三杯目を食べきったところで話が終わった。成程なぁ。


「……あれ?その流れだと人族って無茶苦茶嫌われてない?何気に俺達ピンチ?」

「ああそこはな、当時の連合軍の纏め役が人族の異邦人だったって話でよ。それに三種族からも嫌気が差して連合軍側についた連中がかなり居たらしいんだわ」

「そかそか、それで無為ないがみ合いはやめましょうって話になったのかな?」

「まぁこの話自体、学校の低学年で教訓として使われるような古臭ぇお伽話のレベルだからな。実際にあったのかどうかも怪しいモンだ」


 そういう話か。確かに、三つ巴の争いのくだりなんか反面教師として為になりそうなぐだぐだな状況だったしな。あくまで御伽話として受け止めておくべきか。


「数百年前まではそれでも種族単位での敵対や戦争も多かったからな、実際に人族と魔族は自分達の種族至上主義で自分の領域の多種族は排斥しまくっていたらしいし、互いの仲も険悪だったらしいぞ。堕天使についてはちっと目撃数が少な過ぎて情報は余りねぇか」


 ちなみに天界と魔界は今では未確認領域らしい。地上の一部に人族のみの自称神聖国家と魔族主流の大陸があるそうだが。


「でも中々興味深かったわね」

「堪能させてもらったよ」

「そいつぁ何よりだ」


 うん、楽しめたな。異世界での初めての夜がまさか安全そのものといったログハウス内で、カップ麺とレトルトカレーを食いながらのんびりとした昔話傾聴会になるとは予想外だったけれども。


「ところで、話は変わるんだけどね」

「うん?」

「何で私等この世界の住人の釣鬼さんと普通に話せてるんだろうね?」

「そういえば言語ってどうなってるんだ?」

「今更かよ……」


 確かに今更だけどさ。俺も扶祢さんに言われるまで気付きもしなかったが、一度気になり始めると違和感が物凄いな。


「べっ別に忘れてたわけじゃないんだからねっ……言い出すタイミングが無かっただけなんだから、ふん!」

「取って付けたようなツンデレ風味は、正直見苦しいと思うの」

「今では反省している」

「お前ぇ等、ホント息が合ってんな」

 

 おっと、ついネタに走っちまった。真面目に聞かねばね。済みません、続きお願いします。


「言語に関しては、まず今俺っちが話しているのが近代共通語というやつなんだが。これは元を辿れば魔法言語だったらしいぞ。言語に関しちゃさっき話した大戦や、種族が入り混じった背景もあって当時は相当揉めたみてぇでよ」

「そうだよね。確かにそんなに沢山の種族が別々の言葉を話していたら同じ場所では暮らせやしないものね」


 そうだな、それは分かる。地球でもあれだけ言語の壁の問題があって世界的には英語がある程度統一規格になってたりするもんな。


「だな、今でも辺境地方や一部の希少種族達の間じゃあ独自言語を使われてたりもするが、そんな問題もあって作られたのが現在使われている近代共通語の基でだな。詳しい仕組みは分からねぇが、魔法言語部分が世界に作用してどうこうとかで、口語だけならほぼ誰にでも理解出来る仕組みとかって聞くぞ」

「何それ凄い」

「この世界の技術半端ねぇな……」


 逆に文字に関しては確りと勉強する必要があるんだがな、と言いながら書類っぽいものを懐から取り出して俺達に見せてくれた。確かに全く読めないな、強いて言えばアルファベットに似ているか?程度か。

 ―――言い訳をするではないけれど、俺の語学センスがダメダメなのを差し引いても見た事の無い文字だったからね?


「一応文字の方も長年かけて改訂され続けているから、お前等異邦人にもそこまで難しい文字じゃねぇとは聞くが、実際どうなんだ?」

「そう、ね……基本になる文字さえ覚えれば配列自体は分かり易いかも」


 釣鬼さんの疑問に対し、扶祢さんはじっくりと文字を吟味しながらそんな返しをしていた。どうやら扶祢さんは既にある程度理解出来ているらしいな。


「扶祢さん。あの日あの時、君と出逢えたのはきっと僕達の運命だと思うんだ……という訳で同郷の誼で一緒にPTを組まないか」

「はいはい、あの日ってまだ一昨日だけどね。私が覚えたら後でコツを教えてあげるから良い子にしてなさい。それとPTじゃなくてパーティね」


 爽やか系イケメン風に歯を光らせながら言った俺の言葉だが、当の扶祢さんには駄々っ子扱いをされ軽くあしらわれてしまった。やはり見た目もイケメンじゃないと通用しないという事か……ぐぬぅ。


「それにしても、言語といい文化といい随分と成熟した世界だよな、ここ。言葉に関してはかなり助かるけどさ」

「言語面では血の流れない戦争があったとも言われる程、長い期間を揉め続けた歴史があるからな。なんでも他の世界でも幾つかではここの共通語が口語だけは通じたっていう報告もあるみたいだぜ」

「これは本気でこの共通語習得するしかないわね……」


 もう形無き財宝だなこれは。扶祢さんの言う通り、語学が苦手な俺だけどこれだけは頑張って覚えるとしよう。

 それにしても、更に別の世界まで認識されていたのか。釣鬼さんの話を聞いたところ科学的分野は地球程には発展していないようではあるし、目の前の釣鬼さんを始めファンタジー生物が跋扈する中世系のファンタジー世界かと思っていたが、この分では地球よりも発展している分野も多そうだな。


「そういえば報酬はどうしようか?ここまで色々教えてもらったら、やっぱりきちんとした物で返さないとだよねぇ」

「うーん、どうすっか……特に生活に困る程不便が有る訳でもねぇしなぁ」


 どうやら釣鬼さん、あの時は場の流れで言っただけで特に何かが目当てで助けてくれたという訳では無かったらしい。ええ人や。しかし明確な希望が無いとなるとこちらも対応に困ってしまうな。

 試しに色々思いついたのを羅列してはみたものの、流石身一つで森の管理人をやるだけあって本当に必要な物は特には無いらしい。


「俺っちも異邦人の拠点内部を体験出来たし、珍し美味い携帯食も食えたからな。この携帯食何食か分でも構わねぇぜ?」

「いやいや、ここまで安全にかなりの情報まで貰ってるしそういう訳にはいかんでしょう」

「うーむ。つってももう考えるのも面倒だしなぁ、お前等がこっちである程度稼げたらその時に気持ちばかりの出世払いとかで構わねぇからよ」

「ううむ……」


 確かにこれ以上は感謝の押し付けになってしまうからな、参ったな。


「じゃあ釣鬼さんの趣味に合う道具でも見繕うってのはどうだろ?」


 おお、良いね。

 結局釣鬼さんの趣味を聞いてそれを参考する事となった。

 という事で釣鬼さんの趣味を聞いてみるとしようか。


「趣味か…釣りか体術位だな」

「じゃあ釣り関連かな?」

「ルアーとリールなんてどうかな」

「ルアートリール?」


 扶祢さんの提案を妙な抑揚でオウム返しにする釣鬼さん。その発音だと何か別物の俺達も知らない謎物体になってしまうな。


「あ、うちの世界の釣り道具でね。釣竿に自動巻き上げ式の補助具がついてて難度の高い釣りが成功し易くなるのと、壊れるまではずっと使える疑似餌兼釣り針みたいなモノだね」

「ホホウ?」


 どうやらその釣り具説明に食指が動いたらしい、ならこれで決まりかな?


「でも釣り道具一式なんてどうやって用意するんだ?一度あっちに戻るか?」

「ふっ、こんなこともあろうかと!折り畳み式のを用意しておいたのよっ」


 あぁ、そういやえらい沢山持ってきてたな。備えあれば憂いなし、あの荷物と扶祢さんに感謝しよう。


 そして扶祢さんが取り出したコンパクト釣り竿セットを見た釣鬼さんは、ホウホウ、ほほーう、成程成程…と見事に趣味人モードに入っておられた。

 どうやらご満悦の様子であるしその日はそこでお開きにすることに。喜んで貰えて何よりだね。

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