第046話 今後の予定と親子の話
若干遅めの睡眠を取り、翌正午。
「ほい、召し上がれ~」
「「「いっただっきまーす!」」」
本日の昼食のメニューは、炒飯に青椒肉絲。九人と一匹という大所帯の為、青椒肉絲は大皿に大量に盛られていた。ランチではあるがこちとら食い盛りの18歳、今日は皆起きるのが遅くこれが一食目だったこともあり幾らでも入りそうだ。
因みに、量が量なので扶祢と釣鬼が料理のヘルプに入ったのだが―――
「どうよ、今回の炒飯は俺っちの料理歴の中でも上位に入る出来だぜぇ」
「うぉ、これタイ米かよ!卵も良い感じに馴染んでるしふわっとした部分も残っててまじうめー!」
「初めて使ったけどこの米はアリだな。あっちじゃこういう長い米は見たことがねぇからなぁ」
何と炒飯十人前は釣鬼の作だったのだ。あの馬鹿でかい中華鍋を軽々と扱って手慣れた様子で炒飯を次々と作る姿は、正しく料理人であった。
「こっちの肉炒めもンマイッ!このピーマンってのノ苦味と肉汁の絡みがたまんな~イ!」
「ハフッハフッ……あお~ん!」
「ふふん、こっちの半分は私が作ったのだわ!」
「真昼間から何とも重そうなメニューじゃが……ふむ――中々やりおるな?」
「お褒めにあずかり、恐悦至極に御座いますっ」
青椒肉絲の方はサキさんと扶祢の合作、と言うか半々に作ったものをまとめた結果が目の前の大皿らしい。こっちも肉とタケノコに味が沁みついていてピーマンとの絡みが最高に合っていた。それにしてもこの幼女、苦味の良さが解るとは……。
「ちょっと濃い目に作られてるのがまた良いよな」
「今日は随分と暑いし塩分補給と食欲促進にと思ってね、いけるでしょ?」
「若い子も多いみたいだからねぇ。まだまだあるから遠慮せずに食べちゃいな」
そんな会話をしている間にも最初の大皿の中身がどんどんと消えていき、十分も経った頃にはあっさりと一皿目を平らげてしまう。
「は~やっぱり若い子が多いと食べる量が違うねェ。こりゃもう一皿作ってきた方が良いか」
「スンマセン、腹減ってたもんで」
「いーさいーさ。そんなに美味しそうに食べてくれるんだったら作り手冥利に尽きるってモンさね」
サキさんはそう言って席を立ち、空いた皿をまとめてから厨房へと向かっていった。
俺ももうチャーハン二杯目だけど、釣鬼なんか既にその倍いってるからな。こりゃ飯代くらいは払わないとまずいかもなぁ。
「ご馳走様でした」
「ごっそさーん」
それから更に十数分後、お昼の定番番組の音楽をBGMとしての賑やかな昼食が終わった。
「はい、お粗末様。そんじゃ後片付けはアンタ達やっといて」
「「へーい」」
「えー料理作ってない子達も一緒にじゃないのー?」
「この子達はお客さんだよ。それにアタシに話があるって言ってたからね。お前達はどうせ特にやる事も無いんだから洗い物くらいはしときな」
「はいはーい……」
サキさんに言われ同居人の妖怪トリオが食事の後片付けをし始める。話っつっても本人に話して貰えば良いだけだし、俺も何か手伝うか。
「あ、話は扶祢と釣鬼が居れば事足りるんで、俺も手伝いますよ」
「あー良いの良いの。どうせあたし達ってぇここじゃ遊んでるだけだしね~」
「そうそう、働かざるもの食うべからずさ。お客さんはゆっくりしておきなさい」
「姐さん、その言葉地味に刺さります……」
「はぁ、何か儂等の能力を活かせる面白い事なんぞあらんかね……」
「ここで言っても仕方がない事さ。まずは家主の意向に従って皿洗いから始めるとしようか」
そんなことを言いながら、三人組はがやがやと台所へ食器を運んで行った。う~ん、昨夜はいきなり妖怪って言われて少し驚きはしたけれども、こうして見るとただの個性溢れる居候って感じしかしないよな。昼前に起きて洗面所でこの人達に会った時は、揃って眠そうな顔をしながら歯磨きやお肌ケアなんてしてたくらいだからな。生活感丸出しで何とも幻想を抱く相手としては不向きなひと達だ、
「さて、それじゃあ相談したい話の詳細を聞くとしようか?」
三人が厨房へと向かうのを確認した後にサキさんがこちらへ向き直り、改めて話を促してくる。ここはサキさんの娘である扶祢と当事者の釣鬼に任せて俺は脇に控えておくとしよう。
そしてまずは扶祢が口を開き、事のあらましを話し始める。
「そうだね、それじゃあまずは――」
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「――という訳でな、俺っちのこの体をどうにか男に戻せねぇかなと」
「ふぅむ、釣鬼さんだっけ?君が元は男、ねぇ。確かにその可愛い顔で妙な口調をしてるなとは思ってたけどさ」
釣鬼の素性を聞いたサキさんは興味深げに釣鬼の顔、そして全身を覗き込み、何やらふんふんと頷きながら考え込んでいる様子。
「そんな訳で、シズ姉に変化の話を教えて貰ったのよ。ね、どうにかならないかな?」
「童の父方側の秘伝は少々縛りが煩いでな、だが汝……母上殿の側ならばあるいはと思うての」
「掟があるのは分かっちゃいるが、俺っちも一生このままってなぁ勘弁願いてぇ。曲げてお願いしたい」
そう言って釣鬼は真摯な態度でリビングの床に跪き、見事な土下座をしてみせる。土下座なんてどこで覚えたんだと疑問に思いもしたが、それだけ必死だという姿勢が見て取れる。
「……うーん、いやまぁ教えるの自体は別に良いんだけどさ」
対しサキさんはと言えば、予想していたよりは随分とあっけらかんとした様子でそう返してきた。
「本当か!?」
「待て待て、最後まで話をしてからね」
どうどう。勢い込む釣鬼を左右から俺と扶祢とで取り押さえる。オーガの時程じゃないがその宝塚に出そうな美貌が凄い形相をして詰め寄ってこられると大抵の人は引いちゃうから。実際サキさんもちょっと顔が引き攣ってたし。
それにしてもここに来る前のシズカの物言いだと変化の秘伝を教えて貰うのは相当に難しいだろうという話だったが、案外あっさりと許可して貰えたものだな。
「童から薦めておいて何じゃが、そう軽々しく秘伝を明かしても構わぬのかや」
「別にアタシんとこはそう由緒ある一族って訳でもないからね。たまたまアタシが空狐に至る程に長生きしちまったってだけだし。それにもう親兄弟の行方も分からなくなって久しいからなぁ」
「霊狐の誉れとまで言われた御先稲荷も落ちぶれたものよのぉ」
「案外、お前みたいに異界へ逃げ込んだ連中も多いのかもしれないね」
「――やもしれぬな」
二人の最後の方のやり取りは若干声のトーンが落ち、何とも言えない雰囲気が漂ってしまっていた。
この世界は妖怪達にとってはどんどん棲み辛い環境になっちゃってるって事か……ちょっとばかりしんみりとしてしまった。
「おっと、話が逸れちゃったか。変化についてだけど、教えるだけは教えてあげても構わないさね」
「それじゃあ――」
今度こそ願いが叶うであろう予感を込めた様子で口を開く釣鬼の鼻先に、しかしサキさんは人差し指を突き付け静止の意を伝える。そしてその様子に若干戸惑いながらも素直に従う釣鬼を見て、こう言った。
「たぁだアタシが悩んでるのは、釣鬼さん。鬼族の君に狐の変化が馴染むかって事なんだよね」
「じゃよなぁ」
馴染む――適性とかそういう話なのかな?母娘して同じ様な表情で唸っているのを微笑ましく眺めながら、頭の片隅で唐突にある考えが浮かんできた。
――俺、最近何もしてなくね?
正直なところ、俺は前回に続き今回も何も出来ていない。釣鬼も最初の頃、徐々に成長していけば良いとは言ってくれていたし、そんな事を気にする奴等じゃないってのは分かってはいる。でも、少しばかり焦燥感といったものに駆られてしまうんだよな……。
「――力が欲しいか?」
「うぉわっ!?」
そんなタイミングでいきなり後ろからどこぞの生体兵器ばりの心に忍び寄る台詞を吐かれたら、そりゃ反射的に回転肘打ちをかましてしまうのも無理は無い、と思うんだ。
「ぶしぇっ!?」
「あっ…ごめん!びっくりしてつい……」
「ふごおぉおぉぉ……」
悶絶してのたうち回る照密爺さん、やっべ大丈夫だろうか。
「照さん……また心の隙間でも映したのかい?」
「ぐふぉ、いや驚かせちまって済まんのう」
見事に人中に決まってしまった一撃に悶絶していたのも束の間、割と平然とした顔で起き上がる照光さん。そして爺さんはこちらへと向き直り、にんまりといった表現が似合う様な満面の笑みを浮かべ、サキさんに話しかける。
「話は聞かせて貰ったぞい。どうせ最悪こちらで施術をして安定化させるのだろ?」
「あー、まぁそうなるかなぁ」
「童はほぼその手伝いのつもりで来た様なものじゃでな」
「てっきり昨夜の話を母さんにする為だと思ってたよ」
そうだったのか。昨日の話のインパクトが大きすぎてあれが本題だと思ってたぜ。それは皆も同意見だったらしく、扶祢もそんな感想を口にしていた。
「ありゃ場の流れじゃな。あくまで汝等に乞われ付いてきたのが今日の来訪の理由となるか」
「そうだったんだ、有難うシズ姉……そういえば昨夜の話からするとシズ姉はこっちじゃもう生きてはいなくて、あれ?そうすると今此処に居るシズ姉と私の関係はどうなるんだろ」
「細かい事を言い始めれば切りが無いでな。可能性が現実を伴ってやってきたからラッキー、程度に思っとれば良かろ。少なくとも童は汝を妹と認識しておるぞ?」
「むぅ」
シズカの言に難しい顔をして唸る扶祢、実際こんがらがるよなぁ。
「まぁー良いんじゃないかね?こっちの静を悼む気持ちは忘れる事は無いけれど。それはそれとしてアタシも長女と再会出来たのは素直に嬉しいものさね」
「そんなものですかー」
「……実はアタシ、扶祢は静の生まれ変わりじゃないかなんて思ってた時期もあってね。あの時隠に囚われた娘を救ってやれなかった罪悪感から来る妄想だったんだろうけれどもさ。それで扶祢を産んでから、どこか安心して空狐に至っちゃったのかもしれないね。どうにも情けない話さ、ハハ」
「母さん……」
静さん、か。扶祢が彼の有名な静御前の妹だったことにも驚かされたが、言い伝えの通りならば静さんは相当な非業の死を迎えた事になる。つくづく人間の悪意について考えさせられる話だよな……。
「案外間違ってはおらぬやもしれぬぞ?あの後少々調べてみたのじゃが、童の世界では未だ扶祢に該当する存在は生まれ出でてはおらぬでな」
「そうかい……いや、扶祢は扶祢だ。静じゃあ、ない。二人とも変な事言ってごめんよ」
「はぁ~。そろそろ頭がパンクしそう……」
「何、より良い結果を求めるのは生物として自然の流れじゃ。そう願う事により残された者が救われるならば、それはそれで良いのではないのかや。それでもまだ気兼ねするのであればほれ、盆の時期もすぐそこじゃ。此方の静の墓参りの一つもしてやれば良いじゃろ」
「むむむ……深いですな」
「……そうさね。扶祢もこっちの静の事を教えていなかったし、後で家族皆で墓参りにでも行っとこうか」
シズカの言葉に二人共一応の納得はしたらしい。扶祢は相変わらず分かった様な分からん様な妙な返しをしていたが。
「話は纏ったかな?それでは儂からちと提案があるのだが――」
こうして釣鬼への変化の件が決まり狐親子の会話が一息ついたところで、それまで黙って話を聞いていた照密爺さんが驚くべき話を振って来た。
次回「ファンタジー世界の住民がRPGに出会ったらどうなるか」でお送り致します。尚、この予告には嘘・大げさ・紛らわしさの要素が(ry




