人と人との縁って、詰まるところは好感度:前編
コロナ自粛の影響か、先週今週とJINの再放送スペシャルが土日の14:00~17:00の3時間ぶっ続けで放映されておりまして。CMなげーと思いつつ、がっつり観ては体力こそぎ取られる週末でした_(:3 」∠)_
釣鬼先生の指摘により、曰く間違ってしまった方向性といったものを自覚して。
改めて自分を見つめ直すといった再訓練の日々を過ごし。
そして、今一つ不足を感じていた手札一つの標として。あくまで対象限定とはなるものの、ふとした縁より妖精族の秘中の秘たる手法の何たるかを得る事が出来た。
残るタイムリミットは今日一日。今朝方に連絡員のコタさんより告げられた報では既に、冒険者の先達パーティがここ妖精郷外苑部の外周付近の探索にかかり始めたとの事だ。
つもりがあれば今日中にでも、外苑部を突破される危惧はある。
もっとも――俺達の監督官でもあったあの人が、周囲の状況をおざなりにしたままここ中心部へと突き進んでくる可能性はまずないだろう。
思い返せばサカミ人狼の村より帰還を果たした、初夏の頃。変節の予感が薫る怪奇の一つを目の当たりにして、当時の迂闊さにどれ程大目玉を食らったか。その事実一つを取ってみても、きっとあの人達は今回もお手本を示す様に、一つ一つの障害を丹念に潰して、そして確実に一歩ずつを歩み寄ってくるに違いない。
未だ慣れない喩えではあるが、異世界ではそれを実際に存在する魔物名をもじって「優美に佇むカブトムシ」――日本のそれで言えば牛歩の如き――などと揶揄する声は、ある。
とはいえ、そんな声を上げる内の大半が帰らぬ人となっている。あるいは辛うじて日常に戻ってこられたとしても二度と、冒険に出られる身体でなくなってしまった無常な事実に、厳しい現実を感じさせられようものだ。
そんな、自己責任極まりない危険と隣り合わせな冒険者稼業。俺自身もここ妖精郷の騒動にまつわる最中で、一歩間違えていれば……どころか、一度は自らを見失ってしまった者の一人。あんな思いをするのは二度と御免だと、声高らかに語りたい。
~~~♪~~~、~~~♪~~~、~~~~♪
「あん?……何だ、こりゃ?」
ふとすれば重くなりがちな気分を入れ替えるべく、歩み慣れた林道を散策すること暫し。もはやナンバリングを覚えるのも面倒になってきた技術研鑽広場の一つより、どこか荘厳にも心地の良い音楽が流れてきた。
「どこかで聞き覚えのある様な、そうでない様な?」
この際だ。どうせ気分を入れ替えるならばと興味を惹かれたその場へ向かい、軽くジョギングついでに小走りに。短い距離を走り抜けて、そして立ち止まるべく最後の一歩を踏み出したところで、定かとなったその音源の正体を目の当たりとし―――
「うぐっ、えック……未来の世から独り、迷い込んだ医者に恋する武家の娘――くうゥ、時代の荒波に飲まれる哀譚がッ。よッく描けていやがるッ……!」
「頼太、なに盛大にずっこけてんノ?」
何の脈絡もなく登場した文明の利器を前に、最後の一歩の着地点を見事に踏み外してしまった。
「おはようございますっ。いよいよ残す所一日となりましたねっ……ぁいだだだだだっ!?」
「きゃははっ。きーすさま、おーぼー!」
取りあえず、目に付く首謀者らしき氷精のこめかみをぐりぐりと捩じり込んでおいた。
今更言っても詮無き事とはいえ、同口異音に垂れ流される片割れさんの自重しなさっぷりには冗談抜きで真面目に何らかの対策が必要ではなかろーか。そんな至極真っ当な感慨を抱いてしまう今日この頃であったとさ。
・
・
・
・
「ったく。お宅だってどちらかと言えばテレビモニターに驚かされる側だろうに……積極的に布教なんぞをして、何を企んでいやがるんだか」
「まぁまぁ。これも帝国の先往きを思うが為に一度は文字を捨て去った妖精族の方々の、失われた数百年を取り戻すべくなリハビリ代わりと言えなくもありませんし!」
思わせぶりなルビを振りながらも、当時の無貌曰く「貌無き器」とやらによる遠距離通信に精を出すミーアさん。精霊体の中身が入れ替わるという非常識に分類されよう出来事ながら、居合わせた妖精族の面々よりは、何を今更と言わんばかりに落ち着いた反応。
「この、『ろくがさいせい』というものは、随分と臨場的に場の表現が出来るものですね」
「ミナカタァ!へたれてねーで、そこでもうむちゅッといッちゃえよぅ!」
「この、ぺにしりんとやらは、此方でも創れるものなのでしょうか?だとすれば、身体に働きかける精霊魔法の大半はもう……」
中でも、備え付けられたモニターの仕組みそのものを最も興味深げに眺めていたのは、今は故あってこの場に参同出来ないミキの祖父、今代の白の翁そのひとだった。
出処の詳細など考えたくもない、モニターに映し出された時代劇風医療ドラマにすっかりのめり込んでいる様子のマニとピア。ちらと一瞥し、そのまま視線はニケ演じる遠き帝都の地に居を構える無貌の神官へと。意味有りげに一拍置いてみせた間は果たして、心の裡にて何を語るべく――といったところか。
「然しながらこの様な技術……いえ発想など『我等』の伝手からも、初代様の仕入れた現在の帝都の報よりも耳にした事がありませんね」
向けられたその不審は、キョドる氷精からこれ見よがしに視線を送られたピノよりあっさりと、責任転嫁の体で俺の許へと。お前ら後で覚えておけよ、と手短なハンドサインに加えてガンくれてやった後に、一際膨れ上がったらしき疑惑の目にやむなく対峙を余儀なくされる。
「明日にでもこの地を踏むという、訪問者。その者達と、この真新しい技術の産物に――何かしらの関係性が、あるのでしょうか?」
やがて、苦々しくも零されたのはそんな疑念に塗れた言葉。ありませんと即答しかけた口を強引に噤めた意志力を自画自賛してやりたい。
見れば、マニ……は相変わらずモニターの映し出すヒューマンドラマに噛り付いている風に見せて我関せずを貫いており、ピアもまた対照的に後ろ髪を引かれたらしき素振りながら横目に時折ちらちらと、剣呑になりつつあるこちらの様子を覗き見するばかり。残る二者については言わずもがなに、孤立無援とはよく言ったもので。
『いいかい?仮に白の翁から何かを勘ぐられたとして、無闇に否定をしてはいけないよ』
それは、見えない想像力の向こう側との接点となろうものだから。
道案内ついでと言って先日、白さんから伝えられたアドバイスだ。
ここ妖精郷を取り巻く現状としては、現実に根差す問題の全てが解決した訳ではない。
舞台の裏で幻夢に観た、あの想いの澱こそ朝露に解けて囚われたモノ達を解放したものの、それはあくまで幻魔の一族であった頃を取り巻いていた、過去の清算でしかない個人的な問題。
妖精郷を一つのコミュニティとして区切り分けた観点からすれば、白と紅の翁達の確執にも近き、疎遠であった背景然り。ミキの一件に裏付けされた、白の一族と外の勢力との接点然り。むしろ騒動の結末として各々の色の思惑を強引なまでに引き摺りこんだ、この俺こそに全ての元凶があると糺す声さえある。
その、最たる者。それが目の前にて俺へと燻る視線を向ける、白き翁。
そんな彼が言う『我等』とやらが指す枠組みの意味。仮に今それを指摘したとしても、良くて腹の探り合いとしか映らない。であろう事は、俺が置かれた環境を取り巻く要素を鑑み、想像力を働かせてみればすぐとは言わずとも解ろうものだ。
「あ~、えっとぉ……そうそう!今回持ってきたこのドラマを見ていて思ったのですけれどっ」
次の句を中々継げない俺を見かねてだろうか。器用にも表情の半分を引き攣らせた氷精の口より、あからさまに話題逸らしとしか言えない言葉が挟まれた。
流石はというべきか。一瞬鼻白んで見せた白き翁はしかし、瞬き一つの間に素っ気ない表情を取り繕ってモニターへと顔を向けてくれた。その様子を見てほっとしたままに、釣られて画面へと目を向けてみればだ。
「頼太さんって、いつもいつもここぞ!という時の押しが弱いんじゃないでしょうか?」
「あー分かルー。何だかんだで好条件に助けられながラ、なんとゆーか良いひとで終わっちゃう感ジ、あるよネ?」
「お前ら本気で大概にしろよ!?」
指を指されたモニター内では、今正にクライマックスなシーンで弱みを魅せる、ヘタレたドラマの主人公。その情景を観てしまった少女達の間で一気に花咲くは恋に恋するガールズトーク。どちらかと言えば真面目系なピアとマニも加わってのきゃいきゃいとした黄色い声に、白き翁はすっかり呆気に取られてしまった様子。
(これも裏街道まっしぐらで突っ走ってしまった俺が為すべくな、清算すべき縁の再構築、っていう事なのかね?)
心の裡に零した問いにはしかし、応えてくれる者は……もう居ない。
その寒々しい現実に一頻りの寂寥感を場違いにも味わってしまった俺は、気付けば席を立っていた白き翁へと会釈を一つ。無言のままに去っていく彼の背中をぼうっと眺める事、暫し。
「だからッて、男色に走ッたりするんじゃねーゾ?」
誰がするかよ、ンな悍ましい真似。
気を遣うにしても、もう少しばかり物は言い様というものがあるだろうに。そうと苦笑を滲ませて、一先ず代わりに先程の意趣返しを兼ねての棘を生やした皮肉り合いに身を投じる。
一人取り残された形となってしまった優等生ポジなピアだけは、そんな俺達の真意に気付けぬままに、あわあわと。途中から疼いてしまった嗜虐心に、その対象がいつの間にやら巫女様へと向けられたかと思えばどの面提げての典型とも言えよう、ピノvsマニの構図へと。目まぐるしく落ち着きがないながらもほっこりとさせられよう、長い連休最終日の朝の一幕は徐々に流れていくのであった。
・
・
・
・
「分かりました。つまり一向に訪れない頼太さんのモテ期を強引にでも迎えるべく、ご協力をすればよろしいのですねっ」
「どうしてこうなった」
字面のみで言えばまたいつもの突拍子もない、翠の神官そのひとの寝言。だとすれば、どれ程救われた事だろうか。
「お前……こういうの、好きだッたんだナ?」
「はいっ!今まではじい様方が巫女らしくしろってしつこかったので、出来なかったんですっ」
本来仕掛け人であった筈のどこぞの神官さんは後戻り出来なくなってしまったカオスな雰囲気をいち早く察したらしく、既に通信を終えて帝都の地へと逃亡中。
残されたのは、比較的常識人枠であるマニの、今の俺の心情をそのまま代弁してくれる良心溢れたお言葉と。
「何々、いったい何の話なの!?あっちょ……そこは引っ張らないでぇ~~!」
タイミングも悪くモテ期云々の口上の後に巫女御付きのフェアリー達に連れてこられた、寝癖を必死な素振りで抑えて隠す、混乱の極みらしきお狐様だった。
「あっ」
「や、やは……」
不意に、想い起されたのは白き華奢による可愛気溢るる思わせぶり。
―――縁の強き。それはなにも、精霊との語らいに限った事ではない―――
一拍、二拍、三拍と。木魚を叩いて鐘が鳴る。
その事実に思い至り、どっと額に滲み出てしまう、脂汗。
ふと袖の裾引かれる感触。気まずさの後押しに突き合わせてしまった顔を逸らして、そちらへと視線を下ろしてみせればだ。
「好感度。」
実に心外な様を前面に押し出した、白けきった幼女のご尊顔に。
その背景には、見る者が見れば一目瞭然な、真白き腹黒の残り香が。
そう。不測の事態が来るべくと備えて、そして持てるだけの手札は持った……つもりがあった。
そんな俺に不足していたのは、基本中の基本とも言えようコミュニケーションの欠如。
あれ程までに諭され、繰り返しを語られて尚、気付けなかった迂闊のツケが。今此処に目に見えた不信となって襲い来る。
「あの……扶祢、さん?」
「今更どんな御用でしょーか。ギルドの指名手配犯Aな陽傘くん」
今更、あと苗字。思わず膝付き両手は大地にがっくりと。
振り返ってみれば、ここ妖精郷での数多な試練に突き合わせた挙句、一時は幻夢を共有するまでに至った相手だというのにアフターサービスは皆無。これでは都合良く道具扱いをしているだけの最低野郎と謗られても仕方のない、舞台装置たる真冬の悪夢を共に観て、抗った、戦友に対する裏切りも良い所だ。
そろそろと覗き上げてみれば、見下ろす美貌からはピノ以上に感情の篭もらない様が透けて見えて。
普段はあれほど柔らかな印象醸すふとまゆが、それはもう興味が失せた象徴であるかの様に、冷たき印象を隠すアクセントが逆に平坦極まる貌として、突き放す印象を与えてくれる。
「……白さん、ひでぇよ」
せめて、この恐ろしい真実に気付くのがあと一日でも早ければ。
たった一日、されど一日。それでも今この最悪にも近い場面であるよりは、まだ少しはましな結果となっていたに違いないと。たらればに逃避をしてしまいたい。
「ふぅぅううん……この期に及んで、あのひとの名前が出てきちゃうんだ?」
だがしかし、今この状況では。
どう言い繕おうとも、明日の対峙へ向けたリップサービスとしてしか映らない。むしろ映してやるものかと、意志強きキリっとしたふとまゆからの、強い主張が聞こえてくる様で。
「せめて、あの時言っといてくれよぉ~~~!」
やるせない、それでいて空しくも情けなく響く訴えが、広場へと木霊する。
奇しくも時を同じくして、クライマックスを迎えた主人公の悲痛な響きと共に、モニターのスイッチがこれ見よがしにオフとなった。
ある意味喜劇としか思えないその間の悪さに、ついつい乾いた笑いが漏れ出でて。それに呼応するかの如く、廃棄物を見るかな視線の温度は下がっていく。
嗚呼、神様。俺、そこまで許されざる事でもしましたか……?
よくよく振り返ってみれば、閑話に入ってからというもの扶祢へのイベント回皆無。
好感度不足で、このままでは裏切りエンドまっしぐらかもしれない頼太君。さてさて、ここから巻き返しはなるのでしょーか?




