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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第三章 人狼の村事変 編
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第041話 モツ鍋パーティのち帰郷へ

 お盆の五日連続投稿最終便だぁぁぁぁ……次回からまた奇数日AM11時更新に戻ります。


 ヘイホー商店街の一角に建つ、『ヘルスィマー』と呼ばれる煮込み専門店。先日モツ鍋屋に預け、熟成して貰っていた踏破獣の内臓(モツ)が丁度良い塩梅に仕上がったとの連絡がいうことで、ただいま俺達、持ち込みとなった踏破獣(トランプラー)の極上肉を満喫中。

 尚、地獄(ヘル)などという物騒な名を冠する辺り想像出来る通り、以前に行った焼肉屋の姉妹店、となるのだそうだ。


「んーおいひぃ」

「この部分、コリコリしてて軟骨みてぇなのに濃厚だな」

「んまーい!コレコレ、やっぱり踏破獣の内臓(モツ)鍋は最高ダネ!」

「コラーゲンもたっぷりでお肌に良さそうじゃのぉ」


 これは美味い。部分毎に食感が全然違い、食べても食べても飽きさせない。その割に煮込み鍋ということで牛ベースな見た目より想像される脂のくどさも程よく中和され、実に食が進む。これは高額素材になるのも納得というものだな。


 品が品なので今回食べるモツ以外の肉や骨は系列の店に買い取ってもらう事にしたのだが、踏破獣はモツの人気が異常に高い為、他の肉も相当に美味いのだが苦労に見合う程の金額にはならなかった。それでも肉部分の仕入れ値だけで五万イェンを超えていたので、モツの高値っぷりがどれ程かというのが理解出来てしまうものだ。

 実際焼肉屋の方の客と比べると明らかに客層が上品な感じがするし、中には貴族様っぽい服装の中高年の夫婦連れなんかも見えていた。外から店内の様子を見た時にはドレスコードに引っかかるんじゃないかとドキドキしてしまったものだが、


「当店では貴賤に関わらず、お客様が純粋に料理をお楽しみ頂ける事を第一としておりますので、そういった堅苦しい形式は一切ございませんよ」


 と、年齢不詳の執事っぽい見た目のウェイターがパリっとした礼をしながら答えてくれた。


「ウェイターさん本物の執事さんみたいですね」


 なんて扶祢がわざわざ口に出して聞いていたが、このウェイターさん実際にどこかの元執事だったそうで。それで動作がここまで洗練されているのかー。


「ハハ、お恥ずかしい。お客様をお出迎えする喜びに高じてしまいまして、幸い主の理解による篤い支援を受ける事が出来、お客様の皆様のご愛顧もありこうして現在も営業を続けられておりますよ」

「え!?まさかこの店のオーナーさんですか?」

「はい、この度は踏破獣一体丸ごとの我がヘル系列への売却有難うございます。当日は(わたくし)不在でしたので、改めてこの場でお礼申し上げます。来週に焼肉屋の方でも踏破獣キャンペーンを開きますので、もし宜しければそちらもご来店下さいませ」


 こちら、ワインのサービスで御座います、と最後に言って、世間を知らぬご令嬢方ならば惚れてしまいそうになるであろう渋みのあるナイスミドルな笑顔を湛え、オーナーは皆に一礼して去って行く。ここまで爽やかかつ渋味があると爆発しろとはちょっと言い辛いものだ。


「おータダ酒ダ!」

「これはラッキーじゃ、どれ一杯――」

「むほっ、こりゃ美味ぇ!舌触りが殆ど無ぇのになんつう香りとコクだ」

「どれどれ……」


 まぁ、ご令嬢なんてお上品なのはここには居なかったみたいだが。特に釣鬼、外見だけなら貴族っぽく見えなくもないのにノースリーブのドレスで脇を広げて飲む姿は飲兵衛の親父みたいで見た目が台無しであった。


「改めてだけど、特に日常生活に支障はないみたいで良かったなぁ」

「……ウン、本当。一時は気が気じゃなかったシ」

「つっても服装とか下の方とか、精神的に結構疲れるけどな……」

「服はちょっとやり過ぎだったかもだわね」


 人狼の村での一件をギルドに報告をし、数日かけて踏破獣を仕留めた翌日のこと。

 釣鬼は女性陣に連れられて服の買い物に行っていたのだが……ご多聞に漏れず、女性の買い物というのは長いものでありまして。夕刻になり返ってきた頃には、あの釣鬼がヘロヘロになって俺の部屋へと逃げ込んできていた。

 涙目になりながら語る釣鬼だったのだが、前と同じ感覚で接してくるものだから当たるし、見えるんですよ、色々と。しかしそれに気付けない程に疲れていたんだろうな、何だか可哀想になって途中からは俺もあまり気にならなくなってしまっていた。


「吸血鬼化はもう仕方が無いとして、何で性別が変わっちゃったんだろうな」

「それについてだけどな、もしかすればなんけどよ……」


 ふと俺が漏らした言葉に釣鬼が応える。


「最近思い返してようやくと思う所はあるんだけどよ、どうもあの夜の昂ぶりと言い次の朝の爽快感と言い、前にオーガからノーブルへ進……変化した時に似ている気がするんだわ。だからもしかするとだな」


 釣鬼はそこで話を切るが、そこから先は言うまでもないか。それならば確かに―――


「――あぁ。オーガなのにノーブル、ってイメージに合わないなと思ってたけど」

「そういえばノーブル化して敏捷と精神寄りになったって言ってたわね……」

「吸血『鬼』と付く位ダシ、鬼繋がりの特殊進化も有り得るってことカー」


 ううむ、奇跡のバーゲンセールみたいな巡り合わせかと思っていたが、だとすると有り得なくもない話、なのだろうか……。

 それにしてもわざわざ進化じゃなくて変化と言い直す辺り、相変わらず基本は脳筋族(オーガ)思考のままなんだな。


「しかし女になっちまったのだけは解せねぇぜ……」

「ドレス着るのも無茶苦茶嫌がってたしネェ」


 サカミ村での依頼を果たした結果、釣鬼が吸血鬼と化してしまった。その事実もさることながら、目下の大問題としてはこれだろう。


「でも、綺麗で似合ってるよ」

「お前ぇ……男に対してドレス姿が綺麗で似合ってるなんて言って、褒めてるつもりかよ……」

「どの辺が男ナノ?」

「………」

「何だかその姿見てたらまた色々着せ替えさせたくなってきちゃったのだわ。ふふふっ」


 くうっ、痛ましくて見てられないぜっ……。

 扶祢が見事にコスプレイヤー根性を発揮させ、貴族のお嬢様かと思える程の変身を遂げちゃってるからな、今の釣鬼は。そして駄狐さんはと言えば、それをじっとりとしたアブない目付きで眺めながら何やら妄想に耽っているらしい。まぁコイツの趣味発言は置いといてだな。


「思うに――名前がいかんのじゃなかろうか?」


 そんな俺達とは対照的に、それまでモツ鍋をつまみに極上品のワインをちびちびと飲み続けていたシズカがそんな突飛な指摘をする。


「名前?」

「水晶鑑定では釣鬼(ちょうき)の種族は寵姫(チョウキ)だったんじゃろ?名は体を表すとも言うでな、それで鬼という可能性の中から合うモノが引っ張られたのじゃなかろうかと」

「まじか」

「否定出来る要素が無いのも……」

「……悲しいネ」


 その言葉に釣鬼以外の全員が揃って納得をしてしまう。釣鬼には悪いが、今のシズカの推論を聞いて妙に腑に落ちてしまったな。


「因果な事に吸血鬼系へ至る因子はふんだんに盛り込まれておったからの」

「それじゃあ、治す見込みなんてものは無くて……」

「進化先として確定しちゃった、ってこと?」

「……なんてこった」


 ついにその場で崩れ落ち、テーブルへと突っ伏してしまう釣鬼。ムスコを取り戻す唯一の可能性すら消え去ったかもしれないというのは、心中察するに余り有る。


「ね。シズ姉、何とかならないかな?」

「何故、童に聞くのじゃ」

「いや、シズ姉なら色んな世界巡ってるから物知りそうだし」

「……むぅ」

「シズカ、何か知ってればお願イ!!これじゃ釣鬼が可哀想デ……」


 うるうるうるうる。扶祢とピノが二人して期待を込めた目でシズカに懇願をし続ける。


「~~~っ」


 最初こそ我関せずの姿勢でちびちびとワイングラスを傾けていたシズカだったが、その内二人の懇願に根負けしてしまったか、持っていたグラスを一気に煽り飲み干した。そして―――


「ええい、分かった!分かったからその潤んだ瞳で真摯に見つめるでないっ」

「シズ姉?」

「……はぁ。嘗ては大霊狐として信仰され、(たたり)を以て畏れられたこの童も丸くなったものよ……方法は、無い事もない、がの」

「本当か!?」


 その言葉にがばと飛び起きる釣鬼。だが、果たしてそんな方法があるのか?


「まずは落ち着いて聞くのじゃ」

「お、おう……」


 勢い付いて詰め寄る釣鬼を予想外の力強さで押し留めるシズカ。今はもう夜になってるからこいつ、昼よりも更に力強くなってる筈なんだけどな。そんな釣鬼を片手で軽く押し込めるって凄いな。

 そしてシズカは一呼吸をし、話し始める。


「まずこれは霊狐としての童の一族に伝わる秘術故、一族以外の者へ教える場合には本来ならば長の許しが必要なのじゃが――」

「シズ姉の、ってことはもしかして私も含む?」

「否じゃ。童のこれは父方の秘術故な、汝にも教える事は叶わぬよ」

「そっか……」

「とは言うても、もはや父方の一族は生きておるかどうかも分からぬでな。既に童が最年長であるやもしれぬがのぉ」


 と、そこまで話したシズカだったがそこで一拍を挟み、少々考え込む素振りを見せていた。


「が……?」

「多少の差異はあれど、秘術……まぁ変化の術というやつじゃな。これは妖狐ならばどの系譜でも持って然るべきものじゃ。つまり、サキ……言いたくはないが童と汝の母親であるアレならば、齢から見ても実力にしても長、若しくはそれに強く出る事の出来る立場におるのではないか……とな」

「それじゃ、母さんに教えて貰えれば何とかなるって事かっ!」

「ふん。まぁそういう事じゃな」


 最後はそうつまらなさそうに締めくくるシズカ。そんなに母親と仲が悪いのか……でも妹の懇願に門外秘の可能性を教えてくれるなんて良いお姉さんしてるじゃあないか。


「シズ姉有難う!」

「アリガトー!!シズカ!」

「ええい暑苦しいわ!引っ付くでない!」

「……扶祢、シズカ。手間をかけて悪ぃが、是非お願いしたい」


 それまで黙って話を聞いていた釣鬼。やはり元の姿へ戻る願望は捨てきれないのだろう、テーブルへと両の手をつき、額を擦り付けながらの言葉にその思いが見て取れる。


「まっかせといて!釣鬼の為だし」

「ま、妹が世話になっていたようじゃからの。口添え位はしてやるわ」


 それに狐姉妹がそれぞれ応える。これで一応目標は決まったな。


「よしっ。そんじゃま、次は里帰りに決定かね」

「だねっ!」


 見回せば皆、異論は無い模様。それでは我が故郷への凱旋だ!


「良かった、良かったネ……釣鬼」

「有難うよ、もう泣くな」


 ピノはまたベソをかいちゃってるな。写真が撮れれば後でからかいのネタに出来たんだけどな、残念。

 こうして次の方針も決まり、俺達はギルドへと長期不在の手続きをしに行った。


「丁度良いですわね。その間にこちらも段階的な昇級の手配をしておきましょう。お土産、期待してますわよ」


 サリナさんからはこんなお言葉を頂いた。期待されたからには応えねばなるまい……いや、お土産を買うだけなんだけどね。


 その後、更に数日をかけ宿屋(クレイドル)の後片付け、荷物の一時保管等そこそこに溜まった処理を決め、改めて宿屋(クレイドル)のロビーの大テーブルにて話し合う。

 最初はデンス大森林付近の異世界ホールを使う予定だったのだが、シズカによればサカミ村と港町クシャーナの間の森にも別の異世界ホールがあるのだそうだ。という事でどうせなら向こうでそれがどこに出るかの確認も兼ね、そちら側の異世界ホールを使うことになった。距離的にはどっちに行ってもあまり変わらないからな。


「にしても、シズカはよくそんな場所見つけられたよな」


 そうそうシズカの呼び名についてだが。

 最初は俺もシズカさんとかおねいさんと言っていたんだ。でもシズカとしてはさん付けは兎も角おねいさん呼ばわりはどうにも体中が痒くなってしまうらしく、それならば呼び捨てで良いとのお言葉を受け今ではシズカ、と呼んでいる。


「元々童が通ったのがあそこの入口じゃからな。その後間もなくサカミの村へ出たのが半年程前になる訳じゃ」

「つぅ事は他にもあの穴がぼこぼこあるんかい」

「どうじゃろな、本来あの類の接続口はあまり近い場所にあると空間が不安定になる故好ましくはないのじゃが」

「誰かが人工的に作ったんジャ?」

「それは無いじゃろ。我等ですらその全容を把握し切れていないのじゃ、任意で作れるモノがおるとはとても思えぬのぉ」


 ピノの疑問にそう断言をしながら答えるシズカではあったが――んん?いやでもあの穴って……。


「ちょっと待った。俺達が通った穴は明らかに手入れ、というか作られた跡があったぞ?」

「よね。その近くの異邦人用の家にもそんな事が書かれてたし」

「……何じゃと?」


 俺達の言葉にシズカが訝しげな反応を示す。どういう事だ?

 それを見てやや不安を感じながら、それでも俺と扶祢の二人、交互に俺達のやってきた異世界ホールの情報を伝える。


「解せぬ、な」


 詳細を聞いた後に暫し考え込む様子を見せるシズカ。やがて一言、そうぽつりと漏らしていた。


「確かに気にはなるけど、それなら日本からの帰りにでもそっち側から戻ってきて調べれば良いんじゃないか」

「……まぁ、そうじゃな」


 結局、行きと帰りが別の地点になる為に、移動時の利便性を考えてカート他諸々の大荷物は置いて行く事となった。手持ち荷物も最低限、どうせ日本(むこう)に戻れば必要な物は買えるからな。向こうの貯金は出てくる時に殆ど使ってしまったので、扶祢を通じて向こうの妖怪互助会に金目の物をある程度換金して貰う予定だ。


「そんじゃあ、いざ日本へ……」

「「しゅっぱーつ!」」


 暦の頃は現在七月某日。生憎と盆参りをするには少しばかり早いが、夏の里帰りと行きますか!

 という事で、次回舞台は日本へ。一応釣鬼の吸血鬼関連と進化への伏線は回収出来たと思います。

 ここが見づらい、この設定変じゃないか等のご指摘がありましたらガシガシどうぞー。感想とかもお待ちしております。

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