第040話 事後報告と説教と鑑定検証
お盆五連投稿4/5日目。毎日連続で投稿してる人凄いわ…お盆だから良いけど常にやるなら遅筆なんで一日が30時間位欲しいれす。
「――確かに、お預かりしました。後日調査員を派遣させて頂きますが、書状の判も正規の物ですし問題ありませんね。難度の高い依頼の達成、お疲れさまでした」
「まさか本当に、しかもこんな短期間であの人狼族を説き伏せてしまうとは……これで交流の問題も解決するよ、本当に有難う。報酬は勿論だが、評価点も大幅に上乗せさせて貰おう」
現在ヘイホー冒険者ギルドの一室にて、ギルドマスターのヘンフリーさんも同席の上でサリナさんにサカミ村の族長からの書状を渡し、依頼結果報告を行っていた。
報告を行って、いた…のだけれども……。
「―――」
「その、なんだ。釣鬼君、いや釣鬼嬢?こちらとしては本人の確認が取れてギルドへの貢献さえあれば特にはだね、えぇと……釣鬼君の個人情報に関しては当面はギルドマスターの名において守秘義務として扱うので、後はサリナ君と相談してくれたまえっ」
ギルマスさえもがそう言い残し、そそくさと席を立ってしまう程にはどぎつい圧力。俺と扶祢の二人は土下座で平謝り。残る二人も微妙顔だ。
「そうそう!釣鬼君のみB級への昇格試験を受けて貰う手筈になるとは思うが、今回の村単位での衝突回避、そして経済活性の可能性に対する多大な貢献を鑑みて、全員段階的に二ランクのアップという事になるだろうからそのつもりで。力押しではどうにもならない難題をよく解決してくれた、改めて礼を言う――それでは後はサリナ君に任せますッ!」
あのオッサン、言いたい事だけ一気に言って逃げやがった!
後に残るは絶望感漂う俺等四人プラス一匹、それと我関せずといった様子でソファに身を預けギルドのパンフレットを読むシズカ。そして俺の目の前で冷たい笑顔を湛えているサリナさんといった動くに動けない構図。
「――常々申し上げている事ですが」
「はひっ……」
「ひゃい!」
そしてついに、底冷えのする声を伴いサリナさんが話し始めたのだ。
「冒険者というものは常に危険が付きまとい、ある意味死と隣り合わせな危険な稼業です。ここ最近でこそギルドによるサポート体制の充実化などにより、現地へ出向いた冒険者達の死亡率は下がってはおりますが。それについては登録時の説明や配布書類にもあった通り、皆さんお分かりかと思います」
「はい……」
うん、そうだな。
サリナさんの家で書類作成をしている間にも色々と過去の体験談を聞かせて貰ってはいたけれど。やはり依頼の中には危険な物も当然あり、一定の確率で事故の類が起きて帰らぬ人になってしまうケースもあるのだそうだ。
サリナさんは俺達全員が頷くのを確認した後に、再度言葉を紡ぎ始める。
「よろしい。では、何故私がこんな事を言うのかも分かりますね。中には常にその死と隣り合わせの状況に身を置かないと生きていけないような業の深い方もおりますが……貴方達はそうではありませんよね?」
「いや本当に済まねぇ、今回ばかりは反省してる」
「御免ナサイ……」
「報告書を見るにやむを得ない事情もあった事でしょう。ですが相手が吸血鬼だという事前情報を未確定にしろ入手していたにも関わらず、ギルドへの増援を求めるどころか単独パーティで、しかも夜の森で戦力を分散するという危険を顧みない行為。行動する時は身の安全を第一にとあれ程言っておいたではありませんか!」
サリナさんの一喝が部屋の中に木霊する。
言葉も無い。俺を含め四人共、その言葉に何も言えず暫しその場を沈黙が支配してしまう。
「これが言っても聞く耳を持たないような方々でしたら諦めもしますが、貴方達はしっかりと物を考えて動けるパーティでしょう?ギルド職員としてではなく、厳しい物言いになりますが元冒険者の先輩としての立場から言わせて貰いますわ――冒険者稼業を甘く見るんじゃない。何よりも第一に安全の確保、これは冒険者として行動する上での基本中の基本です」
先輩としての言葉が突き刺さる。
サリナさんの言っている事は当たり前過ぎて、誰も何も言えなかった――俺も冒険者という言葉だけに惹かれ、どこか現実的に考えていなかった部分は確かにあったと思う。
「お説ご尤もではあるのじゃが――」
そこに、それまで暇そうにギルドのパンフをペラペラと捲っていたシズカがいかにも面倒臭げな様子ではあったが言葉を挟んで来る。
「あの村の人狼共は既に現状に対しての精神的緊張が臨界に達しておった――現場でしか分からぬ空気というものもあるじゃろう。こやつ等はそれを感じ取り危険との秤に掛け、そして考えた上で解決をするならば早い方が良いと踏んだ。その意向だけは汲んでやってはくれぬかのぉ」
「ええ、分かっています。皆さんでしたらきっとそう判断して動いてしまいますものね……それでも、私も現役時代そのような方々が一つの間違い、あるいは運の差で帰らぬ人になってしまった例を数え切れない程に見てきています。皆さんにはそうはなって欲しくありません。ですから担当としてだけではなく、親しい知人として忠告だけはしておきたかったのです……」
その言葉を最後に、場には再び沈黙が訪れる。
更に少しばかりの時が過ぎた後に、何とも口を開き辛い空気を払うかのようにサリナさんはパンと手を合わせる。
「さて!きついお話はこの辺にしておきましょうか。それで、皆さん私にお願い事があるとか?」
「あ、あぁ。本当はギルマス達には秘密裡にお願いしたかったんだけど」
「あら、それは申し訳ありませんでした。という事は、やはり釣鬼さんのギルドカード表示関連でしょうか?」
先程までの張り詰めた冷たい表情から一転、いつものニコニコとした営業スマイルに戻るサリナさん。
その様子にほっとしながらも俺達は事情の説明を始めていった。
「――てな訳でだな。色々とあって俺っちこんな姿になっちまったんだが、今どんな状態になっているのかがよく分からねぇんだわ。だから水晶鑑定をもう一度頼みてぇ」
「成程、承りました。そういった事情でしたら今回の水晶代は必要経費にねじ込んでおきましょうか」
「ねじ込む……サリナさんがいつも通りで何かやっと帰って来たって実感が湧いてきたわ」
「だなぁ。この強権の発動っぷりが安心するぜ」
「ウンウン」
「皆さん酷いですわ。それでは手配の間にシズカ様からもサカミ村の状況の説明を伺っても宜しいでしょうか?」
「うむ、仔細無い――」
こうしてシズカとサリナさんが色々と話し合っている間に俺達もどうにか気を取り直し、水晶板の到着を待つ事十数分。
やがてノックの音が聞こえ、サリナさんが別のギルド職員から品物を受け取りテーブルへ持ってくる。
「来ましたわね。それでは始めましょうか」
見覚えのある水晶版をテーブルに置き、釣鬼へ促す。
「前と同じやり方で良いんかな?」
「魔力を流せるのでしたらそれでも構いませんが――釣鬼さんは魔力の扱いは得意ではありませんでしたよね」
「だなぁ。そんじゃまた血を垂らすか」
そう言って釣鬼はその尖った八重歯――もう牙と言った方が良いか――で親指の腹を裂き、水晶板の窪みに血を垂らす。イイナー、それ俺も成功させてみたかった……。
しかし切れ味の良い牙で傷付けてしまったせいか、少しばかり流れ出る血の量が多く水晶板の窪みから溢れて零れ落ちてしまう。
「おっと、零れちまっ……何だこりゃ?」
「うわ、血が動いたよ?」
何と一度は水晶板から流れ落ちようとしたその血の雫が時を巻き戻すかの如く窪みへと戻り、そこで流れを留めていた。その窪みには、どう見ても表面張力とかいうレベルじゃない血溜まりが出来てるな。
「何コレ、コエー」
「地味に傷つくから怖ぇとか言うな。どうも血液をある程度操作出来るみてぇだな」
「釣鬼がどんどん人間離れしていくな……」
「吸血鬼化しとる時点で既に人間とは言えぬじゃろ」
「うぐっ」
そんなシズカの言葉に若干傷ついた様子の痛ましい表情になる釣鬼。ご愁傷であります。
そして一分後、表示されたステータスをオープン。
名前:釣鬼
種族:寵姫(吸血鬼:伯爵級の妾/子爵級に相当)
年齢:54
筋力:A 敏捷:A
耐久:A- 器用:B
精神:A+ 神秘力:B-[魔]
スキル:体術S 棒術B 投擲B 探索B 追跡B 罠感知C 釣りS 料理D
(隠密B) (暗器術A)
固有スキル:食いしばりB
[痛覚によるマイナス補正の激減、致命傷を受けても一定時間
ペナルティを無視して行動する事が出来る]
吸血鬼種族セット
[他の吸血鬼からの吸血行為による眷属化の呪い無効。種族特有の
弱点が存在する。詳細は弱点セット参照]
吸血E
[他者の血を吸う行為を通じ生命の源を奪い、その質と量に応じ
自らの力を一時的に高める。適正不適合の為ランクアップ不可]
血液操作D[文字通り自分の血液を操作する事が出来る。ランクD
では体外に流れ出た血液に関しては流れ落ちてから一分間、
半径10m以内の対象のみ任意に動かす事が可能]
吸血の呪いE
[血液を美味と感じ、吸血への軽い衝動が湧きおこる]
再生D
[受けた肉体的ダメージを徐々に回復させる。また身体の一部を
失っても新たに生えてくる。ランクDでは再生速度は遅め]
物理耐性C
[物理属性ダメージを30%軽減、1ランク毎に軽減効果±10%]
吸血鬼弱点セット/銀、陽光、白木、浄化
銀
[銀由来による攻撃の被ダメージに対しては再生能力が半減]
陽光
[陽光の下では全てのステータス判定に-1ランク]
白木
[白木由来による攻撃の被ダメージ量1.5倍。固有スキルによる
再生不可能、自然治癒は可能]
浄化
[耐性が0になる]
※現技能保持者は生命ある存在である為、浄化の影響を受けない。
「誰が妾だ!」
「種族名語呂合わせかよ!?」
「何とまぁ――」
きっと面白おかしいステスキルになっちゃってるんだろうなとは思っていたけれど、それ以前に名前で突っ込む事になるとは思わなかったぜ……。
「……あら?陽光ペナルティを計算に入れると日中のステータスはあまりオーガ時と変わりませんわね」
「本当ダネ、筋力と耐久がちょっと下がって器用と魔力が上がってる程度の誤差はあるみたいだケド」
ほー。だからこんなに身長が縮んだにも関わらず以前と同じくリヤカーも平然と牽けていたんだな。やはりこの辺りは華奢ながらも吸血鬼といったところか。
「耐久も物理軽減で十分元が取れてるっぽいしなぁ」
「吸血による眷属化も出来ないみたいね。これなら特に問題はないんじゃない?」
「吸血衝動ってのが気になるケド、軽いって明記されてるんだったラ心配は無いのかナ?」
その他にも吸血鬼らしいスキルは多々ありはしたが、どれも条件付きで有利不利の補正が入っているみたいだな。生命ある存在――やはりこいつの場合、純正の吸血鬼とは別の存在になるのか……?
「この水晶鑑定とやらの精度はどこまで信用出来るんじゃ?」
「水晶鑑定板は神代に存在したと云われる【心裏の鏡】を参考にし、古代の賢者様方が叡智を結集して作られたレプリカを基にした量産品と伝えられています。中には鑑定不能になる結果や稀に不良品が混じっている場合もありますが、ギルドで使用されてからの公式記録では100人中99人は問題無く適応されていたそうです。ですので、このように明記されているのでしたら問題は無いとは思いますが…」
「扶祢のアレまで問題無く表記された位だしなぁ」
「うんうん」
この世界における、いわゆる「ステータス鑑定技能」といったものは無く、こうして先人の遺した偉大な功績が技術装置として伝わっているそうだ。
少しスキルによる鑑定なんてのをしてみたかった気もするが、個人情報の盗み見になる側面もあるし、もし自分が見られてそれを暴かれたりしたら怖すぎるからその意味では安心だな。
「言われてみりゃさっきの鑑定時に流した血はそそる香りがした気がすんなぁ」
話を戻そう。そう言って、釣鬼は今も窪みに溜まっている自らの血を掬い、ペロリと舐めとる。仕草一つがいちいち艶めかしく見えてしまう。これ、魅了スキルじゃなくて自前の雰囲気なんだよな?
「ならば試してみようぞ」
不意にシズカがそう言い扇子を振るう。直後俺の腕に切れ目ができ、そこから鮮血が―――
「って俺が生贄かよ!」
「詮方無かろ、今や汝がこの部屋で唯一の男なんじゃし。よもや童達に血を流して喜ぶような、嗜虐的嗜好の持ち主なのかや?」
「ぬぐっ……」
「ごめんなさいね頼太さん。後で治療しますわ」
このシズカの当然の如き扱いには大いに納得いかないが、なってしまったものは仕方が無い。諦めて釣鬼へ向き直り、傷の側を向けながら腕を差し出してみた。
「んで、これ見てどんな感じだ?」
「んー、美味そうなワインに見えなくもない、か……?」
「ふむ、その程度かや」
「ここに来るまでご飯も普通に食べてたし、我慢出来ない程ではないのかな?」
「みてぇだな」
釣鬼のそんな返事に、一同安堵の息を吐く。
「良かったよォ。釣鬼がどうにかなっちゃってたらと思って、全然眠れなかったんダ……」
中でも釣鬼が変貌してからというものここ二日程あまり元気の無かったピノなどは、もう隠す様子も無く嬉し泣きをしていた程だ。やっぱり責任を感じちゃってたみたいだな。
「心配かけて済まなかったな。俺っちは平気だからもう本当に気にすんな」
「ウン……」
「ピノちゃん……良かったね」
扶祢もホロリと貰い泣きをしている様子、本当に一応無事で良かったなぁ。
「これデ……気兼ねなく踏破獣の内臓鍋食い放題が出来るってものダネ!」
「「結局食い気かい!」」
「私の感動を返して!?」
「わふぅ……」
ほっとした途端にこんな落ちを受けてしまい、つい揃って突っ込みを入れてしまう俺達。この食いしん坊なお子ちゃまめ!
「クスッ、ピノさんも照れ隠しが下手です事――」
「まぁ、喜び故じゃ、見赦そうぞ」
「ですわね」
その後、ピノと釣鬼の約束を果たす為に翌日から数日かけて踏破獣の出没情報を集め、死闘の果てに何とかモツ鍋食い放題用の素材収集ミッションを達成した。
何度か轢かれかけて、正直サカミ村の時よりも危険を感じたぜ……。
陽光ペナルティに関しては判定にマイナスがつくので扶祢の平和ボケと同じく表記ステータスからマイナスされた数値が実ステータスとなります。進化前に釣鬼が持っていた剛力スキルはランクそのものにプラスなので込みの表記でしたが。
尚、釣鬼のステータスに書かれている爵位については鑑定結果としての格付け的な表記なので、実際の爵位とは全くの別物です。




