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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
裏章 魔を誘う祭祀-白の篇-
411/439

白の篇㉑ - 1 days ago -

12/25追記:

何を寝惚けていたのか、伏せるべき部分で思いっきり出してしまった名前があったので、その部分を伏せ直しました。他少々、誤字等修正。

 足掻いた結果は、散々だった。


 自らの不出来を、嫌が応にも見せつけられて。


 それでも先へと、善き未来(さき)を目指そうと。


 そうしてやっと、辿り着いたと思えば。


 そこで識ってしまった、真実は―――








「――この、冬場に」


 『わたし』は、再びこの舞台へと帰って来た。

 まどろみ揺蕩い、繰り返されるべき日々を、彼方へと押しやってまで。


「………」

「その先を続けて貰わなければ、応えようがないよ」


 伏した躰を半身捩って、仰向けに。澄んだ空気を胸一杯に吸い込みながら。

 雲一つない、晴れやかな空に負けない朗らかを、見上げた情景の端に佇む銀の色も毛深き大男へと投げかける。


「か弱き娘が一人、旅に出る程の何かがあったか?」


 出逢いの一言からして横紙を破ってみせた『わたし』に、何かを訴えかけようとした素振りを見せて。

 短い躊躇を挟んだ上で、彼はそう、繰り返した。うん、それで良い。


「あぁ、色々とね」


 かつての成り立ちは、西の蛮族へ対する防塁として作られた、懐かしき帝都の西門。目的を見据えて立ち上がる。その足取りには、迷いの一つも見えなくって。


「それでは、我等が我等である為に。成すべくを為しに、赴くとしようか」

「……本当に、これで良いのか?」


 無理もない。それ(・・)を自覚するのだって、きっと彼にとっては初めての事で。

 あの情景は、ここではない何処か。現実(いま)ではない、いつかにあったかもしれない、もう一つの可能性。

 こうして我等は出逢ったばかり。未だ、見ず知らずの他人だから。


「時間も限られている事だ。多少の食い違い(・・・・)は大目に見てもらわねばね」


 殊更に彼の様子を見るまでもない。その言動、挙動、心音に至るまで。お仲間(せいれい)達が伝えてくれている。だから確信をもって、そうと口にした。

 それに――と、『わたし』は続ける。せめて今ばかりは、後ろ手組んで朗らかに。おしゃまな可憐にくるりと振り向き、精いっぱいの気持ちを込めて。


「『わたし』の名を、呼んでくれたのだろう?」


 応えてくれる、声はなくとも。この名の意味を知らずとも。

 年甲斐もなしに紅く染まったその照れ顔、頂きました。






 ◆ - 20 hours ago - ◆


 今は昔の名残も濃い、帝都西部の商店街の一角にて。

 目と鼻の先には各区域との連絡路を往く、馬車の数々がちらほらと見られる発着場。

 中でも一際目立って見える、装甲馬車。そこより降りてきたのは、黄金色に撫でつけられた髪を湛える高級将校。一見して優男にも見えよう中に、秘めたる闘争心を隠そうともせずに貴賓用の席へとついた。


「大尉。あの悪夢の戦線より生きて戻った同士、君には期待していたのだがね」

「ハッ!無作法ながら、次回の作戦行動招致への辞退を申し上げたく存じますッ!」


 まず抱いたのは、彼に無理を頼んで引き合わせてもらったこの男もまた、為政者たる資質を強く持つ者だということ。

 当時の『我』に輪をかけての傍若無人に上乗せをされた、不機嫌を向けられた虎の耳持つ獣人は、両手を背に回して直立姿勢。彼をしてそんな敬礼を取らざるを得ない程に、影響力を持つ御仁という訳だ。


「上官を通しもせずに、更には帰路も中途なこの私を捕まえての一方的な要求を、いち軍人がする。その意味を理解出来ない君ではあるまい」

「申し訳――」

「だからといって、わざわざ自らの不明を基とする狭量を客人の前で見せるとは。レイモンド、それに御付きの『キリク』が縁故を名乗るには、随分と不足をしてはいないかな?」


 真っ先に動いたのは、枯れ木を想わせる灰褐色の肌持つ文官風。古風にも懐へ手を忍ばせ――たところでその手首ごと、いつの間に直立姿勢を解いていたのか、横合いより伸びた大男の膂力漲る掌に抑え込まれていた。


「今代の白が握っている、オーク共の狙い(・・・・・・・)


 軋みと呻きを背景に、そう、口にする。とほぼ同時に、周囲全方向より向けられていた殺気が抑え込まれた。


「それと、現在(いま)の不可思議を見返りとして、二つ程を頼まれてほしい」


 その立役者となったのは、いつの間にやら片手を挙げ、隠れる配下達を制していた、目前の席につくこの男。

 ふぅ、と小さく芝居がかった息を吐く。依然として刺し向けられた眼よりは射殺す程の圧を感じるものの、これで一先ずの関門は抜けたろう。






 ◆ - 17 hours ago - ◆


「生きた心地が、しなかったぞ……」

「そうは言いながらも、最後まで付き合ってくれたじゃあないか」


 元より、我等に足りていなかったのは、時間と要素。その両方。

 となれば、やるべき事はそう難しくはない。不足を補うべく、動くのみだ。


「次は神殿、か」

「そうとも。ここは外せない、だろう?」


 返ってきたのは、途方に暮れた様な、何ともしまらない唸り声。その気持ちは大いに理解出来るのだけれども。


 顧みれば、ここでも一つの分岐があった。

 当時、と語るには憚れるけれど、あの時の『我』はその固まりきらない内容物の所為か、些か冷静さというものに欠けていたとも思う。

 拵えるべき段取りを飛ばしに飛ばして、ついにはあの袋小路へと追い込まれてしまった。行き当たりばったりと嗤われても仕方のない、忸怩たる結末だ。


「だが、そうでなければ辿り着けない、出逢う事もない境地もまた、あったんだよ」

「……グルゥ」


 全く、つれない相方だ。これ程に熱心なアプローチをしているというのに、応えてくれないだなんて。君は、もう少しばかりロマンスというものを勉強するべきだと思うよ。






 ◆ - 15 hours ago - ◆


「何をしてる?早くしないと、次の予定に間に合わないぞ」

「んー」


 事務方にも手慣れた交渉要員らしく、養蚕業に勤しんでいたアラクネーへと繋ぎを付けていた彼が、路傍を眺める『わたし』へと声をかけてくる。こちらは予想をしていた通りに、不在であるのに変わりはないらしい。


「『――もう、次はありません』」

「貴様は、あれを、どう捉えた?」


 素直に肩を竦めてみせる。

 あの事実(・・)を口にしてしまえば、こうして束の間の平穏を味わっている今にも、あいつ(・・・)の魔の手は届いてしまう。流石に何も揃っていない今にあいつ(・・・)との対峙に臨んでしまえば、同じ結末が待っているだけだ。いくら『わたし』とて為せる術がない。


「むぅ……以前にアラクネーの子達は、どの辺りに集まっていたっけ……?」

「あぁ?」


 急に逸れた話題を耳に、彼の声が幾分焦れた風に篭もる。

 その、まぁ。『わたし』にだって、得手不得手というものがだね。だからこそこうして地道に、役に合わない探偵調査を自覚しつつも進めている訳で。

 言い訳をする訳ではないけれど、あの参謀副総括との会合のお蔭でやや時間が押している。成り行きとして陽も短いこの時分、そろそろ路面に映る影も伸びてきた。


「恥ずかしながら。時間がずれてしまった分、影の長さからの場所の割り出しに苦戦中なのさっ!」

「胸を張って言う事か……」


 呆れた様子で片手を顔に、深く一息を吐いて後。彼は両の掌をあれこれと形作りながら周囲を測り、やがてある一点へと指で象った矩形で重ねて『わたし』の目の前へと持ってきた。


「あの辺り、だな」

「ふむ」


 示されてみれば、成程。浮かぶはずの無い脳裡には、確かにあの場へと揺らめいて(・・・・・)いたっけ。

 そのまま目標地点へと歩みを進め、暫し掌を向けて瞑想する。


「何を、したんだ?」

「いやなに。一寸(ちょっと)ばかりの補充をね」


 これで、この地で為すべきは終わりかな。

 だから、その。毎度毎度の呆れながらも、こいつには言っても無駄だといった風な渋面をこれ見よがしに向けてくれるのは、ご遠慮願いたい、のだけれども。






 ◆ - 12 hours ago - ◆


「狐の姫、君には結論から伝えよう。今直ぐにでも発って伝えるべくを伝えねば、惑いに惑ったライタが彼の地で儚くなる」

「者共、出陣だっ!」

「出雲ちゃーん!?」


 おっと。イレギュラーにも程がある君に動かれてしまうと、今後の道筋が無駄に掘り起こされかねない。

 迅速に過ぎるシノビ衆に追いすがろうと、わたわたとエプロンドレスを着替える娘の七尾をがっちりと掴み、ついで力負けをしないよう傍らの相棒へと手渡した。


「良いのか、これで…?」

「離してェー!」


 今はまだ、この娘に動いてもらう時ではないもの。仕方がないね、うん。

 そして、混乱の極みに涙目を晒してしまった七尾の娘にはやや思う処があるものの、きっと「これ」が一番の特効薬となるだろう。


「ね、だいじょうぶだから」

「……へ?」


 あぅあぅと所在の無さげな掌を手に取って、しかるに小柄な頭を擦り付け、上目遣いにそう零してみせる。

 対する娘はきょとんとした後に、恐る恐ると包み込もうとする腕と、拍子に擦れる、衣擦れの音。


「はぁあぁぁ~、もちもちほっぺがぁぁ~」

「………」


 心地ぽかぽかと心身共に温まる自覚を促されつつも、対照的に見下ろされる冷たい視線へと、今の『わたし』はきっと光を無くして淀んだそれを返しているに違いない。

 だって、これが一番手っ取り早いのだもの。仕方がないじゃない。


 ともあれ、ここでの下拵えも整った。歪んだ性癖発露を力尽くで剥がすのも面倒だしと、抱かれるままに書いた二通の内の一つを娘の懐に添えて、残る一通は姫の座っていた椅子の上へと置いておいた。

 中身はいずれも、とある教会への招待日時と、妖精郷に関する秘事、とだけ。あとは悪名高い、狂い狐の合理性に期待をするまで、かな。


 うん、と一つ自らを納得させる。そのままやおら動かすにも不便となった首を巡らせて、ここまでの一部始終をそう遠くはない席で眺めていた彼へと真摯な瞳を向けてみせる。


「あの、たすけて」

「明日に備えてそのまま寝ておけ。今回(いま)の貴様はあの時と違って、休みなしだったろうが」


 救いを求める切なる声に、しかしぶっきらぼうにも切り捨てられる。

 いまだ『わたし』を抱き人形の代わりにしゃくりあげている本人の名誉の為に、敢えて詳細こそ伏せてはおくけれど、うら若き娘が垂れ流すには色々と憚る涙ほか諸々でべたべただ。


「そうなのぉ~~!このまま一緒にぃ~!だって最近ピノちゃんはいないし、仕事は窮屈なのに出雲ぢゃんもなんがつべだいじぃ~~~!?」


 それでも何故だか、鬱陶しく感じるそれを払う気も起きなかった。

 確かに彼の言う通りに、精根ともに疲れ果てている自覚は多分にある。

 ここまで丁寧に下準備をしておいて、肝となる明日の障害に躓くのも癪だもの。今夜はこのまま、慣れない温かみを子守唄の代わりに、包み込んでくる柔らかな膨らみを枕として休ませてもらおう。


「それでは、お休みなさい。いまは見ず知らずの、御人好しな恩人殿」

「フンッ……」






 ◆ - 9 hours ago - ◆


「――ふぅ、やっと休めるよ」


 深夜半になって、熟睡した娘の腕の力が抜けたところで羽毛布団の一部を挿し込んで、ようやくハグから抜け出す事に成功した。


「……抱き心地が、寂しいよぅ……ピノちゃぁん」

「『わたし』を存分に抱き枕にしておいて、言うに事を欠いてそれとはね」


 娘の我儘な寝言に、ついつい苦笑が漏れ出てしまう。


「頼太もぉ、無理ばっかりして……んぅ」

「―――」


 そう、だったね。

 『我』が幾度も悩み、惑い、迷っていたこの間も、あの若者は。

 今代の双子の片割れと共に動いているとはいえ、その内情は、独り。あの狂気の暴風に晒され続けた内面は、若さ故の無理(やせがまん)が祟ってぼろぼろだろう。


「だいじょうぶ。明日の対峙さえうまくいったら、『わたし』が何としてでも、こちら側に引き戻してあげるから」

「……んみゅう、おかあさん」


 優しく、耳元で囁いた。まるで庇護する者を見付けた幼子の様に、途端に大人しい甘え声を零す娘の寝姿に。昔あの頃に置いてきた、申し訳ばかりの母性が疼いてしまう。


「――うん」


 本来は、庇護される側であったあの子の願いが発露した、不出来なるこの身であるけれども。この子達の為にも、何としても成してみせねば。心地良い脱力に包まれつつも、またしても増えてしまった願いの数に、我ながら欲の面が張っているなと自嘲を漏らす。








 その夜は久々に、本当に久々に、ゆっくりと休む事が出来た。

 お蔭で心身ともに快復、とまではいかないものの、明日の対峙へと臨めそうだ。


                     -See ya next around 【X-day】-

サキ「あたしはまだまだ、元気だけどね。ところでお前、何歳だっけ?」

扶祢「…ええっと……」


19さい!

―――――――――――――――――――――――――――――――

本日の言い訳:仕込みって、大事だよね(意味深


 オーバーしても精々半日だろうと後回しにしていた、タイムテーブルチェックだけで二日以上もかかったっていう。意地張らずに近日更新と書いておけばよかった_(:3 」∠)_

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