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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
裏章 魔を誘う祭祀-白の篇-
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白の篇⑫-無否なる視線-

 予定よりもずれ込んでしまいましたが、GW後半の連投開始です。

 そろそろサブタイを変えるか悩み処。

 ―――だむっ!だむっ!だむっ!


 昨今の巷の噂にもちらほらと登る、樹精神殿と呼ばれる遺棄地域の一角における一場面。

 そこには何かを訴えるかな、それでいて憤慨遣る瀬無きと言うにしては随分と可愛らしい音を響かせる発生源。その身は現実離れをした印象を受ける白一色に包まれながら、いっそ幻想とはかけ離れた程の不貞腐れた面を晒す小柄な娘姿だ。

 その詳細を見るまでもなく、懲りずに神殿内へと立ち入っては歓迎された証として、この日何度目かとなった強制コースター体験に余程その琴線をかき鳴らされたらしい事実が窺える。周囲にへたり込む二人を余所に何を語る事もなく、ひたすらに飽きもせずに眼前の壁の一部らしき球面へと小さな拳を叩きつけていた。


 ―――ぷよんっ!ごちんっ。


 壁と言うには見るに柔らかな、緩衝材の様なそれ。時折起きる低反発に娘の掌が跳ね返される度に力の抜ける効果音が発生し、盛大にバランスを崩した娘が幾度目かになる地面との熱い接吻(キス)を交わしてしまう。

 痛みと口惜しさも綯交ぜに、ぷるぷると震える白き娘姿。その横手には毛深き巨漢が、ようやくといった様子で起き上がってきた。

 これまた神殿内の道中では命の危機さえ感じてしまったのだろう。受動的反射により変身を果たしてしまったらしき厳つくも毛深き面持ちを何とも評し難く歪めつつ、慣れぬ気遣いを見せようとするも返されるのは駄々っ子ばりの抵抗。弱々しくも意志の籠もった腕に振り払われてはどうしたものかと立ち尽くす。

 更にその側辺には弛緩した散漫な印象を受ける、身近な黒髪を湛えた妙齢の女が気がかりを訴えようと二、三言を付け加える素振りが遠目にも見られていた。


「……、……」

「――!?―――!」


 やがて見かねたらしき巨漢が娘姿を小脇に抱え、時間切れだと歩き出す。控える女も心持ち沈んだ調子でそれに続き、大きな腕に抱えられたままに取り残された感のある娘姿ばかりが大仰な身振り手振りで訴え続けていた。

 言葉遣いにこそ年季を感じさせつつも、内容に耳を傾ける者が居れば揃って脱力を見せるであろう、涙目まで見せてしまう娘姿の主張。またもぼそりと呟かれる巨漢の言葉に静かながらも過敏と思える硬直を晒し、続けた言葉はあの手この手に多彩な変化を交えつつも、中身としては聞き分けも無く愚図り続ける見た目のままな我の強さが往来へと響き渡る。


「~~~~~っ!!」


 最後に吐き捨てられた盛大な叫び声。それは正に負け犬の遠吠えと言うに相応しかろう、多分に哀愁漂わせるものであった。






「………」


 そんな賑やかな三人組を恐る恐ると遠巻きに見守る、翠を冠した数多な蜘蛛の眷属達。それらとはまた違った視点を持つ、一つの影が佇んでいる。


 ―――その貌には、何が映し出される事もなく。

 ―――その貌を映し出す者も、また居ない。


 蜘蛛達がひしめくその中で、しかし誰もがそれ(・・)を認識出来ない。故に、場の異常性を識る者もまた、いない。


「―――」


 白き娘達が樹精神殿の建つ区画を抜けて、往来の果てに消え去るまでを一頻り。変わらず何の色をも塗り出そうとさえせずに、佇んだまま。


 否――本当に、それはそこに在ったのだろうか。


 仮にそれ(・・)を視認出来る者が居たとして、いつそうなったのかも分からない。そんな陳腐な言い回しを口にせざるを得ない不可思議さと共に、その姿は消え去っていたのだ。








 仕舞いにはいみじくも重要参考人扱いとも言えそうな、昨夜にも使われた霊的拘束紐により手慣れた扱いでの簀巻きにされての護送となった。その目的地は言わずもがな。帝都西部の商店街が立ち並ぶ一角、彼等も口にしていた冒険者ギルド帝都支部。


「いい加減に、あれはそういう理不尽だと学んで諦めろっ!」

「ふんっ」

「ぎりぎり……時間前、セーフです……」


 出迎えた別の職員によれば、既に先方の依頼筋とやらはお待ちかねであるそうだ。その報告を受けたボルドォとカンナは慌ただしくも即時対応の準備を宣言し、奥の職員専用エリアへと去っていった。

 ご丁寧にも簡易洗浄術らしき魔法を薄汚れた我が身にかけた上で、乱暴な簀巻きはそのままに。これ以上余計な真似をするなと念を押してくれる辺り、我を何だと思っているんだ。それはそれとしてあの神殿への疑念を別にしても、いつか必ず雪辱を果たしてやる。


「簀巻きにされたこの姿が、そんなに面白いのかい?」

「ぅえっ!?いやぁ……そういう訳じゃ、ないんだけどよぉ」


 ロビー脇に設置された飲食スペースより向けられる、そう多くはない視線。その好奇の一つへと、手持無沙汰に声がける。

 先程までのボルドォとはまた違った意味で、曖昧ながらも意味有りげな面差し。見澄ましてみればそのくたびれた皮鎧よりは、仄かに馴染み深くも薫る、あの森の残り香。

 些かばかり剣呑な自覚を以て浴びせた声より、険を抜いてみせる。如何にもほっとした素振りを返してきた中年男はその後も何かを言いたげにちらちらと、落ち着かない様子でこの横顔を盗み見続けていた。今の世でこの外見にそこまでの反応を示すとなれば、さて―――


「――ふ。愚問だな」


 すぐに心当った。我そのものと見紛おう姿形を持ち、我よりも余程この帝都に縁も深き妖精族が居たじゃあないか。

 となればこの中年男がライタの言っていた、同行していた冒険者の一人か。


「用意が出来たぞ」


 そうこうと想像を膨らませている内に、お呼びがかかったらしい。この男の動向も気にはなるものの、今はボルドォとの約定が優先だ。手近な精霊の扶けを借りて、不格好な麻縄を解き立ち上がる。


「これだから、妖精族というやつは……」


 わざとらしくも唸り声を上げてくれる、しかめっ面。

 霊的拘束縄(こんなもの)程度で我を本気で縛れる筈などない事は、昨夜にも披露してみせたばかり。それでも厄介紛れにそんな顔を向けたくなる程に、厄介な注文をされたとでも言うのだろうかね。


 ・

 ・

 ・

 ・


 応接用の一室にて、向かい合う。ジェラルド・アルベール――ボルドォ以下ギルド職員に扮した独立機動小隊を擁する、帝国軍の将校だ。


「………」

『―――』


 片眼鏡(モノクル)越しに揺れ動く瞳よりは不審と共に、覗かせるは多大なる動揺。無理もない。今の我が身は人であれば十人以上は軽く入るであろう、一室の凡そ半分を所も狭しとくねらせる白き大蛇。よりにもよって会談の場面に入ってすぐに、また変異が始まってしまったから。


『こんな異形の物語りへと素直に耳を傾けてくれた辺りを見るに、あの子達にかけられた嫌疑は晴れたと受け取っても構わないかな?』

「すぐには、返答しかねるな」


 最大限に警戒を強めるジェラルド将軍の傍よりは、ボルドォからの刺す様な目線。実に場違いな話ではあるけれど、あの悪意に満ちたスロープ塗れな罠地獄の最中に変異が起こらなくて、本当に良かったと思う。

 そしてこの様な悪夢じみた現実を目の当たりにして尚騒ぎ立てる愚を犯さない、ジェラルド将軍の物静かながら並外れた胆力にも称賛を。少なくとも当時の我が彼の立場に立たされたとすれば、この様な奇奇怪怪とした存在、有無を言わさず精霊達へと総攻撃の指令を下す位はしていたに違いない。


『それで、こちらの事情は語ったんだ。そろそろ君達の握る、我の求める情報とやらもお聞かせ願いたい……よもや裏が取れるまでこのまま監禁、などと失望させてくれる真似はするまいね?』


 我ながら器用に誂えられたソファの背もたれへと蛇頭のみを乗せ、挑発じみた物言いを試みる。

 生理的な嫌悪感は間違いなくあろうに、じっと異形たる貌より眼を離さない。不詳この我、この手の輩との関わりはその生い立ちより、嫌と言う程に味わっている。そして皮肉な事ながら、こういったひりつくやり取りもまた、嫌いではないんだ。


「……君はあの姫君と、実に気が合いそうだ」


 姫君、だって?

 こういった場での人の言というものは、何らかの意味があって然るべきではあるが、また話の脈絡から突飛に飛んだ発言が出てきたものだ。


『今の帝国で皇族と言える者は、直系の血を継ぐ皇子が二人のみと聞いているが』

「正確には危急の事態に備え、現帝の弟君であらせられるギーズ・アイン・デュ・トリュフォー猊下を含めての御三方に高位継承権が存在する、だな」


 デュ・トリュフォー。嗚呼、懐かしきはあの詐欺師の家名。あの男は、結局疎んでいたその名を捨てられなかったのだな。

 幾許かの感慨を込めて、過去の想いを通じ合わせた名を零す。その際にぴくりともさせずに鉄面皮を貫いたジェラルド将軍の脇へと控えていたボルドォの、ほんの微かな気配の変遷に気付かぬ我ではない。


「君の意に添えず、申し訳ないが。この件についてはどうやら、我々よりも適任となる者が居るようだ」


 申し訳なさげな目線を送るボルドォへと一つ、頷いたジェラルド将軍。そう言って呼び鈴へと手を伸ばし、その中途に部屋の惨状に目を向け軽く肩を竦めて返す。この場合、次へと進む障害が一つ減ったと喜べば良いのか、あるいは更なる面倒事の予感に頭を抱えるべきか、悩ましい所だな。


「改めて。出し抜けに驚かせてしまって済まなかったね」


 昨夜に念じた要領で、都合三度目となる白き妖精の姿を象った。

 あの時に比べ、我が身により湧き始めつつある活力。そこにあの神殿との奇妙な関係性を連想させつつも、さて次は何が飛び出してくるかとこれ見よがしに溜息一つ。何故だか揃って硬直してしまった二人に首を傾げつつも、ようやく落ち着いてソファへと身体を埋めるに至った。


「失礼しま……っきゃあああっ!?」


 一つ、余談として。従者らしき神職の少年が入ってくるなり、可愛らしい悲鳴を上げた所で我が身の現状を思い知る。そういえば昨夜も目覚めた際には既に、身に纏う衣が替えられていたっけ。

 サップ君、またもや役得ハプニング。実際獣化といい、服のリカバリーとか毎回どうしてるんでしょうかね。


 次回投稿、今夜半~明日早朝となります。連休中にあと二回、頑張るぞー(白目

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