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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第三章 人狼の村事変 編
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第038話 持てる者持たざる者の悲喜交々

 夏休み用と言う事でサービス回。海水浴で水着回をやりたかったんだけど話の流れ的に間に合わなんだ……。

 Scene:side 扶祢


「うぅ、まだゲロの匂いが沁みついてる気がする……」

「じゃから何度も謝っておるじゃろうが」

「アー、温かく温かくて気持ちイー」


 昨日のドンチャン騒ぎの後遺症で起きた時は二日酔いが酷かった。

 そこら中に大人達の寝ゲr……吐瀉物がまき散らされてて吐き気がする程に臭いが酷かったので、まだ数時間しか寝てなくて眠気も酷かったけれど裏のお風呂を借りる事にした。

 そしていつの間にやら起きてきたピノちゃんとシズ姉と共に昨夜の汚れを落としている最中なのであります。


 昨夜のカオスっぷりを思い出しながら二人を見てみたけれど、二人して二日酔いの様子も無く、今も気持ちよさそうに身体を洗い流している。

 ウワバミのピノちゃんは兎も角として、シズ姉も相当飲んでたし戻してもいた筈なんだけどなぁ……もう二度と飲んでるシズ姉の隣には行くまいと決意を新たにした瞬間だ。


「そんな軽く謝られてもこの心の傷はまだまだ癒えませんよーだ!」

「全く、この程度の事をぐずぐずと引き摺るとはまるで稚児じゃな――そういえば汝、今幾つなんじゃ?見たところまだ阿紫のようじゃが」


 シズ姉の言う阿紫っていうのは霊狐の位階の事なのね。

 詳しい事は忘れたけど、私達霊狐の中でのみ通用する階級みたいなのがあるらしくって、阿紫っていうのは阿紫霊狐、の事だっけ。

 何でも霊狐達は生まれてから五十年位までは阿紫霊狐、つまりただの狐として過ごすんだそうです。その後霊場に移り修行をし始めてようやく次の段階に行くらしいけれど……正直そんな事言われても気が遠くなるだけだったから、当時の母さんの話は割と右から左に抜けてた気がする。

 母さん自身も今の世の中もはや形骸化されていて大した意味が無いから知りたければ自分で調べな、とあまり教えてくれなかったからね。だから実は、私も霊狐についてはネットで検索した程度で何となくしか知らないのです。


 おっと、ちょっと子供の頃の話を思い出してぼーっとしちゃってた。シズ姉が不審げにこちらを見ているし、質問に答えるとしましょうか。


「十八だけど?」

「なっ……まことに稚児ではないか!?」

「えー。これでも高校までは卒業してるし後二年で一応成人する歳だよ?」

「それは人間の話じゃろが!あンの糞婆、一体何を考えておる……」


 質問に答えただけなのに何故かシズ姉が母さんに激昂しちゃったな。母さんもシズ姉の話なんて私が生まれてこの方一切していなかったし、もしかして相当深い因縁でもあったりするのかな?

 それはそれとして、シズ姉ってもしかして今の日本の妖怪事情を知らないのだろうか。


「シズ姉、もしかして最近日本に居なかったりする?」

「うん?ここ三百年程は異界を巡っておるな。最後に故郷の土を踏んだのはそうさのぉ……百年程前じゃったか」

「ナンカ、桁が違うネ……」

「うん……それじゃあ無理ないかー」


 こうして、実例(シズ姉)に直で話を聞くと、やっぱり私も妖狐だったんだなぁと実感する。母さんはあまりこういう齢を感じさせる事を言わなかったのもあってか、百年単位を数年程度のつもりでさらっと言える感覚は私には想像も付かないよ。


「今の日本では妖怪達も互助組織を作っていて、人間の中に溶け込んで細々と暮らしているんだよ」

「――資料を見て知識では知っておったつもりじゃが、実際に今を生きる者の口から語られると物悲しいの……」


 ……う、地雷を踏みかけたかも?シズ姉何だか寂しそうな顔をしちゃってるな。


「シズ姉……まぁほら!今でも根性のある妖怪連中は色々騒ぎを起こしたりもしてるみたいだし!」

「それも直ぐに同じ妖怪の互助組織とやらに取り押さえられて闇に葬られ、精々がワイドショーにちょっと取り沙汰されるだけじゃろ」

「……結構詳しいね。ワイドショーなんて言葉知ってるんだ」

「こう見えても情報にだけは困らん環境におるでな」


 そんな事を言いながら胸を張るシズ姉。百年以上も日本に戻っていないらしいのにここまで詳しいだなんて、この人は一体何をやっているのだろうか。


「……それにしても、稚児とは思えん程にうらやま、いやけしからん育ち方をしとるのぉ」


 そんな事を言いながら、私のそれなりに自信のある膨らみを揉みしだくシズ姉―――


「――って、イタタタタ!?痛い痛い!何すんのよ!」

「全く、何食ったらこんな発育が良くなるんじゃ……元の素材は似たような物の筈じゃというに」

「むぅ、考えられるのは父方の遺伝と成長期における食生活の差とか?」

「さらっと真面目に童の日頃の努力を全否定するような事を言わんで欲しいのじゃ……童なぞ未だに牛乳を飲んで毎朝セルフ体操もしとると言うに、ぐぬぬ」


 どこか哀しげに日々の苦心を吐露しながらちょっと落ち込みかけるシズ姉。これは間違いなく地雷臭しかしないし、これ以上踏み込んで起爆させるのは頼太辺りに任せよう。


「ふぅ、やっと臭いが取れたかな」

「朝風呂って気持ち良いんだネェ」


 ピノちゃん、ナイスタイミング。


「だよねぇ。陽の光を浴びながらの朝風呂は温泉にきてるみたいで気持ち良いです」

「……なんぞ話を躱された気もするが。確かに飲んだ後の湯浴みはいつの時代もたまらんの」


 うし、セーフ。シズ姉も話に乗って来てくれた気はするけれど、どうにか地雷原を回避出来たみたい。


「いつの時代も、って言い方を聞くと年季を感じるわね」

「汝も生き続けておれば何れこの感覚も解るじゃろ」

「そんなもんですかー」

「うちの里の爺婆モ似たような事言ってたナァ……シズカも結構BB――アダッ!?」


 ピノちゃん。そういうのは頼太が肩代わりしてくれるんだし、無理に痛い思いをしてまで言わなくても良いのよ?


「童は既に肉体の寿命などとは無縁じゃからして永遠の美少女なのじゃ」

「うわぁ……ちょっとは齢考えよう?」

「――あ?」

「いえ何も問題ありません!マム!」


 こんな朝なのに眼が!今紅を通り越して金色に光ってたよ!?顔付きもなんか色々と吊り上がってて怖いよう……。

 つい反射で敬礼して、その反動で揺れたクッションを見たシズ姉の顔に宿る殺意が心なし増加した気もするけど私は何も見なかった!何も見なかった事にしよう!


「シズ姉、一瞬顔が狐憑きみたいになってたよ……」

「……童は元々狐じゃからして狐憑きとは言わんじゃろ」


 そういえばそうでした。しかし私も激怒するとあんな怖い表情になっちゃうのだろうか、ちょっとそれはやだな。


「汝はどうも自分が妖狐だというのをあまり自覚しとらんようじゃな。まだ稚児じゃし詮方無いが――」

「と言われてもねー。霊術を別にすれば私の妖狐の知識なんてインターネットで検索した適当知識だからさ」

「そこじゃ、先程もじゃがサキは一体何を考えとる?人間共の悪逆非道なぞ腐る程見てきているであろうに、わざわざその中に放り込もうとするなぞ……せめて霊狐の社会の仕組み位は教えても良いじゃろうが」


 そこはシズ姉に同意だね。昔私も母さんに似たような事を言った覚えがあったけれど、普段は割と放任主義な母さんがそこだけは頑として譲らなかったからなー。お前は無理に霊狐の色に染まる必要は無いんだ、とか何とか。


「うーん、私が生まれてからさ。シズ姉を別とすれば自分以外の霊狐って母さんしか見たことが無いのよね。母さん曰く、もはや飯綱や稲荷自体が見える者も少なくなっており、実体を持って本性を隠し、人に溶け込んで暮らすのが今の霊狐……に限らず妖怪達のスタンダードなんだとか?元々私は変なモノを受け継いでもいるから、あまり狐っぽくはない……のかもしれないけどさ」

「シズカと見比べてみると良く解るケド、扶祢って獣としての狐っぽさハ確かにあんまり無いよネ」

「うむむ……今の日ノ本はそこまでの有様になっておるのかや。しかし、解せぬな……童が居た頃は、もっと――」


 私が現代日本の仕組みを軽く教えると、シズ姉は何か思う所があったのか腕を組んで唸り出してしまった。


「腕組みが様になってんネ」

「ん?まぁこれも年季のなせる業じゃな」


 ピノの発言に気を良くしたのかドヤ顔で腕組みポーズを見せつけるシズ姉。何というか可愛い。しかし―――


「扶祢がやるとどうしても上のおっぱいが邪魔しちゃっテ、むしろ腕を組む事デ下からソレを強調しちゃうモンネ」


 と言って、後ろに回りその小さい手足で踏ん張ってどうにか私の腕を組ませようとする。ピノちゃんやめてやめてやめて下さい!眼っ、シズ姉の眼がっ……。


「うぐぐ、発育ばかり良い稚児とか何の嫌がらせじゃあ!?童じゃってもっとこうボンッキュボンッとなって雄共を誑かしたいのじゃー!何がステイタスじゃ希少価値じゃ!童に寄ってくるのは幼女趣味の変態(ロリコン)共しかおらんではないかあっ」


 うん、そっとしておこう。自分の絶っぺ……慎ましやかな胸を撫で下ろして泣きべそをかき始めてるし、触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず、シズ姉も色々あったんだよね。ついホロリと貰い涙を流してしまいたくなる気分だよ。気分だけだけど。

 ピノちゃんも危険な雰囲気を察知したらしく、目配せをしながら共々フェードアウトをし始める私達。でも―――


「――逃がすと思うかぇ?」


 その底冷えのする声にビクンッと体が震え、泣きたくなる気持ちを抑えながら恐る恐る振り向くと……半分だけこちらへ向けた顔から覗く、耳まで裂けようかという程に吊り上がった口の端がくぱぁ―――


「でっですよねー!」

「ボクは無実ダ!?」

「要らん刺激したのはピノちゃんじゃないのさ!」

「何オー!?この可愛いボクを助ける位の侠気(おとこぎ)を見せても良いダロー!」

「そんな暑苦しいのは野郎共に任せれば良いのだわ!ピノちゃんも死なば諸共ーっ!」


 遂には二人してパニック状態になっちゃって、状況も弁えずに醜い争いを始めちゃったんだ。でもそれが逃亡への最後の機会を失ってしまう要因となり……。


 ―――がしっ。


「まぁまぁ、二人共諍いはよすのじゃ。ここは仲睦まじく揃ってお仕置きといこうかのぉ?」


 その日、難事件も解決し皆が安心しきって寝静まる朝の穏やかな空気の中、場にそぐわぬ二種類の絶叫が村中に響き渡りましたとさ。シクシク……。


 ・

 ・

 ・

 ・


「あ"ー……酷い目に遭った……」

「とんだとばっちりダヨ……」


 半分位はピノちゃんが悪いと思う。

 あの後、お見せするとR18タグが付きそうな勢いの淫靡な百合の宴が繰り広げられ、精根尽きかけたところで漸く解放されました。触手召喚は反則だと思う、と言うかシズ姉ってどっちもオッケーな人だったのね……以降シズ姉に胸の話題はNG、と……。


「ふぅ、良い汗をかいたわ」


 当のシズ姉はといえば肌がツヤッツヤしちゃってるし、うんまぁお怒りが収まって何よりです。


「ところで扶祢よ、先程ちらと漏らしとった、受け継いだ変なモノとは何じゃ?」

「え?あぁ――」


 着替えの途中にシズ姉からそんな質問をされた、そういえば言っちゃってたな。

 さてどうしよう。他ならぬシズ姉だし、もう今の私には特に影響も無いモノだし、話しちゃっても良いかな?ふと横を見るとピノちゃんも興味津々といった様子で瞳をキラキラさせていた……そういえばピノちゃんにも詳しい事は話してなかったっけ。


「言われてみれば何やら良くないモノが憑いておるようじゃ、童が祓ってやっても構わぬが?」

「だ、駄目!この子は傷ついて苦しんで、ここでやっと休める場所を見つけられたんだからっ」


 その言葉に思わず自らの胸を抱えるようにしてシズ姉から距離を取ってしまう。


「しかしじゃな。汝があのサキの娘でありつつも善狐では無く野狐として在るのも、恐らくソレが原因じゃぞ?」

「それで良いんです!別に今の日本じゃ善狐も野狐も関係ないし……母さんも別にそのままで良いって言ってたし」


 シズ姉がいきなり「この子」を祓うなんて言い出したものだから慌てて声を荒げてしまった。いきなり何て事を言うんだこのひとは。


「ふぅむ、あの婆がそう言うのであれば然程危険なモノという訳ではない、か――」


 そんな私の言葉に、シズ姉は何やか考え込みながら独り言を言っていた。何だかんだで母さんの実力や見極めに関しては信用してるのかな?


「んじゃあピノちゃんも詳細を聞くのは初めてだろうから、話していくね――」

「ワクワク」

「何だか昔話を聞くようで年甲斐もなく心躍るのぉ」


 シズ姉……それ自分がお婆ちゃんって認めてr「何ぞ言うたかや?」……心の声に突っ込まないで欲しいかな。

 そうして、私は脱衣所の外の休憩室に座り、件の「我」の事情を話し始めた。


 ・

 ・

 ・

 ・


「ふむ――異世界の魔王、のぉ」

「ふわぁー……それでサリナが時々言葉を濁してたのカー」


 大方の事情を話し終え、私はお風呂上がりの果実水を飲みながら二人の反応を見る。


「そんな訳だから、我ちゃんの事はそっとしておいて欲しいんだよ」

「相分かった。しかし、ハテ?どこぞで似た話を聞いた気がするのぉ?」

「長いこと生きてるから記憶がごっちゃになってるとカ?」

「やもしれぬな」

「アレッ!?ここ突っ込むところジャ?」

「フッ、妖精にしては聡い部類じゃがやはりお子様じゃな。魂胆が見え見えじゃわ」

「チッ――」


 何だか掛け合いが始まったみたいだけれど、案外すんなり受け入れられたなぁ。二人共特に緊張感などといったものは見られないし、この結果には素直に感謝だね。

 それにしてもこんな突拍子もない話なのに全く動揺する様子も疑う素振りも見せないだなんて、やっぱりシズ姉の生きてきた年月の実経験は相当量が蓄積されてるのかな。


「それじゃぁ、そろそろ野郎共も起きてきそうな時間になったし。戻るとしますか」

「あそこ、出る時酸っぱい臭いが充満してたよネ……」

「出る時に窓は開けておいた故、そろそろ臭いも薄まる頃じゃろ」


 そしてお風呂上がりの温もりに包まれて、私達は宴会場へと戻る事にした。


 ・

 ・

 ・

 ・


「な・な・な……」

「頼太が無抵抗の女にイタズラしてル!」

「………」

「待て!違うんだ多分誤解だこれにはきっと海より深い訳が有る筈に違いない!?」

「くぅ、んーむにゃむにゃ」


 ―――お風呂から戻ってきたら頼太が性犯罪者になっていた。


「ら、頼太?いくらおっぱい星人で好みの大きさだからって。ご、合意の上でなら仕方がないけど、無理矢理はダメだからね……?」

「ちっがあぁぁあう!!マジ誤解だからお前等の思うような変な背景とか全くねーからホント話を聞いてくれ!?」

「……ま」


 余りにも目に余る行為をしてしまった性欲真っ盛りな頼太少年。それに少なからずショックを受けながらもそれでも同じパーティの仲間として優しく諭したつもりなんだけど、そんな私の横では宴会場に入ってきてからずっと無言だったシズ姉が――あ、ヤバ……。


「まぁた巨乳かあぁぁあああっ!!!」

「ウワァアァァァ……」

「ちょっとシズ姉!?……はぶっ」


 ―――轟ッ!!

 

 霊力――この場合の昏さを見るに妖力を通り越して瘴気になってるかもしれない、微妙に息苦しいし――を暴風のようにまき散らしてシズ姉が怒りの権化と化したっ!?あぁ、ピノちゃんが風に攫われて遥か遠くまで……。


「あぁ頼太さようなら。短い付き合いだったけど頼太の事は一生忘れません……」

「ちょっと扶祢さん!?ほんと誤解だからあの人を止めてくれぇええええ!」

「うん、無理……私も死にたくないし」

「えちょっ……そんな看取るかの様な哀しさ溢れる笑顔を向けないでぇぇぇ?!」


 ちょっとあの状態のシズ姉を止めるなんて可能性があるとしたら釣鬼位なんじゃないかなぁ。悼むついでに餞別として極上の哀しみ溢れる笑顔を送ってあげる事にした。

 ……あれ、そういえば釣鬼はどこだろ?隣の悲劇だか喜劇だか良く解らない状況をさて置いてぐるりと見回してみたけれど、目に付く場所には居ないみたい。

 どこかに出かけたのかなと思いながらも頭の中で昨夜の寝る前の配置と照らし合わせていたのだけれども、


「煩ぇなぁ……昨日遅かったんだからもうちっと寝かせてくれよぉ」


 頼太の横で上半身丸出しで寝ていた銀髪の美人さんが、まるで釣鬼みたいな口調で目をこすりながら起き上って来たのです――そういえばその位置、釣鬼が寝てたわよね。

 いい加減シズカの一人称と二人称のルビ振りが面倒になったので「童」「汝」でいきます。二人称は「うぬ」になる時のみ振る感じで。

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