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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第三章 人狼の村事変 編
38/439

第036話 サカミ村事変:決着、げに恐ろしきは―――

 Scene:side 釣鬼


「どこに隠れやがった!」

「……右斜め前ノ、クチノキの上……10mクライ」

「――そこか」


 ッゥン、ドッ――


「ギヒャ……」

「安易に空飛べば逃げられるなんて思うなよ!?何度でも叩き落してやるからなあッ!」

「ひっ、ひいぃ!?」


 俺っちは敢えて大声で恫喝をする。ああは言ったものの奴に空を飛んでガン逃げされちまえば追い付く算段も無くなっちまう。だから多分にハッタリが含まれてはいるんだがな。

 今のところ奴は恐怖に駆られているらしく、森の中を縫う様にして逃げ続けていた。このまま上手く村側へ誘導、若しくはそのまま撃破出来れば言うことはねぇんだが……。

 ピノの容体も心配だ、あまり気は進まねぇが――久々に本気で仕事(ころし)に取りかかるとするかぃ!






 俺っちとピノそしてピコの二人と一匹は、頼太と扶祢が村に残り警備に当たる裏で探索スキルを生かし森の探索をする手筈となっていた。

 その結果、吸血鬼の拠点らしき古ぼけた洋館を発見する事は出来たのだが、奴め何かを異常に警戒していたらしく入口で気配を殺しいきなり天井から振って来るように襲い掛かってきやがった。その際に腕を咬まれはしたんだが、この程度の狂気なら戦場でガチの殺し合いをやっていた時の殺意の潰し合いと比べれりゃあ微細なモンだ。ちっとばかり、普段よりも凶暴にはなっちまっているかもしれねぇがな。


「釣鬼!?大丈夫?」

「問題ねぇ、咬まれるのはこれで二度目だしな。前よりは大分マシだ」

「二度目!?って、アァ、前の話カ……兎も角――火ヨ、生命(イノチ)()(トモ)セ、水ヨ、精神(ココロ)ヲ洗イ清メヨ、光ヨ、(シルベ)ヲ照ラセ、闇ヨ、(マヨイ)ヲ取リ除ケ!――『心身浄化(ピュリファイボディワーク)!!』」

「……お、何だこりゃすっかり良くなったな」


 ピノのかけた魔法で俺っちの中に渦巻いていたどす黒い感情が瞬く間に洗い流されていく。こりゃ爽快だな。


「あくまで一時的なモノだからネ。アイツを倒さないとその内マタなるヨ!」

「了解だ、久々に吸血鬼退治といくかぃ!」


 とまぁそんな訳で吸血鬼と対峙をしたんだが、


「オッーホッホッホ!アタシの好みはそっちの可愛い子の方だったんだけどね。アナタみたいなムキムキもまぁ悪くないから(しもべ)にしてア・ゲ・ル♪」

「ヘッ、何かに怯えてるのか知らねぇが吸血鬼の矜持すら守れねぇ奴が何体裁を繕っていやがんだ?」

「チッ…その減らず口、調教し直してやるわよぉおお!」


 自慢をするつもりはねぇが、この程度の相手ならデンスに居た頃に戦り合った甲鎧竜の方が余程強かった。それ以前にこいつ、吸血鬼の強みを完全に勘違いしていやがったからな。

 こいつは見たところ人族から派生した吸血鬼、確かに身体能力は元となった人族に比べりゃズバ抜けてはいるんだろうがよ。こちとらそれに特化した脳筋族(オーガ)だぜ?そんなものと肉弾戦なぞしようものならば―――


 ズガン!ドスバキボコグシャメキャポキズンッ……ゴッシャァッ!


 絵面で見せられねぇのが非常に残念だが、まぁ大体こんな感じになる訳だ。


「ご、ごふぁ……?」

「上位の爵位持ちなら兎も角、手前ぇ程度の木っ端吸血鬼が俺っちに殴り合いで勝てる道理なんざある筈がねぇだろ?」

「何よ、何なのよアンタ!?」

「これに懲りたら以降大鬼族(オーガ)相手に肉弾戦なんて夢を見るのはやめるんだな。まぁ、生かして返す気は無ぇけどよ」


 そして吸血鬼に止めを刺すべく歩み寄る。だが、どうやらあいつ等と出逢ってから平和な時間が長くて俺っちも少しばかり弛んじまっていたらしいな。つい油断をしちまった……。


「……ホッ、オホホホホ!」


 そして奴が馬鹿みたいに笑い始めその直後―――


「――チッ!」

「ウワァッ!?」

「ギャンッ」


 ちっ、これは俺っちの失態だ……いつの間にか目の前にいたヤツはデコイだったらしく、本体はピノの頭上に。ピコの身を挺した体当たりで咬まれたのは一瞬だったが――そう、ピノも咬まれちまった。その首筋には二つの紅い傷跡が……。


「悔しいけど確かにアンタの言う通りね!それじゃあアンタ達の実力を認めてここからは吸血鬼らしく搦手も使わせて貰うとするわ!」


 そう言うなり奴は夜の森へ飛び出した―――


「ピノ!おい大丈夫か!?気を確り持て!」

「……アハ、さっきのボクと同じ事言ってるネ」


 俺っちの呼びかけに力無く答えるピノ。どうやらまだ正気は保っている様子だが……。


「グッ…『心身浄化(ピュリファイボディワーク)』――フゥ」

「立てるか?」

「イヤ、無理かナ……一瞬でも大分吸われちゃっタ」


 ピノは妖精族だ。妖精族の中じゃ比較的身体は大きいフェアリー族とはいえ、それでも人族の子供程度の大きさだ。その気になれば一瞬で血を吸い尽くすと言われる吸血鬼に咬まれてしまっては、命があっただけ儲けモンというところだろう。


「……油断した、済まねぇ」

「きゅーん……」

「大丈夫ダヨ。身体は動かないケド、眷属化は心身浄化で暫くは何とかなるかラ……」

「そうか、ならその間にあいつを粉微塵にすりゃ良いだけだな」


 どうやら体をまともに動かす事は出来なさそうだ。ピコに乗せても良いが万が一振り落とされちまうと拙いな。俺っちはピノを負ぶり、紐で背中に縛りつける。


「エ?ちょ、ちょっト……」

「苦しくねぇか?こき使って悪ぃが、この夜の森の中で奴の居場所を探るにはお前ぇの神秘力感知がベストだ。後で好きなモン奢ってやるから勘弁してくれな」

「――しょうがないナァ。踏破獣(トランプラー)のモツ鍋食い放題デ手を打ってあげヨウ」

「うへぇ。そりゃ最悪自分で狩ってくるしかねぇか、分かったそれで頼むぜ!」


 ちなみに踏破獣(トランプラー)とは野生の雄牛(ブルホーン)が魔物化したもので、体長5m体高は2m程。食う時飲む時も寝る時すらも常に走り続けているという、街近郊や農村部に出没すると迷惑極まりない魔物だ。

 常に走り回って大気中の魔素(マナ)を万遍なく体に浸透させているからか、それとも元が牛だからなのか、魔物の中では例外的に美味いんだよな。特に内臓(モツ)には凝縮された新鮮な魔力(オド)が素のままで保存されている為、地方によっては踏破獣(トランプラー)内臓(モツ)を食すことにより自身の魔力(オド)の底上げが出来るなんていう迷信まであったりする。

 最近の魔導力学の研究ではそれは根拠のない出鱈目であり、実際には内臓(モツ)に含まれる魔力(オド)が身体の内面には働きかけるものの、精々が美肌効果がある程度だという発表もあったそうだが――それを巡り一時期貴婦人達の仁義なき争いが有ったなんても言われちゃいるな。女の執念ってな、この齢になっても未だよく分かんねぇモンだ。

 何にしろ、供給よりも需要の方が多い割に捕獲の危険度が高い為、非常に高額な食材だ。


 現状ぐったりとして身動きの一つを取るのも辛そうなピノではあるが、これだけ欲に溢れた憎まれ口を叩けるならまだ多少の余裕はあるみてぇだな。


「よっしゃ、それじゃあ大食いのチビ助を救う為に行くとするかぃ!ピコの鼻にも期待してるからな」

「バウッ!」

「大食いは余計だってノ!育ち盛りなだけダヨ!」


 そうかぁ?妖精とは思えん程に健啖家だと思うがなぁ。






 ―――そして場面は冒頭へと戻る訳だ。


「おう、見付けたぜ。よくもやってくれやがったな」

「ヒイィィ……助けて」

「お前ぇは今まで同じ事を言ってきた被害者達を見逃した事があるのか?」


 奴を追跡していたら逆方向から頼太と扶祢が来たらしい。一人見覚えのある顔の見知らぬ狐人族も同行しているみてぇだが、ともあれこうして挟み撃ちの形となったらしいな。俺っちが散々痛めつけたせいで向こう側に襲い掛かる心配もあったが、吸血鬼(オカマ)野郎はは躊躇した後に、何故かこちらへと向き直りやがった。

 あいつら二人が面識がある筈もねぇ、て事は残りの一人の狐人族が原因か……?まぁ理由は分からんが二人と同行している位だから今は問題は無ぇだろう。


「なっ、何でこんな……アンタ達のせいよぉぉぉぉぉ」


 逃げ場が無くなり精神的にも追い詰められた吸血鬼(オカマ)が俺っちへと襲い掛かってきた。そうかそうか、この俺っちに引導を渡して欲しいっつう事だな。






 Scene:side 頼太


「紛うことなきワンサイドゲーム、ってか」

「予想はしてたけど、予想以上というか……」

「ありゃ化物(バケモン)じゃな。ほんに人間なのかや?」


 扶祢やシズカの言葉にも表れている通り、俺達の視界には今、吸血鬼相手の肉弾戦だというのにどちらが化物か分からないような惨状が目の前に広がっていた。

 言うまでも無く釣鬼の奴、打つは投げるは極めるはのやりたい放題。一方相手からは殆ど掠らせもせず、その殺気は本物の鬼もかくやという程だった。

 瀕死となった吸血鬼へ止めを刺すべく、力強い足取りで大地を踏み歩み寄る釣鬼。だがそこに、吸血鬼の最後の反撃が待ち受けていた。


「キハッ…これで二咬み、もうアンタも終わりよぉぉ」


 最後の攻防が起きた後、首から下が殆ど千切れた状態の吸血鬼(オネェ)による、決死の覚悟で突き立てた牙が釣鬼の左腕に突き刺さっていた。


 ―――吸血鬼。その名の通り血を吸う鬼と呼ばれる化物だ。常人ならば一咬みで全身の機能に障害が起き、二咬み目でほぼ死に至る。

 そして、運が悪くもある種の適性を持ち合わせ、二咬み目でも死に至る事が出来なかった者は――魂までをも侵食され、咬んだ者を「親」とする眷属化現象というものが起きてしまう。

 その結果退治すべき対象に取り込まれ、その連鎖によりやがては一国すらも滅びに導くのだ。これが吸血鬼伝説に於ける最悪の事態であり、また通常そこまでの戦闘能力を持たない木っ端吸血鬼までが災害指定一歩手前の危険度を誇る理由でもある。


 今夜の釣鬼はあの吸血鬼曰くこれで二咬み目。適性があれば精神の汚染が始まり、そして無ければ死に至る。どちらにせよ絶望的な事実であった。


 しかし―――


「――それが、どうした?」

「へ……?」


 同時に、釣鬼の抜き手が吸血鬼(オネェ)の胸板を貫いていた。その先には未だ蠢く心臓を握った掌。


「カッ!?ゲゴガガガガッ……」

「消えろ――ピノ」

「土ハ土ニ、灰ハ灰ニ、塵ハ塵ニ…(コトワリ)(オカ)シ現世ニ(ウゴメ)ク不浄ナル者ヨ、大イナル日輪ニ照ラサレ、元居タ闇ノ底ヘ(イダ)カレヨッ!太陽光線(レイズオブサン)!」

「あひっ?イヒギャアアァァァ……」


 光と闇の精霊による複合浄化魔法の輝きに包まれ吸血鬼(オネェ)が断末魔の悲鳴を上げ続け……その絶叫も徐々に小さくなっていく。そして魔法の輝きが消え去った後には僅かな塵が漂うのみだった。

 流石というか何というか、これで一件落着かな?


「結局、(わらわ)の出番が無かったの。これまでの苦労は何だったんじゃ……」

「まぁまぁ楽出来て良かったじゃないか。皆もお疲れさん」


 ここ数か月村の防衛を頑張ってくれたシズカがそんな事をぼやいてはいたが、終わり良ければ総て良しってね。


「おっつー、ところで何でピノちゃん釣鬼の背中に縛りつけられてるの?」

「あぁ、こいつあのオカマに咬まれちまってな」

「咬まっ!?ピノちゃんちょっと大丈夫なの!?」

「大丈夫ダヨー、トドメ刺したのボクだしネー」

「ほ~、この世界の吸血鬼も大本に直接止めを刺せば眷属化の呪いは解けるんじゃな」


 おいおい、ピノまで咬まれてたのか。さっきの魔法で本体が浄化されたのはシズカも感知していたらしいから安心だけど、一歩間違ってたら大変な事態になってたな……。


「そういやこちらさんは一体誰だ?本当に扶祢にそっくりだなオイ」

「でもそれを言ったらさっき釣鬼も二回咬まれてるって言ってなかったか?大丈夫かよ……」

「まぁ慣れてるしな」

「慣れるものなの!?」

「わふぅ……」


 どうやらお互い聞きたいことがありすぎて会話がカオスになってきたようだ。まずは村に戻ってから落ち着いて話し合う事にするか。

 こうして無事にサカミの村の事件の黒幕であった吸血鬼を斃し意気揚々と村に引き揚げる俺達であったが、その道中、俺は恐ろしい事実に気付いてしまったんだ……。


 釣鬼が生身で吸血鬼を圧倒した、それは良い。本当は良くないのかもしれないが釣鬼だし、前もソロで退治したって言っていたからな。

 だがよく考えて欲しい。俺達の前に姿を現す前の悲鳴と怒号からも分かる様に…… 吸血鬼相手に(・・・・・・)全く苦戦を(・・・・・)していなかった(・・・・・・・)

 そして、かの岩軍鶏のボス鶏とは試合形式だったとはいえお互い重症を負う程の引き分け―――




 つまり鶏>吸血鬼の図式が成り立ってしまった……なんて恐ろしい世界ッ!?

 オチが、オチが欲しかったんですっ!

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