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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第十一章 魔を誘う祭祀 編
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第270話 妖精郷に生きる禍々⑤

 ――― RAITA01 さんがログインしました。


raita02:

お、来たな。


michiru:

わんわんっ!


RAITA01:

え。なにここ?つかお前ら。


raita02:

よっ。ここはまぁそういう仕様だ、細かい事は気にすんな。


RAITA01:

いや、気にすんなって……うわぁっ!?何だこの腐れジジイ?


?????:

無垢ナル肢体、ヨゴゼエエエッ!儂ハ、マダアノオ方ニ面スルマデ、消エル訳ニハイカヌノダァァ!


LIE:

よくは分からないが、急に入って来て大暴れをしてくれたからな。これ以上汚物を撒き散らされても堪らないから、取りあえず踏ん縛っておいたんだが。流石にこれで許容量いっぱいだな。


raita02:

いったい外じゃあ何が起きていやがんだ?ミチルはわんわんとしか言わねーし、オレ達さっぱりなんだけどよ。


RAITA01:

まずお前らが何モンだよって。まさかアイツの仕業か?


raita02:

だから仕様だっつってんだろが。俺の癖に飲み込みわりーな。


RAITA01:

俺、そんな一を聞いて十を知る様な有能じゃなかったよね!?凡人にも分かり易い様、もうちっと筋道建てて説明しろっての!


michiru:

わふぅ……。


LIE:

全ては夢、幻の如くってね。睡眠時の記憶整理とか、あるいは現状の内的描写の類とでも思って貰えればいいさ。


RAITA01:

それ、夢幻と言いつつ身も蓋もない現実的な話じゃね……ってうぉぉ!?何だこれ、吸い上げられるぅぅぅぅ……。


 ――― RAITA01 さんがログアウトしました。


raita02:

あー、やっぱ許容量オーバーか。本体の癖にここから真っ先に追い出されるとか、相変わらず『俺』ながら面白い事やってんなぁ。


LIE:

元は虚像である俺からすれば、あそこまで満喫出来るのも羨ましい限りではあるけれどもね……さて、俺もそろそろ時間切れか。


raita02:

へいよー。わざわざ出張って貰っちゃってわりーな。オレ一人じゃあどうにも抑え込むのがきつかったんでね。


LIE:

俺も全く縁の無い身でもないからね。こちらのミチル経由で知らされた際には随分と驚かされたものだが、中々に新鮮だったよ。


 ――― LIE さんとのリンクが切断されました。全記録を抹消します。


rai影ta02:

しっかしあれだよな。普通こういう場合『影』である側は都合よく外の全てが見えたりーってパターンだと思うんだが。見えるは見事に『俺』が見聞きした後の内面情報ばかり、味気ねー話だぜ。


miチru:

くぅーん……。


影ai法taシ:

あぁ、気にすんなって。これはこれで楽しめてるんだからよ――本来の住人が居なくなったからか、ここも閉鎖されるっぽいな。そんじゃ、オレ達も押さえ込みに戻るとしますかね。


miチル:

わんっ!


 ――― **師 さんがログアウトしました。

 ――― ミチル さんがログアウトしました。








 目覚めは最悪、と言いたいところであるが、実のところ体調としてはそう悪くはなかった。室内であるらしきこの場の天井を眺めたまま、それよりも、と呟く。


「……何故に対話方式?」

「起きたッ!どこか苦しいところ、なイッ?」


 こういう類の夢?は起きたら忘れていて然るべきだと思うんだが。しかも最後は意味不明に強制排出を喰らっての夢落ちエンド。一つだけ判明しているのは、そろそろあの駄天使、自重という言葉を覚えよう?

 その苦情を訴えるべく心の裡へと呼びかけてみたものの、返ってくるのは夢の中でのアナウンスと同じく、変わらず留守の旨を伝える自動音声。という事は、リセリー本体が積極的に関わっている訳ではない、のか?


「頼太?頼太ッ!正気に戻れェッ!」

「ごふぁっ!?」

「ピエラっ、落ち着いてっ!」


 夢の中の出来事ほか諸々の関連を吟味していたところに不意に襲い掛かる、頭蓋の芯にまで響く程の衝撃。あんな出来事の後で呆けていた俺にも非がなくはないが、せめてこういう時くらいは可愛らしくコークスクリューブロウ以外の選択肢を取ってほしいとも思う。


「おー、いってぇ」

「アイタッ!?……ふえーン、良かったヨォ」


 頬に残る痛みに残っていた眠気も完全に醒め、その泣きっ面へとお返しのデコピンをした後に起き上がって辺りの状況を確認する。

 まず目に映るのは床に臥せっていた俺の左右に並ぶ線対称。片やフェアリーそのものを体現するかなおずおずとした素振りを見せながら、それでも俺の身を案じる様子で覗き込んでくれる白金の娘。そして片や性質としては真っ向反するかな激した様子のままに俺の全身を慣れた手付きでまさぐり、診断を始める金の幼女。

 その傍らにはそれぞれ金銀の狼が一頭ずつ。これもまた社を護る狛犬を想わせる対照を形作り、入り口付近に伏せていた。


「――恐るべきは、穢れの人族よ」


 その声に、このそう広くはない社の最奥に鎮座する最後の一人を眺め見る。姿形としては双子に酷似をする幼い見た目ながらも、その燃える様な真紅の毛筋は見る者に強烈な印象。そしてその目に湛える警戒と疑念の色もまた、紅く灯されていた。


「くそじじい。姉ちゃんを助けられておいて、まだそういう事を言うカッ!」

「爺様、あんまりです!」

「否。我等が手出し敵わぬあの穢れ、それを独り留めるは理解し難し」


 出し抜けに始まった口論にしかし俺は何も言えぬまま。口を挟もうにもこの三人が語る内容はどんどんと移り変わっていって、しまいには妖精族の掟とやらについて熱論を交わし始めてしまったからな。

 そのまま遣る瀬の無い想いを視線に乗せて向けてみれば、傍らでもまた、親狼による牽制の唸り声に縮こまるピコの姿。もう俺の内部へと入り込んでしまったアレの存在についての話は完全に置き去りにされているみたいだし、腹も減ってるんで一先ずは栄養補給にいきたいんだがなぁ。


「あっ、ごめんなさい。長くなると思うので、外でお待ちいただけませんでしょうか」

「あざっす!」


 結局、緊張に堪えかねたらしき俺の胃袋の主張が鳴り響いたところで気を遣ってくれたピアがそう申し出てくれた。二人の爺様らしき紅髪の妖精族はやはり難解な言い回しで何を言っているかよく分からないし、ピノはピノでそんな爺様への敵意が剥き出しで、もうこちらへは見向きもしない。

 若干覚束ない足取りのままに歩き始めた俺へ救けを求める様に向けられる一対の視線。それに苦笑を見せ、金毛に覆われた頭をぽんと撫でて外出を促した。


「がぅ」

「くぅぅ……」


 種族としては別物と化そうとも、親からの一言が堪えるのはどこの世界でも変わらない。しっかりと何事かの釘を刺されたらしきピコは耳を寝かせて尻尾を丸め、そそくさと俺の後へと付いてくる。こういうところを見ると、やはりこいつもまだまだ子供なんだなと思う。


「お、目が覚めたか。ちびっこ達の慌てっぷりを見る限り相当やべぇ状態だと思ってたが、無事で何よりだな」

「……アレをまともに受けて、よく平然と動き回れるな」


 建物を出た俺を出迎えたのは物言いの温度こそ差があるものの、先のやり取りに晒されていた俺としてはほっとする出迎えの声。


「それで、アレの悪影響などはないのか?あの社に運び込まれた時には尋常な様子ではなかったが」

「今うちのちびっことその爺様とやらが大喧嘩中でね、それどころじゃなくって出てきたんすよ。あー腹減った」

「あぁ、それでここまででっかい声が響いてるって訳か」


 おっさん、納得の呆れ顔を見せながらも確保していてくれた俺のリュックを返してくれる。その中より今回の旅用に仕入れておいた干し肉ブロックを取り出し、ナイフで二切れ程削った後に片方をピコへと投げ渡す。うーん、良い塩梅の塩味と脂のハーモニー。寝起きの身体に染み渡るぜ。


「ありゃ?そういやニケの奴、どこいった」


 噛み応えだけはある塩漬け肉をもにゅもにゅと噛み続け、水筒の中身と共に嚥下をして一息を吐いた後に最後の一人の不在に気付く。普段はふよふよとその辺で幸せそうに浮いているってのに、気付けばどこかに行って見つからない事も多いからな。旅のお伴にと樹精神殿から預けられた身としては、しっかりと保護監督責任を務める必要があるのです。


「精霊のちびっこならそっちの森の中に入ってったぜ。潜んでいた妖精族の連中に釣られたようにも見えたがよ」

「了解」


 流石はガラムのおっさん、ニケの所在だけではなく既に妖精族達の姿までも捉えていたとは。

 この広場内は集落と呼ばれる割に、人影が殆ど見られない。たまに森の側から視線を向けられる気配を察してはみても、そちらを振り向けば見た目としてはもぬけの殻だ。彼等のホームグラウンドであるこの森で、既に周囲は宵闇の中。探索業のプロの呼称は伊達ではないらしい。

 生憎と俺の本日の『着火』使用回数は限度を迎えている。ピノ達に頼もうにも口論中らしく、相変わらず言い争いの声が聞こえてくる。おっさん手持ちの雷の魔極から少しばかり火花を拝借し、簡易的な松明を灯した後に俺は再度森へと足を踏み入れた。

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