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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第一章 異界との邂逅 編
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第002話 おいでませ異世界

 未だ朝露に濡れ肌寒さが残る山間の早朝、俺達は昨日の穴の前で呆けていた。


【おいでませ異世界】


 俄かには理解が追い付かず、その文字を眺める事十数秒。そして互いにそれを認識しているという現実の確認作業にこれまた十秒程。

 随分とファンシーな看板があるなァ。ちょっと一瞬あまりな脱力感漂う現実に思わず目眩がしてしまったが、気を取り直し穴の周囲を調べてみる事にした。


「なんか昨日よりも直径が広がってないか、これ」

「ふっふっふ。こんなこともあろうかとサバイバルグッズの数々を用意しておいたのよ」


 お隣の見た目と中身の乖離が大きすぎる子は軍用バッグかと思う程のでかいリュックに手引きカートまで持参しており、どうやらやる気に満ち溢れているようだ。その少しはみ出してる棒みたいなのなんて、簡易テントの支柱だよね?なのに和服。趣味か、趣味なのか。


「そんなに荷物満載でどうやって登る気だよ、それ……」

「ここで好感度を稼いでおけば後々フラグが立つかもよ?」

「好感度言うな」


 俺の素直な疑問に対し、流し目をこちらへ向けニヤニヤとした笑みをこちらへ向けながらそうのたまう扶祢さん。明らかに楽しんでやがるなこの子……お返しにそっけなく返しつつも、カート位は引っ張り上げてやった。リュックは自分で責任もって背負いなさい、見た所相当鍛えているみたいだし。

 ちなみに薙刀と耳と尻尾は常在戦場らしいです。本人曰く、


「ほら、この看板に書かれてる事が本当ならこの洞窟の先の世界にはファンタジィな種族も居そうじゃない?もし現地にケモミミな方々とかが居たとして、定番とも言える人間に対する強い警戒心を抱いていた場合でもきっとこれならいけると思うんだよっ」


 との事だ。嗜好だけじゃなくて頭の中身全般が残念な子だったか……目の保養にはなっているから良いけどな!

 それはそれとして梯子を伝って洞窟に入ると外の空気とは一変し……などという不思議現状もなく、強いて言えば陽の光が直接当たらない分、内部は若干ひんやりとしているかな?といった程度の印象だった。


「あんまりぱっとしないわね」

「……だな」


 そんな感想を漏らす俺達だったが、直後はっきりと感じる程に不気味さと寒気が増してきた。いや、後付けでこんな事されても。外の看板といい逆に一層人工物っぽさが増した気がするんだけどな。

 その後、基本的には一本道な洞窟を抜けて、見えてきた出口から外へ出る。そこに見えた光景は―――


「お~!」

「洞窟を抜けるとそこは見渡す限りの大平原、入る前に居た山の麓とは明らかに地形が違うな」

「説明台詞説明台詞」


 仕方が無いよね。ここまで非現実を突きつけられたら動揺してつい説明台詞になっちゃっても無理は無いと思う。

 洞窟――穴というもの何なので便宜上そう呼ぶことにしよう――へ入る前の場所は小さな山の麓といった位置にあり、その山自体もここまでの広さの平原を内包する面積ではない。つまり、空間的な繋がりとして有り得ない事が今目の前に現実として広がっていた。こんなものを見せ付けられては心に響かぬ方がおかしいというものだろう。


「これであの看板が無ければもっと感動したのにね」

「だよなぁ、あれはないわ」


 ほんとないわー。


 さてどうするか。この現実を目の当たりにした今でも半ば半信半疑ではあるけれど、ここまで広いと大量の荷物を抱えて徒歩での日帰りは現実的とは言えないものな。

 と俺が辺りを眺めながら悩んでいると、扶祢さんが何かを見付けたらしく俺の袖を引く。


「ねぇ、あそこに何か建ってない?あの木の傍」

「うん?」


 言われてみればあるような……でかい木の脇に茶色い何かが見える。他には特に目標物も無いしまずはそこを目指してみるか。あ、勿論洞窟の位置と太陽の方角はメモってからな。思うままに進んだはいいけど迷って戻れませんでしたじゃ洒落にならないしな。


 これまた日本じゃ中々お目にかかる事の出来ない見事な平原を歩く事暫し。徐々に緑の量が増え始め、やがて森が見えてきた。

 こうして見回してみると、やはり広いだけはあって随分と風通しが良さそうな平原だよな。こんな場所で肉食獣なんかに襲われたら逃げ場が無いが、特に何かと遭遇することもなく無事目的地へ到着。

 そこには高さ20m程の木の下にログハウス風の建物が建っていた。その辺りから若干傾斜で下りになっており、更に100m程先からは森が広がる。リアルアマゾン……?って位に広いなこの森は。


 まずは分かり易く目立つこのログハウスにお邪魔してみますかね。


「すみませーん」

「誰かいませんかー」


 ドアの前に行き、ノックやら声かけをしてみるが数分経っても反応無し。窓際からも覗き込んではみたものの、特に誰かが居る気配は無さそうだ。


「誰も居ないみたいだな」

「お邪魔しまーす」


 中も至って一般的?なログハウスっぽい。壁や床板は落ち着いた色調で木目も綺麗だし、何となく癒される感じがするね。まずは荷物を置いて一息吐くとしよう。


【ようこそ異世界の旅人達。色々と準備が出来ていない人も居るだろう、慣れるまではここを拠点として使ってくれたまえ】


 ソファに寛いでふとテーブルを見ると、そんなメッセージ?が書かれていた。


「二階にも誰も居ないね、生活の形跡らしきモノはあるみたいだけど」


 扶祢さんは早速家探しをしてきたようだ、元気だなー。

 こんなんありましたけど、とテーブルを指さす俺。それを見て扶祢さんは何故か不満顔になってしまう。どうやら異世界モノっていうよりもアトラクションみたいで納得がいかないらしい。つくづくこの子は拘りが凄いな、言いたい事は分かるけどさ。


「まぁ折角こう言ってくれている事だし、まずはここを拠点としてちまちま探索するとしますかね」

「むぅ……そうだね。それじゃあ平原はだだっ広いだけだし、とりあえずは森からかな?」


 一先ず嵩張るものだけをログハウスに残し、俺達は目の前に広がる森へ向かう事にした。

 尚、このログハウス内には親切に人数分のレンタル鍵まで備え付けられていた。至れり尽くせりで有難い事ですな。






 場面は変わって森の中―――


 鬱蒼と生い茂る木々の数に比例する、圧倒的なまでの緑の香り。俺達の住む深海市も山に囲まれているので自然は慣れ親しんだものではあるが、ここは自然の濃さとでも言おうか、そういったものが段違いだった。

 ただ思ったよりも下生えは少なく、木漏れ日もそこそこ降り注ぐので内部でも明るく余り苦労せずに歩を進めることが出来ていた。しかし……、


「……頼太君、提案がございます」

「何でしょうか?」

「このまま歩き続けても目的が見えず心が折れそうなので、まずは森沿いにでも歩いてみませんか!」


 ですよね、というか最初に気付けよ俺等。どうやら二人して自分で思っているよりも随分と舞い上がっていたらしい。


「そうそう都合よくファンタジー生物なんかに遭えるわけがないかー」

「危険だし装備が揃うまでは遭遇しないに越したことはないけどな」


 見た目だけならくっころさん(*1)と言えそうな美人も横に居る事だしゴブリンやオーク位なら釣れるかと思ったけど、そこまでご都合主義にはならないか。

 という事で来た道を戻るべく回れ右をする俺達。



「…………」

「回れー右」



 森の外へと戻るべく振り返った俺達の目の前に佇むその姿。そのまま合計360度の回転をし、その勢いを利用して並んでダッシュ。


「ファンタジィイイッ!?」

「フォレストジャイアントォッ!!」


 こんなご都合主義は嫌すぎる!


 とりあえずデカい。オーガとかトロルとかそんなレベルじゃない、体高5m以上はあるんじゃないかコレ!?

 ちなみにフォレストジャイアントというのは隣の子の説明台詞だ。名前の通り森の巨人なのだが、何も全力ダッシュ中にンな事説明せんでも良いんじゃないかなと思うんだ!割と絶体絶命的な状況なのにどこか生き生きした表情だしつくづくどっぷりと浸かってやがるなこの子、俺も人の事言えないけどさ。

 

「ガァアアアアアアアッ」

「ゴオオオァアアッッ」

「グァラアアアアアッ」

『『増殖したー!?』』


 いつの間にやらどこから増えたのか現在三体の巨人と鬼ごっこの真っ最中。流石に扶祢さんも顔が引き攣り始めているようだ……ってンな悠長に観察してる場合じゃねぇ逃げろ逃げろ逃げろ!!


 ―――ドドドドドドドドドドドッ!!


「プギュッ!?」「ギャベシッ!」「キャイーンッ」


 俺達が逃げる直線状に居た、これまたファンタジィ的な障害物を避けたり振り抜いたり蹴り飛ばしながら突っ走る事十数分。そろそろ息が切れ始め体力的にもきつくなってきた頃、森が開けて大きすぎる池が視界に入ってきた。

 そこで俺達が目にしたのは―――


「――んぁ?」


 先程の巨人達程では無いけれど、俺達よりは遥かに上背のある筋骨隆々な大鬼がのんびりとした様子で釣りをしていたみたいです。


 あれ、もしかしなくてもコレ、俺達詰んだ……?

*1:「くっ殺せ!」で人気の姫騎士や女武者達のこと。大体オークやゴブリン、盗賊辺りに捕まって18禁な目に遭う流れが主流。凛とした気高き気の強さを堕とすシチュエーションが良いらしい?なんだかんだでいつもあっさり捕まるので、一部では隠れビッチ説を提唱する研究者も居るのだとか。

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