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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第十章 神墜つる地の神あそび編
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第212話 過去をうつろう帝都の律べ:前編

「格好良い名前、募集中なのですっ!」

「まだ言ってたのかよ……」


 ミーアさんの信仰の一件の報告も終わり、いざデッドリー・ブル対策を練ろうかといった段になり思わぬオマケが付いてきた。そのオマケはどうやらあの入れ替わりモドキの呼び名に未だ悩んでいる様子。


「というかこんな所で油売ってて良いのかよ。重要度で言えばそっちの方が高いんだろ?」

「そうなんだけどー。釣鬼はトビさんと一緒にどこか行っちゃったし、出雲ちゃんの姿も見なくてさ~」


 ぶっちゃけると暇なんだそうだ。なら呼び名を考える時間など幾らでもあろうに。そこについて糺してみれば、喜びを分かち合いたいといった気分だったらしい。


「扶祢くんや。この元幼女の惨状を見た上で君のその願望に対してこの場の皆からの賛同を貰えると、そんな軽い展望を本気で描いちゃったりしているのかね?」

「う……ちょ、ちょっと久々のピノちゃん成分を吸収しすぎちゃった感は否めない、けどね?」

「あはは。ピノさん、すっかり不貞腐れちゃってますね」

「ふんっ!」


 本人も認める通り、久方ぶりとなる抱き枕化行動により最近ちょっとしたお洒落に目覚め始めたツーサイドアップのセットが台無しになってしまい、ピノがヘソ曲げ真っ最中。お詫びとして扶祢がセットを整えようと差し出した手も弾き、頬を膨らませながらそっぽを向いてしまっていた。


「ピノちゃんったら相当お冠ね。今日は休みだから久々に一緒に出かけられるかと思ったけど無理かぁ、残念だわ」


 扶祢の言葉に一瞬身体を震わせ、それでもボク怒ってますよといった姿勢を維持し続ける。そんな意地っ張りなピノの口元は何だかんだで緩み切っていましたとさ。






 その後、総勢五名の大所帯となった俺達一同は帝都西部域に位置する国立大図書館へと赴いた。ミーアさん曰く、文化保全の観点から大陸各地の文献を集めたこの図書館であれば、あの遺棄地域に関する過去の文献もあるいは存在するかもしれないからとの事だ。


「ふわぁ、でっかぁ……」

「ふふ。ここが我が帝国の誇る、国立大図書館です」


 それを見た当初は神殿か何かの類かと思えてしまった程だ。高さとしては五階建てマンション程の、古代都市を想わせる形状の石造りといった風体か。横幅や奥行きも相当広く、入り口側からだけではその全容を把握する事すら出来なかった。


「私が民俗学の道へ進んだのも、子供の頃に両親に連れられて一般開放されたこの図書館へ訪れたのが切っ掛けなんです」

「帝国ってそういう所、結構しっかりしてますよね。正直言うとこの国に来る前の帝国のイメージって、他国を侵略して文化を破壊したりとか、そんなだったんですけど」


 図書館への入館申請手続きを進める最中、そんなやり取りを聞くとはなしに聞きながら、どことなく異国情緒溢れる大図書館の内部へと首を巡らせ眺め回す。日本に居た頃の静謐とした大図書館のそれとはまた少々赴きを異とし、カテゴリ分けされた領域毎にそれぞれに見合った内装が施され、差し詰め図書専門の総合販売店といった印象を強く受ける。それでもやはり図書館は図書館、大声を出して騒ぐなどは論外であるし、ピコもばっちりとペット専用スペースへのお預かりをされてしまっていた。


「しょうがないよね。街中で一緒に歩けるようになっただけでも良しと思わなくっちゃ」


 本人はそんな事を言っていたものの、やはり若干寂しそうだったな。それを見た扶祢がまた衝動的にピノをハグしてしまい、またしても髪のセットを乱されたピノによる八つ当たりの頭突きを喰らって涙目になっていたのはご愛敬という事にしておこうか。


「ふぅん?ここ数十年で作られたにしては随分と蔵書が揃っているわね」

「そういえば、そうだな」


 そんな中、俺と同じく館内の様子を見ていたリセリーが興味深げにそう呟く。彼のアレクサンドリア図書館を彷彿とさせるこの国立大図書館だが、あちらとは違いここの蔵書は綴じ本主流で収められている。その割には蔵書の保有スペースが相当な範囲に亘るんだよな。案内掲示板を見たところ、実際には今俺達が居る館と同規模の館があと二つもあるという超が付く程の大規模だ。これをここ百年もしない内に大陸各地より集めるとは、相当な苦労があった事だろう。


「えぇ、まぁ……」


 だがその話題に触れた途端、ミーアさんの表情は若干塞ぎがちなものとなってしまう。


「ふふん。侵略と強奪、か。いつの時代も人間は変わらないわね」

「そのご指摘については、否めませんね……」


 やはりそういった背景はあるんだな。光あれば影あり、陰と陽あるいは真実の表裏といったものか。言い方は様々あれど、決して陽が照らすだけの興隆などは有り得ないという事だ。仮に片面だけを見て有り得た様に思えたとしても、それはどこか歪んだ理想の形であり―――


「――はい、そこまで」

「うぁうっ!?」

「……ッ」

「今のはワタシが迂闊だったわ。この場面でワタシがそんな事を言えばお前達の事だ、そういった想いを馳せてしまうのは分かり切っていた事よね」


 思わず考え込んでしまった俺達三人は不意の抱擁により現実へと引き戻される。俺達をまとめてかき抱きいた張本人は、そんな言葉を残して後ろ手にひらひらと掌を振り、別館への側へと歩み去っていった。

 一方でそんな現実に取り残された俺達はと言えば僅かな間を互いを見合い、やや神妙な顔を晒してしまう。


「何やってんの?」

「「わぉうっ!?」」

「い、いえ。何でもありませんよ、ええ。それでは遺棄地域関連の文献を調べに行くとしましょうかっ」


 いつの間にか姿見のある待合スペースでの髪のセットを終えたピノが戻ってきていたらしい。考えてみればこの帝国の歴史自体、今を生きる俺達にとっては遥かな過去の出来事だ。今ここで思い悩んでいても詮無き事ではあるし、何が解決する訳でもないものな。気分を改め、文献漁りに乗り出すとしよう。


 ・

 ・

 ・

 ・


 その後暫しを歴史関係の資料調査に費やした結果、遺棄地域の過去の信仰形態に関する断片的な資料や当時の王国民の暮らしについてなど、それなりに有用であろう情報が何点か見つかった。しかし肝心のあの区画に関するピンポイントな資料は発見出来ず、揃って肩を落とす事となる。


「ひたすら本を漁るだけって、味気ない休日だったのだわ……」

「じゃあ一緒にあの屋敷に行ってみるか?そろそろ夕方だからな、い~い感じに味のある風景が見れると思うぜ?」

「絶対にお断りですッ!」


 こうして最後に扶祢によるしまらない悲鳴を締めとし、この日の大図書館での文献漁りは終える事となる。

 事態が思わぬ展開を見せたのは館内をぶらついていたリセリーを捕まえ、大図書館を出たその帰り際のことだった。


「はいどぅ!はいどぅっ!!そこの平民共、避けろっ!いや、避けてくれぇー!」

「あん?」


 その大声に振り向いてみれば、後方から慌ただしくも荒々しい蛇行運転を繰り広げる馬車の姿。そしてその御者台には、この帝国における将校の地位を示すきらびやかな徽章をこれでもかと言わん程に左胸に付けた青年が、引き攣った顔で俺達へとそんな悲痛な訴えを向けながら物凄い速度で迫ってくる。


「おっと、危ねっ」


 そうは言いながらも俺達だってそれなりに場数を踏んできた面々だ。興奮して泡を吹きながらも走る馬の動向を見ながら寸前で全員軽く避け――たつもりが何故か馬達が揃って俺の側へと向き直り、目を剥きながら直撃コースへと迫って……くるぅううううっ!?


「うおおっ!?」


 流石に命の危険を感じ、咄嗟にミチルを纏う事で危うく致命傷となりかけた激突をどうにか軽減させたものの、その衝撃で一瞬呼吸困難に陥ってしまう。


「ごっ、ごほっ……」

「うわぁぁぁああっ!やってしまった……無事か平民!?出来れば私の名誉の為、しぶとく命を繋いで貰えると有り難いのだがッ!」


 何っつう言い様だ。内心どれだけの慰謝料をふんだくってやろうかと思いたくなる様な勝手な主張についつい殺気が湧き起こる中、すぐには動けない俺の瞳孔を見たり脈を計ったりと、案外適切な処置を進める青年将校の姿を力無く眺め続ける。


「あ、あれ?もしかして、殿下……ですか?」

「む?君は……どこかでお逢いしたかな?私の顔は兄貴達とは違い、そう平民達には知られていない筈なのだが」


 そこに横合いから今度は精神的な衝撃の発言が飛び出してきた。殿下という尊称にこの将校の物言い……まさかこの将校、この国のお偉いさんなのか?

 そして衝撃の発言をした人物を見た俺は、更なる驚愕を受けてしまう。その人物とは俺もよく知る、この将校の訝る声にやってしまったといった表情を見せる、扶祢だった。


「あっ、いえ……人違いでした!失礼しましたっ」


 いや人違いも何も。思いっきりこの将校、殿下って言われて認めていただろうに。いきなりな状況の移り変わりに先程まで湧き起こっていた俺の怒りもすっかり醒め、殿下と呼ばれた将校も合わせ一同の間には気の抜けた空気が漂ってしまう。


「ワタシは別に構わないけれど。こういう場合、一先ずは目立たない場所に移動した方が良いんじゃないかしら?」

「馬、落ち着かせたよ~」

「そ、そうだなっ。立てるか平民?済まないが私はあまりこういった場で目立てぬ立場なのでな、窮屈ではあろうが馬車の寝台で横になっていてくれ」


 言われ俺は先の衝撃が抜けきらぬままに、将校により一息に抱えられ割と雑に馬車の客室へと投げ込まれてしまう。そのまま複雑な思いを抱える中、将校の一際切れの良い声と共に再び走り出す馬車の中で俺は思う。一体全体、何がどうなっていやがるのか、さっぱりだぜ……。

 やがて体中の衝撃が鈍い痛みが残る程度に薄らいできた頃となり、馬車の動きがようやく止まるのを寝ながらに感じる。どうやら目的地に着いたみたいだな。


 ―――そこで俺が目にしたその光景。それは僧兵らしき集団に囲まれ、一触即発の体を為す帝国軍の一派の館の姿だった。

 話の流れの肉付けに苦戦し、えらい遅れてしまいました。前後編に分け、次回は明後日1/14(土)予定となります。

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