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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第二章 冒険者への入門 編
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第026話 百合のかほりと青春ドラマ?

「サリナお姉さまぁっ!」


 余程辛い思いをしたのだろう。阿呆共の担当をしていた受付嬢が感極まった様子で涙ながらにサリナさんへと抱き着いた。これは百合百合しい香りが漂いますな!


「グッジョブ!……ふぎゃっ!?」


 一方では我らが駄狐さん。サムズアップをかましたところにその眉間へと突き刺さる白墨(チョーク)でノックアウッ! ぶれる事のない平常運転、御馳走さまでございます。

 それにしても凄いなサリナさん、魔法職と聞いていたのに予備モーションも無しのチョークスローとは。


「おう、やるじゃねえかサリナ嬢」


 釣鬼先生はいつもの調子でサリナさんの投擲技術への賞賛をしているし。


「扶祢ってやっぱ、抜けてるヨネ」

「わふん」


 ピノピコ姉弟もやはりいつも通りに、マイペースな感想を漏らし。


「ふぉぉ……」


 そして扶祢はと言えば、女子力の欠片も無い恰好で額を抑えてプルプルと。


「ふぉぉぉ……」


 そして扶祢はと言えば、女子力の欠片も無い恰好で額を抑えてプルプルと呻いていた。

 何というか。残念美人ここに極まる、だな。その狐耳はへにゃりと倒れ、七本の尻尾も合わせてプルプルと震えていて。実に目の保養になるというものだ。今日もうちのパーティは平和ダナー。


「カタリナ、お姉さまはやめなさいと言ったでしょう」

「だって、だって、うわぁぁあん!」

「ふふ、後輩の子にモテモテだね……あぁそういえば、カタリナは特別だったっけ」


 カタリナと呼ばれた受付嬢を優しく撫でながら注意をするサリナさん。その様子を楽しそうに眺めていたアデルさんがニヤニヤしながら話しかける。


「あら、それは貴女の方じゃなくて?公立学院在籍時に後輩の女子から貰った恋文は何枚ありましたっけ。(わたくし)はただ職場の先輩として、怖い思いをした後輩を慰めているだけですから」

「あぁ、降参降参。この手の口喧嘩じゃサリナにはやっぱり勝てないな。それにしても相変わらず面倒見が良いものだよ」

「貴女だって人の事は言えないでしょうが……まぁ、この子達を放っておけなくてこの仕事を始めた部分も有りますしね」


 ほう、サリナさんが受付嬢を始めたきっかけか。


「へぇぇ?そろそろ晩御飯のお時間ですし食事の席でその辺を交えてゆっくりと……尻尾バリアッ!!」


 ―――もふもふもふっ。オーッ!


 おお、今度は自前の七尾を障壁に見立てて前面に展開して三本に増えた白墨(チョーク)投げを防ぎ切ったらしい。いつの間にかギルドロビーの席に着き、飲んだくれていた親父達からの歓声が沸き起こる。

 つか扶祢さんや、尻尾の使い方……。


「はぁ。扶祢さん見た目は麗しいのですからもう少し、いえもっとお淑やかに振る舞うか、せめてクールビューティ路線でも目指せばよろしいのに」

「えー。そういうの、お芝居でならともかくあんまり好きじゃないんですよう」


 そんな扶祢の宴会芸にご自慢のチョーク投げを絡め取られ、若干脱力した口調でサリナさんは苦言を呈する。だが当の扶祢はと言えばこんな調子で返しており、性格を変える気は今のところ皆無なようだ。


「全くだ、この外面(そとづら)でそんなことされたら近寄り難くなって困るもんな」

「へへ~、この私の柔らかい対応に感謝しなさいよ」

「有難き幸せでございますよ、お狐様」


 思うに、扶祢がオーバーリアクション気味かつボケボケしいのは過去の凄惨な記憶の残り滓や妖狐という自身の出自の為に、現代社会とのギャップで本音で周りと付き合えなかったという寂寥感からの一種の精神防衛的な性格なのではなかろうか。コスプレ趣味が入っているのも間違いないんだろうけどさ。


「いよっ、狐の嬢ちゃんもっとやれ!」

「扶祢ちゃんは他の獣人族達と違って人族(おれたち)にも愛想良いから和むぜぃ」

「特に狐人族は滅多に見ない上に居ても高慢ちきが多くて鼻持ちならんしな!」


 気がつけばいつの間にか固定客(ファン)が付いていた。

 こんな夕方から横のテーブルで酒をかっくらってる酔いどれの冒険者達。この人達、最初は依頼が終わって小休止を取ってただけだったんだけど、さっきまでの素行不良で御縄についた元冒険者達との捕物劇を続ける内に徐々に野次馬として増えていって今では十人弱でプチ宴会を開いてしまっている始末。

 こうして見るとただの呑んだくれのダメ親父達にしか見えないが、何と言うか、冒険者って感じで良いよなァ。


「どーもどーも!――はうっ」


 HIT、今度は後頭部を抑えプルプルと悶え始めた。犯人は言わずもがな。


「ぎゃははははっ、油断大敵だなぁ嬢ちゃん!」

「サリナちゃんは武闘派受付嬢だからなぁ……んごっ!?」

「ぶはははは!お前ぇも油断しすぎ!」


 あかん、そろそろカオスモードに巻き込まれそうだ。一旦離脱すっか!

 そして釣鬼とピノに目配せをしてうつ伏せに悶えている扶祢を小脇に抱え―――


「サリナさん、とりあえず場が落ち着いてからまた後で出直してきます!アデルさんもまた今度!」

「はい、では七時半頃に。出前の注文もしておきますのでこちらで一緒に頂きましょう」

「わたしも出かけるのは明日以降だからご一緒させて貰おうかな」

「あいさー、んじゃ七時半に!」


 すたこらさっさー。


「うぅ~、おのれサリナさん。か弱き乙女の柔肌に何度もチョークスローをするとは許すまじ!」


 か弱いかどうかはさておくとして、苦痛に呻く駄狐を抱えて走る事数分間。ようやく痛みが収まったのか、扶祢はそんな文句をブツブツと言い始める。


「明らかに堅い場所狙ってたケドネ」

「ぐっ」

「サリナ嬢もちと照れ隠しな風だったしな、ボケ役冥利に尽きるだろ」

「……うぅ」

「フルボッコ乙です。つか、か弱き乙女を自称するなら野郎の小脇に抱えられ続けている状況で少しは動揺するなり拒絶するなり初心な対応をしてくれませんかねぇ」

「え。あぁ、うん……」


 俺の言葉にしかし扶祢は相変わらず自身の状況を気にした様子も無く、ふと真顔で考え込み――― 


「――堪能した?」


 にへらっと笑いながらこちらの顔を覗き込んでくる。コノヤロウ。

 徐に脇に抱えていた扶祢を肩へ抱え直し……。


「あ、ちょっ。これ以上のおイタはダメよ?」


 などと今更ながら慌てた様子で寝言を言っていらっしゃる尻尾様を構える。


「射角よーし、助走距離確保よーし、風向多分よーし、目標前方のゴミ置き場、投擲準備。5…4…3…」

「ぎゃー!?ごめんなさいごめんなさい!大人しくするので優しく運んでくださいっ」

「降りる気無しかよ!?」

「だって楽だし……」


 俺の目的に勘付いて目に見えて騒ぎつつも、やはり特に暴れる様子も無しにそんな泣き言を言い始める扶祢。その内ぐーたら属性まで取得する気か。恐ろしい子……!


「今日もこの街は平和ダナー」

「くぉん」

「平和ってなかけがえのねぇ大事なものだよな」


 言葉だけ見れば正しくその通りではあるけれど。どこか致命的にずれている気がしなくもないぜ。

 そんなこんなでクレイドルに着く頃には既に夕暮れ時となっていた。軽く休憩しておきますかね。




 Scene:side扶祢

 

 あー、びっくりした。頼太が私を抱えて走り始めた時は衝撃で硬直しちゃったよ。

 別に平気だった訳じゃなくてどうしていいか分からなくなって流されてただけなんだけどー。変に意識されても困るし、からかう振りして誤魔化しとこう。それにしても子猫か荷物みたいに小脇に抱えるのはどうかと思う。

 うん、まぁ。振り返ってみると今までだって結構偶発的なセクハラまがいの状況もあったし、今更と言えば今更なんだけどね。今は別にそういった感情がどうってつもりも無いし、暫くは皆でパーティとしてワイワイやりたいので気にしない気にしない!


 ――私は一般的には妖怪と呼ばれる存在だ。母さんからも常に耳と尻尾については注意しろと口酸っぱく言われ続けてきた。

 現代社会では同じ人間同士ですらちょっとした差異を見出してはお互いに争い続けるのが人間の常というもので。勿論、それが全てという訳でも無いのだろうけれど。私にもそれなりに心を開ける友人達も居たからね。

 でもやっぱり……心のどこかでは壁を作り、正体がばれて友人達の私を見る目が変わってしまう事に恐怖する自分が居た。それこそ一時期は誰もが信じられなくなって人間不信になりかけた事すらあるんだよ。

 なのにこっち来てからというもの、耳と尻尾がうっかり出てないかを意識し続ける必要すら無くなっちゃってさ。本当開放感があって気楽なのです。

 こう見えても私だって狐妖の端くれ、それなりには自分の耳と尻尾にだって思い入れはあるんだよ?


 それにしてもサリナさん、あのチョーク投げの正確さはもうスキルの域に達してるんじゃないかなぁ?投擲スキル位は持ってそうな気がするよ……。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 Scene:side頼太


「うし、今からギルドに行きゃ七時半ってところだな」

「んじゃそろそろ行コー」


 暫し宿屋(クレイドル)のロビーで寛いだ後、俺達は約束したパーティへ参加をする為に準備をし始める。とは言ってもトワの森騒動解決の打ち上げを兼ねて夕飯を食べに行くだけなので特に何か用意する訳ではないのだが。


「お帰りなさい。出前はもう少しかかるそうですので空いているテーブルで寛いでて下さいな」


 ギルドに着くといつものにこにことした様子に戻っていたサリナさんが出迎えてくれた。

 サリナさんは既に本日の業務の引継ぎが終わったらしく、受付の制服を脱いでカジュアルな装いになっていた。口調もどことなく柔らかく感じる。普段が冷たいわけでは決して無いんだけどね。


「お姉さまぁー、お酒の方も届きましたよぉー」

「お姉さまは止めなさいって何度言わせるの?貴女ももう立派なギルド受付担当なんだから、もっと自覚を持って――」

「じゃあお母さま」

「……お姉さまで良いわ」


 そこに裏口の方からカタリナさんだっけか、がサリナさんに声をかけてきた。お母さま、ねぇ……あの時は百合な関係かな?なんて思ったけど何か事情があるみたいだな。扶祢もその空気に気付いたらしく、


「――むむ、これは良いリベンジのチャンス?」


 なんて言ったりしていたけれど。そのリベンジは多分返り討ちにされると、僕ぁ思うなァ。


 そしてカタリナさんの後ろから一緒に酒瓶を持ってきたのは―――


「こちら、お酒をお持ちしました」


 そのカタリナさんの後ろから見覚えのある少年の姿がロビーへと入って来る。


「あれ、君あの連中のパーティに居た……?」

「は、はい!さっきは有難うございました!」


 見ればあの元冒険者達のパーティで不遇な扱いを受けていた侍祭(アコライト)の少年だった。その少年は俺達の側へと歩み寄ってきて、丁寧にお礼と挨拶などをしてくれた。


「顔、殴られてたみたいだけど大丈夫?」

「あ、はい。怪我自体はすぐ治せるので」

「あいつらが居たから治療せずに居たってことかい」

「ええ……」

「最後まで気分が悪くなる連中だったヨネ」


 この子の心労も相当だったんだな……うん、助かって良かった。


「済まない。少し遅くなった……と、まだ出前は届いていないみたいだね」

「ええ、どこかの宴会の注文と重なったそうで、お店の方がいっぱいいっぱいで少し遅れるそうですわ」

「それじゃあ仕方ないか。ゆっくり待つとしよう」


 そんなやり取りをしている間にアデルさんも私服に着替え直して来たようだ。

 うーん、やっぱりどちらかと言えば後衛で魔法とか使いそうな見た目だよなぁこの人。それであの金属鎧を苦も無く着こなし大戦槌を振り回すのだからつくづく人は見た目に依らないものだ。


「それでは、皆さん揃いましたし料理が到着するまではつまみで軽く乾杯と行きますか!」


『『『かんぱーい!!』』』


 サリナさんが音頭を取り、皆で祝杯を挙げる。そして打ち上げが始まった。

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