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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第二章 冒険者への入門 編
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第024話 エロフじゃないよエルフだよ!

 ピノ登場から10話目にしてようやく解決編のさわりに。

「それで、思念感知が必要な調査だったっけ?急ぎでなければ一息入れた後でなら行ってきても良いけれど」


 癖のない艶やかな金色の長髪より突き出る長い耳、深い藍色の瞳と綺麗に纏まった目鼻立ち。これを見た人に感想を聞けば十人が十人とも美しい、と評するであろう美貌を持つ耳長族(エルフ)の女性はそう言いながら俺達のテーブルへと歩み寄ってくる。明るい水色で統一された半袖のチュニックに膝上丈のフレアスカートを着こなし、季節感も相まって実に涼しげだ。

 あとカイデー、何がとは言わないが。


「ふむ、貴女が行ってくれるなら丁度良いか。ではお願いしようかしら?AAA(トリプルエー)

「いつも思うのだけれども、その呼び名ってランクが変わったら使えなくないかな?」


 言いながらサリナさんは席を立ち、エルフのおねいさんと二人してテーブルを繋ぎ始めた。俺達も手伝うか、これは長話になりそうな予感がする。


「Sランクになったらきっと更に仰々しい異名が付けられるだけでしょう。そこまで気にする程でもないわね」

「やれやれ、そんなのは御免こうむりたいものだね」


 何だかサリナさん、心なしかこの人に対して気安い感じがするね。何処となく息が合っているというか。


「あ、丁度良いので皆さんにも紹介しておきますね。こちらはアーデルハイト=アイブリンガー、現在このサナダン公国を含む西方諸国でSランクに最も近いと言われているAランク冒険者の一人ですわ。これでも良いところの御令嬢なので変な事はしちゃダメですよ」


 そう言ってフフフ、と人の悪い笑みを浮かべ冗談めかすサリナさん。誤解されると困るので俺に視線を向けて話さないで頂きたいものですね!


「済まないね、こいつは君みたいな子を捕まえては悪ノリしてからかう趣味があるんだよ。適当に流してあげてくれ。今もサリナから紹介があったけれども、わたしはアーデルハイト=アイブリンガーと言う。一応公国貴族に属するので余計な呼び名(ミドルネーム)もあるけれど、まぁ冒険者をする分には特に使うことも無いだろう。どうかアーデルハイトと名前の方で呼んで欲しいな、AAAでも良いけれど」


 そう自己紹介をし右手を差し出してくるアーデルハイトさん。貴族様!え、俺みたいなぱんぴーが貴族令嬢と握手なんかしちゃって良いの?


「陽傘頼太と申します。まだ成り立てのFランクなんで恐縮ですが宜しくお願いします!」

「あぁ、恐縮されるのも悪いからいち冒険者として扱って欲しいかな」

「Aランクの大先輩に対する礼義なのでお気にせず!それに自分遥か遠くの国の出身なんで、正直貴族とかよく分かりませんしね」

「あははっ、結構ぶっちゃけるね君」

「それ程でもない」


 貴族というものは名前しか知らないけどちょっと失礼だったかな?と思いつつそんな挨拶をする俺。一方のアーデルハイトさんはと言えば特に気にする様子も無く、あっけらかんとした笑顔で応じてくれた。見た目はきりっとしたお堅そうな美人なのに物腰は随分と柔らかな人なんだな。

 しかし、それに見惚れて油断というか心の隙が出来てしまったのは痛恨の極みだったと言えよう。何故ならば、それをばっちりと目撃していた受付嬢のおねいさんが居た訳でありまして……。


「クスクス……アデル、これ頼太さんの照れ隠しなのよ。貴女の美貌にコロっといっちゃったみたいね」

「サリナさんそれ言っちゃらめぇぇえぇ!!」

「そうかぁ、照れちゃってたのかぁ。それは済まなかったね頼太君。お詫びと言っては何だけれど、アデルと呼んでくれて良いよ」


 そう言いながら俺の手を握ったままニコニコと優しい笑みを向けてくるアーデルハイト、改めアデルさん。うわぁぁぁまぢ恥ずかしくて正視出来ねぇぇ。


「薄野扶祢って言います、私も頼太と同じくFランクです。アデルさん、宜しくー」

「ボクはピノだヨ。こっちの子はピコ、ヨロシクナ!」

「わぉん」

「釣鬼だ。耳長族(エルフ)で積極的に国に関わるってのは珍しいな。耳長族(エルフ)ってぇとデンスの森の引籠り連中みてぇなのしか居ねぇと思ってたが」

「あぁ、皆宜しく。ご先祖様のエルフがちょっとばかり風変わりな人で当時爵位を貰っていたらしくてね、それとうちは代々エルフの血が濃く出易い血筋みたいなんだ。わたしも種族的にはエルフとして生まれてきたけれど、精神面ではむしろ人族に近いかもしれないね」


 さらっと扶祢がアデルと呼んでいたが特に気にする風も無く、釣鬼の種族的な質問にもあっけらかんとした様子で答えてくれるアデルさん。随分と気さくというか鷹揚な人なんだな。


「魔獣退治に森を焼き討ち状態、白エルフに分類される癖に黒エルフとの交流が過ぎて森で暮らす白エルフ達からは敵対視をされる。ましてやその時の戦闘では金属鎧に身を包み、重装武器を好んで使って突っ込んでいったが為に付けられた二つ名が『突撃臼砲重戦車(シュトルムティーガー)』――人族に近いどころか中身は小人族(ドワーフ)なんじゃないかしと思ったことが何度もありますわね」

「うん。四代前の母方に小人族(ドワーフ)の血を引いた者が居たとか聞いたことがあるから、それもあながち間違いではないんじゃないかな」


 呆れた様子でサリナさんが暴露した、エルフのイメージとは正反対な重戦車の響きに思わず噴き出してしまう俺達。この人こんな見た目で重装系なのかよ!?


「よくそれで精霊達に嫌われないわね、羨ましい限りですわ」

「重装とはいってもさ、風通しには気を付けているからね。それに精霊は金属を嫌うというのは迷信だろうさ」

「風通しに気を付けてるから風に好かれる訳じゃないと思うのだけれど……」

「ほう、その割にゃエルフの連中は金属鎧の類を嫌っているように思えるけどな」


 その話に釣鬼が興味をそそられた様子で反応をする。

 そういえばファンタジーな創作物などでは、自然の権化たる精霊は金属と言うか人工物との相性が悪いなんて設定があったりする場合もあったな。やっぱりこの世界でも精霊魔法の金属使用への制限があるのかー、なんて思っていたのだが。帰ってきたのはまさかな内容。


「火と土の精霊はむしろ金属と深い関わりがあるからね。水も大地に密接しているわけだし、大地の賜物である金属とは相性が良い方なのさ。相性が悪いのは風位だと思うよ」

「あ~言われてみればそうだよね。じゃあ一般的にエルフや精霊使い(シャーマン)達が金属鎧を使ってないっていうのは……」

「非力だからじゃないかな?見た目は白エルフなわたしが言うのも何だけれども、特に白エルフの連中は無駄にプライドが高くて妙な理由をこじつけるのも好きだからさ」

「そんなオチ!?」

「悲しい現実ダネ」


 いや、確かに理に適った話ではあるけれどもさ……あまりの身も蓋もないその返しに、この世界の現実をまた新たに知ると共に同じ数だけ幻想が壊れてしまった俺と扶祢であった。


「それでは調査内容を詰めていきましょうか」


 話が一段落したところでサリナさんが本題へ戻す。


「うん、具体的にはまだ聞いていなかったね。宜しくお願いするよ」

「それじゃあ、まずは昨日あった事から――」


 かくかくしかじか、と。途中各自の思い入れを熱く語ってしまう部分もあったが、概ねの説明は出来たと思う。


「そういう事か――面白いね」

「あいつらは元々灯り代わりとしての僅かな数の魔鉱石があれば良いらしいからな。考えようによっちゃ魔鉱石の取引場にコストのかからねぇ用心棒が居るようなモンだ。その辺りが連中を保護するメリットとして使えるかもしれねぇな」

「ふむ……その場合憂慮すべきは問答無用で殲滅し独占を企む集団が出てくるかもしれないという事だね。うん、それは確かに急いだ方が良さそうだ」

「まぁ、あの軍鶏連中なら生半可な戦力は返り討ちにしそうだけどな」

「ボス鶏なんか釣鬼と引き分ける位だもんねぇ」


 実際一般的な騎士団員に最低限必要な戦闘技術ランクがB+辺りからと言われているからな。

 一応それと大体同程度の練度を持っているらしい俺が岩軍鶏のNo.2に負けたって事は……それを殲滅する規模の軍なんかを他の国や都市が出したら下手すりゃ都市間や国家間問題になるだろうし、そんな馬鹿なことをする奴はまず居ないだろうな。


「デンス大森林の守護者の噂は耳にしているよ。釣鬼殿と武技で相打つ程の鶏かぁ、一度試し合いをしてみたくなっちゃうな」

「ミイラ取りがミイラになってどうするのよ……そういうのは仕事を完遂してからにしなさいよ」

「分かっているよ。まずはその鶏達とも話し合ってから方針を決めるとしよう」


 しっかりと釘を刺してくるサリナさんに肩を竦めながら答え、アデルさんはアイスティの入ったグラスを優雅に傾けていた。う~ん、何気ない仕草一つとっても絵になるんだよな、この人。


「あ、連中曰くまともに喋れ?るのは岩軍鶏になった七匹だけらしいから、他は無闇に襲い掛かってくることはないとは思いますが。また来る時は一応言葉の通じない石蜥蜴鶏(バジリコック)を相手するつもりで道中気を付けて進んで欲しいって言ってましたよ」

「了解した、楽しみだね」


 ・

 ・

 ・

 ・


 その後、俺達は暫しの時間をギルドのテーブルで時間を潰すことにする。トワの森のピノの件に関する冒険者連中を待つ為、今日一日はほぼオフだがギルドからあまり離れられないからだ。

 どうせなのでアデルさんとサリナさんも一緒に屋台で買ってきた昼食をテーブルに並べ、雑談等をしながら過ごす事にした。


「へぇ、それじゃあAAAっていうランクがある訳では無いんですね」

「あはは。初対面の人にはよく言われるね、それ。このあだ名のAAA(トリプルエー)っていうのは、Aランクの(アーデルハイト)(アイブリンガー)という事らしいよ」


 こんな感じに話もそれなりに盛り上がり、小一時間が経つ頃には最初の頃の緊張感も解れ随分と打ち解けてしまった気がする。

 それと話していて判明したのだが、どうやらアデルさんも俺達と同じく「ホテルクレイドル」泊まりだったらしい。昼食後に一度宿屋(クレイドル)に戻り、戻ってきた時には白銀色のドレスアーマーを身に付け黒光りする大戦槌を背負っていた。


「アデルさん、大戦槌(それ)が得物っすか……」

「はは、前から見た目とのギャップが有り過ぎだとは言われているけれどもね。手に馴染むんだよね」


 ギルドに戻って来てからは鎧の一部を外し、今付けているのはスカート部分だけで上半身は服のままだけど、先程とは対照的に違和感無く全体的に堅そうなイメージを受けるものだな。それだけこの鎧を着こなし馴染んでいるという事なのだろう。

 この姿で兜のバイザーを下ろせば確かに、重戦車と言われても違和感は無いかもしれないな。


「それ分かります。私も槍が一番しっくりくるんですよね」

「だなぁ。やっぱ自分に合う物を使うのが一番だよな」

「一応貴族の嗜みとして剣も使える事は使えるのだがね、わたしには片手剣ではちょっと軽過ぎるんだよ。お蔭で細剣(レイピア)の試合戦績は勝率六割を切っていてさぁ」


 そんな事を言いながら少しばかり悔しげに膨れ面を見せるアデルさん。これはこれでイメージとちょっと違うけど可愛く見えるな。

 それにしても普段の得物がこんな超重量の大戦槌では、細剣(レイピア)なんかじゃ軽すぎて感覚が狂ってしまうのも分かるね。やろうと思えば両手で細剣(レイピア)二刀流位やれるんじゃないか、この人。


「一度それでバスタードソードの二刀流なんてやって以来、二度と試合に呼ばれなくなってしまったものね」

「ふん、あんな試合剣法に長けたところで実戦では何の役にも立たないさ」


 まさかのバッソ二刀流、予想を遥かに超えていた。あれ前武器屋で試しに振るってみたけど、俺じゃ両手でも剣に振り回されてたぞ。単純な膂力だけじゃなくて足腰も異様に強いんだろうな。


「それにしてもサリナさん。アデルさんについて随分詳しいんですね」


 扶祢がふとそんな感想を口にする。さっき俺も感じた事だが、やはりアデルさんに対する時の口調が砕けているんだよな。


「元々サリナとは同門でね。その誼で数年前までパーティも組んでいたから気兼ねない仲なんだよ――そっか、もう三年にもなるか」

「懐かしいわね、(わたくし)もすっかり書類仕事が身に付いてしまいましたわ。アデルはそろそろ落ち着く気はないのかしら?」

「最初はAランクになったら家に戻る約束だったんだけどさぁ。誰かさんのお蔭で竜退治まで完遂しちゃってあっさりAランクになってしまったものだから、実家じゃどうせならSになって箔を付けるまで帰って来るなと言われたよ」


 そんな事を言いながらやれやれと肩を竦めるアデルさん、それで良いのか貴族。本人が言っていた通り、風変わりな性格の血筋なのかもしれないな。






 そんなこんなで雑談や盤上ミニゲーム等で暇を潰し、そろそろいい加減やることが無くなって手持無沙汰になってきた時分になり、ようやく状況が動き出す。


「ったぁく、やってらんねぇよ!」


 耳障りな怒鳴り声と共に、数人の薄汚い恰好をした男達――件の素行不良冒険者達がギルドへと入ってきた。

 アーデルハイトの短縮形をハイジにしようか迷いましたが、ちょっとイメージに合わなかったのでアデル、となりました。

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