第022話 新たな出会い――そしてサマータイム
16/5/1:ヘイホーの閉門時間を若干変更。
「――じゃあ、そろそろ帰るとするかぃ。魔鉱石助かったぜ」
場面は再び廃坑前へ。あの後、俺達は岩軍鶏のボスから約束の魔鉱石を分けて貰いリヤカーへと積み込みながら別れの挨拶を交わしていた。
『なんの、こちらも良い経験になったからな。またいずれ仕合おうぞ』
「かはっ。好きだな手前も」
この言葉には流石の釣鬼も呆れ笑いの様子。
皆試合によってそれなりに怪我もしていたが幸い後遺症が残る程の重篤な負傷は無く、こうしてピノの治療により俺達も岩軍鶏達も皆五体満足に動けている。流石に大怪我を負った釣鬼とボス鶏だけは数時間ほど安静を言い渡されてはいたが。
そしてその数時間の間、何もしないのも味気なかろうという事でちょっとした懇親会も開かれており、随分と岩軍鶏達とも打ち解けた気がするな。そのお陰か今も名残惜しそうな様子でわざわざ入口まで見送ってくれていたりする。
魔物に分類される見た目石蜥蜴鶏な連中に和んだ様子で見送られるのは珍妙な違和感もあるが、無用な殺伐さにまみれるよりは余程良いというものだ。
「あぁ、そうそう。お前等多少なりとも他の生き物との交流をする気があるなら便宜上名前は付けておいた方が良いぞ。特に人型の知的生物を相手にする時は初対面の対応と名乗りで随分と印象が変わったりするモンだからな」
釣鬼も随分と岩軍鶏達を気に入ったみたいだな。他にも不測の事態への対応の仕方や簡単な挨拶分の書き方など、妙に世話を焼いていた。
『ふむ、名前か…考えておこう』
『主!拙者いぶし銀的な渋めの名前を希望するでござる』
『アッシはニヒルな感じが良いっすねー』
『ウチはこの可憐さが似合う名前が良い!』
『まて、お前達。まさか俺が全部決めるのか……?』
『『『当然っしょー、ボスなんだから!』』』
その言葉を受けて俺達と試合をした三部下達が早速ボス鶏に名前をせがみ、やいのやいのと騒いでいたりもした。本当に気の良い奴等だよな。
「ギルドに戻ったらやることがまた一つ増えちまったな」
「ふふ、場合によってはピノちゃんにもまた協力お願いしないとかもね」
「ヤレヤレ。お人好しが多いことデ」
「わふん」
ピノはこれ見よがしに肩を竦めながら返してくるが、魔物との交流にも特に抵抗感も無い様子だし悪い気もしないらしい。こいつも憎めない奴だよな。
「それならいっそピノもうちのパーティに入って一緒に旅するか?旅は道連れって言うしなー」
そんな風にいつもの軽いノリで話を振ってみたのだが。当のピノにはそれが余程の衝撃だったのか、俺の言葉に思わず目を瞠り硬直してしまったらしい。
「どした?」
「誰かさんがいつものノリでいきなり突拍子もない事言ったからびっくりしたんでしょー」
なんて呆れた風に言う扶祢にコツンと石突で頭を小突かれてしまった。別に突飛な事でも無いと思うんだがなぁ。
「……ア、ウン。そんな事言われたの初めてだったからサ」
「そういやお前ぇ等、今までは二人だけで旅をしていたんだったか」
「ウン……」
それを見た釣鬼がぽふっとピノの頭に手を置き、優しい口調でピノに話しかける。ここは先生に任せるとしますかね。
「今急いで考えるこたぁねぇさ。どうせ件の冒険者連中の問題が片付くまではお前ぇもヘイホーから去る訳にもいかねぇんだしな。その間に今後どうするか、のついでに頭の片隅にでも入れときゃ良いさ。勿論、うちのパーティに入ってくれるってんなら俺っちも含め皆大歓迎だがよ」
「当然っ!ピノちゃんもピコも仲間になってくれたら毎日ナデナデしてあげちゃうよー」
「それお前がハグしたいだけだろ」
「しっ」
そんないつものやり取りをしていたら、扶祢のブレない言動に和んだのか思わずピノがぎこちない笑いを浮かべていた。
「――アハハ。な、何か照れルネ。今までもピコとはずっと一緒だったから寂しくは無かったケド……ううん、やっぱりちょっと寂しかったカナ、だから今答えるヨ。皆が良ければ、こちらこそ宜しくお願いしマス」
「くぅーん」
と、いつもの強気かつ太々しい態度が嘘の様に、礼儀正しく一人と一匹して俺達に向き直りお辞儀をした。
「おう。これからも宜しくな!」
やはり今までの数年間の旅路は姉弟で共に過ごしていたとはいえ、その目立つ容姿から大きな街にも入り辛く色々と寂しい思いをしてたんだろうな。
それを想像してしまった俺は、つい衝動的に二人を抱え込んでわしゃわしゃとその頭を撫でくり回す。ピノは最初こそ驚いた様子だったが特にそれを拒絶する事もなく、くすぐったそうな顔をしながら大人しく撫でられていたのが印象的だったな。
「宜しくな、正直突っ込み役不足もあって俺っちだけじゃしんどかったんだわ」
「宜しくー!……あぁあん、また逃ーげーらーれーた―」
「甘いんだヨッ!釣鬼も苦労してたんだネ……」
「わふわふ」
あらま。俺が頭を撫でるのを見た扶祢が同じく勢い良くピノを捕獲、もとい抱きしめようとするが当のピノは無情にもそれを華麗に避けてしまう。
「何で頼太の撫でくりからは逃げないで私のハグは避けるのよぅ!?」
「鬱陶しいんだヨッ。撫でるならふつーに撫でナ!」
「え、普通になら良いの!?よーしよしよしよし!」
「これのどこがふつーダー!は~な~セ~!」
やっぱり俺等にシリアスは似合わんね。やるべき時は確りとやりたいものだけれども。
【妖精族 の ピノ と シルバニアウルフ の ピコ が 仲間になった!】
効果音付きでRPG風に言えばこんな所か。ともあれ、こうして俺達のパーティにピノとピコという新たな仲間が加わる事となった。
『うむうむ、仲良き事は良い事哉』
「おお、悪ぃ悪ぃ。内輪話で待たせちまったな」
『何の、新たな出会いを祝わせて貰おう』
『くぅー、良いっすねぇ、人間達は。アッシも冒険者やってみたかったっすよ……』
『本能の赴くままに欲を満たすだけじゃこの鶏生つまんないもんねー。ウチも旅してみたいなー』
『お前達、主に拾われて今迄散々お世話になっておきながら何を我儘言っているのでござるか!』
『ああ、良い良い。気持ちは分からんでもないからな。が、我等は所詮魔物に過ぎん。同朋達も我等以外はまともに言葉も話せん者の方が多い位であるし、そこは諦めも必要だぞ』
『ッスよねー』
『しょうがないかー』
『拙者、これからも主一筋でござる!』
『ええい、分かった!暑苦しいから身を摺り寄せるな!』
どうやら岩軍鶏連中も俺達の門出を祝ってくれているようだ……一人妙に力の籠った忍鶏が居るようだが。
こうして岩軍鶏達にも概ね祝福をされ、ピノとピコは晴れてマイパーティの一員となったのであった。
「よっし、そんじゃピノ。まずはパーティの一員として早速お願いしてぇことがある」
「ン?何カナ?」
帰路について間もなく、釣鬼がピコに乗って横を歩くピノに何やら話しかけていた。
「サリナ嬢の話じゃあ件の連中は明日に戻って来るらしいんだがよ。その前に朝一でサリナ嬢と打ち合わせをすることになっているんだわ」
「へぇ、そうなんダ」
「そして現在時刻は午後の五時半、もう今からだとヘイホーに戻っても今日は郭外宿泊なのは確定なんだが」
「ウン、そうダネ?」
そうだな、今からだと急いで帰ってももう午後六時半の門限には間に合わないか。今夜はヘイホーの郭外の借宿で一泊って事になっちゃうかな?
「この辺りはこの時期遅くても午後七時過ぎにゃ日が暮れてな、夜になると街道沿いにまで夜行性の魔物や原住生物が出てくるんだわ。正直夜道で儲けも無しに連中を相手するのは疲れるだけだし被害が出ないとも限らねぇ。だから可能な限りそんなのは勘弁願いてぇ訳だ」
「そりゃ誰だってそうだヨ……ネ?」
「察してくれたようで何よりだ。つぅ訳で出来れば日没後あたりまでにはヘイホー郊外へ戻るのが理想でな。その間このリヤカーと俺達全員に高速移動用の風ブーストってやつをかけてくれねぇか?」
「フザッケンナー!」
釣鬼の無茶振りにピノ切れる。そらそうだ。
「な、何でだ!?」
「釣鬼……移動ブーストって戦闘用の補助魔法だぞ。そんな長時間全員と荷台にまでかけ続けたらピノが干乾びちまうって」
「ソウダソウダ!妖精の干物になんてなりたくないゾ!」
「む、そうだったのか。すまねぇ、魔法関連はあまり詳しくなくてな」
素直に詫びる釣鬼。だけど出来れば早く着けるに越したことはないよなぁ……。
「それって精霊魔法だったっけ?私も精霊力ってのを持ってるみたいなんだけど、一緒に使って負担を軽減出来たりしないかな?」
お?扶祢が何やら提案をしてきたようだ。一人では無理でも二人で使って負担が半分になればどうだろうってことか、そんなのが出来るのか?
「ム……でも扶祢って精霊と話せたッケ?」
「――てへ」
ですよねー。そもそも精霊魔法を使う前提からして満たしていなかったらしい。
扶祢はたしか水晶鑑定では精霊力もAに達してはいたけれども、肝心の使い方が分からないのでは折角の高スペックも宝の持ち腐れってやつだよな。身体強化の類も主に霊力に頼ってるみたいだし、どうせ使う当てがないなら俺に下さい勿体無い!
「ウーン。それじゃあボクがブーストを維持し続けて、扶祢には精霊力の外部タンク担当でもして貰おうカナ」
「あ、それなら母さんの手伝いで慣れてるからいけると思う!」
おー!どうやら目途が立ったらしい。これなら帰りの道中多少は楽が出来そうだな。
そう、考えて、いたんだけれど……。
「よし、それじゃあお前ぇ等には済まねぇがそれで行こう。扶祢は精霊力行使に集中してリヤカーに乗ってて良いぞ」
「わーい」
その釣鬼の言葉に嫌な予感どころか絶望的な確信を得てしまう俺。それでも最悪の事態を避ける為、俺なりに最大限の努力はしようと頑張ったんだ。
「そっ、それじゃあ僕もついでに……」
「お前ぇは俺っちと一緒に荷台の引き担当だ」
「ですよねー!」
しかし結果は無惨。どさくさ紛れにリヤカーに乗ろうとした俺は、そうは問屋が卸さぬとばかりに釣鬼の怪力で引きずり降ろされ、哀れ馬車馬担当に。
「だー!こうなりゃヤケだ、やってやらぁっ!!!」
「おう、その調子だ。なぁに、このペースなら二時間もかからず到着するからよ」
俺も特殊技能とか持ちたい、そんで楽したいっす……。
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―――PM7:25 ヘイホー城門付近。
「つ、疲れた……」
「ふぅ、皆お疲れさん」
「精霊魔法ってこんなに力吸われるのね……」
「最初は吸われまくるかもネー。その内慣れると思うヨ」
道中何度か休憩を挟みはしたものの、ほぼずっと走り続けての耐久レースを約二時間。何とか魔物にも遭遇せずに辿り着く事が出来た……がもう無理、走れねぇ!
扶祢も慣れない精霊力行使で気怠げな様子だが、釣鬼とピノはまだまだ余裕がありそうだ。この世界の住人って体力気力が半端ないよな……。
「おおい、そこの連中。中に入らないのか?入らないならそろそろ門閉めるぞー」
そんな疲労困憊の体で一休みしていた俺達へ、街の側からそんな声をかけられた。なぬ、門を閉める……?
「……って正門まだ開いてんじゃねーか!」
「え、どゆこと?」
と俺達が知識と現実の狭間で戸惑っていると、
「お前等この辺初めてか?昨日からサマータイムで閉門は午後七時半になってるんだぞ」
そう、門番の人が丁寧に教えてくれた。
「あぁそういやそんな時期だったっけか」
「「そんな大事な事忘れんな(ナ)ー!」」
「いやまぁ、街中入れて良かったわよね」
「わふん」
その日はヘイホー初日をトレースする勢いでクレイドルに着いてから風呂入ってすぐに寝た。こりゃ明日筋肉痛確定だなァ……。
改めて、幼女ゲット。変な意味じゃないよ!




