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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第九章 無貌の女神編
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第181話 幼女が大人になりました:前編

 意味深。

 昨夜の賑やかな誕生会が終わり、翌日の早朝。宴会明け定番とも言える雑魚寝状態より覚醒し、窓から差し込んで来る光に目を瞬かせる。

 昨夜は酒が入っていた訳でもないんだが、何故だか皆騒ぎ通して最後には潰れるんだよな。恐るべし夜中のハイテンション。


「んん~、っくはぁ……起きるか」


 もう時期としては冬に入るだけあってまだ陽の出前な時間ではあるが、この日の出前の徐々に空に光が満ちていく光景って、何故だか無性に心躍るんだよな。

 そんな夜明けの空を眺めながら、顔を洗いに洗面所へと向かう。


「……おはよー」

「ん、おう。おはよう」


 道中の廊下で声をかけられ振り向くと、洗面所の側からこれまた眠そうな顔をした子がこちらへ向かって歩いてきた。見れば服はぱっつんぱっつんというか、むしろつんつるてんというか、サイズが合ってない感じでよれよれになっちゃってるな。昨夜の誕生会にこんな子が参加していた記憶は無かったが、今ここに居るって事は俺が見ていないだけで同じくロビーで雑魚寝していた子なのかな?


「――どしたの?」


 ついまじまじと見てしまった俺の視線に気付いたか、その子が不審気な目を向けてくる。おっと、まだ少女といった年格好な子の身体をぶしつけに見るのはまずかったかな。


「あ、いやごめん。気を悪くしたなら謝るよ」

「……頼太、もしかして寝惚けてる?」


 うん?そりゃ寝起きではあるし、寝惚けてると言われればそうかもしれないが。はて、この子は俺の名前を知っているのに俺の記憶にはこの子の存在が無いと来た。よくよく見ればセミロングに下ろした明るい金髪から覗く耳の先は長く尖っており、その特徴からエルフやドワーフといった妖精族の血を引く出だという事が見て取れる。

 どこかで、割と身近に見覚えのある様な愛らしい顔をしているこの子だが、昨夜のお祭り騒ぎを思い返しても心当たりが無いな?一体この子は誰なんだろうか。


「んー、熱は無いみたい。念の為体内バランスも診てみよーか?」

「え――」


 そう言うと同時に一瞬にして周囲に各種精霊力を展開させ、手慣れた様子で俺の全身をぺたぺたと触るその挙動。これと同じ事をされた経験がある俺はとある可能性に思い至り、その子の顔を二度三度と見返してしまう。


「……本当、どしたの頼太?オバケでも見たみたいな顔しちゃって。寝惚けてないんだったらボクの名前、言ってみなー」

「お、お、おま……」

「むぅ、やっぱり寝惚けてるっぽい。もう一度寝直してきたら?」


 強気ながらも若干お道化た悪戯っぽい表情。そして目を疑う現実にまともに言葉を発する事が出来なくなってしまった俺に対し、呆れた様子で肩を竦めてみせるその仕草。信じ難いが間違いない、こいつは……。


「なぁ」

「ん?何?」

「ちょっと、こっち来て鏡見てみ」

「鏡?そんなもの見なくてもボクのこの愛らしい顔は永遠だよ?」


 最早疑うまでもない。半ば強引に手を取り引っ張る俺に嫌がる素振りを見せる事も無く、堂々と自画自賛に走るこの言動。そして物怖じという言葉をどこかに置き忘れてしまったであろう太々しい態度。この子の中身は、俺の良く知る生意気幼女そのものだった。

 ぶーたれるその子を洗面所まで引っ張って来て、改めて自分の顔を見るよう促す。言われたその時こそ頭に疑問符を浮かべ首を傾げていたその子だが、まずはいつも通りに洗面台へ背伸びをしようとして違和感に気付き、そして鏡に映る自身を暫し無言で覗き込んだ後に言った一言。


「――あらやだ。ボクったら絶世の美女になっちゃった」

「少しは驚けよ!?」


 やっぱりこいつは、ピノだった。言動、ぜんっぜん変わんねーのな……。






「ピノちゃんが、大きくなっちゃった……私の抱き枕」

「その反応、地味に傷付くんだけど?」


 ピノの劇的ビフォーアフターを目の当たりにしてより三十分後。寝坊助な扶祢もその衝撃に大声を上げながら跳び起きてしまい、今やロビーで雑魚寝をしていた殆どの面々が揃って早朝の起床と相成った。

 幸い殆どの冒険者組は翌日に控えた依頼に備え、昨夜の内にそれぞれのアジトへ戻っていたので大騒ぎになる事はなかったが。この場に居る冒険者と言えば俺達の他にはアデルさん、カイマンさん、アルシャルクさんの宴会仲間三人だけだからな。妙な噂が立つ事も無いだろう。

 そんな事を考えている間に一頻りピノに絡み付いて満足したか、ようやく落ち着いた扶祢がピノを開放したらしい。


「ふぅっ。ちょっと大きくなっちゃったけど、この位ならまだまだ抱き枕でいけるのだわっ!」

「くっ……これでもまだ子ども扱いだなんて、悔しいっ!」

「正直、俺っちにゃこいつがどう変わったのかがよく分からねぇんだけどよ」


 全くもってというやつですな。見た目こそちょっと大きく、言うなれば幼女が少女になりましたといった所だが、幼稚園児だったのが小学校低学年になった程度だもんな。成長して滑舌こそよくなったものの、そう考えれば殆ど違和感を感じなかった。


「うーん?ピノは妖精族の中でもフェアリーに属する者だったよね。フェアリー族っていうのは皆、こんなに大きくなるものなのかい?」

「さー?ボクの郷では大人も爺婆も皆元のボクと同じ位の背格好だったよ」

「これは、一度水晶鑑定をし直した方が良いかもしれませんわねぇ……」


 アデルさんのそんな素直な疑問に、対するピノはいつも通りの無頓着な返答を返す。こりゃ、釣鬼と同じく種族進化ってやつをしてしまったのかな?ピノの元の種族はフェアリーだが、こいつ、俺達と出逢う以前に一度進化してハイフェアリーになっているんだよな。一度あった事ならば二度目があってもおかしくはない。

 だが、概ねピノ進化論が場の優勢を占めたところで一つの異論が唱えられる。


「そういやぁ、オラが故郷の近くに住んでた妖精族も時々大きくなる子がいたべさ。なーんだっけかなぁ、何かが溜まり過ぎて適度にガス抜きをしないと、身体が対応してでっかくなるとかそんな話だっただよ」

「何だそりゃ風船かよ」


 同じくブクブクと膨れ上がるピノを想像してしまった俺達はその言葉につい吹き出してしまったが、もし仮にそれが溜まり過ぎるとどうなってしまうんだろうか。


「ま、まさかその内破裂しちゃったり?」

「縁起でもない事言わないデ!?」


 場に面する皆の共通の妄想を先取りしてしまったらしき扶祢の発言に、流石のピノも悍ましげに批難の声を上げてしまう。動揺すると相変わらずの発音になっちゃうんだな。もしかして、身体の変化に応じて滑舌がよくなったのではなくて意識して頑張っているのだろうか。だとすれば妙な所で可愛げのある健気な努力、してんなぁ。


「……何だよ。そのムカつく目付き」

「気のせいじゃね?」

「むかー!絶対変な事考えてる顔だそれ!」

「まぁ、この言動を見る限り中身はそのままだろうし、別に心配する様な事もねぇみてぇだな」

「ですわねぇ」


 念の為に軽く水晶鑑定もして貰ったのだが、カイマンさんの示唆した可能性が正しかったらしい。種族はハイフェアリーのままだった。妖精族ってのも中々摩訶不思議な種族だよな、ホント。

 こうしてこの件は冒険者側にはアデルさん、ギルド職員側へはサリナさんによる噂の流布の自制が促され、謎が残るものの一先ず終息する事となる。どうあれピノ自身は相変わらずな調子で気にも留めていない様子だし、ならば俺達がとやかく言う必要もないのだろうな……ただ一点を除いては。


「まずはお前ぇに合う服を探さねぇとな」

「あ~、そうだね。この格好だとそこのおっぱい星人が気にしそうだし」

「頼太ー?ホレホレ、おっぱいだぞ~♪」


 そんな戯言を垂れながら、羞恥心の欠片もなくサイズの合わない服の谷間からちっぱいをチラ見せしてくる幼女改め少女。甘いな、毎度毎度そんな手で俺がやり込められると思ったら大違いだぜ?


「どれどれ――」

「ぴぅっ!?」


 お返しにもにゅもにゅとそのちっぱいを堪能させて貰った上でこれ見よがしに肩を竦め、この言葉を送ってやるとしよう。


「――ハッ。五年後に期待だな……あれ、何このアウェイ感」

「抉り込む様に、打つべしッ!」

「じょるとっ!?」


 元々の身体の小ささが原因で身のこなしも軽きに過ぎたピノだったが、少しばかり成長して地に足が付いたお陰だろうか。強烈な踏み込みからの会心の一撃が俺の鳩尾へと見事に決まる。げふっ……ナイスブロウ。


「この変態変態変態っ!セクハラ魔人!」

「今日という今日は許さないのだわ……ついにピノちゃんにまでその毒牙を……」

「おっ、ごっ!?……ごふっ。ちょっ、まっ!まじ、やめっ」


 先の一撃でダウンを取られ、腹を抱えて悶絶していた所に怒れる二人のストンピングが炸裂し続ける。数分後には見事に自爆を喰らったかませ某茶の如きぼろ雑巾状態で床に伏す俺の姿。他の面々にしても、女性陣の大部分からは腐臭を放つ生ゴミを見るかの様な目付きで見下され、男性陣からもあまり高評価を得る事はなかったらしい。


「む、無念……」

「……お前ぇは本当、懲りねぇな」

「何も嫌がる相手にやらずとも、そんなに甘えたいのだったらわたしが優しく包み込んであげたのにね?」


 仕方が無いんです、だって性分なんですもの。あとニヤニヤしながらそんな事を言ってくる貴女の場合、その優しい抱擁で俺の脊椎が再起不能待ったなしとなる事請け合いなんで全力で回避させて頂きます!


 ・

 ・

 ・

 ・


「ッ痛ぅ……ピノ、そろそろ治してくれよー」

「知らないっ!頼太なんか今日一日痛い思いしとけばいいんだ!」

「悪かったって。いつものお返しのつもりがちょっとやり過ぎちまっただけなんだってー」


 あの後、ギルドの朝の依頼受注ラッシュ時間が迫った事もあり揃って追い出された俺達は、どうせ近くに寄ったのだからという事でライオスさんの経営する鍛冶屋へと向かう。ついでに近くの服屋で今のピノのサイズに合う衣類も幾つか購入しないといけないからな。

 道中もこの様にご機嫌斜めなピノ、そしてひたすら宥める俺の後ろからはそれはそれは重くのしかかる、更なる無言のプレッシャーが込められた視線を感じながら針の筵の如き道中を練り歩く。居心地悪いなんてどころじゃなくて、ちょっと俺泣きそうっす。


「着いたぞ。いい加減お前ぇ等その空気をどうにかしやがれ、俺っちまで居心地が悪ぃっつうの」

「むぅ……」

「仕方がないわね……続きは宿屋(クレイドル)に戻ってからにしましょうか、ピノちゃん?」

「俺が全面的に悪かったし反省もしてるから勘弁してください!?」


 この一件で学んだ事。女の挑発に安易に乗ると、後々更なる痛い目に遭いますよ、だな。面倒臭ぇ!


 気分を入れ替えて鍛冶屋の入り口をくぐり、店員に挨拶をしてから奥の工房へと入っていく。そこには既に槌の打つ音を響かせ、冬の朝だというのに既に汗まみれとなったライオスさんが上半身裸で鍛冶作業に打ち込んでいた。


「――お?随分と早いな。てっきり昼過ぎになるかと思ってたんだが」

「ども。昨夜はギルドで泊り込みの誕生会やってたんで。そのまま朝の依頼受注ラッシュで追い出されてこっちにきたって感じっすね」

「あぁ、そういや昨日そんな話をしていたな。この一本だけ荒仕上げしちまうから、それまで待っててくれよ」

「はーい」


 俺達にそう断ったライオスさんは様々な工具を使い打ち込みを再開する。

 こういうのは金属を熱した後に力一杯打ち付けるものとばかり思っていたが、こうして見てみると細かい作業が随分と多いんだな。どちらかと言えば火床と水を使い分けて熱の調整をじっくりと行うのがメインで、不純物をひたすらに取り除いていって時には優しくトントンと、時には力強く気持ちを込め、徐々に徐々に形作っていく。

 これを見ていると工匠達の作ったものが量産「製品」ではなく、それぞれの「作品」と呼ばれる理由が理解出来る気がする。


「待たせたな……何だ?揃って神妙な顔をしやがって」

「えっと、ちょっと見惚れちゃったと言いますか」

「恰好良いよね」


 だな。備え付けの時計を見てみれば結構な時間が経っていたが、この蒸し暑い工房でライオスさんが真摯に打ち込むその姿を見入っている内にいつしか時が過ぎるのを忘れてしまっていたらしい。


「何でぇ、いきなり持ちあげやがって。そんなおべっか使われてもビタ一文負けねーからな?」

「そんなつもりはねぇって。んじゃ、完成品を見せてもらうとすっかね」

「おう、じゃあ奥の倉庫にきてくんな。お前達が取りに来るのがあまりにも遅いんで暇潰しに色々仕込んでみたからな、その調整も併せて付き合って貰うとしようか」


 ライオスさんには俺達の寸法だけ測って貰って、後はそれぞれが求める素材の希望だけを言って任せておいたんだよな。元々装備作成をお願いしたのは当時の貴金属を持ち歩き続ける事の億劫さという、装備そのものにはあまり重きを置いていない理由だったからなぁ。

 特に武器に関しては、扶祢と釣鬼はそれぞれ青竜戟に鋼の五体という十分過ぎる程のモノがあったし、ピノは精々が魔導系魔法を使う短杖が必要な程度。そして俺は彼の海洋世界で手に入れた振動剣と狗神(ミチル)という心強い相棒がいる。だからその辺りの調整も含め、今日はほぼ一日ライオスさんとの装備相談で過ごす事になりそうだな。


 そして俺達はライオスさんに先導され、装備品が置かれている倉庫の側へと揃って入っていった―――

 次回でヘイホーの伏線全部回収出来れば良いナー。

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