第021話 鶏 vs 鬼と愉快な仲間達
それでは試合のルールだが―――
お互い魔法や特殊能力の使用は禁止、ダウン後テンカウント以内に復帰できなければ決着、リングアウトは無し。止めは基本寸止めだが大怪我をしても恨みっこなし、という条件で試合が始まった。
一試合目、ピコ vs 岩軍鶏A。
ここであえて石蜥蜴鶏ではなく軍鶏と表現したのは、連中そうとしか見えない戦い方をしていたからだ。
まず、ルールとはいえ石蜥蜴鶏最大の武器かつアイデンティティである筈の石化嘴と毒息を使う気配が皆無だった事。そして戦う姿と鳴き声がまんま鶏で、途中から軍鶏というイメージしか浮かばなかったのが大きな理由だな。
まぁ、羽根を利用した回し打ち等、一部鶏の関節の可動域じゃないだろそれ……といった攻撃もあったが。この際それは些細な問題なのだろう。試合が始まってからというもの皆固唾を飲んで見守り、とても突っ込みを入れられる空気じゃなかったし……。
「まるで軍鶏だな、こいつ等」
俺がつい漏らしたその言葉をピノがそのまま通訳してしまい、しかしボス鶏は大層その表現を気に入ったらしく、
『よし、これより我等は岩軍鶏と名乗ることにしよう』
などと宣っておられた。
後日ギルド直属の調査員が彼等に許可を取り水晶鑑定をした際、種族名が岩軍鶏と記載されておりその道の研究者達が新種発見に湧いたのはまた別のお話である。
ちなみにその後「岩軍鶏」という名が正式名称として認められたそうだ、発見命名者報酬とかは無いんですかねぇ?
さて、随分と話が脱線してしまったが試合の観戦に戻るとしよう。
速さ 対 力の様相を呈したが、結果から言うとピコの辛勝。装甲と攻撃手段の相性により終始押していたのは岩軍鶏Aの方だったが、満身創痍のピコに止めの一撃を加えようとした岩軍鶏Aの力を利用して自身諸共空中へ投げ飛ばし、そのまま回転しながら岩軍鶏Aを地面へ叩きつけ決着。岩軍鶏Aはテンカウント以内に立てずピコの勝利となった。
二試合目、扶祢 vs 岩軍鶏B。
「ふっ――」
「クケェー!?……クエェ」
岩軍鶏君もかなり善戦はしていたけれど、流石に槍を持った扶祢相手では分が悪かったようで危なげなく扶祢の勝利。
俺が相手したら負けてたかも、って位には強かったんだけどな。この岩軍鶏B君。
そして三戦目、俺こと頼太 vs 岩軍鶏C。
あれ、もしかしてこれ負けたら俺だけ敗北っていう不名誉なオチ?絶対に負けられねぇ……。
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『COCK、アパカーッ!』
「へぶしっ!?」
……負けました。
それでも一応途中までは良い勝負してたんですよ。
不意に震脚からの順突きが来たんですよ。踏まれた部分の地面が直径30cm大のクレーターに変化したんですよ、地面岩なのに。それを目の当たりにして思わず硬直してしまった所に渾身のライジングアッパーカットを喰らってしまい、敢え無くノックアウト。しくしく……。
「……えぇ~」
「そこで硬直はねぇだろ」
「張り合い無いネ」
「くぅーん」
ピコだけが心配そうに擦り寄ってきてくれた。君はこのパーティ唯一の癒しだよ……。
『ふむ、こやつ等相手では全敗もあると踏んでいたが。お前は俺に次ぐ実力なだけはあるな、よくやった』
『はっ、有難き幸せ!』
「No.2相手だったのかよ……」
「あー…巡り合わせが悪かったわね」
「何にせよ修行あるのみだな」
「へい……」
確かに毒も石化も使わない、ちょっとばかり堅い鶏に負けたようなものだしなぁ……。これから冒険者で生計立てていくんだし、成功したいならまずはもっと強くならんと。
それでは気を取り直して最終戦。本命の釣鬼 vs ボス軍鶏。
開始の合図が鳴ってから暫し経つも両雄動かず。どちらも迂闊に手を出せない程実力が拮抗しているという事か……?
『――ふむ、とはいえ動かねば始まらんな』
「だな」
『では……行くぞっ!』
ボス軍鶏のその言葉を合図に両者一息に間合いを詰め、先程の静寂が嘘のように乱打の応酬が始まった。
体格的に打撃戦は釣鬼が若干有利に進めているようにも見えるが敵もさるもの、要所でのカウンターや崩しを駆使し体勢を整えてくる。どちらも決定打に欠ける状況か。
そして互いに一際強い一撃を打ち、その反動で一度間合いを離す両者。
『流石だな、純粋な差し合いでは貴様に一歩譲るといったところか』
「まぁこの体格もあるからな。体格差が無ければ逆転されてるかもしれねぇな」
『フ、だが勝負事にたらればなどは無いからな。故に己を高める事に邁進し今を競う――』
「へっ、違いねぇ」
『ならば、この一撃。捌き切れるか……?』
そう言い放ち、やや半身となり右翼を天へ向け垂直に立て、いや、刀を構えるかの如く大上段に構える。そして―――
「――ケェエエェェエェッ!!」
まるで猿叫、いや鶏だから鶏叫とでも言うべきか?直後衝撃音と共に地面に二つ目のクレーターが出来上がる。
「……おい、洒落になんねぇって」
「コクコク」
「これ下手な『火球』より威力あるんじゃネ?」
そう、ボス鶏の一撃は直径5mにも達しようかという程のクレーターを地面に作り上げていた。
石蜥蜴鶏は毒と石化に要注意……?とんでもない!こいつらがそんなものを全く必要としていないという事がよく分かった、分かってしまった。
「おほっ、こいつぁ……やっべぇなおい」
避けた釣鬼もこれには流石に戦慄を覚えたか、冷や汗を流し顔を引き攣らせていた。俺だったら速攻で逃げ出すわ、さっきは硬直して逃げられなかったけどな!気分的にだ気分的に!
『フ、これぞ我が最強の一撃。我が翼に二の打ち要らず!』
台詞にツッコミ所が満載なようにも思えるが、かの示現流も「二の太刀要らず」といった概念が伝えられている位だし、一撃必殺の信念という事なんだろう。
「でも翼って普通打つものじゃなくネ?」
「ピノちゃん、それは言わないお約束なのよ……」
「そなノ?」
「話の流れというものがありましてな、別名ノリとも言う」
「アー把握」
ピノの指摘につい二人してそんな説明をしてしまったのも、ある意味現実逃避としての行動だったのかもしれない。鶏とはいったい……。
しかし俺達がそんな阿呆なやり取りをしている間にも状況は進む。
「良いモノを見せて貰った礼だ、俺っちも現時点での最高の業を見せてやるよ」
『ほう?』
「それに――長々と引き延ばすのもなんだしな。力と力のぶつけ合いで勝負を決めるってなぁ、どうよ?」
『……ククク、つくづく気の合うことよ。良かろう、互いの暴を打つけ合うと……するかアッ!!』
その言葉を基点とし、一人と一匹の間に凄まじい闘気の流れが生じる!
「やば、ピノちゃん前面だけで良いから強めに風障壁お願い!周りは結界符でどうにかするから!」
「分かっタ!そこの鶏連中も危ないカラこっちに避難シナ!」
「「「クッ、クケエェェ……」」」
扶祢が慌てた様子でピノに指示を飛ばし、扶祢の護符による結界起動とピノによる風障壁という二重のフィールドが完成する。それでも防ぎ切れるか分からない位にあいつら二人の闘気が膨れ上がり……まともに煽りを受けたらやべぇぞ、これは!
「それはそうとお前結界なんて使えたのか!?リアル術スゲー!」
「故郷で母さんに書いてもらった符あってこその簡易的なモノだけどね!どこまで防げるか分かんないから吹き飛ばされないように何かに捕まっといて!飛んでくる破片とかにも気を付けてよ!」
「了解っ!」
俺達がそんなやり取りをしている間にも、釣鬼とボス鶏を取り巻く空間がそれぞれの闘気によるぶつかり合いで不穏な軋みを上げ始め―――
『剛羽……』
「コォォァァ……」
『ケェエエェェエェッ!!』
「天竜殺!」
最初に動いたのはボス鶏の方。その鋼翼による打ち下ろしが釣鬼の頭上を襲い、それを釣鬼の後ろ蹴りによる打ち上げが迎撃する。これはあの時森巨人に打った技か!
「エェエエエッ!?何デ魔法デモナイ衝撃デココマデ障壁ガ削レチャッテンノ!?」
「ぎゃー!?護符が、護符が燃えるぅ……」
双方の意地による最高の一撃同士が激突する!その煽りだけでピノが張った風障壁がガリガリ削られてるよまずいまずい!扶祢の結界の上乗せで何とかもってるようなものだけど、その結界用の符もどんどんと燃え尽きてしまう。
―――そして何時終わるとも知れぬと思われた場を支配するプレッシャーが徐々に引いていき……後に残るは互いに大きく吹き飛ばされ傷だらけになった当事者達。
どうやら決着はついたようだ。しっかし、よくこの場所落盤せんかったな……。
「っぐう……」
『――クハッ』
釣鬼の右足は本来曲がる筈の無い方向へ曲がり、その先は見事に拉げていた。
そしてボス鶏の右羽根も根元付近から折れており、骨が痛々しく突き出してその機能は半ば失われていると言える状態だ。
『引き分け……か』
「だな、おぉ痛ぇ」
『クッ……ハハハハハ!この俺がここまでの痛手を負ったのは何年振りか!良き立ち合いであったぞ!!』
「俺っちもこんな大怪我したのは族長のジジイとの闘い以来だな。お前ぇ鶏なのにほんと凄ぇな!」
どうやらこの勝負、痛み分けとなったようだ。
共に大怪我こそ負ってはいるものの、大事に至らなくて本当に良かった。人騒がせな戦闘狂共だよ、全く。
『……む、あまり鶏と連呼されるのは心外だ。呼ぶなら岩軍鶏と呼んで貰いたいのだがな』
「え、あの呼び名採用っすか!?」
『うむ、存外に気に入ったぞ』
まーじかー。世の中どこで何が採用されるか分からないものだ。まぁ本人達が気に入ってるんだし、別に今更俺がどうこう言うこともないか。
「まぁ羽毛は石どころか岩並の分厚さだし、良いセンスじゃねぇか?」
「確かに、石蜥蜴鶏よりは余程闘う鶏って感じで良いね」
「そだナー」
「ウォウ」
こうして、釣鬼とボス鶏の決戦を締めとして岩軍鶏達と俺達との腕比べは無事終了したのであった。
『』内は全てピノの通訳という事で。




