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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第九章 無貌の女神編
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第179話 出雲とギルドの共同依頼

 お盆の連続投稿最終日。次回より、通常のペースに戻ります。

 それと、悪魔さん第30話、明日8/16(火)の夜に投稿しまス。

 俺達がヘイホーへと連行され、大殿様の襲撃があってより数日後のこと。

 ギルドカウンター前で鎖に繋がれながらも健気に看板犬を務めていたミチルと再会したり、滞っていた面倒な対外処理等をしたりとそれなりにやるべき事もありはしたが、それもようやく終わり早雲皇王がヘイホーを発つ事となった。


「では、儂はそろそろ行くが――やや、無理をするでないぞ」

「まーだ言っておるのか……親父様、御国に居た頃とのギャップが有り過ぎてちょっと気持ち悪いぞ」

「ぐぬっ。こ、これでも儂も少しは過去を省みてだな……」


 思えば早雲さんが来た翌日に出雲達と何処かへ出かけて帰って来てからか。初日の大仰な出雲溺愛っぷりが鳴りを潜め、自然な感じの距離になってきた気がする。出雲の早雲さんに対する物言いからも険が抜け、早雲さんなどはさっぱりと白化粧を落として別人と化していた程だ。

 この父娘の間に何があったのかは分からないが、それはきっと良い変化であるのだろうし今の俺達が気にする事でもないだろう。こうして無事に国際問題となりかけた処理が恙なく完了した事に俺達一同、ただただ胸を撫で下ろすのみだった。


「分かった分かった、余とてシノビの総大将を任され政の一端に触れておる者だ。その姿勢に免じて、これからは親父様を敬愛してやらんでもないからもう言うなっ!」

「……済まんな」


 娘の何とも身も蓋もない物言いに早雲さんも思わず苦笑いを浮かべてしまい、それだけを言うのがやっとだった模様。

 やがてやってきた正規の近習を従えて、早雲さんは特別に誂えられた馬車へと乗り込んでいく。そして完全に中へと入り込む直前に、何故か出雲ではなく俺の方を振り向いた早雲さんは若干複雑な表情を浮かべた後に、こう言ったんだ。


「小僧ッ、お前にだけはややを渡さんからなぁっ!」

「寝言を言ってないでとっとと帰れ、駄目親父がっ!!」

「ふごっ!?……帝国の件、本当に無理はするなよ、やや」


 最後にまたまた子煩悩っぷりを見せ付けてくる自身の父へ漫才の如く出雲が返し、何処に隠して持っていたのか反射で投げつけた礫の様なものが早雲さんの額に命中する。こうして見送る面々の肩が揃ってずり下がる中、何とも締まらない別れの時が過ぎたのだった。


「ふぅ……やっと行ったか」

「ふふっ。色々あったみたいね、出雲ちゃん」

「あぁ~。昨夜は性懲りもなく湯浴みに乱入してきおったし、良い齢こいて全く子離れの出来ん困った親父様よ」

「ナムナム」


 好奇心旺盛で何にでも首を突っ込みたがるこの出雲が珍しく辟易とした態度を顕わにする辺り、余程皇国に居た頃は苦労させられていたのだな、と思える。実際ここ数日の間もあのオッサン、国内で大っぴらには言えなかった反動なのだろうが暇を見付けては誰彼構わず出雲語りを繰り返していたものな。


「誰よ?この面倒臭ぇおっさん」

「ワキツ皇国の王様っす」

「な、何だってェー!?」


 つい昨日、遠方の依頼より帰還したばかりな小人族(ドワーフ)のアルシャルクさんを例として引き合いに出せばこの様な感じとなる。他の冒険者達にしても多少の差異はあれど反応は大体似通っており、本当にお騒がせというか親馬鹿殿だったよなぁ。


「ところで、釣鬼の奴は何処行ったんだ?ここ数日あまり姿を見ないんだが」

「リチャードさんが警備の関係で連れて行っちゃったのよ。数日中には戻るとは言ってたけど……」

「あのオッサン、一応王様だからネ。釣鬼は隠密技能も持ってるカラ、その関係で影で警護してたんじゃナイ?」

「なーる」


 俺が不名誉な牢屋入りをしている間に、ギルド側でも色々と事態は動いていたらしいね。あの見た目と達人級の業ばかりに目が行きがちだが、実際には母親仕込みらしい隠密技能も相当の脅威だからな。戦闘技術云々以前に認識すら出来ない隠れ方をされての不意打ち、というのは最早暗殺者の技能の域に近いが、逆に言えばそういった刺客へ対するカウンター役にも適している訳だ。一人お疲れさまですな!


「うーぃ、戻ったぜ」

「「お帰り~」」

「警護ご苦労っ!はー、何だか余は疲れたぞ。数日程はのんびり過ごしたいところだなっ」


 噂をすれば何とやら、ってやつだな。無事ヘイホーより出発したらしき皇王陛下一行を見送り、リチャードさんと共に釣鬼が帰ってきた。では、出雲もそれなりにあったらしき感傷の時間を終えた様子であるし、俺達もそろそろ平常運転に戻るとしますか。


「では皆さん、依頼の更新手続きを行いますので小会議室の方へ来て下さいな」

「「はーい!」」

「またいきなりだな。俺っち、戻ってきたばかりなんだがよ」

「申し訳ございません。釣鬼さんにはランクアップ手続きもして頂きますので、もう少々の御辛抱ですわ」


 おっと、ついに釣鬼がBランクになるのか。であれば是非もなし、だな。念願の時空ポケットまで後一ランクか……ふひひ。


「そっちはお前に任せる。俺はここのところ碌に寝てねーから仮眠してくるぜ。次期サブマスターさんよ」

「もぅ!リチャードさんったら……仕方ありませんわね、承りましたわ」


 リチャードさんもここ暫くの出張や警護で相当お疲れの様子だな。最後に気になる事をさらっと言ってのけてから仮眠室へと向かっていった。

 そして俺達はサリナさんに先導され、小会議室へと向かった。


 ・

 ・

 ・

 ・


「まずは皆様。言いたい事は多々ありますけれど、この数日お疲れさまでした。何はともあれ平穏無事に皇王陛下のご帰還が成って安心しましたわ」

「それよりも、さっきリチャードさんが言ってましたよね?サブマス決定、おめでとうございますっ!」

「そりゃ目出度ぇな。おめっとさん」

「おめでトー!」


 まずはと言うのであればやはりそれからだよな。どうやら結構な倍率であったらしいサブマスター候補の選出会にて、見事にその座を得たであろうサリナさんに関係者全員で祝福の言葉を送る。


「……えぇ、有難うございます」


 しかし当のサリナさんはその言葉に浮かれる事も無く、どちらかと言えば無念そうな面持ちで複雑な表情を浮かべ曖昧に返してくる。何だ?


「はは、確かに次期サブマスターに選出されはしたのだがね。どうやら一筋縄ではいかなかったらしいよ?」

「ギルドマスターまでわざわざそんな事を言いにきて……くぅぅ~あの時、あんな選択さえしなければ……」


 詳細は機密事項に関わるので一般の構成員には知らせる事は出来ないらしいが、この様子からすれば公都でもまた一悶着があった様子。でもこれでサリナさんも来年には最年少のサブマスター就任記録を更新する訳だ、目出度い事だね。


(わたくし)の事はさて置きまして、皆さんの現状から説明致しましょうか。まずは釣鬼さんのランクアップに関してですが、ヘイホーへ帰還したこの機会に」


 そして現状に始まり、俺達が今知る事の出来る情報やここ最近の帝国事情、また出雲の依頼の更新内容について等等、それなりの時間をかけてサリナさんから説明を受ける事となる。


「つぅ事は、だ。本来の依頼であった出雲姫の護衛はここで一度キャンセルとなって、改めて別の依頼を受ける形になるってのかぃ?」

「ですわね。無論、これは仕事の不備による解約では無く、依頼者ご本人の意向により確とした達成として扱わせて頂きます。そこはご安心下さいませ」


 よくは分からないが、これまでの説明を聞いた感じでは早雲皇王の来国に関係した話なのかね?見れば対席に座っている出雲が今か今かと待ち構える様に目を光らせているし、ただ依頼が立ち消えしたという訳でも無さそうだ。サリナさんもそれに気付いてはいるらしく、最後の方には苦笑を浮かべ出雲へと話のバトンを受け渡す。


「クスッ、では出雲姫様。後は宜しくお願い致しますわ」

「うむっ!まずはこれまでの護衛業ご苦労だった……護衛というか我ながら遊んでいた覚えしかないがなっ!」

「だよネ」

「傍から見れば私達って、秋祭りに参加して、ビーチバレーして、お宝発掘してただけだもんね」

「これで依頼達成っつぅのも正直どうかとは思わなくもねぇよな」


 だよなぁ。実際には危険な目にも遭ってはいるし、特に海洋世界では学ぶべき事も多かったが。三つの世界(トリス・ムンドゥス)の時と同じく表向きには知られざる話となるのであるし、出雲の依頼という形で報酬が出るだけでも幸いか。


「何をやっていたんですか、アナタ達は……」

「ま、まぁまぁ。それは後にでもしておくとしようか」


 サリナさんからはジト目で睨み付けられ、ギルマスからも失笑を買ってしまう惨状ではあったが、これも事実であるし仕方が無い。先程よりもやや肩身が狭くなってしまった俺達は、引き続き出雲の話を聞き続ける。


「それでだな。これまでの経緯はともかくとして、余としてはこの二十日程でお前達の人となりも見えた事であるし、帝国での用件が済むまでの間、正式に臨時の手駒として動いて貰いたいのだ」

「手駒……?」

「語感に違和感があるのであれば部下でも良いが。お前達は信頼に値すると見たからな。目に見えて余の手駒であるお抱えの連中を多数連れて行けば帝国側に要らん警戒を抱かせてしまうが故に、その対策よ」

「――あぁ、つまりは傭兵契約つぅ事か」


 こういう匂いには敏感な釣鬼が出雲の言葉にいち早く反応し、合点のいった様子で返す。出雲は俺達をただの護衛ではなく、より信頼の置ける相手として買ってくれたという事か。


「うむっ!余の表向きの立場はただの外交特使であり、シノビの総大将である事は一般的には知られておらんからな。帝国側としては、閉鎖的に過ぎる国のお飾りとも見える姫君がまさかそんな事をするとは考えまい?」

「ふぅむ……」

「それと、冒険者の方にギルド側からこういう事を言うのは無用な介入とも取られてしまいかねませんが、今回の依頼は是非とも受けて頂きたいのです」

「これはギルド側の都合も少々あってだね。出雲様の正式な要請という事で、請けてくれるのであれば指名依頼料も上乗せさせてもらうよ」


 そうか。言われてみれば出雲は俺達に依頼を受けて貰いたいと言っているんだから、指名依頼という事になるよな。更に言えば陰謀渦巻くやり取りで相手の裏をかく為に協力して欲しいという面白そうな話に、実は俺のみならず皆少々そわそわと落ち着かない様子になっていたりもする。

 こうして話が決まりかけたかに思われた出雲とギルドによる提携依頼だが、そこにマイパーティのリーダーであり、こういった契約関連に関しては百戦錬磨でもある釣鬼が一石を投じる。


「……裏を返せばだ。この場であっさりと俺っちのB級への昇格のみならず、こいつ等のC級への昇格を用意しなきゃならねぇ程度には、厄介な仕事が向こうで待ってるってこったな?危険手当や案件達成時の追加報酬は当然、あるんだよな?」

「うーん……やはり釣鬼さんは厄介ですわね。この子達だけでしたら今提示した条件であっさり引き受けて貰えそうでしたのに」

「えぇー」

「ボク達ッテ、そんなちょろく思われてたんダ……」


 何気に軽い扱いをしつつもあっさりと釣鬼の要求に応じるサリナさんの言葉に地味に傷付きながら、俺達は交渉に入る。


「釣鬼君以外の三人に関しては、C級となる事自体が事前報酬の意味合いもあったのだがね。そうだな……それでは帝国の一件が一区切り付くまでの間、ギルドへの預金手数料無しという事でどうだろう?」

「「「乗ったッ!!」」」

「はい♪決まりですわね」

「お前ぇ等……」

「わははっ!お前達はそうでなくてはなっ。正義感や忠誠心に満ち満ちただけの危うい者共などよりも、ある程度は欲が有る奴の方が余程頼りになるというものだ!」


 まぁ交渉っても、目の前に垂らされた手数料の詳細額面に釣られて即フィッシュされちゃったんですけどね。これではちょろい扱いをされても仕方が無い。

 とはいえ、やはり財産を信用の於ける場所に長期間預けられる安心感というのは大きい。それが手数料無しとなれば猶更ってモンだ。


「はぁ~……俺っち自身は別に良いけどよ。予想外に苦労して泣きを見ても知らねぇからな?」

「どんとこい!それが冒険の醍醐味ってやつよ!」

「うんうん。それにさ、三界の時の潜入捜査みたいでわくわくするじゃない?」

「これでボクもニンジャダネ!」


 最後のピノの言葉ではないが、スパイ映画っぽくてこう、昂ってくるものがあるよな!油断をすれば痛い目に遭ってしまうかもしれないが、そこは実地体験という事で頑張っていけば良いさ。


「では、お前達。改めてこの余、出雲の臨時の部下として働いて貰うぞっ!」

「「「アイマム!」」」

「仕方がねぇな。宜しく頼むぜ、出雲姫さんよ」

「それでは、ギルドよりの追加要請はサリナ君に説明をして貰うとして、僕はそろそろ失礼するよ」


 斯くして俺達は、向こう見ずとも思われる衝動と出雲への付き合いの意味を兼ね、新たな依頼を受諾する事となった。帝国かぁ、話に聞いた限りでは過去に隣国へ立て続けに攻め込んだりと不穏な国にも思えるが。さて、一体どんな旅路になる事やら。

 とか言いつつ次回もヘイホー。メインストーリーが一区切り付き、サブイベント二話程予定です。

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