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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第九章 無貌の女神編
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第178話 皇族親子の水入らず

 お盆の連続投稿三日目。オッサン出ずっぱりでお盆中にヘイホー話が終わんねっす。

 牢屋帰りの頼太と早雲が空きっ腹に美味しく朝食を頂いてより、一時間程後のこと。出雲、トビ、早雲の三人はワキツ皇国シノビ部隊の牽く、目立たぬ馬車の内部にて国の代表としての談義を重ねていた。


「――という訳でして。こちらがその書状となりまする」

「ふん……?」


 トビによる簡潔的な事情の説明も終わり、早雲は片肘を付き胡坐をかいた姿勢のままに異界の霊狐――サキにより認められた書状を受け取り中身をざっと読み通す。その姿からは先日、そして今朝の食事時に見せていた軟弱な雰囲気などは感じ取る事は出来ず、尊大を絵に描いた様な気配を身に纏っていた。

 やがてそう長くはない沈黙が過ぎた後、早雲はぽつりと零す。


「……ややよ。さぞかし儂を恨んでいた事だろうな」

「ふん。今更余が当時の話をどうこう言ったとて、それで御国の(まつりごと)が大きく変わる訳でも無かろうっ」


 早雲のその問いに対し、出雲が返す言葉へ秘められた想いは如何なるものか。明後日の方向へ首を廻らせ若干拗ねた風にも見えるその横顔からは、何とも言えぬ哀愁が漂い……しかしそれが見えたのも僅かな一時、直ぐに国を背負う者の一人としての顔を取り戻し父王へと問いを発する。


「で、親父様。何故にこの時期に単身御国を出るなどという、自殺行為の如き真似をしたのだ?」

「そうですな、そこだけは儂にもとんと理解が及びません。この様な事をすれば天昌(てんしょう)の鬼崩れ共が黙ってはおりますまい」

「そこよ。やや――出雲よ、お前の拾ってきたサントウがな。予想外に良い働きをしてくれたわ」

「サントウが、だと?」


 サントウ―――


 先代領主の乱心による身内刃傷沙汰により、つい三月程前にお家お取り潰しとなった元アルテナ独領、伊佐見禰(イサミネ)家の嫡男だった者であり、またその刃傷沙汰の被害者でもある若者だ。幼少の頃より先見の明とも言える見識に優れ、将来はワキツ皇国を盛り立てていく一人として並々ならぬ期待を寄せられていた人物、であった。


「本来ならばその責を取らせ家の嫡男は腹を切る慣習だが……出雲、お前が裏から手を回し、横から掻っ攫っていったのだったな。あの時の老中共の憤りと言ったらなかったわ、ククッ」


 そう、そのお役目柄に皇国内の大部分を占める情報を掴んでいたシノビ部隊の総大将でもある出雲がその才を惜しみ、無駄に潰えさすのであればと半ば強引に拉致(スカウト)をしてしまったのだ。故に表向きには現在、サントウはお家取り潰しの際の騒動により姿を晦まし出奔した事となっていた。


「だが、あの者はもう表舞台に出る事は無かろう。イサミネ家のサントウとしての身分は剥奪され、暫くは傷を癒やしながら、我がシノビ部隊の本部総括補助として書類仕事に追われておる筈だが」

「それなのだがな、ほれ。サントウの弟に当たる外法者がおっただろう」

「む?……あぁ、傭兵の郷で見た覚えがあるな。確か、名はナタと言ったか」

「そう、その外法者が身を寄せたという傭兵の郷よ。先代のご時世には幾度となく矛を交え、天昌の鬼崩れと並び我が皇国の鬼への警戒心を最大限に高めてくれた、大鬼族(オーガ)の連中だ――あれらがな、つい半月程前に我が城へと襲撃をかけてきたのだ」

「「――なっ!?」」


 この早雲の言葉に、出雲だけではなくトビまでもが驚愕の声を上げてしまう。まさかここに来てと予想外の事態に動揺をしながらも、あのサントウならばその程度の手引きもやってやれなくはないだろうと思えてしまう。


「そうは言っても秘密裡の話よ。儂と当時侍っておった僅かな近習の他にそれを知る者はおらんがな」

「しかしそんな報告は上がっておらんぞ……余の付けておいたシノビにさえ気付かせぬとは、あの郷の連中の空恐ろしさもそうだが、サントウの奴め。やってくれたな」

「ふん、そこはお前の詰めの甘さに課題が残るといったところよ。ともあれ、彼奴等めがサントウの弟を連れてきおってな。あの外法者め、生意気にも儂を正面から見据えてこう言いおったのだわ」


 外法者である自分だからこそよく分かる。このままでは何れ遠くない内に御国は内乱で沈むだろう、と。

 皇国の現皇王がその言葉に憤る事も無く、事情を知らぬ者が見れば外法者扱いをされよう出雲相手に事実を歪曲させる事無く告げる。成程、これは御国の中では言えぬ事だわなと納得をしながらも、一つ……出雲にはどうしても不可解な事があった。


「親父様の今更に過ぎる告解の如き言葉は置いといて、だ。その者等の本当の目的は何だ?まさかナタの言葉を伝える為だけに城内にまで忍び込み、親父様へと面会をしにいったという酔狂な事もあるまい」

「誰が告解だ。後悔は多々あれど、儂は儂で現状と照らし合わせた結果その時に出来る事をやってきただけよ――と、それは今は良いか」


 言いながらもその顔に貼り付いて久しく、それを隠す為に白化粧に頼らねばならない程、早雲が長年溜め込んでしまった疲労の澱は深かった。知らずの内に娘には見せまいと顔に手を当ててしまった自身を自覚した早雲は、コホンと一つ咳払いをした後に改めて語り始める。


「『暫らくは儂等が天昌の鬼崩れの連中を押さえといてやる。動くなら今だぜ?』郷の鬼の言葉だ。忘れもせん二十年前、我が御国にまで攻め入ってきたあの糞爺めが、どの面下げてそんな事を言ってくるのだかなっ!ハッ!」

「あぁ、轟鬼のじーさまか……それにしても、愉しそうだな親父様?」


 言葉だけを見て取れば憤激極まりないとも感じられなくもないが、それを口にする早雲の表情は当時を知らぬ出雲から見ても愉しくて仕方が無いといった風に映ってしまう。


「無理はありますまい。何せ先代がご健在であった時分の大殿は、外法者に対しても穏健養護派で知られておりましたからなぁ」

「……は?」


 そこに入ったトビの補足に出雲は今度こそ目を丸くし、素っ頓狂な声を上げてしまう。今、トビは何と言った?この親父様が外法者養護?


「余の知る限り、新たに外法者へ対する隔離政策などを立ち上げて、貧困な土地の開拓と裏のシノビ仕事しか押し付けていなかった親父様が、外法者養護派?トビよ、お前()けてしまったのか?」

「はは、呆けるとは人聞きの悪い。これでも儂、まだ五十前でございますぞ」


 つい素に戻ってしまった出雲が表情も露わにトビを問い詰める中、そのやり取りを黙って見守る早雲はと言えばそれを眩しげな顔でただただ見守るのみ。そして娘である出雲にしても横目にそんな父の様子をこっそりと観察し、諦めた様に唸り始めてしまった。


「むむむ……どうやら真の様だな。恐らくは政治的な思惑が絡んでおるのだろうが、やはり余は……複雑だ」

「ふ――ややよ、お前も知らぬ内に成長したのだなぁ。これまでの恨みつらみでここで刺されても文句は言えまいと、内心覚悟を決めておったのだが」

「ふんっ!懺悔なら下らぬ政争に巻き込まれ、犬死をした上兄様と下兄様にでもやってやれ。生きてさえおれば後で巻き返しの機会も来ようことは、傭兵の郷の一件で余も学んだのだぞっ」

「……そうか」


 我が娘のそんな照れ隠しにも見える不貞腐れた返答は、皇王となってより十八年目という長き年月を針の筵に座るが如き心労に苛まれた早雲にとっては唯一の光明にも感じられ、それ故に―――


「――何だ、あの親父様が泣いておるわっ……わはは……」

「抜かせ、ややこそ涙と鼻水で可愛い顔が台無しではないかっ」

「だ、誰が鼻水を垂らしておるかっ!」


 長年に亘るすれ違いの結果生まれた溝が僅かに埋まった事を実感し、互いに貰い泣きをしてしまったこの状況。此処にきて何方が先に、などという論議は無粋というものだろう。

 暫しの間を言葉にならぬ、だが決して苦痛では無い柔らかい時間を過ごした親子はやがて何方からともなくはにかみながら視線を合わせ……これまたぎこちない、そして偽りのない何とも言えぬ表情で父と娘は互いを見合う。


「いやはや。離れた時間は長くとも、まっこと麗しい似た者親子愛ですな。このトビ、少々妬けてしまいますぞ」

「ぅなっ!?べっ、別にっ……余は外法者扱いをされ続けたこの十余年を忘れた訳ではないからなっ!お陰で仮にも皇族の一員だのに婚期も逃してしまいそうだっ」

「ふんっ、ならば儂が責任を持って面倒を見続けよう。やや、お前は無理に嫁になぞ行かなくても良いからなぁっ!」

「ええいっ、寄るなこの駄目親父!駄目なのは親父様の取ってきた政策だけで十分だっ!」


 最早何を言おうが無しの礫。近くにいながら心は遠ざけていた娘との距離が近付いた事に喜びを覚えてしまった父の耳には娘の罵声すら心地良く響き渡り、対する娘もまた、満面に朱を注ぎながらもそんな父親を強く拒絶する事もなく。

 こうして為政者としての秘密裡の会談は終わり、舞台は日常へと戻る事となる。


「ところで婚期と言えばですな。実は彼の地にてこんな事がありましてな……」

「あっ、トビ!それは言わぬ約束だと――」


 場を和ませるつもりで言ったであろうそのトビの言葉に、当事者であった出雲は目に見えて慌てた素振りを見せてしまう。そして、それを聞いてしまった早雲の顔色はみるみる内にどす黒く染まっていき―――






「――小僧ッ!おのれはやはり、儂のややに手を出しておったのではないかぁっ!」

「げっ……おい出雲、あれはお互い事故みたいなものだったって話だろーがよ!?」

「よ、余は言っておらんぞっ!トビの奴がばらしおってだな……」

「言い訳無用ッッ、そこに直れーぃ!!」

「納得いかねぇー!?」


 冬の寒空晴れ渡る昼下がり、異国情緒に溢れる衣装で大薙刀を振り回す中年の親父に追いかけられる、一人の若者の悲鳴が往来へと木霊する。それはあたかも賑やかながらも概ね平和なヘイホーという都市の在り方を象徴するかの如く、彼等を知る者達の呆れ混じりの笑い声と共に街の中へと埋もれていくのだった。

 安定の頼太オチ。

 皇国側の事情は一先ずここまで!ようやくヘイホーの他のフラグ回収に進めます。

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