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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第九章 無貌の女神編
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第175話 ロリコン疑惑のち出荷

 新章開始、章名は暫く(仮)としておきます。


 8/10(水)の夜、悪魔さん第29話投稿しまス。

 海洋世界での一件に一区切りが付き、レサトを連れた俺達は異世界ホールを通り三つの世界(トリス・ムンドゥス)側へと向かう。その際、初見であるレサトを見てまたも人間……というか知的生物にトラウマを抱える電光掲示板が騒ぎ始めてしまったのだが―――


「ワタシハ、レサトッテイイマス!ヨロシクオネガイシマス!」

『――あ、はい。こちらこそ宜しくです』


 この様にして、レサトの屈託のない笑顔と物怖じのしない元気な挨拶によって案外あっさりと打ち解けていたりした。


「わたしが通った時は一切反応をされなかったんだがな」

「こいつ、人見知りでニートなんで仕方ないっすよ」

『ニートとか言わないで貰えません!?私は引き篭もってるんじゃなくてここから動けないんですってば!』


 そうでした。こいつは所謂この異世界ホールの付喪神的存在で、その性質上外に出る事が出来ないんだったな。まぁレサトの愛らしさの前ではそんなのはどうでも良い事だがな!


「頼太ったらすっかりレサトちゃんの保護者になっちゃって」

「うむっ!親馬鹿ここに極まれり、だなっ!」

「ボクだって見た目の年頃はそう変わらないってのにサ……レサト、手を出される前に目を覚ました方が良いヨ」


 最後のピノだけは何故か不貞腐れた様子で失礼な事を言ってくれていたが、仲間内からの現在の俺の総評としては概ねこの様な意見で占められていた。親馬鹿と言われる程の事をしたつもりはないんだけどな……海に潜る時ですら肩車をし続けていたのがいけなかったのだろうか?


「テヲダス、ッテナンデスカ?オテテツナグ?」

「それは悪い言葉だから覚えちゃ駄目だぞ。レサトは良い子だからなー」

「ハイ!ワタシ、イイコデス!」


 う~ん、どこぞの毒舌幼女とは違ってレサトは本当に素直だな。ご褒美に肩車から降ろして目一杯レサトの頭を撫でてやる、かいぐりかいぐり~。


「……やっぱり頼太って」

「ロリコン……」

「だなっ!」


 しかし、女性陣からの評価は更なる下降の一途を辿ってしまっていた。解せぬ。


「釣鬼先生。俺、あいつ等が何考えてるか分かんねぇっす……」

「お前ぇも大概重症だな」

「お気持ちは分かりますがな。儂もお頭が幼少の砌には可愛くて仕方がなかったものです。勿論、今のお頭も目に入れても痛くない程に愛らしいですがな」

「トビッ、お前何いきなり恥ずかしい事を言っておるのだ!?黙らんかー!」


 こちらはこちらで健気な親馬鹿を展開された出雲が顔を真っ赤にしてしまった様子。あぁ、何となく言わんとしている事が分かった気がするな。つまりは俺もそういう目で見られていたって事か。

 その事実に納得し、皆もひとしきり騒いで落ち着いた所で改めて異世界ホールのゲートをくぐり三つの世界(トリス・ムンドゥス)側へと出る。ザンガの詰める駐屯所へ顔を出した時にも似た様なやり取りがありはしたが、いつもの事なので割愛させて貰うとしよう。

 そして三度自走式魔導車を借り、冬の気配近付く平原地帯の道程を揺られる事数時間。凡そ七日ぶりとなるサカミ独立都市の門をくぐり、泡沫の新天地本部庁舎へと入っていった。


「ああっ、お帰りなさい皆さんっ!」

「……ども、お騒がせしました」

「シェリーさん、心配かけてごめんなさい」


 これで二度目となるシェリーさんの急襲に、今度は予想が出来ていたのもあって前回の様な惨状にはなりはしなかったが――感極まって俺達を纏めて抱きしめてくるシェリーさんの様子に少しばかり罪悪感が芽生えてしまったな。


「本当に、心配をさせてっ……ですが安心しました」

「ごめんネ?シェリー」


 これには普段何事にも強気なピノでさえばつの悪い表情を浮かべ、しおらしく黙り込んでしまう。こうして暫しの間、そんな俺達の様子を羨ましそうに眺め周りをうろちょろと歩くレサトを傍目に、俺達三人は涙するシェリーさんに抱きしめられ続けたのだった。


「全く……わたしが数日前に駐屯所より報を送っておいただろうに。心配し過ぎなんだよ、お前は」

「ぐすっ。そ、そうですね。お恥ずかしい所をお見せしてしまいました……あら、こちらの子は?」

「レサト、デス!」

「あらまぁ、元気一杯な可愛らしい挨拶ね。(わたくし)、シェリーと申します」

「シェリーオネエサン、デスネッ」


 おっと、紹介するまでもなくレサトの話題に移ったみたいだ。丁度良いから先に説明をするとしようか。

かくかくしかじか―――


「――そうでしたか。皆さんが新たに訪れた世界の住人と……確かに、このサカミでしたらレサトちゃんの見た目でもそう不審がられる事もありませんし、見聞を広めるには適していますね」

「そこはわたしが責任を持って面倒を見る事を改めて約束しよう」


 だから安心して任せるが良いさと、クロノさんは俺達に言ってくる。勿論、そこについては心配しちゃいませんって。

 レサトもこの街で預かって貰う事となり、これで一先ずは安心だなと落ち着いた一同。そこにレサトがおずおずといった様子で話しかけてきた。


「デモ、ワタシガイナイト弓砲(ルドラエーヴァ)ノメンテナンスガデキマセンヨ?」

「「あ」」

「む……その問題があったな」


 そういえばクロノさんはレサトを預かる見返りとして、マーフィーさんから弓砲(ルドラエーヴァ)を正式に借り受けていたんだっけ。過剰極まるその威力とそれを生み出す為に使われた技術の関係上、当時の二本足達からは持ち出しの禁止を言い渡されていたらしいが――やはり母として、親として、旅行く我が子が心配で堪らなかったのだろう。何とも物騒極まるサポート物品を押し付けられてしまったものだ。


「ならばその際にはやや長旅になるが、レサトにも付いて来て貰う事になるか」

「アイッ!ガンバリマス!」


 相手が幼子であれやる気と覚悟を示す者への礼儀とばかりに躊躇う事なく、だが柔らかい微笑みを浮かべながらそう話しかけるクロノさんに、期待を寄せられたレサトはと言えば何とも嬉しそうに返事を返す。うん、いつ見ても可愛いな。パピルサグという種族的特徴による見た目の差異こそ若干あれど、こうして見る限りヘイホー界隈で無邪気にはしゃいでいる一般市民の子供達とそう変わらないんだよな。


「でも本質的にはこの子達って、エンジニア系よね」

「だよネェ……」


 微笑ましい光景を見る脇で扶祢とピノがそんな事を言っていたのもまぁ、仕方の無い事だろう。何せサカミへ来る道中にエンストを起こしてしまったらしき自走車を、備え付けられていた動力部分の説明書を片手にレサトが一人であっさりと治してしまった程だからな。


「コレガシンピリョク、ッテモノナンデスネ。ジャアココヲコウシテ……ンショッ。ハイ、デキマシタ!」

「まじかよ」

「やはり、あの世界の過剰文明を操る事に特化した者達なのだなぁ……」


 あの時、その手際を見て呆れる風に零していた出雲のこの一言に集約されるだろう。下手したら数年後のサカミはとんでもない事になっていそうだな……ここの小鬼(ゴブリン)研究者を中心としたマッドな集団が起こすであろう更なるトラブルに、シェリーさんやジャミラがストレスで胃潰瘍とかにならない事を切に祈る俺達であった。






 その後は以前にシェリーさんからも勧められていた通り、俺達はレサトへの街中案内も兼ねて数日程度をサカミに逗留する事となる。修練の傍ら近郊の見廻りに参加していたクナイさんや健治さんとも随分と早い再会を果たし、のんびりだらだらと過ごしていたのだが――そこに思わぬ形で怒りの体現が訪れる事となってしまう。


「……依頼者を巻き込んだ挙句に、二十日近くも音沙汰無しで遊び呆けているうちのギルドの問題児共がこちらにお邪魔していると聞きまして」

「や、探したよ皆。やっぱりここだったか」


 その……敢えて心象で語るならば黒き怒りの焔を背に、冷たい微笑みを湛えながらも眼光は刺し貫く氷柱の如く。ここで対応を誤るとバッドエンドまっしぐらになりそうな雰囲気を纏った怒れる受付嬢筆頭と、その横で相方の様子に苦笑を浮かべながらもにこやかに話しかけてくる冒険者の先輩の姿がありましたとさ。


「いや待ってちょっとサリナさん待って!だってほら、依頼人の出雲ちゃんが別に急がなくても良いって言ってたから――」

「そうそう、俺達は出雲の意思を尊重してただけなんですよ!それにこっちはこっちで色々と、それはもう様々な要因が絡み合ってつい先日まで大変だったんですって!?」

「お黙りなさいっ!仮にも一国の姫君の護衛を任せられた者達が定期連絡も無しに長期間に亘り行方を眩ませたらどうなるか、その程度はアナタ達でも想像が付くでしょうがっ。ただでさえ皇国関連との提携事業で大事なこの時期にそんな事をしてくれて、本部からの苦情が来て(わたくし)達まで捜索に狩り出されたのですからね!」


 げっ、そんな大事になってたのか!?言われてみればご尤もと思えてしまうその内容に、依頼者である出雲を含め一同共々凍り付いてしまう。


「今はサブマスが皇国との繋ぎを付けて必死に抑え込んでくれているのだけれども、実はちょっとした国際問題になりかけちゃっててね。だから悪いけれど、一度君達を回収させて貰うとするよ」

「さぁ、キリキリ歩きなさいっ!ヘイホーに戻りますわよ!」

「あの、ブレア。皆さんもきっと事情がおありになったのでしょうし、もう少し優しく、ね?」

「お前達は本当、いつもこんな騒動を起こしているのだな……これはレサトをわたしが預かって正解だったか」


 心優しきシェリーさんがそうフォローに入ってくれてはいたが、一方のサリナさんは冷笑の仮面もあっさり剥がれ、口に出したら間違いなく俺この世から消え去るよネ、と思える程の形相を形作り激おこ状態。いつだかに見たシェリーさんの病んじゃった感じの怒りも怖かったけれど、やはりサリナさんには頭が上がらないというか、学生時代のおっかない先生を彷彿とさせついつい首を竦めてしまうんだよな。まぁ、元俺達の担当として様々な配慮をしてくれた大先輩でもあるし、これも仕方の無い事か。


「いや済まねぇな、ホント」

「うむ、余とした事がここ暫しの解放感に我を忘れ、そんな基本的な事も見落としてしまったな!」

「ソレジャア、オニイチャンハココデオワカレデスカ?」

「そうなっちまうかな――そんな顔すんな、また暇が出来たら顔を見せに来るからさ」

「ウン……マタネ、ライタオニイチャン!」


 こうして俺達は名残惜しむレサト、そして苦笑いを浮かべるサカミの面々に見送られ、独立都市を後にする事となった。

 また何処ぞへふらふらと出歩かぬ様、ASコンビに左右をがっちりと固められた状態で自走車に詰め込まれ、ドナドナの如く出荷される俺達……嗚呼、さらば種族融和の象徴。今俺達が置かれている状況よりは余程安寧に満ちた浪漫の街よ、一先ずこれにて御機嫌ようっ!

 カルディ辺りに色々言われてぶち切れてしまった受付嬢筆頭がいた模様。

 それと帝国編とはなってはいますが、序盤は全然帝国じゃありません的な。

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