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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第八章 異心迷走編
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第170話 宝物庫での遭遇戦:前編

 回線トラブルで投稿時間が大幅に遅れてしまいました、申し訳無い。

『――ワカリマシタ。デハ、コチラヘドウゾ』


 マーフィーさんが案内してくれた先には、一つの巨大な箱が置かれていた。


「これが倉庫かな?」

『イエ、コレハイリグチデス。ソウコハ、モットシタニアルカラ』


 そう言って、マーフィーさんはその箱の扉を開ける。その先には昏い奈落への口が広がっていた……などという事はなく、明るい小部屋となっていた。


「なんだ、ここは?何も無いじゃないか」

『ジャ、オクリマスネ』

「送る?……おいちょっとまて!」

「クロノさんストーップ!……ぅきゃああぁぁぁ!?」


 この要塞に使われている技術から俺達は何となく予想が付いていたので、この小部屋から飛び出そうとするクロノさんをやんわりと抑えるに留め……ようとしたつもりが、どうもクロノさんに対する認識が甘過ぎたらしい。その初動のあまりの勢いにより、クロノさんの腰にしがみ付いて引き留めようとした扶祢がドップラー効果を残しながらそのまま引きずられていってしまった。無情にもその間に扉が閉まり、部屋全体が動き始める。


『――次は、地下48階、地下48階でございます』


 予想通りにそんなアナウンスが小部屋の内部に流れ、約二名の脱出劇に取り残された俺達はと言えば若干弛んだ雰囲気の中、特有の浮遊感を感じつつのんびりと短い縦穴移動の時間を過ごす。


「余は知っておるぞ、これはエレベーターというものだろっ?日本に行った時に総合百貨店で乗った事があるからな!」

「あぁうん、そうだったな」


 そういえば出雲の奴、出立の日の早朝は自動ドアとエレベーター、そしてエスカレーターという文明利器を味わう為だけに散策していた位だもんな。釣鬼やピノ程ではないが、こいつも深海市に滞在していた数日間で随分とこういった道具に慣れたものだ。


『間もなく、地下48階へと到着いたします。ご利用、有難うございました』


 そして到着の音声の僅かな後に部屋の振動が止まり、再び扉が開き始める。その外の光景は――全体的に若干薄暗いが、確かに広い倉庫といった感じだな。


「『照明装置(カンテラワークス)』……オッケー、いこッカ」


 俺達が周囲を見回している間にピノがいつの間にか精霊に命じて作業をしていたらしく、気付けば懐中電灯風の小さな匣が人数分用意されていた。これを持って歩けという事かな。


「こういう時は光魔法で照明を作るんじゃないのか?」

「これネー、今実験中なのヨ。ただの照明じゃ短時間しかもたないケド、こうやって型枠の内部に灯火だけ入れとけば長持ちするっぽいノ」


 ほー、そりゃ便利だな。俺は精霊力の適性が無いのでピノの受け売りでしか無いが、通常の『光明(ライト)』では光の精霊力が素の状態で宙に晒され常に大気中へと漏れ出る為に、コストパフォーマンスの観点で見れば相当に効率が悪いのだそうだ。


「でもサァ。精霊使いって普通、専門知識なんて持ってないからネェ。如何にして精霊との会話をするかに重きを置いてるカラ、魔法の改良ってあまりやろうとしないんだよネ」

「お前ぇはその辺り、通常の精霊使いとは真逆をいってるからな。お陰で俺っち達としちゃ助かっちゃいるんだけどよ」

「フフーン、このボクに感謝するが良いサ」


 釣鬼の言葉に気を良くしたピノが、いつもの通りに胸を張りながら可愛らしいドヤ顔を決める。

 実際ピノの改良魔法の数々には助けられているからな、時々身の破滅を感じる程の大ポカもやらかしはするが。どうやら今回は安定して成功した様であるし、活用させてもらうとしよう。

 それから数分程待ってみたが、扶祢とクロノさんが来る気配は無かった。まぁ三つの世界(トリス・ムンドゥス)の事件の頃に比べるとクロノさんの性格も随分と落ち着いてきてはいたし、あの人への説明の方は扶祢に任せて俺達は武器を探すとしますかね。


 そして、倉庫内の捜索を始めようと一歩、足を踏み入れようとしたその時だった。


 ―――ヴィーッヴィーッヴィーッ!


「む、何だ?随分と耳障りな音だな」

「お頭、これは警報では?」


 けたたましい警報が鳴り響く中、場違いに暢気な声が上がる。その発生源を振り向いてみると……近くのお宝然とした彫刻を抱え、俺にでも見える程にはっきりとその周囲に張り巡らされた精霊力の糸らしきものを絶ち切る出雲の姿があったのだ。


「お前何やってんだー!?」

「ほら見てみるが良い!この彫刻の形作る、艶めかしさすら感じさせる見事な曲線!ここはお宝満載だなっ」

「その行動を世間一般的には泥棒って言うんですよ!手遅れだろうけどさっさと棚に戻しとけ!」

「……まじぃな、何かくるぞ」


 こうして俺達は大海蛇(シーサーペント)を斃す為に必要な武器を取りに行ったその先で、更なる問題を抱える事となるのであった。このお馬鹿姫、後でお仕置きだ!


『侵入者ヨ、宝物ヲ置イテ直チニ立チ去リナサイ。ソレガ確認出来ナイ場合、三分後ニ攻撃体勢ヘト移リマス』


 その合成音声と共に床下からせり出す様に現れたのはマネキンの如き金属人形(ロボット)。宝物庫の守護者が来ちゃったよ!


「はひっ!今直ぐ立ち去るんでちょっとお待ちをば!」

「おぉ!?何かまた面白そうなのが来たなっ、一体何をするのだ?」

「それどころじゃねぇっ!トビッ、大事なお頭を死なせたくなきゃさっさとそれ置かせてエレベーターに連れ込めっ!」

「はッ!ほらお頭、駄々捏ねてないでそれ置いて!」

「えぇ……これ、良い壺だというのになぁ」


 俺は当然の事ながらここに至っては釣鬼ですら必死の形相で叫び、ピノを小脇に抱えながらエレベーター内部へと疾走する。それもその筈、あのロボットの腕の形状からは如何にも何かしらの弾状の物を撃ってやんよ!といった製作者の意図を感じると言いますかね、まずいよね。


「――え?」

「おいおい、まじかよ……」


 しかし逃げ込もうとしたその先には……無情にも扉が閉まり、その脇の位置情報を示すランプがどんどんと現階層より地上へと向かって上がっていく様子が見えるのみ。どうやら俺達が部屋の内部を調べている間に扶祢達がこちらへと向かう為、上の階へエレベーターを呼び寄せてしまったらしい。


「……あれ。もしかして俺達、詰んだ?」

「降りてくる時、三分以上かかったよネ?」


 他に出口の類が無いかを調べるも、少なくとも俺達の目の届く範囲ではこのエレベーターが宝物庫からの唯一のエントランスだ。それが判明する頃には先の警告より優に二分以上は経過をしており……。

 絶望的な予感に包まれながら恐る恐る倉庫側へと振り向くと――そこには、先日目の当たりにしたばかりの要塞砲を連想させる照準動作を取る、警備ロボットの姿が。


『ピッ――タイムリミットデス。コレヨリ侵入者ノ排除作業ヘト移リマス』

「避けっ……」


 それを言ったのは誰だったか。言い終わるのを待つ事もなく警備ロボットの腕から粒子砲(ビーム)が発射された……のだと思う。一瞬でその衝撃に吹き飛ばされて何かが弾ける光しか見えなかったからな。

 こうして俺達の命は、ここ異郷の地にて過剰文明の遺産の前に逢えなく散る定めとなる―――


「――なんて阿呆なモノローグしてる場合じゃねえっ!皆、生きてるか!?」


 粒子砲(ビーム)の破壊力により瓦礫の山と化したエレベーターエントランス付近で、俺はどうにかその衝撃から立ち直り辺りを見回した。粒子砲(ビーム)が発射される直前、ピノが軸線上の大気に対して何らかの干渉を行っていた様に見えたので、きっとそれで直撃が避けられたのだろう。危うく全滅の危機だったぜ……。


「ナ、何とカ~」

「っち……腕が片方、やられちまった。が、まぁ生きてるな」

「うむむ、この光線砲の威力。あの絡繰り人形、是非とも一体余の配下に欲しいものだなっ」

「お頭、時と場合は選びましょうな」


 見れば釣鬼の右腕が根元付近まで蒸発し、残った部分も痛々しく焼け爛れてはいたが、それ以外に然したる被害は無かったらしい。最悪の事態に陥らずに済んだ事にほっと胸を撫で下ろしながら、俺達は状況の把握に努める。

 全滅の危機はまだ去った訳ではない。こうしている間にもロボットの駆動音は着実に近付いてきているし、その気になれば再度の砲撃で瓦礫に挟まれたまま今度こそ全滅だ。今は再装填(リチャージ)中なのか、それともこちらの様子を窺っているのかは不明だが、幸い撃ってくる気配は見られない。まずはこの場を離脱して宝物庫内へと逃げ込むのが現実的な対処か。


「咄嗟に水と空気のランダム遮蔽物を作ってみたケド、直撃を避けるので精一杯ダヨ!ビームの体勢に入られたら終わりだと思ってネ!」

「ならば危険だが、一網打尽にされるよりはばらけた方がマシだなっ」

「致し方ありませんな。それでは皆様、ご武運を!」


 ピノの言葉に皆戦慄し、そして続く出雲とトビさんの即断力に驚かされながらも俺達は行動へと移る。まず真っ先にシノビ出身の二人が付近の小さな破片を礫として投げ放ち、それを見た釣鬼もご自慢の怪力で比較的大きな瓦礫を投げつけ、ロボットに防御態勢を取らせる。


「喰ライ尽クセ、七色ノ竜ヨッ!『彩光制裁(フレアサンクション)』ッ!!」


 ロボットが防御態勢を取り一瞬動きが止まったタイミングを見計らい、ピノによる複数の属性を絡めた炸裂弾が雨あられと降り注ぐ。

 元より高い精霊力を持つピノがコストパフォーマンスを徹底的に改善し、その上で構築し直してようやく実戦の域に仕上がったという、曰く異邦人用のログハウスに仕掛けられていたトラップ魔法。これには同時に対象の属性相性等を解析する機能も付加されており、弱点を見抜く事で以降の展開を有利に働かせる効果をも見込めるのだが―――


「――やっぱり弱点無しッポイ!逃っげロー!」

「よしそれじゃあ余は向こう側へ逃げるぞっ!」

「ありゃ液体金属ってやつだったか。人間の想像力ってな、凄ぇもんだよな」


 一見ピノの必殺魔法でグズグズに溶け落ちたかと思われた警備ロボットだが、魔法の効果が終わるや否や直ぐさま溶け落ちた状態で動き出し、今度は高速移動スライム状態でこちらへ触手を伸ばしてきやがった!

 ただの警備ロボットだと思っていたら、実はTの付く特殊品番タイプだったらしい。映画そのものとも思える様な複雑怪奇な動作で襲い掛かってくる様は、ある意味ホラーとも言えよう。釣鬼の言葉ではないが、人間の想像力、恐るべしだな。


「……うぉおっ!?あっぶねぇ!」

「液化形状だとビーム撃てないみたいヨ!各種神秘力に変化無シ!」

「おーらい!」


 触手かと思えばいきなり部分的に硬化して斬撃をお見舞いされ、こちらが反撃に転じればあっさりと対象部分を液状化させて避けやがる。釣鬼の渾身の突進突きすらもあっさりと衝撃を逃がしている様子であるし、現状ではまともに相手をするのは無理があるな。

 この形状ではビームを撃って来ないのが不幸中の幸いか、という訳で今度こそ俺達は散り散りに宝物庫内フロアへと逃げ出していった。


 ・

 ・

 ・

 ・


 それから数分程か、しつこい追撃をしかけてくる警備ロボットだったが、液体形状ではそこまで足が速くはない様だ。棚の上に登ったり壁や障害物を利用して跳んで避け続けていると、ある時を境に不意に俺への襲撃が止まったらしい。見失ったのかな?


「ふうっ。何とか撒けたか」


 取りあえず一息を吐き、近くの壁へと寄りかかって一時の休息を取る。無論、あのロボットの襲撃には細心の注意を払いながらではあるが。そして辺りを見回してみると……ここは剣類のコレクション区画、か?古今東西といった、統一性の無い各種剣類がそこかしこに置かれていた。

 手近にあった剣の付箋(タグ)を見てみるが、文語はアルカディアのそれとは大分違うみたいだな。半分以上は難解な記号で読み取る事は出来なかった。しかし幾らかは読み取れることから、やはりこの世界はアルカディア系の派生世界の可能性が高まってきたかな。


「ええと、これは……分子、振動剣?」


 辛うじて武器名だけが読み取れたその付箋の記述を見て、俺は一瞬呆けてしまう。

 え、っと。分子振動って言ったらあれだよな、物理学の先生が授業中に時々熱く語ってた高周波ブレードとか、そういった浪漫武器の基になるやつだ。現実世界でも医療分野や工場関連で一部その原型となる技術が使われている現場もあるらしいが、今俺の目の前に置かれているこれはどう見ても過剰文明の遺産といったものだろう。

 相変わらず説明記述は解読不明だったが、図解により何とか振動剣を起動させた俺は試しに近くの棚へと剣を振ってみた。


 ―――ヴォンッ、サクッ。


 うぉっ!?なんだこれ、金属があっさりと切断出来るぞ!

 この金属だって見た目からして色合いが既視の品とは別物であるし、並の金属にあるまじき弾性まで有しているのは調べていく上で判明していた。だのにこの剣といえば軽く振り下ろしただけでも大した抵抗も無く、その謎の金属すらをも斬り裂いてしまったのだ。こ、これはとんでもない掘り出し物の予感がするっ!

 

「ヒャアァ、リアルお宝!お宝発掘開始だいやっほぅ~!」


 これが英雄譚の主人公であれば直ぐさまこの剣のみを握りしめてあのロボットを討ちに行くところではあるのだろうが、生憎俺は物欲に塗れた一般人だ。それなりに鍛錬は積んでいるとはいえ、それはそれとしてこんな浪漫溢れる武器庫を目の当たりにして何もしないなんて有り得ないよな!

 という訳で暫しの間、武器庫内を興味本位を兼ねて片っ端から漁っていく俺なのでありました。

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