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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第一章 異界との邂逅 編
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第001話 謎の穴と残念な狐耳

 なろうで読みふけっている内に自分でも書きたくなった何十万番か煎じです。どぞヨロシク。

「なんだ、これ……?」


 ある春先の昼下がり、野暮用を済ませた帰りの途中に見つけた穴?の前でつい立ち止まり見入ってしまうこと数分間。

 穴?とわざわざ疑問形にしているのにはそうするだけの理由があった。

 縦2メートル横1.5メートル程だろうか。楕円形に開いた入口が道の脇に続く崖の真ん中にぽっかりと、何かの入り口のようにも見える謎の洞。

 地続きではなく地上1.5メートル程の岩肌をくりぬくように掘られており、普通に見れば野生動物か何かでもいるのか危ないなあ、程度の認識で終わる話なのだが……。


「何故に階段?」

「階段、だね」


 階段がある、つまりこの穴は明らかに人工物という事で。


「こんな穴なんてあったっけか?」

「うーん、ここは何度か通ってるけど初めて見たかなぁ」


 だよな。


「ところでどちら様でしょうか」

「こちらの台詞でもありますねぇ」


 うむ、誰この子。


 状況把握ついでに改めて自己紹介をさせて貰うとしよう。

 俺の名前は陽傘(ひのかさ)頼太(らいた)、割と田舎であるここ深海市生まれの当年とって十八歳だ。

 つい先日高校の卒業式を終え晴れてプー…もとい浪人生活まっしぐら予定のどこにでも居そうな若造である。

 ちなみにナイスガイを目指し日々邁進中だ、ただしイケメンは爆ぜればいいよ。


 そして気が付けばそんな俺の隣で一緒になって不思議穴を覗き込む美人さんが居た。

 癖が無く腰まで届きそうな艶のある長髪。すっと伸びつつも柔らかさを感じるふとまゆ。太眉ではない、ふとまゆだこれは譲れない。切れ長の目、整った鼻、鋭さを感じながらも近寄り難い印象を感じる事は無く、どこか憎めない人懐っこい表情をした―――

 いや心的描写などは別にどうでも良いのだが。


 要は目の保養としては十分過ぎる程の美人さんであり、それが涼しげな半袖の和服を着て佇む姿は清涼感漂い、春先の陽気も相まってとても清々しい気分にさせてくれていた。これを見るだけでも今日の散策のご褒美としてはアリだな、などと思いつつお互い軽い自己紹介をする。


 この美人さんの名前は薄野(すすきの)扶祢(ふね)さんというそうで。おばあちゃんみたいな名前だな、とつい素直な感想を口にしてしまったらいきなり足が出てきた。ジト目で軽く蹴られただけなので痛い訳じゃないが「うっさい十人並」はちょっと酷いと思う。

 まぁ大して気にしている様子でもないのでとりあえず流そうか。


 扶祢さんは家庭の事情で高校卒業後、隣町から深海市に越してくることになったのだとか。まさかの同い年。十人並呼ばわりのお返しに年増顔と言ってやろうかとも思わなくはなかったが、折角の美人との接点を自分からふいにするのも勿体ないのでやめておこう。


「ところでその付け耳と尻尾はコスプレかなんかっすかね」

「うん、隣の県でそんな催しがあってね、その帰りなのです」


 と言いつつ薙刀っぽい長物を脇に立て、えへん と誇らしげにドヤ顔をかます獣耳と尻尾付き。


「そんなモン持って警察に捕まらなかったのか……」

「電車の中じゃ包んで荷物置きに置いてたし、向こうじゃ○○会場でコスプレやりますって言ったら問題なかったよ?」

「……もしかして行きも耳尻尾付?」

「yes」


 どうも少し残念な子だったらしい。

 しかし目の保養としては最上級のモノをお持ちであるようではあるし、コスプレとはいえ片田舎の山の麓でそれっぽい耳と尻尾を付けた姿を目の当たりにすると、何処となく幻想に飲み込まれそうな錯覚を覚える気がしなくもない。本人も楽しそうな様子なので突っ込みを入れるなんて無粋な真似をする気は無いけどな。


「それにしても何なのかしらね、コレ」

「階段があるってことは人工物だよなぁ、戦時中の避難路とかか?」

「でも前はこんな穴、無かったわよね?」


 うーむ、謎だ。


 とりあえず近くの交番に二人揃って届出を出しに行ってみた。

 届出そのものは基本的に暇な田舎町、特に邪険に扱われる事も無く受理されたのだが―――


「ところで君、その薙刀は部活動か何かで使っているのかな?何か身分証があれば提示して貰いたいんだけれども」

「えっ……」


 どうやらそれとは別件で扶祢さんが事情聴取をされたらしい。その時は不覚にも吹いてしまったが、冷静に考えれば刃は潰れてるとは言え許可無く薙刀を往来で持ち歩くのは流石に駄目だよな。

 尚、耳と尻尾は可愛いからokらしい、ota文化バンザイ。ちなみに狐系でした、沢山の尻尾がモフモフで危うくお手入れをしてあげそうになってしまったのはここだけの秘密だ。


 その日は短い帰り道を扶祢さんと軽く駄弁りながら帰宅した。何でも、扶祢さん家は裏の山の山荘の管理をしているらしい。ご近所さんということで自宅の電話番号だけ教えておいた。

 まぁいきなり携帯のやり取りを要求してる訳でもないし、そこまで馴れ馴れしくは思われないだろう。

 その内メール位は出来るようになれれば良いなぁ。では今日の所はお休みなさい……zzz






 翌日―――


「頼太ー、女の子から電話よー。聞いた事もない声の子だけど」

「え、まじで?」


 メールどころか直電が着た。

 いきなりモテ期の到来!?イヤッフゥーなんて事は勿論無く、あの穴について警察からの電話が着たという話らしい。うちには電話なんて着てないんだけどな……来られても面倒なだけだし別に良いんだけどさ。


 話を聞いてみると、


「届け出のあった穴などという物は無く、詳細を聞きたいのでもう一度事情聴取をさせてほしい」


 とのこと。

 こっちには電話が着ていない事実を話すと、怪しいので一緒に来て貰えないかと頼まれたので二つ返事で了承。にしても穴が無いってどういう事だ?


「よっす」

「おはよー」


 そして近くの公園で扶祢さんと合流した後、共に昨日の交番へと向かった、のだが……。


「チッ、野郎付きかよ……平凡野郎に用は無ぇんだよ」

「……あ?」


 うちに電話がかかってこなかった訳を聞く以前にいきなりこんな舐めきった事を言われ、一気に場の空気が凍り付いてしまった。つまりこいつは事情聴取にかこつけて扶祢さんに声をかけようとしたって事か……ちょっとこれにはカチンときたな。

 隣を見ると同じく訝しげな表情をした扶祢さんと目が合い、互いに心中を察し……た気がする。


「お前、それ明らかに公務員としての職務違反だろ。何考えてんだ?」

「迷惑です、こういうの」

「っせーな!ガタガタ騒ぐんじゃねーよ。はーこれだから餓鬼の相手は面倒臭ぇんだ。てめーだってキモイ付け耳付けてこれ見よがしに可愛いアピールしてやがっただろうが」


 ……こいつ、本当に警官か?


 見た感じ俺等とそう変わらない年恰好っぽいが、中身は随分とお粗末だな。仮に俺の行ってる道場の先生の前でこんな阿呆な態度取ったら地獄の扱きが待ち受ける事間違いなしだぜ。

 そんなこんなで少しばかり押し問答をしていたんだがこの野郎、いきなり俺の胸倉を掴んで足を払いに来やがった。


「――っ!いきなり何しやがる!」

「話しても無駄な奴は公務執行妨害で逮捕してやるってんだよっ!オラ大人しく投げられやがれっ」


 言いながら掴みかかってこようとするこの阿呆の手をかろうじて払い、しかし警官相手という事で俺の側からは中々手を出し辛い状況になったその時だった。


「おう戻ったぞ――おい新人、何やってる?」

「あっ、オッサン……」


 この阿呆の先輩らしき年配の警官がパトロールから戻ってきたらしく、丁度そこに掴み合いとなった俺達の姿が目に入る。ついでに言えば、その脇では扶祢さんが目に大粒の涙を溜めながらこれ見よがしに震えていて。


「新人、手前またやりやがったな!」


 次の瞬間そいつの返事も聞かず、年配の警官が放った見事な右の掌が新人らしき怠慢警官の顔面に炸裂し、あっさりと張り倒してしまった。


「うわ。あの人、顔拉げちゃってたね。怖い怖い」

「お、おう……」


 そして今や舌をぺろりと出し、涙の跡すら残さずにそんな事を言う扶祢さんを見て思った事……女って怖え。まぁ、それだけ扶祢さんも腹立たしかったって事なんだろうけどな。


 その後、年配の警官から平謝りをされてしまった事でもあるし、取りあえずお互い水に流し改めて穴についての聴取に進む事となった。件の穴については丁度この警官がさっきまで見に行っていたらしいのだが、何でも一面続く岩肌のみでそんな穴などは見つからなかったらしい。結果的には見間違いだったのではないかという結論に至ってしまったが、先程の出来事もあってか特にお咎めも無く帰ることに。


「うーん、何かおかしいよね……もう一度見に行ってみない?」


 交番を出た後もやはり納得のいかない様子で扶祢さんがそう切り出してきた。そうだな、一人なら兎も角二人揃って同時に見間違うというのも妙な話だし。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「解せぬ」

「……位置情報記載合ってたよね?」


 なんだ、これ。

 しっかり穴があります。しかも今日は頑丈そうな梯子付き…おいちょっとまて、この梯子岩に埋め込まれてるぞ。進化しとるー!?


「―――」

 

 扶祢さんがおもむろに携帯で写真を撮り、その画面を見て絶句し少しの間硬直してしまった。何か映っちゃいけないものでも映ってしまったとか?


「えっと。頼太君って、ファンタジーモノとかには興味あるかな?」

「ん?創作小説とかは結構読んでるな、扶祢さんもコスプレしてる位だからそっち系の趣味があったりするんじゃないのん?」

「……あー、まぁそうなんだけど普通男子って女子に聞かれた時そういうのは隠したがらない?」


 俺の堂々とした漢らしい回答に少しばかり目を逸らしながらそう言って来る扶祢さん。フッ、早くもこの俺の魅力に中てられてしまったか。


「俺はナイスガイを自負してるからな、別にやましいことでもねーし」


 うん、やましくなんかねーよ。学生時代には周りに秘密にしてこっそり読んでたつもりが実はバレバレで、色々ネタにされていたのを知った時に悶絶して以来、開き直ったなんて悲しい過去は全く無いからな!


「それに扶祢さんは恰好からしてそういうのにどっぷりと浸かってそうに見えるからさ。同類なんじゃないかとこう、俺の類稀なる直感がだな」

「くっ、ブーメラン投げちゃったか……」

「ところで流れ的に何となく想像出来てしまったんだけど、もしかして写真には綺麗な岩肌だけが映っていたり?」

「yes」


 本日のyesいただきましたー!

 って、え。何?ネタじゃなくて本物のファンタジィ?


「mjk」

「mjd」

「振っておいてなんだがノリ良すぎだろ。盟友(ポンヨウ)にしたいレベルで」

「光栄でありんす」

 

 そう悪戯っぽい表情で言いながら、小袖の裾で口元を隠しつつ花魁風の和風美人ポーズなんてしてみせる扶祢さん。何このノリの良過ぎる可愛い生物。さっきの女の怖さ的なやり口を差し引いても十二分に黒字になる位に親近感湧いてきちまったんだけど!


「昨日の耳と尻尾付きでやられたら、多分今頃セクハラ呼ばわりも辞さない覚悟でモフっていたな」

「良いけどね。一応これでも薙刀の師範代経験者だからやるつもりだったらそれなりに覚悟してよ?」


 ……あの薙刀マジモンの得物だったんすか。


「カ、カラーテがあれば死にはしないっ!」

「ツッコミ待ち体質ってのも難儀だね……」


 ゴフッ……見事なまでに良い意味で的確にエグってくれやがるぜ、精神的に。

 あ、一応俺も空手の段持ちではあります。目の前に居るさんばいだーん+刃物+師範級な実戦経験のコンボを決めてる人相手とか速攻でバックステップ土下座するレベルだけどさ。


 まぁここでこのまま目の保養になる相手と他愛無い雑談をし続けるのはとても楽しくはあるのだが、そろそろ夕方だし調べるなら暗くなる前にしないとな。という訳でその梯子に手を掛けて、おっかなびっくり登ってみたんだが……。


「……登れるな」

「テンプレすぎてwktkが止まらない、はっもしや私ヒロインポジ!?どうせならもっと映える見た目のと組みたかったよっ!」


 見た目に反し案外しっかりと据え付けられた梯子を登り、穴の入り口に立った頃には下では扶祢さんがやたらはしゃいでいたらしい。


「腐ってやがる……(性格矯正が)遅すぎたんだ……」

「誰が腐属性よ!震えるぞハート!!燃え尽きるほどヒート!!って位に私はバリバリのファンタジー派ですー!ファンタジータグを付けただけな恋愛小説なんか見たらそっとブラウザバックしちゃうんですー。あ、でも残虐表現は悪く無いかも」

「ぶっ……業が深すぎんだろ」

「……くっ、またしても」

 

 これまたいきなり一部の属性に真っ正面から喧嘩を売るような発言を聞いてしまい、つい吹き出してしまう俺。いやまぁ腐属性が無いのはやりやすくていいがね。あとさらっと平凡面扱いされたこの恨み、ハラサデオクベキカ……。






 今日の交番からの流れで随分と打ち解けた(気がする)俺達は、今も目の前で圧倒的な現実を見せ付ける不思議現象に湧き上がる好奇心が抑えられず、気付けばどちらからともなしにここの探索をしようと言い出していた。

 現在は高校卒業後の春休み時期ということもあり、お互いそれなりに時間も空いている。なので今日は互いに準備に時間を費やす事となり、翌日の計画を軽く打ち合わせしてから別れる事となった。

 どっちも割とツッコミ待ち属性です。ツッコミ役の登場が切に求まれる。

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