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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第二章 冒険者への入門 編
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第018話 街中観光

 翌朝にギルドへと出向いたところ、ピノピコの滞在費という事で結構な額を預かった。こんな大金を名も無き新人達へあっさり預けて良いものかとも思わなくはないが、


「もし持ち逃げしたら全国指名手配になっちゃうかもしれません♪」


 とは某受付嬢のお言葉。流石、見た目は柔らかそうなデキる女。俺達担当としてのパワハラは健在だぜ。

 ともあれこれで件のパーティ達がヘイホーへと戻って来るまでの間に関しては待機期間として扱われ、時間的な余裕が取れるようにもなった。昨日に提案した参考人としてのピノのお守り役といった立ち位置が確定したという事かな。


「それじゃあピノ、何処か行きたい場所とかはあるのか?」

「人族ノ街ニユックリ滞在スルナンテ今マデ無カッタカラナー。ピコ、ドウシヨッカ?」

「わふん」


 ギルドを出た後、滞在しているホテルへと戻り早速今日の予定を聞いてみる。しかしやはり突然決まった事であるからか、当の本人達はと言えばのんびりとした様子でそんな事を言っていた。


「まぁ決まるまでのんびり考えりゃ良いさ」

「特に当てがないなら適当にぶらついてみるのも良いんじゃない?私達もこっちの世界の街は初めてだし、色々見て回りたいんだよねぇ」

「ソッカー。ソンジャソレデイコー!」


 方針が決まった俺達は食事を済ませ、ホテルを出る。その際にロビーカウンターの側から向けられたのは、何とも扱いに困った感じの従業員たちの微妙な視線。昨夜は慣れない人間達の街での初宿泊ということでピコを巡っての馬鹿にならない一悶着があったものな。

 ピノの弟分であるシルバニアウルフのピコは、一般的には魔物に分類される存在だ。本人曰く無闇に暴れるなんてありえない!との事だがいきなりホテルの屋内にそんなものがのしのしと入り込んで来たりすれば混乱間違いなし。押し問答の末にピノがぷちっと切れちゃって『地裂斬(グランドクリーヴ)』を使用しかけた時は押し留めるのに苦労したぜ。

 この辺りを見てもギルドが責任を持ってある意味監視役ともなる者への手間賃をかけた理由が理解出来ようというものだ。


 結果的にはギルドとサリナさんの名前を出しホテル側にどうにか納得してもらい事なきを得たものの、一歩間違えば大惨事。こんな愛らしいナリでホテルを倒壊させかねない大魔法をいきなりぶっぱなそうとする好戦的な性格もそうだが、中々扱いに困るお子ちゃまだぜ。

 なお精霊への呼びかけ自体は扶祢による背後からの愛情たっぷりなハグ抱きピノ化により、物理的にスタン状態を引き起こす事で辛くも妨害判定に成功した。こいつのロリコン性癖に助けられた形となる。

 俺?その時はピコを撫で繰り回すという大事な仕事がありましてな……。


「それじゃあまずは日用品とかのお店から見て回りましょ~」

「オー!」

「わぉーん!」

「ではここは若い人達に任せて俺っちは暫く席を外しとしますかね」


 という訳でいざ街中散策パート。いきなり扶祢が面倒臭そうな提案をし始めた。あと速攻で釣鬼先生がとんずらかけようとしやがった。


「待てリーダー、むしろ強力なリーダーシップで引率をして貰ってだな。あっ、俺ただのぱんぴーなんで用事が済むまで向こう行っときますね!」

「いやいや、前途有望な若者達に任せて経験を積ませるのも年長者の務めだからね。頼太君ここは是非頑張ってくれたまへよ」


 女同士の長い買い物という未知の領域に俺一人取り残されては堪ったものじゃない。慌てて釣鬼を取り押さえ、女心が解っていない寂しい独り者の野郎同士による醜い争いが勃発してしまう。


「はいはい。別にそんな長々と入り浸ったりはしないから、二人ともちゃんと一緒に来てよね」

「甲斐性ノ無イ奴等ダナ。ソンナンジャモテナイゾ」

「「………」」


 どうやら外堀は既に埋まっていたらしい。それにしても憎まれ口の多い幼女だなおい。

 こうしてついまじまじと見てしまったが、対するピノはといえばそんな俺の視線にも全く動じることもなく、その愛らしくも意志の強さを感じさせるくりっとした大きな(みどり)色の瞳で首を傾げながら見返していた。


 俗に言われる金髪碧眼にすっと通った細い眉、緩めのカールがかった明るい金髪をツインテールに纏め、フワフワな萌黄色基調のドレスを身に付けている。妖精族特有の器官である翅がある為にドレスの背中側は大きく開けているが、そこにアゲハ蝶に似た形状の透き通る虹色の翅が納まり非常にゆったりとした気品を感じる。

 つまりは口を開きさえしなければ、大多数の人間がその姿に幻想を感じるであろう見目麗しい容姿とも言えるのだが。どうにも肝心な中身がネ。


「普通妖精ったらもっと可愛らしい口調で喋るんじゃないのかよ」

「ハッ、妄想モ大概ニシテヨネ。アンナスチャラカナ連中ト一緒ニナンカシテ欲シクハナイワケ」


 これである。今もこのように表情を皮肉気な色に染めこれ見よがしに両肩を竦めながら、幻想台無し、現実まっしぐらな発言をしてくれちゃっている真っ最中だったりする。


「でもそれって一般的には可愛らしいって認めてるわよね」

「……ハッ!?」

「わふぅ……」


 そこに突っ込む扶祢の言葉に図星を指され、今度はピコが駄目だこりゃといった様子で首を振っていた。


「ボ、ボクダッテ可愛イダロ!ホラ、コノ愛ラシイ見タ目ニマッチシタドレス、更ニソコニ加ワル幻想的ナ翅ッ!」

「その恰好確信犯だったのかよ……」

「もう完全に当初の議題を忘れてんな、こいつ」


 そして釣鬼が呆れながらいつも通り場を〆るのであった。確かに見方によっては可愛いと言えるかもしれない、オツムが弱い子的な。見た目そのものは素直に可憐な容姿と言えるんだがね。


「トコロデサ。何デオ前、マタボクヲ抱キ抱エテンノ……」

「だってピノちゃん、歩くと私達より歩幅が短いし、この位のことで飛ぶのは疲れるでしょう?」

「ピコニ乗レバイイジャン」

「……はっ!?」


 何故だろう、ピノと扶祢が同レベルにしか見えないな。これが幻想(ファンタジィ)繋がりってやつか……色々それっぽいパーツが付いたところで、現実に生きている幼女と元学生だもんな。

 こうして目の前に広がる現実の前に、改めてファンタジィ世界にきてしまったんだなと再認識をさせられる俺であった。


「マァ良イケド。他ノ妖精達ニハアマリコウイウ事シナイデヨ」

「いきなりのデレ!?私今モテ期に入ってるッ!!」

「落ち着け」


 ―――スパァァァアンッッ!


 どこから取り出したか釣鬼のハリセンアタックが扶祢の頭頂部に入り、僅かに遅れて襲ってきたツボの激痛に頭を抑えて悶える扶祢。つか、まだやってたのかこいつら……。


 尚このハリセンも森に居た頃に通販カタログを見て注文した特注品である、所詮ハリセンなので耐用時間は短そうだけれども。


 閑話休題(それはさておき)


「あの、釣鬼。釣鬼の力でツボにツッコミ入れられるとハリセンでも本気で痛い……」


 涙目で訴える狐耳、でも正気には戻ったようだな。

 そこに既にピコに搭乗していたピノが話の続きをし始める。


「コノ翅ハ確カニ種族特有ノ魔法器官デ物理的ニドウコウナル事ハ無インダケドサ。若干触覚ミタイナノガアッテ、大抵ノ妖精ハソノ感覚ヲ嫌ガルンダヨネ」

「へぇー?」

「ダカラウッカリ初対面ノ妖精ノ翅ヲ触ッタリ、マシテヤ抱キシメタリナンカシタラマズ大抵ハ種族グルミデ嫌ワレルト考エトイタ方ガ良イヨ」


 ピノの説明に皆ほうほうと納得はしたものの、それで言えばピノ自身も妖精族だし嫌な筈だよな。ハテ?


「……ん?なら何でお前は平気なんだ?」

「平気、ッテ程デモナイケドネー。別ニ傷ツク訳デモ無シ、大体ソンナノ気ニシテビクビクスル位ナラ最初カラ外ニナンカ出ナイデ妖精ノ里ニ引キ籠ッテレバ良インダヨ。ボクハコノ溢レンバカリノ知識欲ノ方ガ勝ッテイルダケナノサッ!」

「好奇心旺盛かつ図太いってことか。妖精とは思えねぇ程度胸もあるし、実に冒険者向きだなお前ぇは」

「冒険者ネー……」


 伝承などで語り継がれているように、妖精と言えばその手の話の中では好奇心旺盛ではあるが同時に臆病という印象だ。それはこの世界の妖精族にも言える事で、特にピノの種族であるフェアリー族はどちらかと言えば大人しく引っ込み思案な傾向が強い。釣鬼はそれについて言っているのだろうな。

 釣鬼の総評を受け、その言葉とは裏腹にまんざらでもなさそうな表情でソワソワとしながら続きを促すピノ。こういう部分は分かり易くて可愛いな。


「お?脈あり?やるんだったら調教師(テイマー)としてピコを従魔扱いで登録しとけばどこに行っても街に入るのに苦労しなくなるかもよ?」

「ムゥ、ソレハ便利カモ。野宿シナクテモ済ムシ。デモピコハ相棒デアッテ使役シテル訳ジャナイカラナァ……」

「あぅわぅ!」


 扶祢の言葉に迷いながらもどこか踏ん切りの付かない様子のピノだったが、そこにピコが何かを話しかけているようだ。あ、これは分かる。気にすんな、って言ってるみたいだな。


「ムムゥ……」

「まぁまだ連中が戻って来るまでは何日かあるみてぇだし、のんびり考えれば良いだろうよ」

「そうだね」


 そこで一度この話は打ち切りとなった。まぁこんだけ図々しくて太々しければ案外冒険者稼業に溶け込むのも早いかもしれないしな。考える頭もあるようだし、そうそう危険な事に巻き込まれる心配もないか。


 その後は雑談をしながら商店街や露店巡りをし、寄った露店で軽く昼を済ました。


「しっかしお前ぇ、見事に注目の的になっていたな」

「フッ、人間共ガボクノ愛ラシサノ虜ニナッテシマウノハ無理モ無イヨネ!」


 本当、妖精というかませた幼女って感じだな。今も近くでピノの言葉を聞いていた巡回兵さん達がやたら暖かい目線で見守ってくれてたもんなぁ。


「それにしてもお前。言葉の使い方は上手いのに発音がなんか変だよな」

「そうねぇ、そこがまたチャームポイントではあるんだけど。中身を見ようとせずに外面と思い込みだけで態度を変える連中相手だとあまりよろしくない結果を生みそうだわね」


 確かに。今回の事件も阿呆共が主要因とは言え、そういった事が今後また起きるかもしれないし、人間と関わるのであれば直せるなら直しておいた方が良いかもしれないよな。


「ボクモ発音ト書キ取リニ関シテハドウニカシタイトハ思ッテタンダヨネ。今回ココニ大人シク付イテキタノモソレガ理由ノ一ツダシ。名前位ナラ書ケルンダケドネー」


 軽く事情を聞いてみると、ピノの里では独自の言語が口頭のみで伝わっているらしく、今まで共通語を覚える機会が無かったらしい。


「それなら図書館にでも行ってみるかぃ?日中なら入り浸ってても問題ねぇし資料も多いから文字の勉強にゃもってこいだと思うぞ。扶祢と頼太もこっちの詳細な歴史とか地図を見てぇって言ってたろ」

「オー、良イネ!」


 ピノの事情を聞き、釣鬼がそんな事を言ってきた。それは確かに興味をそそられるな。


「でも釣鬼はどうするんだ?暇じゃないのか」

「釣りとサバイバル関連の新刊でも漁って来るかね。まぁ暇になったら寝とくわ」

「図書館で寝ちゃ駄目でしょ……」


 その言葉に扶祢が呆れていたが、当の釣鬼は悪びれた様子も無く肩を竦めるのみだった。ただまぁ、今の所は釣鬼が俺達の後見人のようなものだからな。俺達の勉強の為に気を利かしてくれたという事なのだろう。


「ソウイエバピコハ入レルノカナ?」

「む、どうだろうな。手乗りサイズの大人しいペットならたまに見たこともなくはねぇが……」

「最悪厩舎とかでお休みしてもらうしかないか」

「ショウガナイネ」


 おや、随分とあっさり同意してくるな。昨夜は一歩間違えば大参事になりかねない勢いだったのに。


「あれ、良いの?ピノちゃんのことだからホテルの時みたいに猛反発するかと思ってたよ」

「昨日ハ寒空ノ中外デ一晩鎖ニ縛リ付ケルナンテ言ワレタカラ怒ッタダケダヨ。ピコガ危険ナ訳ナイジャナイ」

「どっちかと言えば土の大魔法をぶっ放しかけるお前の方が危険物指定になりかねなかったしな」


 そんな事を話しながら歩く事十数分。ヘイホー中心部から少しばかり学院エリアへ寄った側に建つ図書館へと到着した。

 また昨日の二の舞になっては困るので、駄目元でギルドとサリナさんの名前を出してみたんだが何とあっさりとピコの随伴が許可されてしまった。その時のピノの喜ぶ様といったら無かったな。ピノとピコは物心付いた頃からずっと一緒に暮らしていたらしいからな。俺も過去に犬を飼っていた経験があるし、その辺の感覚は良く分かるよ。

 尚、ヘイホーの図書館では調教師(テイマー)の従魔に関しては身元と状況の証明が必要ではあるが、限定的に許可されているんだそうだ。ギルドの身元証明さまさまですな。


「読ムゾー!」「わぉん!」

「じゃあ俺っちは向こうのレジャー関係のコーナーに居とくわ」

「二人とも、はしゃぎたい気持ちは分かるけど図書館ではお静かにな」

「じゃあ私達は歴史関連から廻ろっか?」


 こうしてその日は日が暮れるまで、各自図書館で過ごす事となった。




 P.S. 途中でトイレのついでにレジャーコーナーを覗いてみたらソファで寝ている釣鬼を発見した。イビキをかくことも無く腹の上で手を組んで安らかな寝息を立てていた。酒の趣味と言いつくづく見た目に反して優雅というかナイスミドル系な奴である。

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