第156話 深海市秋の収穫祭①
明日、悪魔さん第21話、投稿しまス。
「野郎共!この栄えある深海一高空手部OB会第58期生の中に約一名程、裏切り者が居る!」
「「「オウ!!」」」
収穫祭当日。天神奉納イベントの一般参加者枠控室では、今年一番の勇士役を決めるサバイバルレースに向け、血気に逸る若者の集団が盛り上がっていた。
「部活動が終わった途端部室へ一切姿を見せなくなり、その癖に先生の道場じゃあ相変わらず無双をし続けていた元弟子頭、貴様等も記憶に新しくそして腹に据えかねている事だろう!」
「「「然り!」」」
「聞くところによれば奴は現在、ドドメ色の予備校生活に辟易する俺達を差し置いて外国を巡る旅行代理店の社員などというチャラついた職に就いているという。しかも一年目だというのに夏に一度、今回の祭りにもう一度という何とも羨ましい長期休暇を取れる待遇らしい」
「くそうっ!何て奴だ……」
「あの野郎、我が伝統ある空手部の誇りを忘れたかっ!」
集団のリーダーらしき男の扇動にこれまた周囲が沸き始め、口々に『奴』への不平不満を露わにする若者達。その憤怒とも哀哭とも取れる叫び、そして感情の渦は本日最高潮を迎えたかに思われた。
しかし、齢若き彼等はまだ知らない。世の中にはそのような想像など圧倒的なまでに吹き飛ばす、非情な現実という暴風がある事を……。
「此度のイベントにはオサキさまの巫女が出る。これは昨日の某所での情報提供により、皆も知るところだとは思う――」
そこで男は元々低めのである声色を更に抑え、先程までとは一転、落ち着いた口調で言葉を切った。その様子は喩えるならば、嵐の前の静けさ。
それに釣られ静まり返った周囲を見回し、男は再び口を開く。
「……これは風の噂に聞いたのだが。その巫女は奴の同僚らしい。しかも、かの進学校である祗園学院の出で才色兼備の噂まであるそうだ」
「「………」」
「諸君、これは許される事と思うか?」
「「「鉄槌を!裏切り者に、裁きの鉄槌を!!!」」」
ここに控室内のボルテージは真に最高潮となり、その熱は周囲で聞いていた本来関わりの無い毒男達へも伝播していった。こうして若者達の心は一つとなり、一致団結して対象の打倒に燃え盛る事となるのだ。
Scene:side 頼太
『それでは皆さん。一致団結してゴールを目指し、協力してクリアをして下さいね。よーい……スタート!』
―――ぱぁん!
「という訳でくたばりやがれっ、このリア充!」
「誰がリア充だ!?てめーらこそこんな所で遊んでる暇があったらさっさと予備校に戻りやがれえええっ!!」
サキさんのマイク放送が終わると共にレース開始の空砲が鳴り響き、それとほぼ同時に他の参加者の大多数が一斉に俺へと襲い掛かってくる。
こうなると思ったよチクショウ!ピノが昨夜ネットの掲示板で該当記事を見付けた時には唖然としちまったからな……つか何この人数!?同期の連中だけじゃなくて先輩後輩達まで居るじゃねーか!
このイベントの細かいストーリーはさて置くとして、要は野郎共がスタート地点から各チェックポイントを回りゴールの巫女さんが居る場所に辿り着いてご褒美を貰うという、よくある障害走の類のイベントだ。
ただ一点のみ、汎用性と倫理性の双方共にあまりよくはないオリジナルルールが存在する。それは『競争相手への妨害行為』の許可である。
その性質上多数の負傷者が出てしまう恐れがある為に、本来こういった催し物ではあまり見られないこの特色。だが広大な山々に囲まれた厳しい自然環境にあり、また戦国の世には様々な大名達が都へと上る際に辿ったルートの一つであるこの街では、喧嘩上等というか自分達の出来る範囲で災難への対処をすべし、故に須らく個々が強くあれといった傾向が強い。この辺りはある意味釣鬼の故郷である傭兵の郷に似たところもあるか。
つまりこの祭りに参加する時点で、地元の住民達にとっては多少の怪我なんざ納得づくの事であり―――
「だからってスタート直後によってたかって俺から潰そうとするんじゃねぇよ!桂木っ、てめーの差し金だな!?」
結果稀にだが、今回の様なスタート直後の大乱闘なんて事例も、深海市秋の収穫祭の歴史を紐解けば無い事もなかったのだ。
「フンッ。お前相手じゃ五人や六人居たところでまともに制圧出来るか怪しいモンだからな。これも戦略というやつだ、悪く思うなよ?キェイッ……ほぷしっ!?」
そんな寝言を言いながら宙に舞い、飛び蹴りをしかけてくる桂木――健治さんの甥である健市を着弾前に迎撃する。阿呆が、自分から制動の取れない空中なんぞに跳んだらこうなるのは分かりきっていただろうがよ!
「大体手前、ここ半年の受験勉強で身体が鈍りきってんじゃねーかっ!そんな身体で迂闊に飛び蹴りしたって当たる訳がねーだろが!」
「ぐぅ……無念」
取りあえず真っ先にリーダーの桂木を潰したので後は烏合の衆といったところか。こいつ、人員を統率するカリスマは結構あるのに肝心の作戦立案が杜撰なんだよな。
「……さぁ、痛い目見てぇ奴からかかってきやがれ!こちとら釣鬼先生の地獄の扱きと周りの物騒な女共との定期的な実践スパーリングのお陰で気分は常在戦場だからなぁ!?」
「お、ぐ……ぬおぉぉぉ!これ見よがしにハーレムアピールしやがってぇ!許っせん!」
「いったいどんな夜の実践スパーリングなんですかねぇ……?ハーレム野郎に呪いあれッ!!!」
しまった、つい場の雰囲気に中てられて余計な事まで口走っちまった。
だけど考えてもみてほしい、あいつらとスパーリングをすると大抵血塗れになったり、爆発オチで全身打撲と捻挫状態になったり、はたまた急所ストライクで呼吸困難になったりと割と酷い目に遭ってるんだぜ俺。あんなのは決してハーレムとは言わねえ!
――まぁ、日々充実はしてるんだけどな。
「怯むなッ!奴とて決して無敵ではない!この人数で襲い掛かればきっとその内もしかすれば勝機が見えてくるかもしれないぞォッ!!」
「しつこい割にどこまで弱気だよ!?さっさとリタイアするか気を失っとけコラァ!」
何が彼等をここまでかき立てるのかは知らないが、わざわざ俺が逃走経路に選択した狭い路地裏や公園のアスレチックコースにまで律儀に追いかけてくれたものだから、多勢に無勢とはいえどうにか総勢二十名程を確固撃破していき沈黙させる事に成功はした。したのだが―――
『天神奉納障害走の途中経過を報告致します。現時点でのトップは俊田走助選手、第二チェックポイントを通過しました。他の選手もまだまだ負けてはおりません、皆さん頑張ろー!』
「ぜぇー、ぜぇー……なっ!?」
唐突に近くの放送用スピーカーよりサキさんのナレーションが流れ出す。
もうそんな時間が経っていたのか!?というか俊田走助と言えば俺達の同期の陸上部で国体大学にスポーツ入選した奴じゃなかったっけ?
「……手前ら、そういう事かよ」
「ごぶっ……っくっく、ざまあねぇな陽傘。お前の言う通り、現役時代ならばともかく日夜受験勉強漬けな今の俺達では精々がこの程度さ。だがな、このイベントの勝利条件はなんだ?一番のゴールによる巫女からの祝福だろう……?」
「今頃は国体予選会に出場した程の脚を持つ俊田君が、御山のゴールに向かって各チェックポイントを爆走中だろうさ。クッ、クハハハハ……がくっ」
抜かったっ!現役時代の部活の大会時にすらここまでの粘りを見せた事の無いこいつらが今回に限って何故とは思ったが、まさか健市を含めて全てが囮だったとはっ……。
こいつらの相手をしている間に既にスタートから十五分程が経過してしまっている。我が身を犠牲にしてまで俺の優勝の妨害という目標の遂行を冷徹に実行した事には素直に称賛を送るが、それはそれとしてこのまま負けるのはやはり悔しい。
どうにか巻き返すべく手段を練ってはみるものの、このイベントでは相手の妨害や近くにいる人達への協力要請といった借り物障害物走的要素は全て認められているが、交通機関や自転車自動車といった道具の使用だけは認められていない。
「俊田君の足ならそろそろ第三チェックポイントへの折り返し地点辺りまでは通過していてもおかしくはないか。片や俺はまだスタート直後……どうする俺」
焦りのあまり独り言を吐いてしまい、それでも先程までの乱闘で上がった息を整えながら俺は第一チェックポイントへ向かう。
「頼太おそーイ!頼太で十二番目ダヨ」
「悪い!予想通りとんだ妨害に遭っちまってな。でも思ったよりもまだ通過者少ないんだな」
第一チェックポイントでは既にピノがスタンバイしており、スポーツドリンクを俺に渡しながら状況報告をしてくれた。十二人なら後半の体力勝負でまだ目は有るか……?
「だけど一位の人、もう第三チェックポイントに付きそうだっておっさん達が言ってたヨ。どうすんノ?」
「速ぇ!?」
まずいぞ考えろ俺!何かこの危機的状況を挽回出来る策をッ!
そうは言いながらも所詮は凡人である俺の頭だ。そうそう都合良く名案など思い付く筈もなく何かないかと救いを求める辺りを見回すと、のんびりとピコに乗りながら俺と並走しているピノ、そしてそれを乗せているピコの二人と目が合った。
「?……どしたノ?」
「わぅ?」
ついまじまじと見てしまった俺に、首を傾げて問うピノとピコ。それに返す俺の発言は―――
―――第四チェックポイントである山の麓の小道にて。
「フッ、フッ、フッ、フッ……」
このイベント障害走の一般出場枠である俊田走助は、冷静に自身のペースを守りながらも言い知れぬ喜びに包まれ、走り続けていた。
「クッ、ククッ。ここまで来れば残すところは第五チェックポイントの薄野山荘のみ。そこを過ぎれば後は栄光のゴール、そして狐姫本人からのご褒美が待っているぁ!」
彼はこの日を待ち詫びていた。現実的にレースの詳細を知ったのは昨夜であるからして、実際の日数としてはたかが半日程ではあったが。
「どうやら裕香殿の影も辺りには居ない模様。これならば彼女の襲撃を心配する必要も無いでござるな――おっと、無い様だ」
その足の速さを見込まれ某国体大学へ進学した彼は、上京と共にその特徴的な口調を改め夢のキャンパスライフを満喫中だ。だが、彼の心には常にある衝動が渦巻き、時として自らにも抑えきれぬ程のその衝動に衝き動かされてしまう事があったのだ。
「……くくくっ。今も懐に忍ばせているハンディカメラにスマホ、そしていざという時用にゴール地点に待機させているA氏の一眼レフも万全の準備でござる。これで我が野望はまた一歩進むでござるよ!」
俊田走助、某地方掲示板に於ける彼のハンドルネームはカメコB。相棒であるカメコAと共に、その道では知らぬ者の居ないシャッティングの達人だ。
「フヒヒッ!あの狐姫と握手が出来るでござるよお!そしてあわよくば足を滑らせて再び袴ふぁさっ、を……ひゃっほーぃ!」
先程まではどうにか冷静さを保っていた俊田だったが、ここにきて内心の疼きが抑えきれなくなったのだろう。遂にはスキップ走行に切り替えながら山道を走っていく。
だが、彼があらぬ妄想に耽りながらトリップをしていたその背後より迫り来る、一陣の金の風に襲い掛かられ絶望に陥るであろう数秒後の未来を、彼はまだ知らない。
「――おらおらぁっ!どきやがれぇぇえええいっ!!」
「わおーん!」
「……ほぎょっ!?」
人間にはまず到達不可能であろう速度による黄金の一筋が彼の脇を通り過ぎ、その衝撃で俊田は転倒してしまう。その際、打ち所が悪く彼が着用していたスポーツ用のサングラスにも罅が入ってしまい……。
「のぉおおお!?目が、目がァッ!」
彼は昨夜の掲示板記事に触発されゴールの後のリハーサルを入念に繰り返していた結果、徹夜疲れが祟り極度の眼精疲労に陥っていた。
秋も深まったとは言えど、祭りの日に相応しい見事な秋晴れによる燦々と降り注ぐ日光。それが不運にも割れたサングラスの隙間より彼の疲労の溜まった目を直撃し、その刺激を切っ掛けとして徹夜疲れまでもが身体の芯から噴き出してしまう。こうなってしまえば最早倒れた身体をすぐに起こす事など出来よう筈もなく、ましてやレースへの復帰は絶望的というものだ。
―――後日、優勝者の名を知った彼はこの日の出来事をこう言及している。夏に引き続きこの恨み、いつか晴らさでおくべきか、と。
Scene:side 頼太
「ふぅ~、何とかなったか。ピコ、サンキュな」
「わふわふ」
スタート直後に武闘派の殆どは脱落しており、残るは真っ当な選手達のみだった。そんな彼等には悪いが、桂木の奴の最後の仕掛けである俊田君だけはどうにか巻き返したかったんだ。だから考えに考え、この手段に思い至った後にもわざわざパンフレットのルールを読み返し不備が無い事を確信してから実行に移した。
『――ま、ルールとしちゃ駄目とは書いてないし良いけどね?そんなに扶祢からのご褒美が欲しいのかい?』
「だからそういうんじゃなくってですね!?」
『はいはい。まぁそれで頼太君が後悔しないなら、どうぞご自由に~』
念の為にサキさんに連絡を取って貰うと、電話越しにでも分かる程のサキさんの揶揄い口調を伴った言葉を受けてしまった。しかし男には負けてはならない時がある、これはただそういう事に過ぎないのだ!
そんな流れでピノからピコを借り受け、降り落とされない事だけに集中しながらピコに全速力で走って貰う事にした。ミチルを使っても良かったのだが、ピコと違ってサイズは中型犬な見た目だからな。俺を乗せて走るには少しばかり人目を憚ってしまうというものだ。
という訳で大型犬以上のサイズを誇るピコの力強くも風を切る速度の走行により、俊田君を抜いた勢いそのままに最終チェックポイントである薄野山荘を経由し、山頂の特別会場へと飛び込んでいった。
「いよっしゃぁ!一番乗りぃ!」
こうしてこの天神奉納障害走は俺の優勝で幕を閉じたのだった。
―――そう思っていた時期が、俺にもありました。
「よう、一番乗りご苦労。それじゃあ最終ステージ、始めようか?」
「……へ?」
え。あれ?ゴールラインが無い、よね……?
それによく見れば特別会場は何というか、試合会場?
んでその中央では大神さんがやたら凶悪な笑顔を俺に向け、バキボキと拳を鳴らしていて。
「だから言ったじゃあないか。それで頼太君が後悔しないなら、ってね♪」
何処となく絶望的な予感に包まれ硬直する俺とピコに、主犯であるオサキさまが愉快で堪らないといった様子でそんな言葉をかけてきた。
「安心しろ。地方のローカル局とはいえカメラも入ってるからな、ちゃんと人間に可能な技術だけで揉んでやるからよ?」
そんな大神さんの言葉を受け、俺はここに至りようやく事の真相を把握した。
そういえば、スタート時の放送で「一致団結してゴールを目指し、協力してクリアをして下さい」って言ってた気が、するよね……?
「どうやら頼太君の騎乗を見て、他の選手達はもう諦めちゃったみたいだねェ。では、最終ステージ到達者は一名として、巫女さんの祝福をかけた牛頭天王さまへの挑戦を始めましょうか。あ、ピコ君もお手伝いとして使って良いよ、というかここまで来たんだからついでに付き合いなさいね」
そして執行者による無慈悲な宣言がここに為され―――
「そんなの詐欺だー!!」
「ぎゃひーん!?」
ここに、約一人と一匹の悲鳴が木霊したらしい。南無牛頭天王。
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「そこまでっ!陽傘選手のノックアウトにより、最終ステージの達成者は無し!」
―――ざわざわざわ。
俺とピコが大神さんによる鉄山靠ばりのショルダータックルの直撃で諸共吹き飛ばされてノックアウトした後、そんなアナウンスが流れ場が騒然とする。
「『ふ、だが若者よ。巫女を護らんとするその気概に免じて、その娘はくれてやる。末永く幸せにな』……っとまぁ、これでこのイベントは終わりとなるか。久々に暴れられてオレも楽しかったぜ?」
「うげふっ……あざーす……」
分かっちゃいたけど、分かっちゃいたけど!
俺も当時に比べれば相当に鍛えられ、またピコだってシルバニアウルフ時代と比較にならない程にパワフルになっている。それなのに、互いを足場に使ったコンビネーションすら全く通用せず悉くを正面から打ち返されてしまったんだ。
どうみても人の動きとは思えない様な謎動作も所々にあったけれども、そこはサキさんの長い狐生で鍛え上げられた弁舌により見事なまでに煙に巻かれ、会場の皆特にそれを不思議にも思わなかったらしい。流石はリアル女狐といったところ……周囲の気温が急に下がった気がするのでこの件に関してはここまでっ!
「……あ~、うんまぁクリア無しってなっちゃこの反応も無理ないかぁ。それじゃあ特別に巫女さんの参上といっとこー」
それでも周囲の雰囲気に思う所があったのか、そんなサキさんの発言により場は盛り返す。
そして待望の巫女さんが出てきたのだが。
「ってあれ、出雲だけ?」
「なんだ、余だけでは不満か。やはり扶祢の方が良いんだなぁ?」
スタッフの間から出てきた、飾り気の多い巫女装束を着こなした狐耳と尻尾を持つ少女。それは出雲だった。これまた俺の発言にサキさんばりのニヤニヤ笑いを浮かべ、仰向けに倒れ込んでいた俺を見下ろしてくれる。
「や、別にそういう訳じゃないつーか単に疑問だっただけだからな?」
「ふふん、まぁ良い見逃してやるか!扶祢はあれだな。今朝方に『れいやー』とやらのライバルが乗り込んできて、急遽開かれた『こすぷれ大会』の方にいっておるぞ」
「企画書まで持ち込んできて何だか面白そうな子だったからねェ。余ってた会場を一つ丸々借り切って、午後からコスプレ祭りをやるみたいだよ」
そういう事か。終わってみれば確かに、こっちのイベントは最終ステージ到達者が俺だけだったし、巫女さん二人も要らなかったからな。サキさんの裁量あっての事ではあるが、これはこれで祭りを盛り上げる意味ではアリか。
一応今回の牛頭天王とオサキさまにまつわるコスプレ限定大会という事で、扶祢は巫女衣装そのままでいったらしいが、まぁコスプレ関係はあいつの専門分野だ。向こうは向こうでばっちりと盛り上げてくれる事だろう。
「さて、それではご褒美の時間だなっ!頼太、立てるか?」
「む……っく、すぐには無理だな」
「悪いな、人間とやり合ったのなんか久々だったからついやりすぎちまったかもしれん」
大神さんの言葉通り、最後の一撃は強烈だったからな。一瞬意識を失いかけたくらいだし。だから俺は寝たままにそう返したんだ。
「そうか。ん~……まぁ、この土地の風習というのであれば、体験という事でそれに倣うべきだよな、うん」
そう言って出雲はうんうんと頷き、俺の頭を膝枕に抱える。む……これはちょっと気恥ずかしいな。でもまぁ、今日は俺も結構頑張ったからな。こんなご褒美もたまには許されるだろう。
そう、ぼんやりと思っていた俺の顔に。何故か一度深呼吸をした出雲が若干躊躇いながらも自身の顔を近付けて―――
「――んムッ!?」
―――ドォオオオオオオオオオッ!?
目の前に起きた出来事に大歓声が上がり、そして俺はと言えば唇に当たるこの柔らかい感触を受けて、思考が完全に真っ白となってしまった。
「んっ……ふふ。風習とはいえ、やはり衆人環視の中でのこれはちょっとばかり恥ずかしいものがあるなっ!」
その後たっぷりと数秒間の間を唇同士が睦み合い、やがて互いが離れた後。出雲は照れた様子で顔を赤らめながらもいつも通りの楽しそうな笑顔を作り、早口にまくし立てていた。
対する俺はと言えば、近年最大の衝撃に完全に硬直してしまい……。
「陽傘てめえええええええええ!?どこまでリア充ルート踏破すりゃ気が済みやがるっ!!しかもそんっ、そんな小さな子になんて事をさせっ……野郎共、あのロリコンを物理社会的双方共にぶっ潰せええええええっ!!!」
「「「永遠なれ!我等の憎悪よ、永遠なれ!!」」」
「ちょっ、桂木おま。俺怪我人……ぎゃああああっ!?」
陽傘頼太。その後の空手部同期による集団殴打を受け、全身の打撲と捻挫により全治一か月。なお、奇跡的に骨折は無かったらしい。これも日頃の特訓の成果ってやつですかね……。
―――同時刻、コスプレ会場にて。
「ちょっと、あれって薄野の連れでしょ?あんなのライブで見せられたらあたし達立つ瀬がないじゃないの……」
「……あの野郎、戻ったらお仕置きなのだわ」
「薄野からのお仕置き……あの優勝者も大変だな」
その日一番の魅せ場を展開する直前に別会場からの中継で衝撃の瞬間を見せられ、この後どう盛り返すかに思い悩む狐姫と双子の姿があったそうな。
頼太が騎乗スキルを習得しました。 ←New!!




