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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第八章 異心迷走編
187/439

第155話 深海市秋の収穫祭:前夜

 深海市周辺の市町村による合同収穫祭。

 例年、この祭りは秋の夜長を払拭する程の熱気に包まれる。


 『オサキさま』の例にある通り、自然溢れる山野に囲まれた寒暖の差が激しい気候の土地柄故か、俺達の故郷では自然を神に見立て共に在るものという八百万的信仰色が強く、この祭りにも様々な神様が祀られているそうだ。


「特に祭神としての牛頭天王(ごずてんのう)さまは有名どころさね。元は疫神だったのだけれど、それを祀る事によって災厄を免れるとされて、今じゃ立派にこの地域に広く伝わる除疫神という訳だ」


 そう言って祭りに関わる知識を参加スタッフ達に披露し、サキさんはこれを締めくくる。

 何しろサキさんはこの地域どころかある意味日本の歴史の生き字引って程に長生きしてるひとだからな。面と向かってそれを言うときっと俺だけ居残り説教コースだから言わないけど。


「……扶祢と頼太君の二人は居残りな?」

「「ええっ!?」」


 どうやらまた顔に出てしまっていたらしい。この癖だけは本気でどうにかしないとな……。






 ここは深海市エリアの収穫祭運営本部。

 今は収穫祭での祭祀進行役と神様役をそれぞれ決める前段階として、こうしてスタッフ全員でサキさんからこの地域に伝わるローカル神話やその裏話などを教わっている最中だ。


「いやぁ~今回はサキちゃんのお陰で色々と捗って楽させて貰えてるな~」

「うんうん。サキちゃんはその若さでよく勉強してるし、何よりこの貫禄だ。つい頼りにしちゃうんだよなぁ」

「嫌ですね、こんな小娘を捕まえて貫禄があるなんて。皆さんだって何十年間とこのお祭りを盛り立ててきたんですからこのくらいはご存知でしょうに」


 他の運営スタッフ達はと言えば皆年配の寄り合いみたいな雰囲気になっており、今も隣の畳の間でお茶を頂きながらサキさんの伝承講座をいかにも眼福とばかりに眺めていた。

 確かに講座中のサキさんは普段と違ったきりっとした雰囲気に包まれているし、扶祢とそっくりなその顔には娘のそれとは違い、致命的なまでの緩みというものが感じられない。白衣に伊達眼鏡を付けて指示棒(ポインター)でも持てば、あっという間に有能な女教授の出来上がり、といった感じだもんな。

 ただ……。


「自分の齢、考えようよ……」


 うんうん。後に待つ自らの運命を顧みる事のない扶祢の蛮勇に、俺達はついつい頷いてしまう。それ程までに、何というかその……さっきから年配の方々にちやほやされて喜んでいる風にしか見えなくてですね。


「………」

「ひっ、ヒイィ!?」

「何だこりゃあ?急に胸が……」

「寒ッ!?なんか急に辺りの空気が冷たくなってっ!」


 一応表向きは妹という扱いらしい扶祢のその言葉が発せられた直後、場に降り注ぐ圧倒的なまでのプレッシャー。一度は霊狐の頂点に立ち、今や既に神の域に半歩程踏み込んでいる者とはいえ、やはりひとかどの女心ってものがあるという事でしょうかね。

 それはそれとして、サキさんの怒気に晒されて死屍累々と化してしまった畳の間の方々はどうしたものか―――






 ―――それから小一時間程が過ぎ、寄り合いの方々も落ち着いた頃。


「それじゃあ早速祭祀担当の配役を決めていくよ。まずは扶祢、お前巫女ね」

「はーい……へぇッ!?」


 これまたいきなりな振りだな。いつも通りの返事をしてからようやく理解が追い付いたのか、扶祢は若干の間を置いた後に素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ちょっ、ちょっと!何で私がそんなのやらないといけないのよ!?」

「コスト削減。わざわざこの運営本部に押しかけてきたんだ、少しは仕事を手伝いな」

「うぅ~、そういうのはシズ姉や静姉さんの方が向いてるじゃないのさ……」


 母親の強権を発動され思わず硬直してしまう扶祢。

 確かに収穫祭が終わってサキさんが山荘に戻ってくるまでただ待つのは暇だと、シズカや静さんの静止を振り切って運営本部まで来たのは俺達だけど、いきなりスタッフとして組み込まれるとは思わなかったぜ。あいつら、こうなるのが分かってたから来たがらなかったのか。

 なお、、釣鬼達とは日本が初めてだというクナイさんの案内の為に現在別行動を取っている。俺もそっち側にいっても良かったんだけど出雲がやたらサキさんに会いたがっていたからな。人数合わせでこっち側に来たのが運の尽きというやつだ。きっと俺も何らかの無茶な配役を担当させられるんだろうなァ……がっくりと肩を落とし、既に諦めた様子でぶつくさと言っている扶祢の姿を見て何となく想像が付いてしまった俺でありました。


「あとはそうだねェ……どうせならもう一人くらい綺麗処を見繕いたいところだけど」

「あ、それなら余がやる!なんか面白そうだしなっ!」


 こうして、今回の祭りにおける祭祀の巫女役担当はダブルキャストという事に決まった。

 この地域に残る伝承としては、牛頭天王に捧げられる一人の娘とそれにまつわる若者達の抵抗を描いた物語とされている。ただこの辺りはいわゆるスサノオ神話との習合などで色々とごっちゃに混ざっているし、詳細も地域によって違うらしいので本題については特に触れずにおくとしよう。


「まぁ須佐之男命(スサノオノミコト)については日本人ならその名を知らぬ者は居ないだろうからね。興味がある人は日本神話でも読んで貰うとしてだ。今回の祭りではそこに『オサキさま』に関わる祭祀を組み込んでみようかと思う」


 また随分とすれっすれな所を衝いてくる人だな。オサキさま、ってそれサキさん本人の事じゃないっすか。


「お~!そういえばサキちゃん家はオサキさまを祀る家系だったよな。それなら妹の扶祢ちゃんが巫女役やるのも納得ってモンだ」

「ですです。きっとオサキさまもこの土地の祭りを盛り上げる為ならば、多少の作り話くらいは許容してくれる事でしょうし」


 古株のオッサン達の納得の反応を受け、普段見せた事の無い可愛い子アピールをしながらいけしゃあしゃあと宣うオサキさま。くっ、娘のそれと違ってこのあざと過ぎない程度に心を揺さぶる仕草は中々の破壊力だぜっ……!

 つまり何が言いたいかというと、自分に関わる事だからどれだけ作っても別に祟りなんざ喰らわないぜって寸法らしい。実にコストパフォーマンスに優れる立案ですな。


「でも、巫女役は良いとして神様役はどうすんすか?今回の脚本だと牛頭天王はどうしても出演させないといけませんよね」

「うん。頼太君、良い質問だ。でもそれについても既に配役候補は用意しているのさ。牛頭天王さま、おいでませ~」


 スタッフ各自に配布されたその台本をぺらぺらと流し読みそれを指摘する俺に、サキさんは伊達眼鏡を片手でくいっと上げながら得意気な笑みを返しそう答えた。どうやらその辺りも含め、あとはこの場の町内会の賛同を得るだけで次に進めるよう事前に用意していたらしいね。こりゃ運営スタッフの人達が今回は楽で助かると言っていた意味も分かるというものだ。

 そしてサキさんの呼ぶ声に奥の部屋からのドアを開け、牛頭天王役の人が入って来たの…だが……。


「……何やってんすか、大神さん?」

「うん。本当に何やってんだろうな、オレ……」


 そこには額にシニカルな牛頭仮面を付け、溢れる野性味に若干陰りの見られる偉丈夫の姿があった。そうか、この人もサキさんに利用されちゃった口か……。


「ほら、実態は無いモノとはいえ牛頭天王ったら極めて霊格の高い御本尊じゃないか?流石にその辺の一般人にやらせて妙な祟りがあっても脚本書いた側としちゃ困るからねェ。ついでに大神さまも堂々と会場に入り込んで祭りを堪能出来るし、互いに良い事だらけって寸法さね!」


 そして扶祢もかくやといわんばかりのドヤ顔を決め、サキさんは自信満々に話を締めた。あの、この場には町内会の方々も居るんですが。堂々と「大神さま」って言っちゃって良いんだろうかね?


「こんな嬉しそうに地域の活性化を謳われたら、中身がどうあれこの土地を守護する者としちゃ断れないよなぁ……」

「うちの母がご迷惑をおかけして申し訳ありません……」


 その横では約二名程、涙ながらにそんなやり取りをしていたのは言うまでもない事だろう。南無牛頭天王。








 収穫祭前日、某地方掲示板にて―――


405:KAME_A:19:53:34 ID:9SwoJ34KK

おい、明日の深海市の収穫祭、巫女さんが出てくるらしいぞ。


406:KAME_B:19:56:45 ID:aI5J8me0c

>>405

どうせやらせのバイト巫女でしょう?本職の巫女さんなら是非ともシャッティーングしたいところでござるが。


407:KAME_A:19:58:12 ID:9SwoJ34KK

やらせと言われるとその通りなんだがな。聞いて驚け、n


408:KAME_A:19:58:41 ID:9SwoJ34KK

興奮して変換ミス。独自の筋から得た情報によれば、なんと巫女役やるのが、あの『狐姫』らしいんだ。


409:名無しさん:19:58:59 ID:I1nH0MLrJ

>>408

kwsk


410:KAME_B:19:59:53 ID:aI5J8me0c

>>409

食い付き早すぎwでもそれがしも気になるんで詳細おなしゃす。


411:名無しさん:20:05:28 ID:Oppa02y28

おいまだかよ


412:nanashi:20:05:51 ID:Rarh7Yw0l

>>411

もちつけ。IDにまで焦りの気持ちが現れてんぞ


413:名無しさん:20:06:18 ID:I1nH0MLrJ

>>411

おっぱおwwwwwwwwww


414:KAME_B:20:06:25 ID:aI5J8me0c

>>411

おっぱおwwwwwwwwwwwwwwww


仕方がないでござるな、これでも見てニヤニヤしておくべし

っ《画像》


415:名無しさん:20:06:38 ID:Oppa02y28

>>414

ありがとうありがとう!光の速さで保存した


416:KAME_A:20:07:06 ID:9SwoJ34KK

>>414

同じく保存した。これはあの時の黒歴史コンテストのグレートインパクトのやつだな。

俺の持ってるのよりも写りが良くて助かる。

>>415

本当に早いなww


417:nanashi:20:08:11 ID:Rarh7Yw0l

>>416

いいから情報はよ


418:KAME_A:20:08:36 ID:9SwoJ34KK

おう。中身の最終チェックしてたすぐあげるわ


419:名無しさん:20:09:20 ID:I1nH0MLrJ

几帳面なやつだな。で、詳細は?


420:KAME_A:20:09:48 ID:9SwoJ34KK

①深海市の収穫祭での伝承奉納の儀が一新されるらしい

②内容は牛頭天王とオサキさまに関連付けた創作物語

③その内容はネタバレになるのでここでは控えるが、どうやらオサキさま側の巫女の一人としてあの『狐姫』が大抜擢

④未確定情報だが、その他にももう一人巫女さんが来るらしい


421:名無しさん:20:11:25 ID:Oppa02y28

>>420

まじかあああああああああああああ


422:KAME_B:20:06:25 ID:aI5J8me0c

>>420

オサキさまの巫女として出るってことは、もしかして・・・


423:KAME_A:20:09:48 ID:9SwoJ34KK

>>422

喜べ性年、君の願いはようやく叶う


フ ル 装 備 だ


424:名無しさん:20:10:07 ID:I1nH0MLrJ

俺、明日会社休むわ…


425:nanashi:20:10:51 ID:Rarh7Yw0l

わり。私、深海には今年の春に越してきたばかりでよく分かってないんだが

オサキさまってなんだ?


426:KAME_B:20:11:29 ID:Azl4aL3iO

>>425

っ《オサキさま伝説.zip》

>>423

今から徹夜でイメトレするわ


427:nanashi:20:12:43 ID:Rarh7Yw0l

>>426

容量多w

サンクス。ローカル神話なのね、今から見てくる!


428:ユウ・K:20:13:15 ID:spL0tRI9n

あの無駄乳が帰ってきたと聞いて。


429:KAME_B:20:13:56 ID:Azl4aL3iO

ひんぬー姫きたああああああああああ!!1!!!1!


430:KAME_A:20:14:39 ID:9SwoJ34KK

ボリュームに欠ける永遠のライバルきたあああああああ!!!


431:ユウ・K:20:15 ID:spL0tRI9n

そう…あいつ、生きていたのね……。

私も弟捕まえて参加するわ。




あとA氏とB氏、会場で遭ったら覚えとけ。


432:KAME_B:20:14:39 ID:Azl4aL3iO

>>431

ガクガクブルブル


432:KAME_A:20:14:42 ID:9SwoJ34KK

>>431

フヒヒwwwサーセンww


433:名無しさん:20:15:00 ID:I1nH0MLrJ

A氏、終わったな……。


====================<中略>====================


1000:名無しさん:21:24:38 ID:Oppa02y28

1000なら狐姫、ふたたびおっぱお炸裂。


1001:1001 [] Over 1000 Thread

このスレッドは1000を超えました。

もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。






 ―――斯くして、過去の因縁が再びにじり寄る。不吉な予言も相まって、狐姫の命運や如何に?

 一度やってみたかった掲示板ネタ。都合良く舞台が日本だしね!

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