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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第八章 異心迷走編
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第152話 異世界ホール瀬戸際騒動:前編

【★☆★この先、非常事態につき封鎖中★☆★】


「「――は?」」


 異世界ホールの日本側出入口。それがあった場所に来てみると、現在その痕跡すら残す事無く一面岩壁に覆われた袋小路となっていた。

 その天井部分にはあの雰囲気ぶち壊しな看板が、ファンシーな色合いのままに電光掲示板へとグレードアップをしており、これ見よがしに備え付けられている。


「……ここ、日本側の出入り口があった筈よね?」

「俺達の記憶違いじゃなければな……」


 扶祢の問いかけに答えながらも少しばかり不安になってしまい、この異世界ホールに初めて入った頃に作った簡素なマッピングデータを引き出してみるが、やはり位置情報としてはこの先に出入口がある事になっていた。


「お二人共、どうなされたんでやんすか?」

「エット。頼太と扶祢の故郷への出入口がここにあったんだケド、消えちゃってるミタイ」

「なんですっとー!?」

「それ、もしかしてあの二人、自分の世界に戻れなくなってしまったという事か?」


 目の前に起きた現実に呆然としてしまい、言葉にならない俺と扶祢に代わりピノが事情を説明する。その言葉にクナイさんと出雲姫はそれぞれのリアクションを返していたようだが、当の俺達はそれどころではなかった。


「どっ……どうしよう頼太!?戻れなくなっちゃったよ!」

「お、おおお落ち着け落ち着くんだ。俺達には狭間の監視者であるシズカという心強い情報源が居るじゃないか!今直ぐあいつに連絡を取ればきっと日本に戻れる算段を立ててくれるに違いないっ」

「そのシズ姉が日本側に居るのにどうやって連絡取れって言うのよう!?」

「しまったー!?そいつは想定外!」


 この現実を目の当たりにして、俺達は頭の悪い発言と半端な突っ込みが混在してしまう程にまともに物を考えられなくなり、混乱の極みに陥ってしまっていた。


「あぅ、あぅあぅあぅ……」

「うわあああああ!?」


 一度動揺してしまえば歯止めが利かなくなってしまい、あっちへワタワタ、こっちへバタバタ。二人して叫びながら右往左往してしまう。

 それ程に、生まれ故郷への接点が絶たれてこの世界に取り残されてしまうという衝撃は強く、押し寄せてくる孤独感に今にも押し潰されてしまいそうだった。


「故郷を無くしてしまった者というのは、得てしてこのように精神の安定を欠いてしまうものなのだなぁ」

「お二人共、気を強く持ってくだせぇ。あちき達が付いておりんす……」


 クナイさんは当然として、出雲姫すらもいつもの強気な口調が鳴りを潜め、口々に俺達を気遣う素振りをしてくれていた。だというのに―――


「非常事態、なぁ。具体的には何があったんだろうな」

「ウーン。この書き方だとその内復旧するのカナ?」


 パーティメンバーである筈のこいつらはと言えばのんびりとした様子で出入口のあった辺りをぺたぺたと触ったり、神秘力感知により周囲の反応を探っている様子が見て取れた。


「お前らなんでそんなに落ち着いていられるんだよ!?日本への道が封鎖されちまったんだぞ!」

「二人共他人事だと思って酷過ぎるのだわ!」


 そんな二人の薄情な様子を見てしまった俺達が、つい衝動的にそんな非難の叫びを上げてしまったのも無理からぬ事であろう。お陰で暫くの間、人でなしだのリアル鬼野郎だのと色々言ってしまった俺達だったのだが……。


「……というカ、二人共。あっち側の出入口の事忘れてるでショ?」


 ―――ぴたっ。そのピノの言葉を聞いて途端に我に戻る俺達。


 あっち側の出入口。ピノの言うそれは、シズカが狭間を経由して入り込んできた、アルカディア側と地球側の純正異世界ホールの事だ。

 シズカ達狭間の監視者組織に属するモノの所見では、アルカディアのサカミ村付近にある異世界ホールこそが世界同士を繋ぐ本来の意味での接続口であり、俺達とも馴染みの深いこの異世界ホールは異端の存在なのだそうだ。


『斯様な歪な数値でよくもまぁ空間を安定させられるものじゃ。正直なところ、我等の常識でも計り知れぬ造りじゃな、この接続口は』


 当時この洞窟を調査した時、シズカはそんな事を言っていた。

 それは事実上の調査の中断宣言であり、だからこそあの時はそれぞれの世界からの影響度合を調べるのみで済ませこの洞窟を後にしたのだった。


「向こうの接続口は狭間で管理してっから、そうそう消えるこたぁねぇとも言ってたよな」


 ピノに続く釣鬼の言葉を聞き、我に返った頭が更に冷え始める。

 人の気持ちというのは現金なもので、希望が見えたと思うと急に冷静になり周りが見えてきてしまうものだ。つまり、罵詈雑言とはいかないまでも散々見苦しく騒ぎ散らした自身の言動を振り返り、冷や汗がその背を伝うのを感じてしまう訳でありまして……。


「……あの、さっきのはその場の勢いといいますか」

「だから、その…ね……?」


 そして自分でも言い訳が苦しいなと思いながら、揃って恐る恐る釣鬼とピノの顔色を窺う。


「――残念だ、お前ぇ達とはそれなりに苦楽を共にした仲間だと思っていたんだがな」

「ウン。ボク、あんな事言われて哀しくなっちゃッタ」

「スンマセン、ほんの出来心だったんですぅぅぅ!」

「ごめんなさい。言い過ぎましたっ!」


 こうして、晴れてごつごつとした岩肌が剥き出しとなった異世界ホール内の地面にて、若干二名程の突発土下座ショーが開催されたのであった。


「もうこんなのよりクナイと組んだ方が良いパーティになるんじゃないカナ?」

「面白そうな話をしておるなっ。どうせならお前達三人共、余と共に諸国漫遊と洒落込まんか?わははっ!」

「そりゃ良いかもしれねぇな?クナイも見た目だけなら人族だし、それなら種族構成も今までと変わらねぇから違和感もねぇってモンだ」

「ぎゃー!?二人共捨てないでー!」

「本気で勘弁してつかぁさいっ!」

「お二人共、おいたわしや……」


 その後暫くの間、事あるごとにこの時の話題を引っ張り出されては弄られる羽目になってしまった。くそう……。


 ・

 ・

 ・

 ・


 時を少し置いて、何とか俺達も落ち着いた後のこと。


「状況を整理するぞ?まずは現在、何らかの理由で日本側のゲートが封鎖されちまって、ここからは向こう側には出られねぇ。だが他の出入口は全て問題無く使えるらしい。まぁ上級のゲートはそのものに問題があるから実質アルカディア側と三つの世界(トリス・ムンドゥス)側しか使えねぇんだけどな」


 封鎖中の文字が煌びやかに流れそこはかとなく場違いな電光掲示板の前で、釣鬼が皆を見回し改めて現状の確認をする。


「ここで俺っち達が取れる行動の選択肢は幾つかある。一つ目は、まずは目的の達成が見えているクナイを先に三つの世界(トリス・ムンドゥス)のシェリー嬢の所まで送り届けてから他の問題を解決する事だが――」

「そいつぁ気が引けますなぁ。頼太どんと扶祢はんがこんな状況だってぇのにあちき一人だけ目的を果たしてはいさよなら、ってなぁちくと薄情に思えやすし」

「だよなぁ」

「誰かさん達とは違って他人への思いやりに溢れる意見だよネ~」


 さくっ。何気にまた抉られた気がするがそれは置いといてだ。

 基本的にはその物腰だけではなく性格も優しいクナイさんらしく、やはりこんな状況になった俺達を放って別れるつもりは無いようだ。


「ならば余の帝都への護衛も後回しで良いぞ。どうせ公式の訪問予定にはまだ期間もあるからな」


 いかにも愉快そうなこの様子でにんまりと笑いながら、出雲姫までそんな事を言ってきた。この子の場合は半分位は面白い物見たさも含まれてはいるだろうが、さっきも何だかんだで俺達を気遣う素振りを見せていたし、今もこちらの個人的な事情に付き合ってくれるというのだから嬉しいものだ。


「それに引き換えさっきの俺達ときたら……」

「自分の器の小ささに恥じ入るばかりです……」

「……あー、なんだ。まぁそんな時もあらぁな」

「そうダネ~」


 軽く自己嫌悪。


「そいでは、姫様とあちきの件は後回しっちゅう事で。そうしやすと、当面はお二人の故郷への扉をどうにかする方向ですかいや?」

「そうなるなぁ」

「儂はお頭の御付きですからな。判断はお任せしましょう」


 そして早速その方針を練り始める。

 各々がその場に座り込み、あるいは壁に背を預けながらの作戦会議となったのだが―――


「――それでだな。さっきからやたらアピールが激しいこの光る文字は何なのだ?魔法か何かか?」

「こいつぁ不可思議なモンですなぁ。さっきから書いてる内容がどんどんと変わっていってまさ」

「「「………」」」


 もうこの異世界ホールに関しては突っ込みを入れるだけ無駄だと思い出来るだけ見ないようにしてはいたのだが、二人の声に俺達もやむなくその電光掲示板へと視線を移す。

 そこには、ビカビカと七色のグラデーションに明滅を繰り返しながら、


『無視しないでくださいよ!今マジで危険が危なくて出入口を繋げられなくなっちゃって困ってるんですよ!』


 出雲姫の指摘通り、アピールの過ぎたテロップ風にそんな苦情が書かれていたのだ―――






「――んで、その危険とやらを俺達にどうにかしろと?」

『そなんです!あなた達も日本に戻れないと困るでしょー?だから手伝ってくださいよ』


 その後、俺達は世にも奇妙な電光掲示板との交渉に臨んでいた。

 何が悲しくて無機物との真面目な話し合いなんぞをせねばならんのだと思う気持ちは多々あるが、これも日本に戻る為だ、やむを得まい。


「分かった分かった。んで、俺達に何をして欲しいんだ?」


 目の前に広がる不思議現象に、ある者は呆れかえって物も言えない様子で、またある者は何か仕掛けでもあるのではないかと辺りを探り始めたり。俺も出来ればこんな怪しい電光掲示板と積極的な会話をしたくはないんだけどな、傍から見ると馬鹿っぽいし。


『ズバリ言いますね。日本側の入り口でとある人物によりここのゲートを塞がれちゃいました。なのでその人物を追い払っちゃってください!』

「とある人物……?」

『詳細は不明です。頭剃ってるんで坊主かも!』


 これまたよく分からん推測で返されてしまった。つかこれ、本当に無機物か?この返答といい主観に塗れているし、中に電光掲示板の妖精さんが入ってるとでも言われた方が余程納得出来るんだが……。


「つまり、そいつを追い払って二度とそんな事をする気にならなくさせれば良いんだな?」

『そんな感じで宜しくお願いします!』

「オーライ。じゃあそいつらを追い払うから、出入口を開けてくれ」


 相変わらず電光掲示板とのシュールな会話をし続ける俺を皆何とも言えない顔で見ていたが、この際気にしない事にした。仕方が無いんだ、背に腹は代えられないからなっ!

 しかし、そこに腹が自身の役割を全く果たす気の無い事を言って……書いてきた。


『無理です。向こう側からゲートを封じられちゃってるので!』

「そっかー……あ?」

『恐怖で色々漏らしちゃいそうなんでそんな怖い顔で凄まないでくださいよぅ!大体ここで仮に開けられたとしても、こんな怪しい出入口から出て来たら皆さんが化物認定されちゃいますって!』


 む、つい顔に出ちまったか。つか自分で自分を怪しいと言うのもそうだが漏らすって。機材用の冷却液でも漏れ出るのかよ。

 それにまぁ、こんな電光掲示板に説得をされるつもりは全く無いが言ってる事は正論だ。修験僧とかそんな奴にでも目を付けられちゃったのかね?この穴はある程度の霊感を持たないと見えないらしいって前に扶祢が言ってたからな。


「というか頼太……よくそんな怪しい物体と会話を成立させる気になれるわね」

「……それについてはコメントを控えさせて頂きたい」


 本当、現実を直視すると心が萎えそうなので勘弁して頂きたいものです……。


「辺りには特に隠れる場所も無いようだなぁ。この怪しげな絡繰り板の中には妖精でも入っておるという事か?」

『そんな感じに思っていただければ!』

「お頭も大概物好きでございますね」


 そこにそれまで周囲の調査に行っていた出雲姫とトビさんが戻ってくる。周囲を調べてはみたものの、やはり何も無いと判断したようだ。


「妖精、ってこんな変なのと一緒にされたくないんだケド」

『では精霊辺りで!』

「ヘルメス並に胡散臭ぇ奴だな、オイ……」


 妖精を引き合いに出されたピノからのクレームにあっさりと前言を翻す電光掲示板。怪しいなんてレベルじゃねえな、これ。


「んでいい加減やるべき事を現実的な手段と共にはっきりと提示してくれ。じゃなきゃこの場で雑貨入れから各種ドライバー引っ張り出して来るぞ?」

『イエッサ!物言わぬ無機物に戻りたくはないんでさっさと言います!現実的に二日とちょっとをかけてサカミの側の接続口から日本に出て貰って、向こう側からその坊主を退散させちゃってください!』

「……まじか」


 確かにはっきり提示しろとは言ったけど、つまり事態解決の為だけにひたすら二日かけて歩いてあっちの異世界ホールまで行けって事かよ。

 提示された要求の意味するところを知り、場にはまたしても気怠げな空気が流れ始める。


「よく分からんが、帝国への道行きだけではなくこれで公国内も堂々と観光に練り歩けるいう事か。これはこれで面白そうだな、わははっ!」

「そういえば公国には行った事がありやせんでしたなぁ。おまけに頼太どん達の故郷である異界も見て回れるとは、これはこれでお得感ってやつでありんす」


 俺達が揃ってうんざりとする中、出雲姫とクナイさんは対照的に浮き浮きとした様子で会話を弾ませていた。二人共、楽しそうで何よりではあるんだけどね……。








 紅葉の時節も終わり、日増しに寒さが身に染み入り始めた晩秋の夜。

 とある小さな山の麓の小道にて、一人の修行僧は護摩の智火を燃え上がらせ、岩肌の一点を厳しい目付きで睨め付けていた。


「ノウマク、サマンダ、バザラダン、カン……」


 辺りに響く低い祈願の声。それに呼応するかの如く、季節外れの嵐を伴い一つの影が現れる。


「……出おったな、妖怪変化めが」

「――うふふ。御機嫌よう、良い夜ですわね」


 その声がかけられると共に辺りへと充満し始める、不吉な気配。

 その声に僧が振り向けば、山間の小道にはその頭から突き出る獣の耳と、そして幾又にも裂けた尾を持つ一人の見目麗しい娘が何時の間にやら佇んでいた。


「狐憑き……それも相当な(オン)の気配。これ程の実体を持って現れるとは、小生の四十年に亘る生の中でも初めてだ。余程巧く隠れ住んでいたという事か」

「あら。わたくし、別に逃げ隠れなどはしていませんわ。以前よりこの辺りに棲んでおりますのよ?」


 修行僧の推論に心外とばかり眉根を顰め、娘は寂しげに言葉を紡ぐ。


「……言われてみれば、この土地には『オサキさま』という狐神の伝承があると聞く。おのれは、それの系譜という事か?」

「さて、どうでしょうか。所詮あなた様とわたくし達の間柄では、何を言おうと意味はありませんでしょう?ならば言葉など無用というもの」

「ふん――」


 人と妖怪変化、双方は所詮相容れぬもの。修行僧は過去の魑魅魍魎の類との対峙を振り返り、此度も叶わぬ事だったかと僅かな諦観の影を心に落としながらも座禅を解いて立ち上がる。


「狐憑きよ、祓う前に聞いておこう。この魔魅穴はおのれの仕業か?」

「わたくしではありませんが、とある筋より依頼を受けましてね。あなた様には申し訳ありませんが、この穴、また開けさせて頂きましょう」

「させるかァッ!!」


 その娘の答えと共に僧が吼え、九字を切り真言を唱え始める。


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン……オン キリキリ……」

「――ふっ、足元がお留守だな!」

「オン キリキリ……なっ!?狐憑きが二人だと!?」


 僧の法が完成する直前、横合いから襲い掛かるもう一つの影。それは先の娘程ではないが、やはりその尾は三又に裂け、頭には狐に憑かれた象徴である、獣毛に覆われた長い耳が生えていた。

 後に現れ僧に足払いをかけた娘はその勢いのままに体勢を崩す僧の頭を両腿で挟み、そのまま空中で反動を付けて僧諸共に後方回転をする。


「ちいッ――!」


 だが、僧は仏門に帰依してより実に三十年もの年月を修行に励み、心技体全てにおいて自らを高め続けていた猛者だ。その動作の意図するところをいち早く察知し、首を護りながらも身体を捻り地面へと叩き付けられる前に脱出する。


「何だとっ!?こいつ、あれを抜け出したぞ?手強い奴だなっ!」

「むしろ出雲ちゃんがごく自然にフランケンシュタイナーを仕掛けた事の方に驚きなんだけどね?」


 僧はどうにか体勢を立て直して立ち上がる。しかし完全に有利と見たか、狐憑き達は襲い掛かってくるでもなく余裕そうな様子を見せながら軽口を叩き合っていた。


「おのれっ、かくなる上は野狐祓いの法にて調伏してくれるっ!」

「げっ……それはまずいかもっ!?」

「むむ?よく分からんが引いた方が良いか?」

「遅いわぁ!」


 声も荒く口走り、矢継ぎ早に組まれる印と共に確固たる意志の下唱えられる真言。若干年嵩に見える側の娘はここで初めて焦りの表情を見せ、もう一方の娘もその言葉を聞き警戒感を露わにする。しかし油断故か初動で遅れを取った娘達では最早詠唱は止められず、目の前の狐憑きの命運もここに尽きたとばかりに法の完成を高々と叫ぶ僧。だが……。


「――こひゅっ!?」


 夜闇に乗じその陰に忍び寄っていた一人の若者の手によって、僧の意識は闇の底へと沈んでいったのだった―――








 Scene:side 頼太


「ふぅ、危ねぇ危ねぇ」


 目の前の坊主の詠唱を不意打ちのチョークスリーパーで中断させ、そこからロックの対象を頸動脈へと移しキュッと締めて落とす。


「二人共、囮お疲れさん。お陰で仕事が捗ったぜ」

「闇討ちを仕事と言い切って躊躇無く手を染められる辺り、お前は暗殺者が向いてそうだなっ」

「あっぶなぁ~……あれはちょっと本気で焦ったわ」


 俺の労いに二者二様の反応を返す扶祢と出雲。

 この坊主、最後に「野狐祓いの法」とか言ってたよな……扶祢って確か野狐ってのに分類されていた記憶があるし、本人も相当慌ててたからな。実は結構危うかったのかもしれない。


「暗殺者呼ばわりは心外だな。迅速な任務遂行の為に今出来る手段を練って行動に移しただけだってのに」

「儂から見ても立派に実働部隊の連中並に動けていた気がしますがな」


 トビさんまでそんな事を言って来る。体捌きこそ釣鬼先生や扶祢のお陰でいっぱしにはなったと思うけど、特に仕事人って程じゃあないとは思うんだがなぁ。


「まぁ良いや。取りあえず、これで依頼は完遂かな?」

「そうねー。それじゃあこの人を縛り上げて――どうすれば良いんだろ?」

「……依頼人に聞いてみっか」


 ともあれ、これで異世界ホールの障害となる事態は解決した……のか?

 俺達はその僧を踏ん縛り、異世界ホールのあった岩肌まで連れていった。

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