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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
裏章 幻想世界編
170/439

狐の四 幻想世界・極限モード④

 何か閑話が長引きそうな流れです。

 暗い迷宮内を疾走(はし)る一つの大きな影―――


 『彼』は、この迷宮内に於いて比類するべきものの無い絶対王者……であった。

 『彼』がひとたび腕を振るえば数多の弱き者共が引き裂かれ、その吐息は直接触れずとも無数の生命を奪い去る。この迷宮内ではどちらかと言えばなどという曖昧な表現をするのも躊躇われる程に常に狩る側であり、理不尽の体現たる暴君だった筈なのだ。

 だのに、何故……。


(……このオレが、このような小さき者共に狩られるというのか!?)


 最早『彼』自身にもはっきりと感じ取れる終わりの刻。強者としてこの世界に生まれ落ちてより初めて覚える感情に戸惑い、その味わった事の無い新たな刺激に歓喜し打ち震える。

 そして『彼』は震える身体を自らの咆哮により奮い立たせ、自らのホームグラウンドにて小さき者共を迎え撃つ―――











「――はいッ!!」

「カアッ……静っ!」

「我が嘆きを識るがいい――[絶・鬼怨哭呪(ゼツ・キオンコクジュ)]」

『グォオォォオオオッ!!!』


 瑠璃による洞窟の天井付近からの打ち落としを喰らい、錐揉み回転をしながら落下する老竜(エルダードラゴン)。その落下に合わせ構えるシズカのドラゴンスレイヤーにより前脚を斬り飛ばされ、そこにに静の極大魔法が直撃する。その直後静の魔法が当たった箇所から加速度的に老竜(エルダードラゴン)の全身が黒く染め上げられ、数秒の後には断末魔の絶叫を上げながら崩れ落ちていった。


「よっ……と。これでまた最下層クリアかしらね」

「おっつー」


 目の前に倒れ伏し死した後にも圧倒的な重圧を感じさせる老竜(エルダードラゴン)の巨体を前にしながらも、特に緊張感といったものを感じさせない軽い口調でハイタッチを交わす瑠璃と静。その横では早速シズカが老竜(エルダードラゴン)の身体を斬り裂いて内部へと腕を突っ込み、血に塗れるのを気にも留めずに何やら探っていたが……。


「……お、あったの。呪殺により老竜(エルダードラゴン)を倒した際にドロップする『老竜の黒呪心』じゃ。見事に心臓が結晶化しとるのぉ」

「おー!これでやっと瑠璃の竜哭大弓が完成するねぇ」

「静のその闇魔法、威力高すぎていっつもオーバーキルで倒しちゃうから呪殺が中々発動しなかったのよね。まぁこれであの古代竜への対抗手段が揃ったという事かしらね」

「ごめんね?でもお陰で竜鱗装備も人数分揃ったし結果オーライって事で」


 シズカ達は今、試練の迷宮最下層である地下50階にて老竜(エルダードラゴン)狩りに勤しんでいた。目当てのレアアイテムを獲得した喜びに歓声を上げる三人の横ではそれを見守るライが一人手持無沙汰に苦い笑いを浮かべており、光学映像(ホログラム)を作りそれに同伴している文姫は呆れて物が言えないといった様子であった。

 最初の頃こそ地道に探索をしていたシズカ達だったが、その内飽きてきたらしく徐々に力押しの側に寄り始めてしまったのだ。具体的な手法は以下の通りとなる。


①まず地下10階のボスである【魔鏡】を倒し、その確定ドロップアイテムである[ナビゲーションミラー]を取得した後にセーブクリスタルで地上へ戻る。その際高確率で古代竜(エンシェントドラゴン)のブレスが降って来るので回避重視で気を付けよう。

②一度迷宮を出る事によりリセットされたボス情報を利用して【魔鏡】を乱獲。上記のアイテムを所持数限界まで積載する。

③[ナビゲーションミラー]を起動させ、使用した階層に居る間のみ表示される下の階層への階段がある方向を割り出した後、迷宮の壁を前衛二人の物理的な力押しにより突き破り直進して抜ける。


 ナビに従って直線距離を突き抜け、時には下の階への落とし穴(ピット・トラップ)すらも利用する。これにより中層までは軽くショートカットをしてしまい、幻想世界(プレイン)内時間僅か一日(*1)で地下40階にまで到達する事となる。


『道中の壁破りはもう仕方が無いとして~。まさか初見であの水のフロアの床を破壊して地下33階に抜けるとは思ってなかったわぁ。あそこには新ボスのリュウグウノツカイを用意してたのにぃ……』

「確かに力をカンストしている上での複数人数による破砕効果を伴った攻撃なら、以前釣鬼の本体が【大神】に使っていた業のように床の防御を突き抜ける事も可能ではあるけれどもなぁ。あの床のHPって同フロアのボスの三倍はあったよな、姫さん?」

『うん~。あの床壊す位の火力を叩き出せればボスを倒す方が早いと思うわ。折角のストーリーボスが……』


 このようにして幻想世界の運営サイドである二人の驚愕と落胆の度合いは計り知れず、揃って肩を落としていた。

 対照的にシズカ達はと言うと、地下41階からの旧極限モードに対応したモンスター達との戦闘でスキル習得や装備・素材の獲得ラッシュに沸き、快進撃が止まる気配すら無かったのだ。


「元々あの上空のクソトカゲが我等の手が届く場所におらぬが故にこの迷宮に避難しておるだけじゃでな。このような閉所ならばどれ程居れども者の数では無い、とまでは言わぬが……ま、対応は易いじゃろうな」

『やっぱ現実情報そのまま投影したりしないでキャラ作って貰えば良かったわぁ……』


 考えてみれば、軽減されたとは言えどもあの古代竜(エンシェントドラゴン)相手にログイン直後の状態の静による魔法がそれなりの手傷を与えていたのだ。その下位互換が相手であれば目の前のただのドロップアイテムと化した老竜(エルダードラゴン)の結果は然もありなんというものだろう。


「でも、力押しの手法は置いといてもさ。システムを確りと理解した上でのあのショートカットガイドは見事なものだったよな」

「えへん」

「アンタって3D系のRPGやり込んでるものねぇ。あんなやり方、私達じゃ考え付きもしないわよ」


 ライの言う通り、力押しだけではここまでの速度と確度をもって最下層まで辿り着く事は出来なかっただろう。あるいは彼の水の階――地下32階の全域水中フロアで未だ行き詰っていたかもしれない。

 だがこうして迷宮を無事踏破し、結果あの古代竜を射落とす大弓の素材も集まったのだ。これもある意味協力プレイの醍醐味と言うものだろう。


「それじゃあ早速地下40階の鍛冶工房に戻って竜哭大弓と竜鱗装備を作ろうか。素材集めお疲れさま、作成の方は俺がやるから皆はゆっくりしてて良いよ」

「助かるのじゃ。童達は作成系のスキルまで取る暇は無い故な」

『それじゃあライちゃんが装備の作成をしている間にステータスの確認をしましょうか。とは言っても皆さん、元来の所持技能が多過ぎるからある程度幻想世界での用途に合わせてピックアップはさせて貰うけど~』


 そう言って文姫はホログラム上に画像を開き、シズカ達の前にステータス画面を表示し始めた。






『まずは前衛の瑠璃さんからね~』


CharacterName:瑠璃草 Unknown/闘神(バトルマスター)・神の射手


HP Green/MP Green/ST Green


体術 50/50(MAX)

達人の洞察力 50/50(MAX)

弓術 50/50(MAX)

槍術 50/50(MAX)

霊気開放 50/50(MAX)

上級神性魔法 50/50(MAX)

天性の平衡 20/20(MAX)

空中制動 20/20(MAX)

            etc...


「……これ、見る意味ある?」

「見事にカンストしちゃってるもんね」

『仕方が無いじゃないぃ~!元来天狐クラスの存在がプレイヤー側で介入するなんて想定してなかったんだからぁ!』


 身も蓋もない問いを発する瑠璃につい文姫が情けない叫びで返してしまうのも仕方のない事だろう。

 やはり初めに知らされていた通りプレイヤーキャラクターとしてのステータス上限に見事に引っかかってしまったようで、瑠璃のステータス情報は軒並みスキルレベルがカンストしてしまっていた。


「まぁそれは詮方無しとして、この天性の平衡というのは先程の壁走りの事かや?」

『そうね~。瑠璃さんのはもう壁走りというか天井走りだったけどぉ。足に吸盤でもついてたりするのかな?』

「瑠璃は脳筋だからね、しょうがないね」

「誰が脳筋よ。あれだけでこぼこな洞窟内の天井だったら別にそう難しくはないでしょ」

「そぉかのぉ……」


 特殊な能力を使用する訳でも無く、ただ持ち得る技術のみによって天上走りを実現する。その無自覚な異常性に何か言いたげな様子のシズカであったが、特にそれ以上突っ込むつもりは無いらしい。恐らくは自身の紹介の時にも似たような突っ込みで返されるのを危惧しての事であろうが。


「このHPMPSTというのは分かるけれど、数値じゃなくてGreenって書かれてるわね。これはどういう事なのかしら?」

『これは単純に、数値化しても首を刎ねられたりすれば一瞬でダメージとしての死が待ってる訳だしぃ。それに数値ばかり見て下手にダメージ計算とかされてもつまらないからね~。だからアクションゲーム風にカラーバイタル表示としてみました!』

「そっかー。だからあの時はシズカ一人だけスタミナがグリーン状態のままだったんだね」






『それじゃあお次、静さんね~』


CharacterName:静 Unknown/女教皇(ハイプリエステス)


HP Green/MP Green/ST Green


上級属性魔法 50/50(MAX)

上級強化魔法 50/50(MAX)

上級回復魔法 50/50(MAX)

上級神性魔法 50/50(MAX)

超級呪怨魔法 70/70(MAX)

上級鑑定 20/20(MAX)

魔力解析 20/20(MAX)

緊急回避 10/10(MAX)

アクロバット 10/10

            etc...


「さっきの私のもだったけれど、種族の表記がUnknownなのは現実そのまま投影しちゃったからかしら?」

『そうねぇ。本来この世界にプレイヤーとして存在する種族じゃないものを無理矢理キャラクターとして当てはめちゃったから、こういった不具合部分が出るのも仕方が無いわねぇ』

「あとは――魔法がほぼ上級カンストしておるのは静らしいが、この呪怨魔法のみ超級になっておるのは、やはりそういう事なのかや?」

「わらわはあの時、霊体としては一度母上に完全に浄化されたから鬼気は収まったのだけれど。やっぱり魂の根底部分では、ね……それが出ちゃったのかな」


 シズカの指摘に対しそう答えながらも若干昏い面持ちで俯く静。

 職名にある女教皇とはタロットの大アルカナに属する名称であるが、現実にカトリック教会では女性が司祭以上の職に就く事が認められてはいないのだ。それ故に、この名には現実には有り得ないものといった意味合いも含まれていた。

 皮肉にも元は真夏の夜の夢(ありえぬもの)であった静に合った職名と言えるだろう。


「……静」

「それはそれでおいとこー。今はお陰でこうして便利に使えるんだし気にしなーい」


 その言葉の意味を知る者達は皆一瞬痛ましげな表情を浮かべるが、その空気を打ち払うように打って変わった明るい声で静が次を促した。






『それではラスト~、シズカさんいってみよ~』


CharacterName:シズカ Unknown/戦神(ウォーマスター)


HP Green/MP Green/ST Green


武芸百般 50/50(MAX)

達人の洞察力 50/50(MAX)

霊気開放 50/50(MAX)

上級神性魔法 50/50(MAX)

称号【全殺し】


            etc...


「あれ?意外と少ないね」

『とは言っても現状関係の有りそうなものに限定してるからだけどね~。幻想世界に適用されなかったものを挙げてくと三人共切りがないからぁ』

「それにしてもアンタ、本当に武芸百般だったのね。刀使ってるのしか見た事が無いから吹かしとばかり思ってたわ」

「それよりも、何じゃこの全殺しというのは……」

『あら?こんなのあったっけ。どれどれ――ぶっ!?』


 素直過ぎる感想を漏らす瑠璃に取り合う事も無く、やや憮然とした表情で問うシズカ。それに対して文姫は一度何かを調べる素振りをした後に吹き出してしまう。


『【全殺し】:様々な幻想種を屠り続けた【殺し】の称号。対応する属の存在へのダメージアップ、畏怖の追加効果を常時発動……ですってぇ。ちなみに神殺し/鬼殺し/竜殺し/巨人殺し/悪魔殺し/霊殺しまでは付いているみたい』

「心当たりは――まぁ、あるのぉ」

「もう突っ込んでなんかやらないわよ……」


 それ自体が突っ込みだとは思えども、この微妙な空気の中それを言える猛者はこの場には居ないようだった。






「――よっし!竜哭大弓その他装備一式、完成したよ」

「ライ君。ありがとー」

「うむ、ご苦労」


 そこに装備作成を終えたライが工房から完成品を携えやってきた。

 これで装備は概ね揃い、未だ上空で舞い続けているであろう古代竜への対策は完了した。


「それじゃあ、準備が出来たら状況を確認し次第真の竜退治といきましょうか!」

「「おー!」」


 そして四人は再び地上へと向かう。その先に何が待つかを知る事も無く―――

 ステータスは相変わらず雰囲気だけ。


*1:現実時間にして約三時間。高ステータスによるパワープレイの極みでござい。

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