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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第七章 脳筋族と愉快な仲間達 編
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第150話 さらば脳筋族の郷

 祝宴が終わり、二日後の朝―――


「そんじゃ親父、依頼完了のサインを頼むぜ」

「うむ――次からは途中で放り出すような真似はしてくれるなよ」

「ぬぐっ……そういうのは元凶のジジイに言ってくれよ」


 傭兵の郷運営委員会が設置された建物の一室にて、俺達は依頼に関する最後の手続きを行っていた。


 宴会場でのリチャードさんによる追試発言。あれは迅突さんによる手厳しい一言ともう一つの大人の事情により出された事らしい。もう一つの都合というものについては後で語るとして―――


「まさか揃いも揃って観戦に興じ、最終日の警備をほったらかしにするとは思わなかったぞ。それで熟練者への昇級を目指そうとは片腹痛いわ!」

「という事だ。ギルド的には使えるシノビ達を取り込んで人手とするやり方はアリなんだが、大本の依頼人でもある迅突委員長がこう言っている以上、残念ながらそのまま昇級という訳にもいかなくてな」


 ごもっとも。

 結局俺等、決勝トーナメントに進出してからは試合に集中しちゃってたからな。案の定ピノはずっと観客席で試合にかぶりつき状態だったしなぁ。


「ちゃんと会場周りの探査はしてたッテ!」


 とはピノの弁。でも櫓の上に居た姫様とリチャードさんについては全く気付かなかったみたいだし、苦しい言い訳となってしまったようだ。多分横方向ばかり警戒してたんだろうな、こういった部分の細かい気配りはまだまだ俺達甘いなぁ……。


 そうそう狐耳の姫様。この子、なんとワキツ皇国の皇族の一人なのだとか。今回の大祭は郷の外の者にも招待状が出され大っぴらに開催されていたのもあって、この姫様もその伝手で外交特使を兼ねて郷にやってきたのだそうだ。


「余は出雲と言う。お前達、宜しく頼むぞ!」

「そこで追試、というかこの姫様からの提案になる訳だが」

「余も表向き従者代わりとなる護衛をこの闘技大祭で見繕おうと思っていたのだ。お前達の腕っ節ならば問題なかろうし、何より退屈はしないだろうからな!後ろ盾に冒険者ギルドが付いて素性もそれなりにはっきりしておるのも信用という意味では大きいか」


 ここでもう一つの大人の事情という事だ。つまりは折衷案としてこの出雲姫様をインガシオ帝国の首都まで送り届ける護衛をしろという事らしい。まぁ報酬も出るらしいし、それを受けるだけで釣鬼がBランクに上がれるんだったら断る理由は無いけどさ。


「うむ、うむ!どうやら決まりのようだな。では、行くぞっ者共!」

「――ってちょっと待てまだ手続きが色々残ってるだろ」

「ぐえっ!?」


 あ、しまった。

 言動からはとてもそうは見えないが一応やんごとなき一族のお姫様に潰れたヒキガエルのような声を出させちまった。この子、どうにも思い立ったが吉日的な性格というか突発的に動き出してしまうんですもの。ついどこぞの幼女と同じ扱いをして襟首を無遠慮に引っ張ってしまった。

 俺、もしかして不敬罪適用されちゃったりする……?


「悪り、大丈夫か?」

「ごほっごほっ……この余に対しほぼ初対面でここまで無礼な仕打ちをしてくれるとは。その浮世離れっぷりがまた面白いな、わははっ!」


 しかし予想に反し何だかやたら上機嫌の様子で屈託のない笑顔を向けられた、めげない子だなぁ。見た目齢の頃は俺達より少し下といったところか、活発そうなそのくっきりとした目鼻立ちでこういった笑顔を向けられると何だかこっちまで元気を分けて貰えそうな気がしてしまうね。


「その姫様は相当なお転婆だからな。道中苦労するぜェ~?」

「まじっすか……」

「こりゃあ、えれぇモンの御守りを引き受けちまったな」


 そのリチャードさんの不吉な予言を聞いて思わず零してしまった釣鬼の一言が、ほぼ今の俺達の心境そのものであった。






「それじゃ皆、またね。アタイはじーさまの説得が終わるまでは森に戻れそうにないから、ヴィクトリアさん達にはその旨宜しく頼むっすよ」

「うん。帰り道に寄るだろうし伝えておくよ」


 そして手続きも全て終わり、この傭兵の郷を出発する時間がやってきた。


「そういや当事者の烈震はどこ行ったんだ?律儀なあいつの事だし見送り位は来てくれると思ったんだけどな」

「あー……あれからずっとじーさまと口論し続けててさ。じーさまも段々妖鬼(オニ)の身体に慣れてきたみたいだし、今日も朝っぱらから道場で物理的にぶつかり合いながら喧嘩しちゃってるよ」

「あはは。元気だよねぇ轟鬼さん」

「後百年はくたばりそうにねぇな、あのクソジジイ」

「まーいつぽっくりと逝くか分からなかったじーさまだしさ。アタイとしちゃ妖鬼化のお陰でまだまだ暫くはお別れしなくて済むと思うと嬉しかったりするんだけどね」


 烈震と轟鬼の爺さんは決勝戦以降、相変わらずの様子で今も肉体言語(はなしあい)の真っ最中らしい。最後まで脳筋族らしい落ちというか、ほんとブレねぇなあの人達。

 見送りに来てくれた運営委員会の面子もそうだけど、この郷の連中はこんなごつい見た目に反して皆賑やかで気持ちの良い連中ばかりだったよなぁ。


 ―――さて、そろそろ頃合いか。


「それでは、この度は冒険者ギルドヘイホー支部をご利用いただき有難うございました。またのご利用をお待ちしておりますっ!」

「じゃあネー」


 こうして我がパーティの受付担当の挨拶を最後に、俺達は傭兵の郷を後にしたのだった―――











 その後デンスエルフの隠れ村にて一泊し、そこでもまた出雲姫の突撃レポーターっぷりにちょっとした騒動が起きたりしてはいたりしたのだが。ともあれ概ね問題も無く、全員無事にデンス大森林の南側まで戻ってくることが出来た。


「ほぉ~?ここが話に聞く異世界ホールとやらでやんすか」

「だな。この洞窟を抜けた先の世界にクナイさんの探してる『無明の心得』を極めた人が居るのさ」

「こいつぁおったまげやしたなぁ。そらあの時の素性も分からぬあちきにゃ話せやしねぇ訳でさ」


 まぁクナイさんが釣鬼の妹だと判明したからこそ今こうして案内出来たんだけどな。


 今現在、俺達はパーティの四人に加え次の依頼人である出雲姫、そしてクナイさんの六人で移動していた。途中まではリチャードさんも一緒だったんだけど、デンスエルフの村で今後のギルドとの連携を深める為にヴィクトリアさん達と何やら交渉があるからと言って現地で別れたんだよな。傭兵の郷での試験結果とその後の処理は何らかの伝達手段で既に送ったそうなので、俺達は姫様の護衛さえすれば後は好きに行動して良いらしい。

 なので予てよりのクナイさんの希望もあり、三つの世界(トリス・ムンドゥス)への入り口を教えにやってきたのだが……。


「何だこれェー!?別世界への入り口とか面白過ぎるだろう!余も連れてけっ」

「……しまった、お荷物抱えてたのを忘れてた」


 そこには耳をピーンと張り尻尾を膨らませながら興味深々といった様子で異世界ホールを覗き込む狐耳が一人。そういやこの子、完全に部外者じゃないか。尻尾の数とその物怖じせずに入り込んで来る性格に騙されてつい違和感無くここまで連れてきちまったー!


「誰がお荷物だ!ほれこうして得物も持っておるし、旅も慣れたものだからな。冒険者の食むという保存用の粗食でも余は別に気にせんぞ?」


 そんな事を言って「私、冒険出来ますよー」的なアピールをしている出雲姫だったが、君は一つ言っちゃいけない事を口にした。


「……出雲ちゃん?あまり冒険者をなめないで欲しいんだけど?」

「む?――扶祢か。不服と言うのであれば何ならここで一つ、余と矛を交えても良いのだぞ?」


 大祭での俺達の試合を見ていたにも関わらず扶祢に対してこのように言い放つだけはあり、道中見せて貰った出雲姫の槍の業前は相当なものだった。

 群れからはぐれたらしき狂乱牛(マッドブル)を一人であっさりと仕留め、また血抜きと解体の技術に至っては俺より上手い位だったからな。荒事にも対応出来て血を見ても全く動揺せず、更に好奇心も旺盛で見ての通り若干押しが強いきらいはあるがコミュ力も高い方、とくれば今直ぐ冒険者をやったとしても確かに通用する程の実力だろう。

 しかし、扶祢が言っているのはそういう事ではない……ないのだ。


「そうだな。ここは一つ、世間知らずのお姫様に俺達の実力を見せてやらないとな」

「む…むむ……?余、何か変な事でも言ったっけ?」

「はて、何ざんしょ。あちきにも姫様のおっしゃる事は至極真っ当に聞こえやしたがね?」


 そうか……そういえばクナイさんも未体験だったか。よし、クナイさんには悪いがここは姫様と共に驚愕と戦慄を味わって貰うとしよう。


「HZS-No.036(*1)――作戦名(コードネーム)『デミグラス』並びに『ペペロンチーノ』ッ!」

「おうよっ。ピノッ、水と火だ!」

「オウッ!」

「ふっふっふ……出雲ちゃん、この悪魔すら慄く現代日本の叡智の前に自らの無知を恥じ、そして個の力の無力さを思い知るがいいのだわっ!!」

「クナイ、お前ぇも心しておきな。今後の旅に支障が出ちまうくれぇのとっておきを味わせてやるぜ」


 この手だけは使いたくなかった。だが姫様よ、世の中には迂闊に口にしてはならない言葉……踏み込んではならない領域というものがあるのだよっ!

 そして十数分後には簡易テーブルの上に並べられたトレイと食器、その上で湯気と香ばしさが漂う人数分のレトルトハンバーグに絶妙な加減のアルデンテで引き揚げ、余熱で馴染ませたパスタが並んでいた。


「な、何だこりゃ!?無茶苦茶美味そうだぞっ!」

「こっ、これが兄様の言っていた噂の携帯式即席飯でありんすか……はぁ~この鼻を突き抜ける刺激の何と香ばしい――」


 うむうむ。愕然とした表情の出雲姫と今にも蕩けそうな顔をしたクナイさんの様子に俺達の溜飲も下がるというものだ。それでは全員分が出来上がったようだし、ここで少しばかり昼休みといきますか。


「「「いっただーきまーすっ!」」」

 一般的な冒険者はここまで豪華なモンは食べてないと思う。

 という事でエピローグというか最後には食レポになりかけていましたが、本編の流れとしては次回より新章となります。

 その前にまたモフサイドの話と楽屋裏を挟みますけどね。


*1:HZS(ほぞんしょく)

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