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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第七章 脳筋族と愉快な仲間達 編
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第146話 闘技大祭・幕間-秋の夜空に華の乱舞-

 明日、悪魔さん第16話投稿しまス。

 目が覚めたら、クナイさんに膝枕をされていた。


「およ。頼太どん、お目覚めのようでありんすね?」


 ………………。


 まぁ待て、同志諸君。この状況を客観的に見れば俺でも石持て投げつけよと声高に叫ぶ自信はある。だが少し落ち着いてほしい。これはきっと誤解だあるいは孔明の罠だそうに違いない。だって俺、こんな幸せ空間の主になる心当たりなんかねーですし!


「ふふふっ。あちきのような愛らしい娘っ子に膝枕をされる喜びを噛みしめている真っ最中とみやした」


 はい、おっしゃる通りで御座います。その悪戯っぽい表情で見下ろされるのがまた堪らんですっ!


「……いやそうじゃなくてだな!何してんすかクナイさん!?」

「おりょ?もしかして気持ち良くなかったでやんすか?」

「むしろ色々と充実し過ぎて爆発しそうで怖い位ですありがとうございますっ!――じゃなくて一体どんな状況なんだこれ!?」


 焦りからかつい早口でまくし立てながらクナイさんの膝枕を辞して勢い良く起き上がる俺……ちっくしょう、俺のやわこい膝枕が。

 精神的に血の涙を流しながらも常識というものを働かせ、未練たらたらにクナイさんの膝元へと視線を移しつつ状況を把握しようとする。しかしその視線に気付いたクナイさんに頭を優しく抱えられ、元の膝枕な体勢に抑え込まれてしまった。(*1)


「ほれほれ、遠慮せずにあちきの膝をお使いくだせぇよ。頼太どんとピノはんがこんな目に遭ったのはある意味あちきのせいなんですし」

「う……スンマセン」


 実を言えば扶祢の折檻のお陰でまだ頭がぐらんぐらんとしていたりする。今も起き上がりざまに少しばかり目眩がしてしまった位だし、やはり午前中の試合のダメージもまだ抜けきってはいなかったのだろう。たまには俺もリア充の気分を味わいながらクナイさんのお言葉に甘えさせて貰うとしよう。


「ところでここって何処っすかね?建物の中なのは分かるけど」

「試合場の隣にレストランがありやしたでしょう?その従業員用の一室ですなぁ。もう郷外のお客さん方も一部を除いて帰ったようで人も少ないんでお邪魔させて貰ってるんでさぁ」


 何故か頭を撫でられながらその気持ち良さの中聞いてみるとそんな答えが帰ってきた。どうやら倒れた俺達を介抱する為にわざわざ店の一室を借りてくれたらしい。こりゃ後で店の人にお礼言っとかないとな。


「今は夕方の六時前でやんすね。兄様と烈震はんの決勝戦が七時に族長選定の広場で始まるんで、後一時間といったところでありんす」

「あぁまだそんな時間か、良かった」


 クナイさんの言葉にほっとする俺、外が随分と暗いものだから既に決勝が終わってたのかと不安になっちまったぜ。

 ほっとして胸に手を当てた所で何やら胸から下に覆い被さっている柔らかい物を感じた。何だこれ?

 身体を起こして確認しようとするとクナイさんによりまたまた膝枕の定位置へと力づくで戻され、結局何があるかを見る事が出来なかった。嬉しいけどどうにも不自由だな、この体勢。


「しーっ。ピノはんが頼太どんにしがみついて寝てるんでやんす、気持ち良さそうだし試合前まではそっとしておきやしょう」

「なる、ピノだったか」


 そういやピノも揃って扶祢にお仕置きされたんだったな。普段ピノには優しい扶祢にしては珍しく、容赦無く尻叩きを受けて恥ずかしさで半泣きしてたからなぁ。ピノは妖精族としてはまだお子様な年齢とは言っても実際には俺達の倍以上を生きている訳だし、公衆の面前でお尻ぺんぺんをされるのはさぞかし精神的に堪えた事だろうな――俺は何をされたかって?……ガクガク。

 ま、まぁ俺の事はさておきだ。そんなピノを労う為に俺もピノの頭でも撫でてやろうかと手を伸ばし弄り始めるが……。


「ん……よっ、と?あれ、見えないとよく分かんねぇな」

「……頼太どん。一体何をされてるんで?」

「いや、俺だけクナイさんに頭を撫でられるのもなんだしピノの頭も代わりに撫でてやろーかなーと――あれ、これ何処だ?ほっぺたか?」


 言いながら動かす俺の掌にはぷにぷにとした感触。これがほっぺだとしたらもうちょい上……今ピノってどんな体勢で寝てるんだこれ?そのもちもち肌の感触を楽しみながら前後左右に手を動かすがどちらに行っても髪の感触には出会えない。


「クナイさん、やっぱ一度起こして貰えない?一度自分で見てみないと分かんねぇわ」

「頼太どん。お先に南無とだけ言っておきやしょう」

「?」


 そしてクナイさんの両腕から頭を解放され、起き上がった俺の視界に入ったのは―――


「………」


 その愛くるしい瞳に大粒の涙を溜め、ぷるぷると震えて顔を真っ赤に染めながら無言で俺を見上げるピノと……そしてその胸元に思いっきり手を突っ込んで内部を弄る俺の腕だった。


「――クナイさん」

「何でやんすか、頼太どん?」

「出来ればあの執行官に見つかる前に、優しく介錯して頂きたいのですが……」

「そいつぁ無理というものでしょうなぁ。ほら、窓の外――」


 ――あぁ。どの道俺には助かる道は残っていなかったようだ。


 クナイさんに言われ窓の外を見てみれば、最近早まってきた日の入りを迎え薄暗くなった夜闇の中どこぞの天狐を彷彿とさせる爛々と光る紅い瞳。あいつ、黒髪黒目だった筈なんだけどな……。


「うん。もしかしたらこれで生きて会えるのは最後かもしれないから今の内言っておくか。ごめんなピノ、せめてわざとじゃなかった事だけは理解して欲しい」

「……頼太の強姦魔ァ~~!!」


 本日の運勢が見れたらこれ、間違いなく女難の相とか書かれてるよな、きっと……。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「ボク、頼太に汚されちゃッタ……」

「アンタ、ケモハラだけじゃ飽き足らずついに幼気なピノちゃんにまで……」

「釣鬼先生助けて!?」

「生憎兄様は決勝に向けて何処ぞに籠っているようで誰も居場所が分からないんでありんすよ」


 頼太は仲間を呼んだ!しかし仲間なんか最初から居なかった……。


「烈震もどっか行っちゃったしなぁ。それにしても頼太ったら、ホント期待を裏切らないでくれるよね。今回ばかりは応援は出来ないけど骨は拾ってやるっすよ」

「あちきも哀しい真実を知る者としちゃ善処はいたしやすが、おなごの胸元を節操無しに弄るのはちっとばかりデリカシーに欠けやすからねぇ。ここは大人しく断罪されとくのが無難じゃあらせんか」

「ですよね……」


 結局、病み上がりの身で更に半殺しの憂き目に遭うと流石の俺でも本気で三途の川が見えかねないという事で、クナイさんと双果のフォローもあり暫くの間ピノと扶祢のパシリに使われるという条件で一応解放されはした。

 こんな阿呆なトラブルで俺だけ決勝戦が見れなくなったりしたら落ち込むどころの話じゃないからな。本当に良かった……。






「――へぇ。クナイさんの本名って紅桜さんって言うんだ?綺麗な名前だねー」

「実の所は母様の紅の一文字を頂いて桜の方はイメージで後付けされただけでやんすから、本名よりも幼名で付けられたクナイの方があちきは好きなんでやすがね」

「え。確かにクナイさんの色は瞳の蒼か着物の白ってイメージだけど、桜なら別に悪いイメージでは無いと思うんだけどな」


 余裕を持って早めに決勝戦が行われる会場にやってきた俺達は、時間が少し空いたのでクナイさんの素性などを聞いていた。

 釣鬼の実の妹であるクナイさん。だが釣鬼も迅突さんも生まれの種族は大鬼族(オーガ)なのに、クナイさんは半人半鬼となる前は半大鬼族(ハーフオーガ)だったらしい。最初は母親の紅新妻さんが人族なのかなと考えていたが、そうすると釣鬼も半大鬼族(ハーフオーガ)になる筈だよな?皆そこに違和感を感じ、こうして根掘り葉掘りと聞き出す事になったという訳だ。


「この紅"桜"。戦場であちきの使う両の小太刀の旋風が血の桜吹雪を舞わす情景から名付けられたんでありんすよ……」


 そんな俺達の質問攻めに、重い口を開けたクナイさんの返す答えがそれだった。だから本名を名乗った後もクナイと呼んでくれと言ってたのか……。

 世の中には聞かなきゃ良かったと思える真実って、多いんだな。


「それジャ、クナイの方はどんな意味があるノ?」

「これは紅が元らしいですなぁ。まんま(くれない)だと捻りがないから一つ外してクナイにしたって母様が言っておられたようなー」


 そりゃまた安直だな。でも本人はこの響きを気に入っているようだし、実際違和感も無いんだから特に問題は無いか。

 その後も色々と雑談をし、クナイさんが母親の半大鬼族(ハーフオーガ)の性質を受け継いで生まれた事、大鬼族と人族の間には時たま紅新妻さんのような半大鬼族(ハーフオーガ)という種族が生まれる事などを聞いたりしてる内に決勝戦の開始時間がすぐそこまでやってきた。


「そういえば皆。兄貴の幼名って知ってるかい?」

「ん――そういや今の釣鬼って名前しか教えて貰ってないな。前に直接聞いた事があったけど教えてくれなかったんだよな、あいつ」


 当然の事ながら、既に夜の時間に入っていたので銀髪紅眼の吸血鬼姿と化している釣鬼。ゆったりとした胴衣で身を包み広場へと出てきた釣鬼を眺めながら、双果がふとそんな事を言い始めた。


「兄様の幼名でやんすか。そりゃあ気になりますなぁ」

「気にナルー!」

「何々、どんなの?」


 そんな面白そうな話に食い付かない理由が無い、故に当然全員で食い付く俺達。それに対し双果はちょっと溜めを作った後、ニヤつきながらこう言った。


「ウリ坊」

「「「――ぶっ」」」


 これはひどい。


 何でも釣鬼は髪を生やすと頭頂部の両脇にほぼ線対称な茶色の筋が出来るのだそうで。その見た目と猪突猛進かつ悪戯小僧だった当時の性格により轟鬼の爺さんから面白半分にそんな名前を付けられてしまったらしい。そりゃそんな黒歴史、隠したくもなるよな。

 という訳で―――


「――続きましては、赤コーナー。見た目が完全に別人と化しちゃってますが一応同一人物らしい釣鬼選手の入場ですっ☆」

「「「ウーリボー!」」」


 相変わらずの気の抜けるハクさんの紹介へ悪乗りする形となった俺達の声援に、気合いの入った表情から一転して盛大にコケる釣鬼。


「おっ、お前ぇ等なんでそれを……双果っ、手前ぇかあッ!!!」

「うひひ。ここ暫くアタイをヤキモキさせてくれたお返しっすよー!」


 どうやらクナイさんとの試合の敗戦に続き色々あった双果の鬱憤もこれで少しは晴らせたみたいだな。随分とすっきりとした顔をしちゃってまぁ。


「ぶはははは!この反応、あいつ本当にウリ坊なのかよ!?こりゃ面白ぇー」

「まさかあの餓鬼大将がこのような華奢な姿になってしまうとはな……ぶふっ」


 幸いにして俺達の入れた合いの手が良い感じに郷のオーガ達のツボを直撃したらしい。釣鬼が吸血鬼姿で場に現れた時には随分とざわめいていた観客達だったが、今は御覧の通り大受けして皆笑いが止まらないといった状況だ。面倒な説明をする手間が省けて良かったな!


「くくくっ、ざまあねぇな――賑やかなお仲間達で羨ましい限りだぜ、本当によ」

「あいつ等、後で覚えてやがれ……」


 そういった訳で此処に至って何ともしまらない話ではあるが、これより傭兵の郷に於ける闘技大祭の決勝戦が開始されることとなる。俺達の出番は一先ずこれにて終わりとして、後は主役のお二人の活躍をこの目に焼き付けるとしますかね。

 頼太にペド属性が以下略。

 唐突に書きたくなったんだからね。しょうがないよね。


*1:頼太「クナイさん力強いしな。抗えなくても仕方が無いよな!」

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