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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第二章 冒険者への入門 編
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第015話 初依頼

「トワの森定期調査?」


 サリナさんが取り出した一枚の依頼書をテーブルの上に広げ、俺達は揃って詳細を読み始める。


「……平凡だね」

「定期、ってと異常が無いことを確かめる的なものかな?」

「確かに管理面では欠かせねぇ事ではあるか」

「ええ、このトワの森はヘイホーに近い場所に位置していますので。こうして定期的に異常が無いかのチェックをギルドで担当させていただいております。それ故に比較的問題は少ない案件となりまして、慣れている方は余程緊急性がある場合でなければ受注しませんし、逆に初心者の方々は真新しい目立つ依頼を好む傾向がある為にあまり関心を得られないのですよね。地味で危険も少ないこの依頼書ですので、まだ今回は誰も手に取ってはいなかったようですわね」


 ほー。地味ではあるが調査の一環で探索の勉強にもなるし、今の俺達には丁度良いという事か。後半の初心者云々のくだりは若干耳に痛い部分があるけど、こうして事前にサリナさんから聞いておいたから同じ轍を踏みはしないぜっ!


「んじゃま、これにするか?」

「そうだな、サリナさんのお勧めでいってみよう」

「初依頼、初依頼っ♪」


 それじゃあ手続きをしますかね。初依頼ということもあり、今回はその手の処理に慣れている釣鬼とサリナさんによる手続きを横から見ていただけだったが、これも勉強という事で。


「では行ってらっしゃいませ、怪我などにご注意下さい。まずは身の安全を第一に、ですからね」

「有難う、それじゃあ行ってきます」


 こうして、初依頼を受ける事となった。まずやるべきは旅の準備だな。と、思っていたのだが。直後、釣鬼先生の発した言葉に本日最大の衝撃を受ける事となってしまう。


「じゃあ昨日頼んでおいた初心者用冒険者パック一式を受け取りに行ってから早速出かけるとするかぃ」


 ……え?


「あの、釣鬼先生。準備…は……?」

「何言ってんだ?昨日お前ぇ達がサリナ嬢ん家でじゃれ合ってた間に注文済ませといたぞ」

「……なんてこと」


 まさか俺達が醜い争いをしている間にそこまで事態が進んでいたなんてッ!?昨日の話し合いという名の不毛なやり取りに興じていた俺達に小一時間説教してやりたいぜ……。

 ま、まぁ得物はあるし冒険者セットとして売られている旅のお供の必需品も用意出来てるならすぐにでも出発出来るんだし、手間が省けて良かったと思おう……商店での発掘作業、ちょっと楽しみにしていたんだけどな。

 隣の扶祢も心なしか耳と尻尾を垂らし意気消沈の様子だった。何というか珍しくケモっぽさの方にグッときたな!


 ちなみに俺の得物は、慣れるまでのつなぎとして刃を落とした練習用の槍が用意されていた。森ではよく扶祢に薙刀を借りて模擬戦をしていたからリーチ的にはそれなりに馴染むし悪くないな。体術用に買った籠手も甲側が金属製、手の平側が帷子状態で、後は動き易いように肩当と胴体部分が分かれた皮鎧になっている。オープン型のヘルメットに近い兜も付けてはみたけれども、これは蒸れ易くて少しきついな……扶祢みたいに鉢金タイプの額当て程度にしておけばよかったかもしれない。


 扶祢はいつもの大薙刀に半袖の和服、そして下は袴っぽい着物の裾を少し捲り上げたスタイルだ。籠手と肩当は俺の物と同じで頭には兜の代わりに鉢金を付けてはいるが、他は特に防具らしき物は付けてはいなかった。動き易さ重視らしいね。そして足元は分厚いブーツという出で立ちだ。

 和服への拘りで厚底の草履のまま冒険に出るものとばかり思っていたが、押さえるところは押さえているらしい。


 釣鬼の場合は更に身軽で、西洋のガントレット風のトゲトゲしい籠手と鋼鉄製の(すね)当てを付け、後は胸当てを纏うのみだ。鍛え抜かれた肉体でガチンコする気満々だな。まぁあの蹴りの威力だと武器要らんレベルだしなぁ。

 ……ん?よく見ればガンベルトっぽい皮巻きにダガーが物凄い数刺さっていたか。数に限りはあるが投擲術で遠近両用も視野に入れているという事みたいだ、これなら魔法以外には隙無しだね!


「魔法と言えば扶祢さ、霊術なんてものがあったけどあれはどういうものなんだ?」

「うーん……固有技能に近いのかな?狐火とか。こっちの世界にあるかどうか分からないけど、多分同名の別スキルって考えた方が良いかも」

「あまり聞かねぇが、怪しげな教団の一派がそんなのを使うって話だなぁ」

「怪しげって……それ完璧呪いの類よね。私の、というかうちの一族の霊狐だと霊力を望む形に変える?感じかな。割と適当と言うか言うなれば固有結っか――もがが」


 話の途中で慌てて扶祢の口を塞ぎ、つい辺りを見回してしまう俺。周囲には不審気に俺を見ている釣鬼しか居なかったけど。

 ふぅ。いきなり版権に引っかかりそうな危険ワードが出てくるところだったぜ。油断大敵だな、この犬モドキ。


「大体あれそんな使い勝手良いモノじゃないだろ、今の説明だとかなり使い勝手良さそうに聞こえるんだけどな」

「うーん、そうね~。実際かなり使い勝手は良いと思うわよ。回復関係は生命力の微活性化位しか使えないから精々自然治癒力が若干上がる程度だけど、比較的イメージし易い自然現象の類なら再現するのもそんなに難しくないしねー」


 聞いてみた感じ、どうやら基本となる霊力を様々な状態に変質させて各種効果を発生させるような仕組みらしいね。扶祢本人は熱そうな感じだとか寒そうな気分だとかえらい曖昧な説明をしていたが。他人に説明をする時は分かり易く論理的かつ簡潔にね!

 そして最後に……いちお狐繋がりで某良妻狐の炎、氷、密の三種天法までは再現に成功したんだけどねー、と恐るべき言葉を発してくれたのだ。


「奥義・玉砕きは勘弁してくだしあ」

「あれ術じゃないでしょ……」

「またげぇむの話か」


 いつも通りの俺達のやり取りに呆れる釣鬼。いやいや釣鬼さん、こいつ話が本当ならかなりやばいモン使いかねませんぜ?


「その内羅刹な掌なんてのまで使い始めそうだな」

「使えるよ?」


 ………。


「――はい?」

「厳密には即死効果、って訳じゃないけどー。心臓撃ちハートブレイクショット的なねじり込む衝撃に呪力――良くない方向に変化させた霊力を乗せて打ち込めば、割とあっさり気絶してくれる動物が多かったわね。どっちかと言えば槍の方が得意だし、可哀想だからあまり使わないけどさ」


 どうも学生時代の扶祢はリアル厨二病を発揮して、野山を駆け巡りながら野生動物相手に色々と実験しまくっていたようだ。それ、明らかに動物虐待だと思うんだが、母親とかには何も注意されなかったのだろうか?


「というか扶祢って本当に学生してたんだな」

「失礼ね、これでも一応県内で有数な進学校は卒業してるんだから。基本常識位は持ち合わせてますー」


 そんな俺の感想にちょっとばかりふくれっ面でそっぽを向いてしまう扶祢。だから浮世離れした感じが皆無なんだな、こいつ。こうして妖狐の象徴たる各パーツを見せ付けていて尚、受ける印象は日本に居た頃の学友達と大して変わらないからなぁ。教育というものの重要性を改めて認識出来た気がするぜ。

 しっかし期待以上のオタ狐っぷりだよな。怪しげな術を別にすれば相変わらず耳と尻尾以外に狐要素が見られないのが玉に瑕であるが。


「でもねー、うちの母さんには『お前は術そのものを起動させるセンスには光るモノがあるけれど、生まれついての霊力の強さに任せて力の調整とコスパの改善が全然なってない』って言われちゃっててさ。この辺りは要練習よね」


 そう言いながら溜息を吐いてみせる扶祢。やはり七本も尻尾があるというのは普通に考えれば規格外のエンジンなんだな。そして未だそのエンジンが搭載された機体を乗りこなすには至っていない、という事か。


「確かによ、槍にしても若干荒削りで改善の余地はありそうだったしな。体捌きとして体術ももうちっと練り上げてみた方が槍も上達するんじゃねぇか?」

「やっぱりそうかなぁ」

「いや、一般人から見たら扶祢は十分達人の域ですからね?」


 釣鬼先生も迂闊にハードルを上げるような発言はしないで欲しいんだ。俺が追い付ける気がしなくなっちゃうから!


「でもさ、頼太も体捌きだけなら一般人からは相当逸脱してきてる気がするんだけどなー」

「だなぁ。お前ぇは体術B+ってなってたが、B+っつぅのは剣で言えばこの公国の騎士団に入れる程の腕前なんだからよ」

「まじで?すげーな修行の成果!」


 これはちょっと、いやかなり嬉しいかも。これからも精進するとしよう。






 そんなこんなで俺達は駄弁りながらのんびりと旅路を進む。そして小一時間も歩くと森が見えてきた。


「ここがトワの森か」

「デンスの森程じゃねぇが、生命溢れる良い気配を感じるな」


 そうだな。釣鬼の指摘する通り、この森としては小さな密集した木々の奥からは規模の割には濃密な生の香りというか……巧くは言えないけど濃い植物の気配を感じる。


「トワ――永遠(とわ)の森、なんちゃって」

「永遠に迷うとか不吉ってレベルじゃないんで変なフラグ立てないで下さい」

「永遠を感じさせる程の自然の神秘溢れる場所って意味かもよ?」

「そいつぁ洒落てて良いな」


 いきなり空恐ろしい事を言い始める扶祢に突っ込みを入れながら初依頼への緊張感を若干ほぐし、気持ちを新たにして森へと向き直る俺達。

 そんな気軽なノリで、いつもの調子で俺達は森へ入って行った。






 Scene:side ???


 いつもの森の見廻り中、ふっとこの子が中空を見上げる。


「――ピコ?ドシタノ?」


 スンスン……どうやら何かの気配を捉えたようだ。ピコはしきりに臭いを嗅いでいるね。


「マタ冒険者?性懲リモナクヤッテクルトハ。愚カナ人間共メ―――」


 ボクとピコは赤ん坊の頃からずっと一緒。昔は泣き虫だったボクをピコはいつも守ってくれた。

 ピコは走るのがとっても速いんだ。爪と牙は鋭くて、集落の周りの怖い魔物達を相手にしてもピコの同族達と違って勇敢に戦ってくれていた。

 ピコが怪我したら悲しいから、怪我をしないように補助する魔法も覚えたよ。風を起こしたり、土で魔物の足を引っかけたり。でも火と水は昔使ってピコがびっくりしちゃったことがあったから、今はあんまり使ってない。それでもピコはまだ怪我をする事があったから治癒魔法も覚えたんだ。

 ピコはボク達を守ってくれてるんだモン、ボクもピコを助けてあげなくちゃ!


 今は何をしてるかって?集落を出る年齢になったから兄弟とも言えるピコと一緒に旅に出たんだよ。

 あれから何年か色んな場所を移動したんだけど、この森は故郷に似てて結構居心地が良いのでちょっとばかりお休み中。仮住まいなんだから見廻り位はしないとね!


 でも最近、変な人間達が時々来るんだ。奴らは自分たちを「冒険者」って名乗ってるけど、ゴミは捨てるし木に立ちションはするし、いや肥料としては悪くないんだけどさ。

 全くマナーがなってないよね!だからそいつらに注意しようとしたら、連中ボク達を見るなり捕まえようとしてきてさ……聞いたことある、こういうの「どれいばいばい」って言うんでしょ?

 きっと悪い事に違いないからピコと二人で退治してあげたんだ。あ、可哀想だから殺したりはしてないよ?武器と防具を剥ぎ取って追い出してやっただけだしね!


 でもそれ以来あいつら、定期的にやって来るようになっちゃったんだ……人間達みんながみんなそうじゃないのかもしれないけど、やっぱりガラの悪い奴らが多かった。だから警告だけは発してから大体は追い出してやった。勝手に逃げる奴も居たけどね。


 今回もまた同じ連中なのかなぁ?どちらにしても一度見に行く必要がありそうだよね。


「行クヨ!ピコ」

「ウォウ!」


 そして今日もまた、ボク達は愚かな人間共にお仕置きをする為に出迎える―――

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