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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第七章 脳筋族と愉快な仲間達 編
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第143話 闘技大祭・幕間-クナイ-

 明日、悪魔さん第15話投稿しまス。

「おやま、あの子はそんな約束をしてたんでやんすかぃ。そらぁ悪ぃ事しちまいやしたねぇ。御免なすって」

「……あー。うん、正式な試合での一対一の勝負の結果アンタが勝ったんだから仕方が無い事なんだろうな」


 その後少しばかり遅めの昼食も終わったところで、俺達は屋上のラウンジに移動してから改めてその女サムライと話をする事となった。


 屋上までの道中ずっと無言なのも気まずいだろうという事で、道中この人を話題にしていた理由を本人に軽く説明したらあっさりとこんな返しをされてしまう。

 これには身内をやられた形となり身に纏う気配が若干剣呑なものになっていた烈震もすっかり毒気を抜かれてしまい、屋上に着いた頃には二人の雰囲気は随分と柔らかなものになっていた。


「そいでは先もちらと言いやしたが、あちきはクナイと名乗っておりんす。故あって本名は今は明かせませんけんど、嘘と秘密は女の華と申します。そこはご勘弁くだせぇよ」


 何故か悪戯っぽい顔を見せながらそう自己紹介をするクナイさん。言葉だけを見れば怪しい事この上無いんだが、人差し指を口に当て俺達にニンマリと笑いかけてくるその姿はどこかひょうきんで憎めない印象を受けてしまう。両目を覆う眼帯に阻まれて瞳を見る事は出来ないが――いや、だからこそとも言えるか。心の隙間にするりと入り込んで来るような、そんな表情だ。

 そうそう、この眼帯って近くで見てもやっぱり透けて見えるという訳でもないようだ。まさかこの人、眼が……?


「ところでクナイさん。その眼帯なんですが……」

「むん?あぁこいつぁ伊達と言いやすかねぇ、両の眼はきっちりと見えてるんでご心配無く。ちくと噂に聞いた『無明の心得』っちゅうモンに興味が湧きやしてね。こうして実践してるんでありんすよ」

「あ、そうだったんですか。いやぁちょっと聞き辛かったんですよねー」


 一瞬暗くなりかけた空気をまたもあっさりとカチ割ってくれるクナイさん……あれ?このパターン割と身近でよく見るような気が。


「……お前達と同類の臭いがするな、クナイって」


 烈震が小声でそんな事を言ってきた。

 灯台下暗しとはよく言ったものだ、そりゃ警戒感が薄れもするわな。

 何だか一気にこの人への親近感が湧いてしまい、ついつい俺達の口も軽くなってしまうというものだ――うん、こういう言い方をしたという事はつまりそれに類する出来事が起きてしまったという話でありまして。


「そういえばシェリーさんがそのスキルを持ってるような話してたよね?目が見えるようになってからも動きが全然変わってなかったし、目が潰れてた時も脳内イメージとして全部把握してたって話だけど」

「何ですっと!?そりゃあ本当ですかぃや?その方は今何処に居られるので!?」

「うぁあぁうあぅあぅぁ……!?」


 いきなり目の色を変えて――実際に眼帯で覆っている右目の部分が蒼く光ってんだけど!?


 ……失礼、あまりの動揺で説明が途中で止まってしまった。クナイさんは物理的に目の色を変えながら、迂闊な発言をしてしまった扶祢の服の襟元を掴みがっくんがっくんと揺さぶ……って力強っ!?

 哀れまだ病み上がりな扶祢は内臓が良い感じにシェイクされてしまって、顔を真っ青にしながらこみ上げてくるモノを必死に抑え込んでいた。一回戦目で着物が破けて警備員用の制服に着替えてたから良かったけど、これ着物のままやられてたら色々と大変なことになってたな。(*1)


「ちょっとその人は今、遥か遠くの異郷に居るんで会いに行くのは難しいっすねぇ」

「何と……ここにきて遂に無明の秘奧を解き明かせると思いあちき内心感動しておりやしたのに。オヨヨ」


 うーん。ちょっと良心が痛むけど、ついさっき会ったばかりの素性の知れぬ相手にいきなり他の世界を紹介するのもなぁ。泣き崩れる素振りを見せるクナイさんには悪いが、ここはこの言い訳で通させて貰うとしよう……だって、どうみても素振りだけで泣いてないんですもの。


「ところでクナイさん。さっきその右目が青く光ってたんだけど、それどういう仕組みなんだ?」

「――おっと」


 おや。今、一瞬間が空いたな。聞いちゃまずかったかな?さっきの眼帯の話があんな返しだったから似たような返しが来るとばかり思っていたが、どうやら不意を衝いてしまったらしい。


「……ふふふ。こいつぁあちきの切り札でさぁ、そう簡単に教える訳にゃあ参りやせんなぁ?」

「てかそれって鬼気だよネ?」

「――なんっ!?」

「あぁ言われてみれば爺さんの気にそっくりだな。と言う事はアンタ、鬼の系譜ということか」


 そう言われてみれば成程。この若干ヒリつく感じは昂った時のシズカや轟鬼の爺さんが発するそれと似通っているな。ピノの指摘そして続く烈震の言葉に大いに納得する俺達の目の前で完全に硬直してしまうクナイさんではあったが、少しの後に再起動を果たし無念そうに眼帯を外し始める。


「まさかこんな短い時間であっさり正体までばれるとは思いやせんでした……お見事でありんすね」


 そういって完全に眼帯を外し素顔を露わにするクナイさん。

 うん、眼帯をしている時からそうじゃないかとは思ってたけど、控えめな和風美人……美人と言うよりは可愛いと言う印象の方が強いか。目付きも落ち着いた感じだが髪の色も左の瞳も黒い中唯一右の瞳だけが蒼く、所謂オッドアイと呼ばれる左右異なる瞳虹彩(*2)となっていた。

 今は気分が落ち着いたのか発光こそしていなかったが、こうして相対してみると確かに目立つものだ。


「いやですわぁ、そんな情熱的にあちきを見つめてくるなんて。あちき、照れてしまいますん」


 ついその青い眼をまじまじと観察していたら、頬に両手を当てながらいやんいやんとくねった仕草をし始めるクナイさん……うん。この人もどうやら、黙ってさえいればの典型な人のようだ。ほんっと親近感湧くよな!


 それはさておくとして、クナイさんが鬼の流れを汲む者と知った烈震は完全に警戒を解いたようだ。烈震はクナイさんのスタイルがサムライ風だったから皇国のスパイの可能性を懸念していたようだが、あの国が鬼の系譜を手元に置く筈がないらしいからな。

 クナイさん自身も出身こそ皇国であるそうだが、剣技自体は見様見真似の我流を戦場で鍛え上げたものらしいし別に皇国に所属しているという訳では無いらしい。


「そもそもがあの国ではあちきのような外法者がサムライを名乗る事なんぞ認めちゃおりやせんからなぁ。ましてやそれが鬼の血を引く者となれば暗殺者(アサシン)を送り込まれても不思議じゃあらんせん。なのでこちらから見切りをつけてとっとと逐電したんでやんす」


 この人も外法者、つまり人族以外との混血児だったのか。うーん、それにしてもナタ君やハクさんとは大違いと言うか随分とあっけらかんとしてんね。外見的にはかなり若く見えるけど、鬼という種族は爺さんの例もある。外見じゃ年齢の判別が付かないからなぁ。


「いけませぬなぁ頼太どん。おなごの齢を詮索しようなんぞ、人誅が下りますぞな?」

「怖っ!という事はクナイさん、結構年齢いってるんすね」

「私は別に齢聞かれても気にしないかなぁ」

「やってしまいやした!?あと何気に頼太どんの口調が目上の人扱いに変わっててあちきしょーっく!」

「面白いネ、クナイってサ」


 だな。表情がころころ変わって見てて飽きない人だ。今もピノの素直な感想に更なるショックを受けちゃって悶えていたりしたが。


 ・

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 ・

 ・

 ・


「三十分後より、準決勝第二試合を開始しますっ☆選手の方は準備の方をよろしくお願いいたしまーす!」


 それから暫くの間クナイさんを交えて他愛もない会話をしていたら試合場の方向からハクさん率いる元シノビ組の警備員達の叫び声が聞こえてきた。


「――お、そいじゃあそろそろあちきの出番のようですし行ってまいりやすね。次のお相手は皆さんのお仲間との事なんであちきを応援してくれとまでは言えやせんが、まぁちょっと位はして貰えると嬉しいですなぁ」

「するするっ。どうせ釣鬼は応援関係無しに立ち合い出来れば満足するタイプだし、クナイさんも頑張ってね!」

「頑張レー」


 ほいでは、と俺達に挨拶を交わし選手控室へと向かうクナイさん。心情的にはどっちも応援したいところだけどな、どうせお祭りだし。


「じゃあ俺達もそろそろ特等席に向かうとするか」

「オー!」


 俺達は警備員特権、烈震は参加選手という事で通常の観客席よりも試合場に近い目の前で見る事が出来る。無論、烈震を除く三人は警備としての監視のお仕事もしながらの観戦となるがね。それでも間近で見れる臨場感というのはやはり格別だ。


 さぁて、次の釣鬼対クナイはどんな試合になる事やら。楽しみだな。











 釣鬼に用意された出場選手用の控室にて―――


「――双果か」

「……兄貴、ごめん」


 敗戦の衝撃から漸く立ち直った双果が控室に入ってきたが、釣鬼の顔を見るなりそう言ってうなだれてしまう。


「時の運、ってモンもあらあな。ありゃお前ぇには相性が悪すぎただけだ。約束の事は気にすんなぃ」

「うん……」


 釣鬼に慰められ力無く頷く双果のその表情からは申し訳なさが滲み出てはいたものの、不思議と悔やみといったものは感じることはなかった。恐らく試合ではその時自身の使える引き出しを目一杯に開けて力を振り絞り、やれる事はやり尽くした結果だからであろう。反省するべき部分はあれど後悔は無い、ただ自身から言い出した約束を守れなかった事だけが心残りだ、と。


「にしてもあの女……クナイ、だったか。あの動き、間違いなく見覚えがある気がするんだがよ」

「あ、やっぱ兄貴もそう思う?アタイもやり合ってる最中にどうにも既視感(デジャヴ)がちらついちゃってさぁ」

「だよな。つぅと郷の関連の人間か?」


 これが釣鬼だけの感覚であれば心当たりを探すのには苦労をしたことだろう。釣鬼も昔は傭兵として多くの戦場を渡り歩いたものだから。だが、双果もまた同じく見覚えがあるという。ならばあるいは二人に共通する近しい者の影が見えてくるのかもしれない。

 準決勝開始まで三十分を切ってしまったが、釣鬼は既に双果が敗れてからの二時間を瞑想(イメージトレーニング)やシャドーによる型の反復に費やしている。気が散った状態でこれ以上ウォーミングアップを行うよりも、今は二人で気掛かりを突き止める方が精神的にも良いだろうとあれこれを考え始めるが……。


「……そういや、あの女。あんな華奢な形姿(なり)で膂力が半端無かったっすね。あの馬鹿力さえなけりゃあ何度かは刀を奪えるチャンスもあったんすけど」

「剛力、か。あんな眼帯を付けたままで大した不自由も無く動けることといい、ますます分かんねぇな」

「うーん、そっすねぇ……」


 貴賓種へと進化し若干膂力は落ち込んだものの、それでもオーガとしての平均水準以上は維持している双果をしてそう言わせる程の剛力の持ち主。更に二人とも接点があるであろうその印象。ここまで条件が出揃えば何らかの結論も出ようとは思えるのだが、最後の一ピースが何故か填まってくれないジレンマ。

 そのまま暫く唸り声を上げながら考え込む釣鬼と双果。しかし哀しい哉、どちらも脳筋族。戦いに関する発想やセンスこそ磨き抜かれてはいるが、ことこういった謎を解き明かすには少しばかり肉体派過ぎたのだった。


「まぁ考えても仕方がねぇか。解決する事ならその内解決するだろうし、今はお前ぇの仇を討ってやらなきゃだな」

「へへ、お願いするよ兄貴。アタイの分まで勝ち進んで、烈震と戦ってやってよ」

「そうだな、今のあいつとやり合うのは本当に楽しみだぜ」


 烈震との仕合に想いを馳せ楽しそうに笑う釣鬼に、双果は困った様な笑みを浮かべながら内なる想いを押し殺し発破をかける。


「――よぉしっ!それじゃあアタイは今から兄貴のセコンドだっ、まずはアタイをボコってくれたあの着物女をさっくりやっちまって、それから烈震にも勝って兄貴が優勝だ!!」

「おいおい、気が早ぇな」


 そんな双果の意気込みに思わず苦笑が漏れ出てしまう釣鬼。

 ともあれ、先程迄とは違い精神的にも充実し試合への準備は全て完了した。それでは対戦相手が待つであろう試合会場へと向かうこととしよう――― 

*1:着崩れを起こして弾力のあるモノが弾け飛んだり、腸(の内容物)をぶちまけろッ!!!な状態になったり。


*2:バイアイ、ヘテロクロミアなどとも言われるアレですね。

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