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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第六章 理想郷再び 編
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第118話 新たな依頼

 明日、悪魔さん第11話投稿しまス。

 さて、本日より俺達の担当がカタリナへと引き継がれ、これよりその栄えある第一回目の依頼受注となる訳だ。


「それではっ!早速依頼の選別に参りたいと思いますっ!」

「随分と気合い入ってんなぁ」

「それはもう!皆さんのお世話をするのはサカミ村の一件以来ですしっ」

「サカミ村、か」


 カタリナの言う聞き慣れた名前の慣れない呼び方に、俺達は揃って感慨深い顔を見せてしまう。今の俺達にとってサカミと言えば三つの世界(トリス・ムンドゥス)の独立都市であり、あの憎めない連中が暮らす賑やかな場所だ……そうか、この世界にはあの「サカミ」は無いんだったな。


「――今度近くに寄った時にでもまた、サカミの村にも挨拶しにいってみようか?」

「うん、そうだな」

「皆さん、そんなにあの村が気に入っちゃったんですか?」

「ウーン、サカミ違いだけどネ」

「?」

「何でもねぇさ、依頼の紹介を頼まぁ」


 その後カタリナの持ってきた大量の依頼書の中から、手分けして適当な物を見繕う作業を始める。あぁ、この延々と続く地味な選別作業も懐かしい……こちらは懐かしいだけで全く以て感慨深くはなれないけどな!

 当然と言えば当然だが、そんなやる気の無いだらけた作業を続けていても能率などは上がる筈もなく、そのまま一時間程が経過する。皆して辟易とした表情を顔に張り付けてしまい、ピノなどは既に飽きて別の席でギルド会報などを読んでいる始末。

 もしかして俺達って、依頼受注の面ではあまりこういったお仕事に向いてないのかもしらん、なんて思う今日この頃でありました。


「……本気で碌な依頼が残ってねぇ」

「例年この時期って、夏の依頼ラッシュの反動で新規依頼数も冷え込むんですよねぇ。だから余計に朝一の依頼漁りが殺到しちゃって、依頼種別に関わらず無節操に多重受注しては失敗する方も多くって困ってるんですよー」

「アァ~、だからあんな張り紙が増えてたのネ」


 そんなカタリナの説明に、やっと興味のある話が聞けたとばかりに隣のテーブルからピノが戻ってくる。その際に若干の呆れの色を見せながら指し示したその場所には、以下のような文面が貼られていた。


『九月~十一月の依頼同時受注は、一パーティ二件まで』


 それを見て一瞬バーゲンセールの購入数制限を連想してしまったのは、きっと俺だけではないだろう。いつもの事ではあるのだが、ファンタジー世界に来てまでこんな世知辛い現実を味わうとは。

 よく『事実は小説よりも奇なり』などとは言うものの、つくづくこの現実は幻想などでは味わえない圧倒的な存在感を見せ付けてくれるものだと思う。


「どっちにしろ俺っちの場合、ある程度難度の高い依頼をこなさなきゃいけねぇらしいからな。残り物を漁るだけじゃあそんな都合の良い物は見つからねぇか」

「あ、それじゃあ問題だらけのトラブル案件を試してみます?」


 結局適正な依頼が見つからず中弛みな空気になりかけていたその時、カタリナがそんな事を言ってきた。何だその、胡散臭そうでかつそそっちゃう響きは。


「トラブル案件って……ちょっとワクワクしちゃうんだけど、例えばどんなのがあるの?」


 どうやら扶祢も同じ心境に至ってしまったらしい、目に見えてそわそわとしながらその言葉に喰いつき、カタリナへと纏わり付き始めた。一方のカタリナはそれを嫌がる風も無く、カウンターの側から真っ赤なトラブル案件用の箱を取り出しその中の書類を漁り始める。


「えっとですねぇ。例えば没落した地方貴族の別荘に夜な夜な現れる――」

「次!そういうのは要りませんっ!」

「あぁそういや扶祢って……」

「オバケとか苦手だったネ」

「いいから次っ!」


 そんな扶祢の有様に俺達一同、苦笑いを浮かべてしまう。こいつは実の姉相手ですら幽霊というだけで、慄いて失神してしまったという過去の汚点がある程の幽霊恐怖症だ。語り始めの時点でこれでは、亡霊(スペクター)の類の依頼は全般無理そうだな。

 その後も色々と漁ってはみたものの、暗殺者(アサシン)組織からの脱走者の捕獲だの、借金を返せず雲隠れした美人局を探し出して連れ戻せだのとどう考えても依頼するべき組織を間違っているだろう、と言わんばかりの無茶振り依頼がてんこ盛り。これにはネバーギブアップ精神を心掛けている俺も、流石に心が折れかけてしまう。


「……トラブル案件多すぎだろ」

「これで五十件目……」

「モウこの腐竜(ドラゴンゾンビ)退治でもいっちゃえバ?素材は全部依頼者に上納って書かれてるケド」

腐竜(ドラゴンゾンビ)、っていくの文字が逝くになりそうだなオイ」


 ここでも真っ先に依頼選別に飽きてしまったピノが投げやりにそんな事を言い始めた。トラブル案件の数々に精神的に打ちのめされ、今回はもうギルドポイントだけでも良いかなという雰囲気になったのは事実だが、流石に死体とはいえ竜種(ドラゴン)はまだ無理じゃねぇかなぁ。

 交戦前に砲台を量産しておいてピノの『電磁加速砲(マグネティックランチャー)』を連射すればいけるんじゃないかとの意見も出てはきたものの、カタリナ曰くこの依頼書の腐竜(ドラゴンゾンビ)は、ただでさえ硬くてタフな地竜(アースドラゴン)がアンデッド化したことにより限界まで耐久力が上がっているそうで、物理攻撃は殆ど通らないのだとか。


「……満月の晩のゴウザが巨大化したみてぇなものか」

「無理ダネ」

「うん、無理だと思う」

「俺達、火力がとことん物理に寄っちゃってるからな」


 それにあの魔法、所詮は即席で造る砲台よりの射出が必須となる関係上一発撃てば終わりの使い捨てとなり、事前に準備しておいた物で斃せないと後が無くなってしまうという重大な欠陥があるからな。どの道そう軽々しく使えるものでもないか。

 一応ピノと扶祢が頑張れば、神秘力系の攻撃手段でもそこそこの火力は出そうではある。しかし扶祢の霊術は放出タイプだとすぐ息切れしてしまうという欠点があり、力学魔法の使えないピノはどうしても単純な出力の面で魔導系魔法には一歩譲ってしまう。とはいえそれでも上級精霊魔法の数々は強力ではあるのだがね。


「メンドイ。普通の精霊魔法だけで同じ効果を出そうとすると力学魔法の三倍は疲れるシ」


 結局のところ、ピノのこの一言で腐竜退治の依頼もパスする事となった。どうせこの依頼、倒しても竜骸全て依頼者の総取りなんていう有り得ない内容だものな。だからこそ斃せば竜殺しの栄誉があるにも関わらず、受注も皆無でトラブル案件として処理されていたのだろう。


 余談ではあるが。負の方向性を持つミチルの瘴気攻撃の場合で正の生命を持つ生物には特効となるものの、逆に今回の腐竜(ドラゴンゾンビ)のような負の生命の体現であるアンデッド相手には相性が悪いらしい。つまり俺が行っても応援位しかやる事がないっていうね。

 どちらにせよ緊急案件という訳でもないし、今回は見送りかな。


「困りましたね~。うーん、皆さんが得意そうなものっていうと……あ、これなんかどうでしょう?B+相当の危険な依頼になっちゃうんですけど、皆さんだったら多分ギルマスも許可出してくれると思いますしっ」

「何だそれ?」


 そう言いながらカタリナが上級依頼の箱を漁り、一つの依頼書を取り出してきた。B+の依頼って、最低一人はパーティ内にB級以上が居なきゃ受諾出来ないんじゃなかったっけ?


「ふっふっふー。何を隠そうこの依頼は――」

「あれ?この依頼者の名前って……」

岩軍鶏(いわしゃも)のリーダー『闘牛鶏(ブルコック)』――あの一撃必殺鶏か!」

「懐かしいなオイ。俺っちにもちっと見せてくれよ」

「報酬は魔煌石ダッテ!魔素の含有度九割以上の稀少鉱石(レアモノ)だよコレ!あそこってそんなのも産出されるんだネェ」

「……紹介位はさせてくださいよぅ」


 説明も半ばなままに依頼書を見ながら騒ぎ出す俺等の背後では、カタリナがすっかり不貞腐れてしまっていた。悪り悪り、ちょっと懐かしすぎる名前があったからつい、ね。

 それにしてもあの連中、ついに冒険者ギルドに依頼までするようになったのか……それを受けるギルドもギルドだが、もうこの世界の常識というか魔物の定義がよく分からなくなってしまうね。

 では、依頼書の詳細を確認するとしよう。



 ・依頼書:不審者の捕獲


 依頼者:岩軍鶏"闘牛鶏(ブルコック)"

 難度:B+

 地域:サザミ銀山址

 依頼期限:無し

 報酬:魔煌石一個。成果により追加の魔鉱石等も応相談。


 依頼者コメント:近頃不審な人間達が我等の巣の付近をうろついておる。まだ重大な被害こそ無いが、この夏に生まれた雛鳥達が攫われかけた事もある。不届き者共を屠るのは容易いが、人間達の街そして冒険者ギルドと友好関係を結んだ以上勝手な真似をするのもどうかと考え、正式な依頼として貴公等への要請を出す事にした。可能な限り早急な解決を求む。



「……ギルドと友好関係、っていつの間に」

「以前アデルさん達が皆さんの報告に基づいての調査に行った時ですねっ。どうせだからとアデルさんがそんな提案をして、岩軍鶏さん達をヘイホーまで連れて来て調印したんですよ!あの時はもう街中大騒ぎでしたねぇ」

「あぁ、そういえば向こうで旅してた時にそんな事も言ってたな。あの時アデルさん、大怪我負ったんだって?」

「ですね!あのアデルさんが大怪我するって、ちょっとどういう状況か想像が付かないんですけどっ」


 そう興奮気味に語るカタリナの言葉に俺達も揃って頷いてしまう。アデルさんの肉体強度というか、強靭な生命力はちょっと人の域ではないからなぁ。更にはあの全身に纏う白銀鎧の防御性能も相まって、浮沈艦といった言葉が似合いそうな程のガチガチの前衛だからな。サリナさん情報では学生時代、あのたおやかな見た目に騙されて何人もの騎士候補生がトラウマを植え付けられたという話であるし、見た目詐欺の筆頭であろう。

 しかし今は『闘牛鶏(ブルコック)』を名乗る岩軍鶏のリーダーも見た目詐欺という意味では負けてはいない。あの鋼翼の一撃は闘気を纏った釣鬼の渾身の蹴りすら突き抜け、廃坑の地面に巨大なクレーターを作ってしまった程だ。それを鑑みればアデルさんが大怪我を負ったという話も有り得なくはないか。


「ところで皆さん、あまり驚かれませんね?この依頼文、翻訳とかじゃなくって岩軍鶏のリーダーさん自身が書いた文字なんですけどぉ」

「あ~。まぁ、ねぇ?」


 どこか不満気にそう問いかけてくるカタリナに、俺達はといえばこの扶祢の言葉を始めとして皆、似た反応を返してしまう。

 俺達と初めて出会った時点で既に相当人間臭かったものな、連中。今ではどれだけの鶏が筋トレをしまくっているのだろうか。少しばかりそのカオスっぷりを想像し、和んでしまう。


「だけどよ。この依頼詳細だと石蜥蜴鶏(バジリコック)にゃ荷が重いが、岩軍鶏(いわしゃも)になった連中なら後れを取る程でもねぇ相手なんだろ?トラブル案件に回されてる理由ってな、何故なんだぃ?」

「それなんですけどー。普通の冒険者の方々が岩軍鶏さんクラスの魔物相手に平静を保って友好的な態度を取れるかいうとですねー……」

「あぁ納得」


 若干言い辛そうにしながらもこの依頼の現状を伝えてくるカタリナの台詞に、皆納得しながらもどことなく緩んだ空気になってしまった。何の縁故もない、しかも危険度が高ランクに指定された魔物が依頼者などと言われても、常識的に考えればリスクが有り過ぎて尻込みしてしまうよな。


「そういえば岩軍鶏って危険度Aに近かったんだッケ?」

「岩軍鶏さん達はA-、闘牛鶏(ブルコック)さんはA+指定、となってますね!アデルさんの意見を参考にしているのでほぼ間違いは無いかと!」


 A-ってことはあの連中、タイマンで森巨人(フォレストジャイアント)すら相手取れる扱いをされているのか……凄いな。岩軍鶏(いわしゃも)の元の種族となる石蜥蜴鶏(バジリコック)の危険度はBと設定されていたから、そう考えれば連中の強化っぷりが理解出来るというものだ。

 そして群れのリーダーである闘牛鶏(ブルコック)は堂々のA+、大空の覇者とも言われる鷲獅子(グリュプス)をも超える危険度だ。本来こんな脅威が街から歩いて数時間の場所に居るのは大問題なのだが、そこについては先程説明された事情により一応は収まっているということなのだろう。

 それに俺達の場合、あの岩軍鶏連中と直接の面識もあるし、何よりアデルさん経由で釣鬼と闘牛鶏(ブルコック)の仕合の話も知られているみたいだからな。カタリナもそんな俺達であれば、現在のランクよりも難度の高い仕事でもギルマスからも許可が下りるだろうと考えたのだろう。


「そんじゃ、その依頼を受けるとするかぃ。皆、それで良いか?」

「「OK!」」

「はぁ~良かったぁ。この依頼が来てからもう十日間、誰も受けてくれないから岩軍鶏さん達の気分を悪くしたらどうしようかと気が気じゃ無かったんですよ。皆さんでしたらいざという時の危険も少ないでしょうし、これで安心ですねっ!」


 俺達の返事を受け、カタリナは心底安心した様子でほっと息を吐いていた。そりゃ確かになぁ。アデルさんの独断から始まったやり取りとはいえ、こちらから友好関係を結ぼうと言っておいて実際の救援依頼は受けられません、ではギルドの信用問題になってしまうものな。それに俺達もギルドポイント的に渡りに船というものであったし、上手い事互いの都合があって良かったな。


 こうして俺達は再びサザミ銀鉱址へ向かう為、旅支度を終え早速ヘイホーを出発した。

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