第115話 水晶鑑定①
「はぁ~、帰って来ていきなりの出費かぁ……」
「うぅ、ごめんなさい」
「あぁいや、扶祢が気にする必要は無いよ。カタリナの言葉ではないけれど、わたしが振った話から大事になってしまったのだからね」
小演習場での小さな宴会芸より大惨事へと発展してしまった夜が明けて翌日のこと。何やら名指しの依頼が入っているらしきアデルさんと朝の爽やかな秋空の下、共に宿屋を出てギルドまでの道程をのんびりと歩いていく。
専らの話題は損害賠償額について。ファンタジー世界に来てまで悲しい現実に直面させられるなどと当時は夢にも思っていなかったものだが、これが現在を生きるという事なんだろう。夢ばかり見ていたところで、現実的に先立つ物が無ければ日々の暮らしすらままならないからな。
開始早々お金の話になってやや心苦しくはあるが、別に今の俺達はそこまで金に困っているという訳ではない。なんたってサカミ攻防戦も含めた一連の事件の間の雇用報酬として、ジャミラからたっぷりと貰ってきているからなっ、ふはは!
さて、報酬関連の話題と言えば記憶に新しいのはサカミの街の設備破損による損害賠償、そして損害賠償と言えば我等がアデルさんだ。三つの世界での報酬はサカミ攻防戦でのこの人が大暴れしたお陰で街への被害が極めて警備だったのもあり、それを評価された結果アデルさんにも報酬が満額支払われたのだった。
これは後でシェリーさん達に聞いた話ではあるが、あの時サリナさんの鎮魂魔法でも浄化しきれなかった残りの合成獣ゾンビの飛行部隊五十程を、アデルさんがほぼ一人で撃墜したらしいんだな。地上に関しては八割方がゴウザに掃除されたそうだけれども……あのオッサン、空飛べないもんな。きっと適材適所というやつなのだろう。
という訳で鎮魂魔法による浄化分を除けば復活した合成獣の撃滅数としてはアデルさんがダントツトップ。それでジャミラが大盤振る舞いをしてくれたのだそうだ。だから昨夜の弁償位で今のアデルさんの懐がどうにかなる訳もないのだが、それはそれとしてやはりうっかりで弁償するのは出来るだけ避けたいものだよな。なのでこうして昨夜の失敗を振り返り、高い勉強代だったと改めて心に刻んだ俺達であった。
「そういえば、アデルさんの指名依頼ってどんなのなんです?」
「サリナが明日から新たなサブマス候補として、公都クムヌへ行く事は前にも話しただろう?一応幹部候補生という扱いになるからと、公都のギルド本部への道中の護衛をギルドの側から依頼されてね」
「サリナに護衛、って必要ナノ?」
「う~ん、それを言われると……」
きっとこの場の皆が思っていたであろう事だが、つい言葉に出してしまったピノに流石のアデルさんも答える術を持たず、場には微妙な沈黙が降りてしまう。むしろ二人の通り過ぎた後には、ついでで退治されまくった害獣や盗賊山賊の類の屍が積み重なっていくだけな気もするのだが。
「ま、依頼は依頼さ。流石に元Aランク冒険者だったサリナの護衛を格下の現役に任せるのは、ギルドとしての面子的な問題があるだろうからね」
「そっか、そういう立場的なお話もあったのね」
「面倒臭ぇ話だな」
「冒険者ギルドだって互助組織だからね。組織としての面子があるのは仕方の無い事さ」
俺達の素直な感想に肩を竦め、アデルさんはいつもながらのにこやかな笑顔で返してくる。ランクAともなると格式ばった儀礼や面倒な制約などにも縛られるみたいで大変なんだな。時空ポケットは欲しいものの、そう考えると一概に利点ばかりという訳でもないのだろうか。
そんなこんなで駄弁っている内にヘイホー支部へと到着し、一先ずはギルドカウンターへと足を運ぶ。
「お早うございます。皆さんもお揃いですわね」
早速受付の席に座り何やら作業をしていたサリナさんが声をかけてくる。出立の日にまで忙しそうにしているな。
「お早うございまーす」
「はよーッス」
「よっサリナ嬢。今日は二日酔いじゃねぇんだな?」
「うふふ、流石に予定がある前日は弁えますわ」
それもそうか。どうやら昨日の影響もなくサリナさんも準備万端といったところだな。
「ところで、いつ頃発つですかね?俺達今日は特に予定も無いんで見送りしますよ」
「あらま、それは嬉しいですわね。ですが、その前に皆さんにお話がありまして」
「お話、ですか?」
「ええ。ギルドマスター、どうぞ」
「それでは説明させてもらおうか」
俺達の問いにタイミング良くヘンフリーさん参上。俺達何かギルマスに呼ばれるような事してたっけ?……いや、昨夜の事は置いといてだな。
「うん、実はね――」
ここからは少々細かいギルド規則だのランクについての云々といった、詳細の入り混じった長い話となっていたので要点だけを掻い摘むとしよう。
以前にサカミ村の依頼を完遂してから昨日の迷い猫の飼い主への返還までの二月もの間、冒険者ギルド員としての正規のお仕事をしていなかったので俺達もすっかり忘れかけていたのだが、冒険者ギルドにはギルドランクというものが存在する。
サカミ村の一件を重大事項として評価された事で確約された、段階的な二ランクアップ。それにより釣鬼を除く三人は日本へ夏休みを満喫しに行ったり三界の動乱に巻き込まれたりと、寄り道をしている間に既にF→Dランクまで上がっていたらしい。
本来であればDランク以上となった場合、理由も無しに一定期間依頼をこなさないとポイントが失効して最悪ランクダウンも有り得るそうだが、俺達は夏前に申請していた長期休暇届けがまだ生きていたらしい。表向きDランクへ昇級したのが先月扱いでもあり、先日のミアの送迎依頼のお陰でぎりぎりその辺りは問題無いのだとか。
しかし、唯一他の面子よりもランクの高い釣鬼に関してはその限りではなかった。
「つまり俺っちは今現在Cランクで。一週間以内に何か大きな仕事をしねぇと、Bへの昇級試験どころかランク落ちすら有り得るっつぅ訳か?」
「そうなってしまうんだよ。サリナ君とアデル君の話を聞いたところでは彼方でも相当な大冒険をしていたそうではあるけれども、なにぶん公に出来るようなものではないからね。それについては残念ながら評価外という事になってしまうんだ」
「ですので最低Cランク相当の依頼、出来れば昇級試験へのステップアップを兼ねてBランク相当の依頼を一週間以内にこなして頂きたいのです」
という事らしい。一週間以内にとはまた急な話だが、長期に亘り留守をしていたこちらの都合もあるからな。ぎりぎり間に合っただけでも御の字というものだろう。一週間以内にCランク以上の適正な依頼を、か。
「釣鬼達は幸い人数も揃っているし、最低限の役割分担もこなせるパーティだからね。依頼を選びさえしなければCランクを一週間以内は可能な要求だとは思うよ」
「ですがそれはあくまで一個人としての私達の意見ですし、まずは依頼の選別からとはなりますわね」
「という事でだね。サリナ君がヘイホー支部を発つ前に一度、最新版の水晶鑑定を再度して貰って、それを基に適正な依頼を探して貰おうと思ったのだよ」
「特に皆さんの鑑定結果の場合、一部カタリナには見せられない部分も有りますし、ね?」
「ア~、そうだよネ」
あぁ、確かに扶祢のアレはとても人に見せられるものではないものな。それに釣鬼だって、割と暗殺系の技能満載で見ようによっては暗殺者とも思われかねない。だから今の内にサリナさんによる監督の下にさっさと鑑定をしてしまおうという事らしい。
「ピノちゃん。そうやって頷きながら私の方を見られると、カタリナにばればれなんだけど……」
「そこはご心配なく!お母さまがギルドの仕事に関してこれは知らせるべきではないと判断している以上、私も面倒臭い事に首を突っ込む気はありません!仕事以外で言ってる時は怪しいものですけどっ」
「……カタリナ?」
「ひゃいっ!?そっそそそ、そんな訳で私は表向きの情報しか見ませんし、何か聞く事もありませんから安心ですよっ!」
「あぁ、うん。ご愁傷さん」
「頼太さん、何その言い方酷くないっ!?」
取りあえずカタリナはそういった立場を貫くそうだ。本当、気を使って貰っちゃって悪いね。
「それでは、早速別室で再鑑定と参りましょうか」
「あぁ、僕も遠慮しておくとするよ。どうやらあまり、他人が立ち入って良い話ではないらしいからね」
「申し訳ありませんギルドマスター。ここ数か月皆さんを見てきた私としては、害になる様な事は無いと言い切れるのですが……」
「良いさ良いさ。僕も若い頃、担当をしていた冒険者がある事件を切っ掛けに元暗殺者だったと判明した事があってね。ギルドの方針には反していたが、その時はつい隠してしまってさ。だが結果そのお陰で僕も当時は命拾い出来たし、その人もきっと幸せになれたのだと思う。だからきっと、君達が僕に言えない事も何かやむを得ない事情があるのだろうし、突っ込んで聞くつもりはないよ。表向きはそんな事を言える立場ではないのであくまでここだけの話、だがね」
済まなそうな顔をしながらも俺達のフォローに入ってくれるサリナさんへとそう言って、ヘンフリーさんは執務室へと戻っていった。あの人って神経質そうな見た目のせいで随分と損をしているけれど、以前にカタリナに見せた優しさといいサリナさん達が三界へ出かける時に受付嬢達の不満を収めた事といい随分と出来た人だと思う。今もこの賑わい煩雑としたヘイホー支部を問題無く操業し続けている位だから、きっとその肩書に見合う程に優秀な人なんだな。
「ちなみに、だけれどね。ギルマスの言っていた元暗殺者って、その後どうなったか知りたくはないかい?」」
「あ、聞きたいです!」
「どうなったノ?」
去っていったヘンフリーさんを見送った余韻に浸っていると、ふと横合いからアデルさんがそんな言葉を投げかけてくる。そういえば言ってたな、あの物言いからすれば本職の暗殺者という事なのだろうが。
早速それに喰いついた扶祢とピノへとにんまりとした顔を向け、アデルさんは若干空気を溜めた後に続きを話す。
「今では何処かの隆興都市でギルドマスターの奥さんとして、子供三人に囲まれて専業主婦生活を満喫しているらしいよ」
「「ぶっ」」
「ハハッ。そりゃあ、目出度ぇことだな」
なんだ、あの人真面目そうに見えてやる事はしっかりやってたんだな。こりゃ一本取られたぜ。
「それでは、再鑑定と参りましょうか」
別室に入り待つこと暫し、一度退室したサリナさんがお馴染みの水晶板を人数分持って入ってきた。では早速、鑑定へと入る事にしようか。
「それじゃあ、まずは私からいこうかな」
「ふむふむ。扶祢は確か妖狐とかいう種族だったんだっけ?」
「……あの。どうしてアデルさんまで居るんです?」
「ごめんなさいね、こいつったらこういうのが大好きでして。勿論、扶祢さんがどうしても見せたくないようでしたら今直ぐ部屋から叩き出しますけれど」
そういえばこの人、三つの世界に滞在していた時も他人の過去話を根掘り葉掘り聞こうとしてたっけな。まぁAランクまで成り上がり名声だって相当あるにも関わらず、未だ危険が付きまとう現役冒険者を好んでやっている位だ。基本的に好奇心旺盛なんだろうな。
「ん~。アデルさんだったら、もう良いかな?」
「どうするかはお前ぇ本人が決めることさ、好きにすりゃ良い」
「三界や日本にまで一緒に行った仲だもんな。他の人に言ったりしなきゃいいとは思うけどな」
「ンデ、どんどん伝言ゲーム風に噂が広まっていくト」
「……いや、まぁそれはやめて欲しいけど」
「酷いな皆。わたしを噂話製造機のような扱いにして」
最後のピノの発言に流石のアデルさんも苦笑い。その危惧は分からんでもないけどな。サリナさんだって率先して言いこそしなかったが、同じ事を考えていた故の先の発言なのだろう、何とも言えない曖昧な笑顔でお茶を濁すのみだった。そんな俺達の様子を見たアデルさんは少しばかり真摯な面持ちで扶祢を見つめ、改めての宣言をし始める。
「どうも本当に込み入った事情がある様だね。本来冒険者としての立場からは言うべき事では無いけれど、必要と言うのであれば我が家名に誓って他言はしないと約束するよ。それでどうかな?」
「そういえば、アデルさんの実家って貴族様でしたっけ」
「そういやそんな話もあったな、すっかり忘れてたわ」
「……君達、その辺りは思っていても口にしない方が良いと思うんだよね」
という訳でアデルさんのステータス情報も見せて貰うのと他言はしないという条件で、アデルさんも同席をする事となった。先程までの真面目顔は何処へやら、すっかり浮ついた様子でキラキラといった擬音が似合いそうな瞳を扶祢に向けるアデルさんについつい場の皆が苦笑い。ともあれまずは一番手、扶祢の鑑定といきますか!
「では扶祢さん、こちらをどうぞ」
「はーい。えっと、これって最初魔力を這わせるような話でしたけど、魔力じゃなきゃいけないんですか?」
「いえ、神秘力の類でしたら反応しますわ。当初は皆さんの状態が不明だったのもあり、代表的で一番分かり易い魔力を例えとして出しただけですから」
「じゃあ霊力で試してみますね」
サリナさんが首肯するのを確認した後、扶祢は霊力を水晶板へと込め始める。そして数十秒後に水晶板がデータ抽出完了の合図として明滅を始め、鑑定状態が完了となる。
「はい、もう結構ですよ」
「それじゃあ見ていきますか」
「「わくわく」」
名前:薄野 扶祢
種族:妖狐(異界妖:地球)
年齢:18
筋力:B 敏捷:A
耐久:B- 器用:B
精神:A 神秘力:E-[魔]/A[精霊]
スキル:槍術A+ 体術A- 霊術A 探索C 追跡D 料理B 神秘力感知A
気配察知C (変装術A) (捕縛術C)
固有スキル:コスプレC
[変装時その存在を演じきる事で対認識判定にボーナス]
平和ボケD
[戦闘時や危機的状況以外精神判定にペナルティ、精神が-1ランク扱い
となる]
野生E-
[飼い猫の方がマシなレベル、もしかしたら探索や追跡に第六感が
働くことがあるかもしれない]
霊力S
[異界の神秘、神力の亜種に相当?]
(【魔力強制封印】EX)
[魔力ランク-6、下がった魔力ランク÷2(端数切り捨て)の霊力ランク
が上昇する。解除には多神教の主神クラスの強い加護を受けた大聖人
または英雄が自らの魂を捧げた上で長期間にわたる儀式を成功させる
必要がある]
(【異界の魔王の残滓】B)
[覚醒済/記録の一部欠損により、内容の開示不能]
「……成程ね、これは確かに見せられない訳だ。実害の有無は兎も角として、お偉方の面々が民を扇動するには丁度良い贄に為り得るものだからね」
「ヘー、これが異界の魔王の残滓ってやつネェ……厨二病真っ盛りダネ」
「うぐっ……そこの二人、笑うなー!」
アデルさんから出た言葉に少々重い空気となりかけるも、直後ピノの口から発せられた雰囲気ぶち壊しな感想により、つい噴き出してしまった。この二人の感想の乖離っぷりといったらもうね。
そういえばピノも扶祢のステータス詳細を見た事が無かったんだったな。言われてみると下二つの厨二っぷりが半端ねぇッス。俺は勿論として日本で厨二病の意味を知った釣鬼もピノの発言でツボに入ったらしく、これにはちょっと二人して言葉にならない状態であった。
「とはいえ、納得いったね」
「ほぅ、何がだぃ?」
「昨日の生活魔法の披露のアンバランスさが、さ」
アデルさんは妙に腑に落ちた様子でそう言い零す。俺達は生活魔法の仕様自体曖昧にしか知らないが、アデルさんから見て何か気になる事でもあったのかね。
「元々生活魔法というものには、一日の使用回数に制限があるのは皆も知るところだと思う。この制限回数だけれども、一般的には使用者の魔力量に応じて効果と比例し増減するものでね――それを踏まえた上で、昨夜の扶祢による生活魔法の試行錯誤について、何か違和感を感じないかな?」
「疑問、ですか?」
「……アッ、E-にしては使用可能回数が多すぎル!」
そうか。言われてみれば俺なんて、同じ生活魔法でも四回目以降はまともに使えなくなっていたっけな。
「そう。本来魔力E-であれば同系統の生活魔法は精々が使えて日に一回か二回、なのに扶祢は昨日見ただけでそれぞれ十回以上は使っていたよね?昨夜はわたしも酒が入っていたから違和感の正体に気付けなかったのだけれども、サリナが酔い潰れていなければその場で気付いていたんじゃあないかな」
「それは確かに妙ですわね……生活魔法は一般人にも扱えるよう簡略化された格の落ちる魔法と言われてこそおりますが、裏を返せば先人達が築き上げてきた経験によって完全に統一された規格として作られた、イレギュラーが発生し得ない完成品ですから。昨日の皆さんのような面白用途として扱うのとは違いそれそのものの仕様を変更するならば、いっそ全く新しい魔法を一から構築した方が遥かに労力は少ない程ですもの」
アデルさんの言葉を受け、サリナさんも首を傾げながらそう補足する。魔導系魔法の専門家であるサリナさんがこう断言するのであればそうなのだろう。とすれば実際に十回以上使用をしてもまだまだ余力のありそうだった扶祢の場合、もしかすると……?
「恐らくですが、使用回数のみで言えばこの魔力強制封印前の扱いで+6ランクとして……Sクラス並かそれ以上に使用が可能なのではないでしょうか?」
「「おおー!」」
「凄ぇな。ほら、やっぱり良い事あったじゃねぇか」
「うん、うん!やったあっ!」
これには扶祢も狂喜乱舞と言った状態で、やったやったと子供の様にはしゃいでしまった程だった。皆も良かった良かったと祝福していたのだが、そこに突き刺さる無情な幼女の一言により空気が凍り付いてしまう。
「でもサ。それって回数は多いケド、手が濡れたり火花を出せるだけだよネ?」
「「「………」」」
嗚呼無常。一度持ち上げられた後にいきなりどん底まで叩き落とされ、扶祢は今度こそ再起不能に陥ってしまう。狐耳はへたれ込んで心なし七尾も萎れた様子で垂れ下がってしまい、ついには壁際のソファへと突っ伏してしまった。
「うぅう……あんまりだわ、あんまりなのだわ」
「くっ、痛ましくて見ていられませんわ……」
「うん、余計な話題を出しちゃったね……ごめんよ、扶祢」
二人共。居た堪れない気持ちは痛い程に共感出来るのですがね。その言葉も多分、現在進行形で本人の心に突き刺さっているんじゃあないかなと、僕は思うのです。
「コホン。扶祢さんが精神的に打ちのめされてしまいましたし、まずはこちらで話を進めていきましょうか」
「そうですね。ぱっと見では追跡、料理、体術が上がってるな」
「よく使ってたものだからこの辺りは妥当なところかね」
「うん?前の情報と比べると『気配察知』が加わっているみたいだね」
微妙に気まずい空気の中、気を取り直して扶祢の残りの情報を見ていくと、見慣れぬ『気配察知』という名称が目に付いた。前は無かったよな、こんなの?
「あ、それはこの夏の最新版から載る様になったのです。以前から指摘はされていたのですが、神秘力感知はスキルとして表記されるのに何故気配察知がスキルとして認められないんだ、と主に物理職の方々からの希望が多々ありまして」
「おーそいつぁ良いな。俺っちも不思議にゃ思ってたんだが、まぁ資質に関係無く誰でも身に付けられるモンだからそんなものかと勝手に納得してたんだよな」
なーる。神秘力感知が所謂魔法的な察知技術だからな、ならば対となる物理的な察知技術があってもおかしくはない。それで言えば釣鬼なんて、確実にAかS位ありそうだよなぁ。
「うーん、どうでしょう。この冒険者ギルドでのS評価は達人級の高評価なのですよね。戦闘技術や基礎ステータスではそれなりに見られることもありますが、感知関連でのSというのは中々お目にかかれませんし、どうでしょうかね」
それは釣鬼の項でのお楽しみってことで。
一先ずこんなところかな?後は特にはー……おや?
「おい扶祢、起きろ!重大な変更があったぞ!」
「……何よぅ。もう上げてから落とされるのは真っ平なんだから、ほっといてよ」
「いいからこれ見ろって、ほらっ」
「うぁぁ、そんな引っ張らないでってば……何?」
「ここ、よく見てみ?」
不貞腐れていた扶祢を強引に起こし、ステータス画面のある一点に注目させる。そこには―――
『平和ボケ』C⇒D new!!
「欠点が緩和されたなっ!これは稀に見る大躍進だ!」
「………」
その後、顎を掠めるイイ一発を貰って脳を揺さぶられたところに怒涛の乱舞を喰らった辺りまでは記憶がある。
あぁ、最近こいつとは随分とこういったスパーリングもどきの絡みが多かったからな。それで体術が上がったのか、納得……がくっ。
「このパーティは相変わらず賑やかだね。この子達をサリナがつい気にかけてしまう気持ちも、何とはなしに分かる気がするよ」
「でしょう?どうにも目が離せないのよね、この子達って」
「うんうん。先輩として、これからも色々と教えてあげないとね」
その時の俺には気付く由も無かったが、そんな俺達を見守る先輩冒険者達の視線は柔らかなものだったのだ―――
尚、体術が上がった実情は頼太という体術スキルランクがそこそこ高めなスパーリング相手で技術を磨き続けた結果の模様。




