お正月番外編-楽屋裏準備会-
正月の連日投稿3/4日目。
ただひたすらにぱーちーの準備をするだけなお話。
本日のお話はあくまで番外編です。本編とは無関係……かもしれない?
某年大晦日―――
此処はとある狭間の広報スタジオ、異世界ツアーズ楽屋内にて。
「扶祢、まだスタジオの飾り付けが終わらないのか?そろそろ次の楽屋裏の準備もしないと間に合わないぞ?」
「そんな事言われてもっ。今回スタッフの人数が多くって皆の分のおせちとお雑煮の用意でこっちも手一杯なんだってば!そう言うなら頼太がやってよ!」
楽屋内へと入ってきた頼太と呼ばれた人族の少年は、同じく厨房より楽屋内へと顔を見せた扶祢と呼ばれる妖狐の少女へと問いかける。どうやら厨房の方も相当に忙しいらしく、扶祢は少々気が立った様子でその特徴的な黒い艶がかった七本の尾を立たせながら頼太へと返していた。
「俺、釣鬼達と今まで精霊化した雪達磨達の回収作業で五時間も大雪の中駆けずり回ってたんだけどな……誰だよトナカイとソリ一体型の雪達磨なんて作った奴。あんな精巧な造りで精霊力を込められたらそりゃユニーク・モンスターにもなっちまうっての」
―――ビクンッ。
そんな頼太の零す言葉に一人のお子様が一際大きく震え、反応をする。
「今年のクリスマスは本編の収録で忙しかったカラ……せめて気分だけでもクリスマスを味わいたかったんダヨッ……!」
目に涙を湛え、ぷるぷると震えながら床に崩れ落ちる愛らしい姿の幼女。妖精族のピノである。床に手を付きがっくりと項垂れたその頭からは両脇に纏めたツインテールが垂れ下がり、無念そうな表情で首を振る度に綺麗な明るい金髪が付近の床掃除をしてしまう。
どうやらトナカイ型の雪達磨に過ぎてしまった聖夜の願いを込めた事により、ピノの持つ高い精霊力と狭間の世界の不思議要素が神秘的反応を起こしてしまったらしい。結果としてただの雪達磨が精霊化し、やたら高性能な強制配送車状態になってしまったのが事の顛末のようだ。
また、回収の最中にたまたまその高性能ソリに遭遇した狭間のタクシー業者が惚れ込んでしまうなど、どうにかそれを説得する為に予算から馬鹿にならない出費があったのは公然の秘密となっている。上に報告してしまえば自己責任という事で、予算をカットされるのが目に見えていたからであった。
スタッフ一同、やはり打ち上げの時位は美味い物を食い放題飲み放題でいきたいのだ。
「ぶぇっくし……おぉ寒ぃ。じゃあ外のかまくらは水の巨人のおっさんに言って水の乙女達に手伝って貰うから、頼太は飾り付けの方に入ってくれ」
「うぃーっす。釣鬼は一度シャワー浴びて身体温め直した方が良いんじゃないか?」
「そうさせて貰うかぃ。吸血鬼姿じゃどうにも冷え易くてなぁ」
いつの間にやら狭間の世界も夜となり、銀髪紅眼な美人と化した吸血鬼の釣鬼も頼太に続き楽屋内へと入ってくる。その肩までかかる銀髪には大量の雪が絡み、何とも寒そうに身体をさすっていた。どうやら雪達磨捜索中に大鬼族姿から変身してしまった際、服の内部にまで雪が入り込み汗と水で体中ずぶ濡れになっている様子。
結局一度冷え切った身体は中々熱を取り戻せずに、釣鬼はくしゃみをしながら楽屋横のシャワールームへと入っていった。
「サキと静はまだ来てないんダネ。扶祢一人で仕込みやるのは大変ダシ、ボクも手伝うヨ。ついでにニュンペー達も何人か呼んで手伝って貰ウ?」
「うーん、あの子達ってすぐ気移りしちゃって料理するには危なっかしいんだよねぇ……」
「ア~」
そんな釣鬼を尻目に仕込みの段取りについて提案をするピノに対し、扶祢は相変わらず慌ただしく動きながらもその目鼻立ちの整った顔に添えられた形の良いふとまゆを顰め渋い顔をして答えていた。
これについては実際に前日の仕込みで手伝って貰った際、皆が皆途中で飽きて厨房が空になるというとんでもない事件があったので皆の記憶に新しい。それを聞いたピノも呆れた表情ながらに納得をしてしまう。
何せ種別分化前にも関わらず水の乙女達を仕切る程の格を持つ下級女神のアリアですら、ただお湯を沸騰させるという数分を待ち切れずに何処かへいってしまったくらいなのだ。これでは危なっかしくてとてもではないが頼りにするなど望めないだろう。
「――というか、ちょっとはシズ姉も手伝ってよ。狭間に来てからずっと寝てばかりじゃないの」
「くぁぁ~、詮方無かろ。昨日まで天球方面に出張しておってここ数日程寝とらんかったのじゃから」
そんな中、いい加減我慢の限界のきたらしき扶祢より非難をされ、眠そうな顔をしながらソファから起き上がる狐耳がここにも一人。
扶祢のそれと比べれば随分と太く大きい、霊狐の頂点の証である四本の尾を自身の身体のクッション代わりとし、心地良さげにソファで微睡む姿を見た誰しもがこう思うだろう。このもっふもふの尻尾に存分に顔を埋めて抱き枕にしたい、と。
扶祢もその尻尾を少しの間羨ましそうに眺めた後、並行世界の姉であるその天狐――シズカへと再び声をかける。
「じゃあせめて出来た料理を重箱に詰めるだけでも手伝ってもらえないかな?母さんか静姉さんが来ればどうにかなるんだけど、どうも到着が遅れてるみたいだし」
「面倒じゃのぉ……サリナにアデルは何処に居る?どうせならば、あやつ等にも手伝わせればもっと早く終わるじゃろ」
「あの人達は今はシェリーさん達を迎えに行ってるから、楽屋裏が始まるまでは来れないみたいでさぁ……あ~忙しい!」
「汝が日常パートで然りげに切羽詰まるのも珍しいの……良かろ。狐妖の先達として霊狐の頂点の力、久方ぶりに見せてやろうぞっ」
そう言って四本の尾を誇らしげに振り、ドヤ顔を見せ付けるシズカ。しかしそこに、厨房を仕切る者よりの一喝が即様飛んできてしまう。
「無闇に厨房で尻尾を振らない!毛が抜けて料理に入ったらどうするのよっ!」
「……む、済まぬ」
別に料理の盛り付けをするだけならば天狐である必要は無いと言えよう。
恰好付けた直後に即様駄目出しをされてしまったシズカは、意気消沈しながら尻尾持ち専用のスカート付きエプロンを身に着け、もそもそと盛り付けを手伝うのであった。
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「ネー。アリア達がまた遊んでかまくら壊しちゃったみたいヨ?」
「またかよ……あれだけ数居といて何も出来ねぇどころか余計なトラブルを起こすってのもなぁ。そりゃ水竜のオッサンも苦労する訳だ」
『……済まんな』
そんな二人の会話を聞き皆またか、といった呆れの表情で外を見やる。遂には水の巨人までが小型化して楽屋内へと入り込み、場の面々へと申し訳なさげに謝罪をし始めてしまう。
水の巨人とニュンペー達は三つの世界の他の面子と違い特に現地ではやるべき事も無く、一足先に狭間へとやってきていた。しかし、こちらへと着くなりニュンペー達が好き勝手に遊び周り、昨日の惨状と化してしまったのだ。これでは混乱を助長させるだけという事で、仕方が無しに今日は殆ど自由行動にさせていた所に先のピノの報告ときた。
それを聞き悪い予感に駆られながらも場の面子が窓の外を覗き込み見た光景は、半日かけて作った巨大かまくらの至る所に穴が空けられ、正に崩れ落ちようといった瞬間であった。
「きゃああああっ……冷たっ!?寒っ!?見えなっ!?」
「何これー!真っ白で痛いんだけどっ」
「あうぅ、寒い……」
流石は下位女神の卵というだけはあり、ニュンペー達は悲鳴を上げてはいるものの特に命に別状などは無かったらしい。それにしても本当に人騒がせな連中であった。
「姉妹達ー!?チッ、かまくらに宿った氷の精霊の怒りに火を付けちまったか……上等ッ!」
「何が上等だ。やれ、ピノ!」
「シェリー直伝『お仕置き電流』ッ」
「ほぎゃああああああっ!?」
「……フ、悪は滅びたヨ」
こうしてニュンペー達は全員捕獲され反省部屋へと押し込められる。せめて楽屋裏が終わるまでは大人しくしていて欲しいものだ。
「ふぅ、こんなもんかな?」
「な、何とか終わったのだわ……」
「あふぅ……童はもう暫し寝直すぞぇ」
どうにか飾り付けと料理の数々の用意を終え、楽屋内を一通り見回す頼太達。そこにかまくらの後処理を担当していた釣鬼とピノも戻ってきた。どうやら即興で雪を固め新しいかまくらも作り終えた様子であり、水の巨人が満足気に本性である水竜の姿で鎮座しているのが見える。
「お疲レー!」
「やれやれ、やっと一息つけんな」
やがて日付が変わる頃となり、楽屋内の全ての準備は整った。
「――ふむ。母上と静達も後二時間もせぬ内に到着するそうじゃ」
『此方もつい先程に、主だった面々が三つの世界から発ったとの連絡が来たな』
シズカと水の巨人へもそれぞれに関連する出演者達の出立の報が入った様子。
どうやら今回も無事楽屋裏を開く事が出来るらしい。各々それにほっと胸を撫で下ろし―――
「それじゃあ、まずはここに居る皆で、せーの……」
「「「明けましておめでとうございますっ!今年も宜しくお願いします!」」」
それでは次回、楽屋裏へレッツゴー!
リアルじゃ元旦は過ぎちゃってますが謹賀新年。
どうぞ今年も『狐耳と行く異世界ツアーズ』を宜しくお願いしまーす。




