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狐耳と行く異世界ツアーズ  作者: モミアゲ雪達磨
第一章 異界との邂逅 編
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第009話 就職斡旋詐欺と獣とケダモノ

「じゃあ、行ってきます」

「気を付けてね、仕事先に迷惑かけるんじゃないよ」

「しっかりとやれよ」


 五月末日、自宅前にて両親と挨拶を交わし出立する。

 当初はかなり反対されてしまったが、扶祢にお願いしておいた表向きの身分保障の助けもあり、表向きは外国も含め世界各地を巡る旅行代理業という怪しさ満点の就職をする事に決まった。実際にパスポートまで用意してくれたのは根回しが良すぎるが、こっちの世界にも妖怪変化を始めとする幻想種達の互助組織があり、そこが色々と都合良く担当してくれたのだそうだ。

 扶祢自身霊狐?という妖狐の一種らしいしそういった存在が居る事は既に疑ってはいないけど、そんな組織まであったとはね。大っぴらに表舞台へと出ていないだけでこの世界も十分ファンタジィだったんだなァ。


「それではご子息を責任持ってお預かりしますね」

「どうかよろしくお願いします。あの、本当に危険な場所への出張とかは無いのですよね?」

「ええ、我が社は規模こそ小さいですけれど。だからこそ無理な営業をせず、顧客も社員も共に充実したライフワークを営めるよう努めておりますから」


 現在お袋と話しているこのイケメン風の装いをした会社のスカウト担当役だが、その正体は扶祢だった。最初に声をかけられた時はHENGEキタ!って内心興奮していたのだが、その期待を裏切ってただの特殊メイクと変装術だった…だったんだ……。

 そろそろ妖狐らしい所を見せてくれませんかねぇ?いや、変装術も十分凄いんですが。


 ちなみに耳と尻尾は収納可能らしい。収納可能らしい……。


 ともあれ、少し罪悪感はあるが俺みたいな若造がいきなり現代社会の在り方を真っ向から否定する真実を言ったとしても信じては貰えないだろうし仕方がない。おとん、おかん俺は異世界で成り上がってやるっ!


 こうして、俺達の特に盛り上がる始まりなどは皆無なお気楽異世界旅行はこれから始まる事となる―――


「まずはサナダン公国に向かうんだっけ?」

「そうだな。何をするにしても、平原の街ヘイホーで冒険者ギルド登録をしてからとなるか」

「何か叫びたくなる名前の街だなぁ」


 よし、当面の行き先と目標は定まったな。

 釣鬼への確認を取り、改めて行く先を見据える……うん、特に暗雲立ち込めたりとかそういったイベントフラグも立たず、初夏へと向かう快晴の空しか見えねぇな。


「じゃあこれでアタイはお別れっすね。皆、あっさり死ぬんじゃないっすよー。兄貴も居るし大丈夫だとは思うけど」

「おう、双果も森の管理頼んだぜ。あと前にも言ったが北の引き篭り共とはあまり揉め事を起こさねぇようにな」

「了解っす。でも暇しそうなんでたまには此処にも寄ってくださいよー」

「あぁ暇な時は東の山の裾野を見回ってみると良い。甲鎧竜が湧くポイントがあるぞ」

「まじっすか。独りであれはしんどいっすね……まぁ何か考えてみるっす」


 見送りに来てくれた双果とも別れの挨拶を交わし、最後に釣鬼がそんな事を言っていた。

 甲鎧竜、あれはきつかったな……修行時代にお世話になったボスクラスの危険モンスタートップに躍り出る奴だった。

 見た目は角の生えた亀に近いんだけど、甲羅の無い部分まで全て堅い鱗に覆われている、とんでもない危険度の魔物だったんだよな。その鱗も動きを阻害するようなモノじゃないらしく、その見た目よりも俊敏な動きでぶちかましをしてくるものだから釣鬼からは遭遇したら絶対に戦闘はするなと念入りに警告されていた程だ。

 まぁそんなのをソロ相手に紹介するって事は、やはり双果は相当の実力者って事だよな。これならきっと釣鬼が居なくなった後のこの森も安泰だろう。


「あはは、一匹ならきっと双果だったらやれるやれる」

「ご愁傷様でござる」

「無責任な感想が憎いっす」


 さて、釣鬼と双果の引継ぎも終わったようだ。それでは―――


「「「行って来ます!」」」

「行ってら~」






 ログハウス内の荷物を引き払うのと後片付けを忘れてた……出発が二時間後になった……。


 ・

 ・

 ・

 ・

気分は某竜遠征RPGのフィールド曲、森を出てより平原を西へ西へと進んでいく。

だが一つだけ、物申さねばなるまいて。


「それ程でもないっ!」



 チャラララ~チャララ~チャララ~チャララッチャッチャチャラララ~ララララ~♪


 気分は某竜遠征RPGのフィールドテーマ、至高の三作目だ。森を出てよりすぐに広がる、大平原を西へ西へと進んでいく。あの奇妙な異世界ホールがあったのが森の南東側、という事は方向としてはほぼ逆側となる訳か。

 そこまでを確認したところで一つだけ、物申さねばならない現実へと嫌々ながらに向き直る。


「お嬢。また愉快なモノをお持ち込みですね?」

「それ程でもないっ!」

「散歩のお供に音楽ってのも悪くねぇなぁ」

 

 出来得るならば突っ込むまいとは思っていたが、いい加減限界だ。この駄狐、よりにもよってオーディオプレイヤーを持ち込んでくれていやがった。牧歌的な景色が流れる中、それ専用に誂えたかのようにプレイヤーから垂れ流されるは彼のフィールドテーマ。


「んで、何か言う事は?」

「うぁあぁぁ……耳、耳の毛を逆立てるのやめてぇ……」


 ひとまずヘッドロックwithケモミミモフモフを掛けてみたところ、涙ながらにその締まらない心中をとろとろし始めてくれる。


「わざわざソーラータイプのコンパクトサイズを用意してきたんだから問題ないじゃないっ」


 これがこいつの言い分らしい。修業時代から感じてはいたが、相変わらず興味の強い分野に対しては斜め上に用意周到というか、常人が手を出せない分野へと平然と身一つで突っ込んでいける辺りの感性は凄まじいの一言だな。

 精密機器の類を持ち歩いての冒険というのも中々に面白いが、その一方で現実問題、不遇の事故なんかであっさりと壊れてしまうのではとも思う。中々に理想と現実の妥協点を探り出すのは難しいものだ。


「うぅ、セットがまた台無しに……」

「モフモフ/1hでセット代行してやるよ」

「……なんつぅか。お前ぇは獣人族から目の敵にされそうな気がするな」


 何をおっしゃいますか釣鬼先生。元はと言えば、文明の利器の持ち込み過ぎはバランスを崩すかもしれないからと小物の持ち込み制限を提案してきたのはこいつだぞ。それを舌の根も乾かないうちに趣味の為だけにこんな事されてみろ、少しは問い詰めたくもなろうってもんだ。

 だからこれはお仕置きも兼ねているのです。ただそのついでにまぁ……どうせなら、ね?


「という事でだな。モフリストにとってはそれもまたご褒美ですので」

「私(の耳と尻尾のお手入れ)……汚されちゃった……」


 およよ、と袖先で顔を覆い崩れ落ちる扶祢。釣鬼が牽いてるリヤカーの荷台に乗っかった上でだが。

 ちなみにこのリヤカー。森の滞在中に暇潰し用に日本から持ってきたカタログを見てかなり気に入ってしまったらしく、タイヤがオフロードバイク並のごん太タイプでステンレス製の枠にヒノキ貼りの中板付き、という特注品をお取り寄せした釣鬼の自慢の逸品である。代金は断腸の思いで扶祢と折半したが、それでもちょっと値の張るスクーターかPC辺りは買えてしまいそうなお値段でござった。とはいえ、一応これが(くだん)の情報提供諸々の報酬ってことになる訳だ。うちのパーティの荷台ともなるので先行投資って事にしておこう。


「ところで扶祢さ、着物で郊外を出歩くってのは汚れてまずいんじゃないか?」

「これはそういう外歩き用だから平気なのよー」

「ほー」


 言われてみれば江戸時代なんかは皆着物来てた訳だし、そういうのがあってもおかしくはないか。

 そんな他愛の無い事を話しながら歩いていたんだが、そこに告げられた釣鬼先生のお言葉に俺達のボルテージは上がっていく事となる。 


「そうだな、防塵や軽い防水位ならクリーナー系の魔法でかなり汚れも軽減出来るから別に問題無ぇとは思うぞ」

「生活魔法きたっ!」


 おー、やっぱりあるのか生活魔法。

 どうやらクリーナーってのは日常生活で使う簡易的な魔法の一種らしい。というか確かに生活魔法っていうのはそそるものがあるけど扶祢さん興奮し過ぎじゃないっすかね?


「ぶれねぇな……」

「でもでも!着物愛好家の立場から言わせてもらうとこれは大事だよ!?防水は傘を使うにしても防塵は構造上無理があるし」

「うーん言われてみれば確かになぁ。そのクリーナーって魔法、どうすれば習得出来るんだ?」

「ヘイホー位の規模の冒険者ギルドなら多分ギルド内でも有料で教えてくれるんじゃねぇかな。あれは学校の家政科の一般用講習でも教えてる程度だしなぁ。俺も使えるぜ、ホレ」


 ―――シュワワワン。

 

 うおっ凄ぇ!リヤカーの汚れが拭き掃除をした後みたいに取れていったぞ!?


「おー!あれ、でもそれなら釣鬼が教えてくれれば解決するんじゃない?」

「だよな、何かロックでもかけられてるのか?」

「あぁ、そういえば魔法について詳しい説明をしてなかったっけか」


 そういえば聞いていませんな。どうせ今のところ急ぐ理由も無い徒歩での気ままな旅路だし、ここは一つ暇潰しを兼ねて釣鬼先生の魔法講座に耳を傾けるとしますかね。


「まず魔法には大別して二種類で分けられる。戦闘用と非戦闘用、詠唱タイプと回数消費タイプ、要イメージの有無、といった感じにな。クリーナーは主に非戦闘用の回数消費タイプなんだが、これに限らず非戦闘用の生活魔法は回数消費タイプでな。これらは魔法の使用権を得る為に構築キーの解放というものが必要になるんだわ」

「あーそういう事かー。主に生活魔法系は[魔法技能]を購入して、その魔法を[装備]する形になるんだね?」


 ふむふむ。森に居た頃は魔法というものに縁が無かったからか、軽くしか触れられてはいなかったんだよな。主に体術やサバイバル技能の実戦訓練ばかりでそんな余裕も無かったし。

 それでも軽く説明された内容を思い返してみると確かに、この生活魔法というものの対になる[戦闘用]で[詠唱タイプ]とくれば、一般的にその手のファンタジィ要素として想像される魔法使いのイメージとなる訳だ。


「ご名答。元の魔法は全て詠唱とイメージが必要な難度の高いものだったんだが、危険度が低く便利な系統の魔法ってなやっぱ需要が高くなるモンでな。その需要に応えてある程度誰にでも使えるようにと時の賢者様方が今の形に構築してくれたって訳だ。制限が多い代わりに暴走の危険も無く扱い易い、という利点でどの国でも愛用されているぜ」

「つまり補助用の便利用具といったところか」

「そうだな。逆に戦闘用の魔法や一部の儀式魔法なんかは、用途と難度から陣の構築やら詠唱やらイメージやらと専門で学ぶ必要がある系統って事になるな。そういった理由で、正規の魔法科を専攻して卒業した連中は簡易版の生活魔法を覚える必要も無く自前で構築出来るって訳だ」


 そう言って説明を終える釣鬼先生。成程なぁ、為になりました。


「じゃあ、まずはヘイホーに着いたらギルドに行って登録して、その生活魔法を教えて貰うのが最優先事項になるわね」

「そうだな。後は宿も探して、他の入用の物は明日になるか」

「え、ヘイホーって今日中に着く距離にあるのか」

「今からなら急げば夕暮れ時前には入れるんじゃねぇかな。道中の街道沿いにある小さな村で一休みしてもいいが、あそこ何もねぇからな……」


 ヘイホーの街というのは俺達の予想よりも随分と近場にあるようだ……いや待てよ。こいつの底無しな体力と足の速さ基準での夕暮れ時って事は、もしかして俺達の場合数時間耐久マラソンをやらされる可能性が……?


「安心しろぃ。流石に初心者のお前ぇ等の移動速度くれぇは考えてるさ」

「あぁ良かった、また50kmフルマラソンをする羽目になるかと思ったのだわ……」


 どうやら扶祢も修行初日の悪夢の耐久走を想起してしまったらしい。俺なんかあの頃は疲れ切って碌に飯が喉を通らなかったからな……ガクガク。


 詳しい話を聞いてみると、ヘイホーは外部との出入り口の閉門は日暮れ時だが、一度中に入りさえすれば日付が変わる辺りまでは割と店も開いているんだそうだ。夜になっても主要の通りには街路灯も設置されているし、警備兵が定期的に見回りをしているので裏道に入り込んだりしなければ夜の散歩もそんなに危なくはないのだという。


「それに、最悪日暮れ時の閉門時間に間に合わなくても、門の外にちと割高だが泊まるだけの借宿はあるからな。門外は内部に比べればちと治安は良くねぇから、部屋は三人一緒に取った方が良いと思うがな」

「やだぁ、そんな所に入ったりしたらケダモノ二人の欲望の捌け口にされちゃうわっ」

「獣さんテンション絶好調っすね」

「おう、楽しそうで結構な事だな」

「……二人共、酷い」


 そんな釣鬼の説明を聞いていた俺達だが、借り宿の話が出た辺りでお狐様がテンション上げ上げで突っ込み待ちっぽい発言をし始めたんで期待に応えてあげました。

 テンション高くなってるのはこちらも同じだから分からんでもないけどな。


「じゃあまずはヘイホーの街を目指して、時間の余裕次第で途中の村で一休みかね」

「そうすっかぃ。ほら扶祢、そろそろリヤカーから降りてくれ。荷物なら全部乗っけて良いからよ」

「まだ乗ってたんか……」

「ほら、喋ってて降りるタイミングが無かったというか……」


 何はともあれ、こうして俺達の旅は始まった。

 さぁ、目指すはヘイホーだ!

 一部頼太が同じ事を何度も繰り返している部分もありますが、きっと大事な事らしいんです。

 ようやく森から出発の流れに。

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