チューンと連携
「アーリエ、デルスが見当たらないんだが」
ジョシンに言われ、アーリエは首をかしげる。
「一緒じゃなかったんですか?」
「さっきまでいたはずなんだけどな、気づいたらいなくなってた」
「ちゃんと見といてくださいよー」
アーリエは不満を顔に出して頭をかきながら首を横に振った。ジョシンはそれを見てため息をつく。
「お前らの面倒を見る俺の身にもなってくれ、何しろ最初の超能力者と二人目の悪魔だ。しかもどっちも性格に問題がある、それを押しつけられた俺の身にもなってくれ」
「その言い方はひどいと思いますよ」
空から声が響き、猛禽の顔と翼を持った人影が二人の前に降りてきた。
「デルス、何をしてたんだ」
「あの異世界の大きなものを見てたんです。面白かったですよ」
「見に行くのはいいが、一声かけてからにしてくれ」
「はい、気をつけます」
「本当に気をつけてくれよ。さて、それじゃあ俺達の任務の再確認だが、最優先は元団長と技術チームの護衛だ。何かあれば異世界人もその対象に含める。まあ、つまり俺達は遊撃隊が自由に動けるように支援をするのが目的だ」
ジョシンの言葉にデルスは大きくうなずく。
「それでアーリエと僕なんですね。機動力なら先輩達にも負けませんから」
「あー、そうなんだ。確かにあたしの瞬間移動とデルスの飛行能力なら避難とかに便利ですよね」
「俺はさらにそのお前達のサポートだ。おっと、副隊長殿が来たな」
ジョシンは言葉を切って、近づいてくるヤルメルに手を上げた。ヤルメルもそれに手を上げて応えるとジョシンと軽く拳を合わせた。
「増援ご苦労様」
「そっちも色々大変だったみたいだな。あそこに転がってるミュータルか、またとんでもないものが出てきたもんだ」
ジョシンは研究チームが集まっているミュータルの残骸に目を向けてぼやく。ヤルメルも同じ方向を見て一つ息を吐いた。
「ま、技術が来たんだから、あれが何かは近いうちにわかるでしょ」
「お前が戦った感じはどうだったんだよ」
「強いというか、得体がしれないね。倒せはしたけど、まだ先がある気がする」
「なるほど、かなり危険みたいだな。お前達も気をつけろよ」
そう言われて、アーリエとデルスは同時にうなずいた。
「じゃあ、ジョシンの指示をよく聞いときなよ」
ヤルメルは二人の肩を軽く叩いてその場から去っていく。それを見送ってから、アーリエはジョシンに向けて笑う。
「ヤルメル副隊長とは、前は一緒に王都の隊にいたんですよね」
「お前の言いたいことはわかるけど、俺は別に出世したいわけじゃないからいいんだよ。あいつみたいに隊長タイプでもないからな」
「そういうもんですか」
「そういうもんだ。アーリエは異世界人、デルスは技術チームの護衛に戻れ」
「了解」
アーリエとデルスはジョシンの指示ですぐに散っていった。
一方、キーツはデレクと一緒にその機体を見上げていた。
「デレクさんの機体は近距離戦闘に特化してるんですね」
「隊長と一緒に最前線で敵の攻撃を引き受けるのが役割です。攻撃よりも防御を強化したいのですが、そういう魔法の技術はあるのでしょうか?」
「盾の強度が十分なら、その側面にも障壁を展開するようにして、面積を大きくするのはどうでしょうか。盾の表面に障壁を発生させて強度の強化というのもできますが」
「あの青い障壁でですか」
「ええ、重くなるわけではないですし、視界も動きも阻害することはないようにできます。起動もデレクさんが制御できるようにできますよ」
デレクはキーツの言葉にうなずき、自分の機体を見上げる。
「そんなこともできますか。時間はどれくらいかかりますか?」
「何しろ大きいですから、本格的に使えるようにするには時間がかかります。今できるのは使い切りで、盾の外周かあるいは表面に障壁を発生させるくらいでしょうか」
「それなら表面に発生させる方がいいですね。同時に機体の出力と反応速度も上げるつもりなので、強度が上がるほうがいいです」
「わかりました、すぐにとりかかります。でも、魔力による身体強化は操縦にも役に立つんですね」
「操縦には結構体力がいりますし、サポートのシステムがあっても結局はパイロットの反応速度がものをいいますから」
そう言ってからデレクはコックピットに跳び乗ると、盾の表を上にして地面に横たえた。キーツはその盾に近づいて新しいペンを取り出す。それを見ながらデレクはレイヴンとの通信を開いた。
「出力と反応速度の調整はどの程度で終わる?」
「どちらも微調整が必要なので、少し時間がかかります。実戦データがありませんから。シミュレーションで試してみてください」
「わかった。とりあえずどちらも二割増しで設定してくれ」
「了解しました」
デレクは通信を切ると、シミュレーションを起動してから魔力による身体強化を始めた。
下ではキーツがペンを手に持ったまま盾を眺めていた。盾は全長八メートルはあり、横幅はその半分ほどもある長方形で、多少傷ついてはいるが、機能にに支障をきたすようなものは見られなかった。
「ずいぶんと立派な盾ですね」
そこにレウスがやってきてキーツの隣に立った。
「そうですね、この技術は素晴らしいです。金属と繊維の複合素材で大きさと強度の割には重量がありません」
レウスは盾を杖で突いてうなずく。
「確かにこれは頑丈ですね、並の攻撃ではかすり傷もつかないでしょう。今ある傷は攻撃に使った時のものでしょうね」
「よくわかりますね」
「推測ですよ。これの操縦者は腕が立つようですから」
それから二人はデレクが乗っているコックピットを見上げる。数秒してからキーツは盾に視線を移して口を開いた。
「レウスさん、この盾に障壁を作るなら、どういう形がいいと思いますか?」
「それなら格子状にするのがいいと思いますよ。元々の強度を生かして、それを強化するようなフレームのイメージで」
「それはいいですね。それならあまり手間もかかりませんし、発動時間も長くできます」
そう言うと、キーツはすぐにペンで盾に回路を描き始めた。レウスがそれを黙って見守っていると、そこにアイダンがやってきた。
「レウスさん、ここにいたんですか」
「どうかしました」
「隊長が呼んでます。一緒に来てもらえますか?」
「わかりました」
レウスはアイダンと一緒にその場を立ち去り、アライアルと合流する。
「よう、何をやってたんだよ」
「あっちでキーツの作業を見ていたんです」
「うまくいってるのか」
「大丈夫そうですよ。あれなら彼らの戦力も増強されるでしょう」
「それなら、早く連携の方法を試してみないとな。よし、これからやるぞ。レウス、お前も一緒に来てくれ」
それだけ言うと、すぐにアライアルは歩き出す。レウスもそれについていってしまい、アイダンは他の隊員を呼ぼうかと迷ったが、前の二人がそれをまったく気にしていないようだったのでとりあえずついていくことにした。
「よっ」
アライアルは軽い調子でナオヒトに声をかけた。ナオヒトも気楽な様子でそれに手を上げて迎える。
「どうしたんだ」
「そろそろお前達と一緒に戦うために色々やってみようと思ってな。あれを一台でも動かせるか?」
「大丈夫だ、ちょっと待っててくれ」
数分後、ナオヒトはセレンを連れてきていた。
「とりあえず、すぐに動けるのは私とセレンだ」
「二人もいれば十分だ。とりあえず動かしてみてくれよ」
「わかった。いくぞセレン」
「はい」
返事をしたセレンが先に自分の機体に乗り込み、ナオヒトもそれに続き、外部マイクのスイッチをいれた。
「それで、どうするんだ」
「そうだな、いや、そういえばそいつの名前をまだ聞いてなかったが」
「WOLF-03というのが正式な名称だ。だが、誰もそんな風には呼ばないな。ひどい奴だと犬呼ばわりだ」
「犬とはひどいな。とりあえずそいつの速度を見せてくれるか?」
「わかった」
ナオヒトは数歩横に移動してから、ペダルを踏み込んで機体を走らせる。
「こうして見ると、速いですね」
レウスがつぶやくように言うと、アライアルはうなずく。
「ああ、あれに乗るのはいい考えだと思わないかアイダン」
「そうですね、あれ全部を守ることはできませんが、部分的に障壁を展開することはできますし、逆に盾にして攻撃に専念することもできそうです」
「お前とインジットを乗せるのが良さそうだな。まず俺が試すか」
そう言うと、動きを止めたナオヒトの機体に向かって跳び、その肩に飛び乗った。
「ナオヒト! 俺を乗せて少し激しく走ってみてくれ!」
「了解した。振り落とされないでくれよ」