魔力
ナオヒトの試射を見たカロンゾは隣のデレクの肩を叩いた
「あれはすごいなあ。どう思うよデレク」
「ああ、すごいな。まさか魔法でピストルにあれほどの威力が出せるとは思わなかった」
「だよなあ。あれ俺のミサイルにもやってほしいぜ」
「今は人手がないようだから、せいぜいピストルが限界だろう。それに、そうするだけの価値を向こうが見出すかもわからない」
「そりゃあな。でも、あいつらがいくら強くてもミュータルは楽な相手じゃない。俺達の腕は売れるだろ」
デレクはそれに黙ってうなずいたが、すぐに眉間にしわをよせる。
「だが、問題は補給とメンテナンスだ。弾薬はせいぜいあと二回の戦闘をこなす程度しかないし、今できる簡単のメンテナンス程度ではじきに動きに影響が出てくる」
「そうだなあ。それが困ったところだ」
「大丈夫大丈夫、機械なら詳しい人いるし」
突然背後から聞こえた声に二人が振り返ると、そこにはアーリエの姿があった。
「あー、あんたはアーリエだったか。どういうことなんだ?」
カロンゾが聞くと、アーリエはキーツを指さす。
「キーツさんは魔道具を沢山発明してるし、技術の人達はいつも細かいことばっかりやってるから」
「でも、あんなでかいのはいじったことないだろ。それに、同じ技術だとも思えないぜ」
「あの人は天才だし、他の人達も頭いいんだよね。それにみんな新しい物好きだから、すぐに理解できるんじゃないかな」
「そういうもんなのか?」
カロンゾはデレクに話を振った。
「まあ、技術者というのはそういうものかもしれないな」
デレクはそれだけ言ってから、アーリエの顔を見た。
「それより、君は他の隊員に比べてずいぶん若いように見えるな」
「ああ、やっぱそう見えます? あたしは瞬間移動っていう新種の超能力者だから、発見後すぐに副団長に鍛えられたんですよ」
「副団長か、あの遊撃隊の隊長よりも強いという話だな。一体どういう人物なんだ?」
「一言で言えば豪快なおばさん。でもこれが滅茶苦茶に強いんですよ、あたしがどれだけ動いてもついてくるどころか先回りするし」
「おいおい、瞬間移動に先回りってどういうことだよ」
カロンゾが口をはさむと、アーリエはわざとらしくため息をつく。
「直感だそうですよー。次元の違う人は嫌になりますね」
「ああ、わかるぜ。そういうのはあるもんだからな」
そこでアーリエはカロンゾ肩を軽く叩いた。
「おじさんも色々あったんだねえ」
「そう、いろいろあったんだぜ。それと俺はおじさんじゃない」
「そういうのはそっちでも変わらないんですねえ」
アーリエがそう言うと、そこにパイロフィストの鎧に身を包んだ見たことのない男が近づいてくる。
「あ、ジョシンさんが来たので失礼しまーす」
それだけ言うとアーリエは今度は自分の足でその場から走り去って行った。
「いい子だよな。異世界で超能力者と言っても、何も変わりゃしない」
カロンゾの言葉にデレクはうなずく。
「そうだな、彼らだけに任せておくわけにもいかない」
二人は顔を見合わせてから、ナオヒト達に向かって歩き出した。
一方、てきとうにふらふらしていたユウだったが、セレンがその後ろについていた。
「ユウ、いつまでふらふらしているんだ」
「いいじゃん、別にやることがあるわけじゃないんだし」
「隊長はあっちで実験をやっている」
「後で見ればいい。セレンも少しはこの世界を楽しめばいいのに」
「あんたのそういうのには感心する」
「ありがとう」
セレンがユウの返答にため息をつくと、そこにストッフェルが近づいてきた。
「診察の準備が出来ました。簡単に終わりますから、まずはあなた方からどうぞ」
「はい。ほら、ユウ」
セレンはユウの手をつかんで先に歩き出したストッフェルについていく。そうして二人はテントに入ると、その中には簡易な椅子だけが置かれていた。ストッフェルは二人の椅子を出すと、自分は先に椅子に座る。
「どうぞ、かけてください」
セレンとユウは黙って椅子に座ると、ストッフェルと向き合う。セレンはストッフェルが何の道具も持っていないのを見て首をかしげる。
「器具は何も使わないのですか?」
「とりあえずは必要ありませんよ。じっとしていてください」
そう言ってストッフェルが両手を前に出すと、その上に光の球が出現する。それはゆっくりと動き出すと、セレンとユウの体に吸い込まれていった。
二人は驚きはしたが特に何の異常も感じなかったので、そのままじっとしていた。それから十秒後、ストッフェルは軽くうなずいて微笑んだ。
「お二人とも健康そのものです。こちらの世界にもしっかり適応しているようですね」
「今のでわかったんですか?」
ユウが聞くと、ストッフェルは微笑を崩さずにうなずく。
「ええ、今のは対象者の身体の機能を検査する魔法です。つまり、この魔法がうまくいったということは、私達とあなた達の身体の構造は大体同じということですね」
「それじゃあ、あたし達にも魔法が使えるんですかね」
「そうですね、魔力はあるようですから、可能だと思います」
「はいはい! じゃあ教えてください!」
ユウは勢いよく立ち上がって身を乗り出した。セレンはそのベルトをつかんで止め、ストッフェルはその光景を見ても表情を変えない。
「全員の診察が終わったらやってみましょう」
ユウはその言葉に食いつこうとしたが、セレンがその首根っこをつかんで立ち上がった。
「それでは残りのメンバーを呼んできます」
セレンはユウを引っ張ってテントから出て行った。それを見送ってからストッフェルはメモ帳を取り出してそこにメモをする。それから数分後、デレクとカロンゾがテントに入ってきた。
「どうぞ、かけてください」
ストッフェルは最初の二人の時と同じ言葉と態度でそれを迎え、同じように診察をした。それが終わって大体十分後、ナオヒトと一対一で向かい合っていた。
「隊員達に異常はなかったようですね」
「ええ、皆さん健康そのもので、この世界にも適応できているようなので安心しました。あなたも大丈夫なはずなので、すぐに終わらせましょう」
そう言ってストッフェルは光の球を出すと、ナオヒトの検査を開始した。それはすぐに終わり、微笑が結果を伝えた。
「大丈夫だったようですね」
「ええ、あなたも健康体です。それと、あなた達全員、魔力があるようですね」
「魔力? 我々にですか」
「それもあなたのものはかなり大きいようです。これは興味深い」
ナオヒトは思わず自分の両手を見つめる。自分自身で特に変わったものは感じなかったが、とりあえずストッフェルの言うことは信じることにした。
「それでユウが興奮していたわけですか」
「ええ、よければこれからやってみましょうか」
ストッフェルは立ち上がり、ナオヒトと一緒にテントを出ると、近くで待機していたデレク達に近づいていく。ストッフェルはナオヒトと並んで立つと口を開いた。
「皆さん全員に魔力があることがわかりました。ですので、これからその使い方を簡単に説明いたします」
ユウはその言葉に目を輝かせて身を乗り出し、デレクは表情に疑問を浮かべる。
「ストッフェルさん、私は自分にそういった力があるとは思えないのですが」
「それは魔力についてわかっていないからでしょう。デレクさん、手を出してみてください」
「はい」
デレクが右手を差し出すと、ストッフェルはその手を両手で包んだ。
「指先からの感覚に集中してください」
ストッフェルが目を閉じて数秒後、デレクは指先からかゆみのような感覚を感じた。そして、その感覚が腕を伝ってくると同時に、それと引き合うように体の中心に今までに感じたことのない、力としか言いようのないものを感じた。
「……これは」
「感じますか、あなたの中にある魔力を」
「わかります」
「そのまま力を全身に巡らせるように意識してください。ゆっくり、力を抜いて末端まで」
デレクはそれに従って、全身をリラックスさせて魔力が全身に満ちていくのに任せた。数秒後、デレクは感覚のすべてが鋭敏になったのがわかった。
「不思議な感覚です。五感の全てが研ぎ澄まされて周囲が全く違うように感じられます」
その返答にストッフェルは手を放して一歩後ろに下がった。
「それが現代では最も基本的な魔力の使い方とされている、魔力による身体能力の強化です」
「これはすごいですよ」
そう言ったデレクはその場でまず軽く跳躍した。体はその身長ほども浮かび上がり、軽やかに着地をする。それから軽くシャドーボクシングを始めると、徐々に速度を上げていき、拳の速度は通常ではありえないものになっていた。
「おいおい、これならすぐにチャンピオンだぜ」
カロンゾは呆れたようにつぶやき、ユウは目を輝かせていた。動きを止めたデレクは、ナオヒトに顔を向けて口を開く。
「隊長、これはすごいです。反応速度の向上は操縦にも大いに役に立ちます」
「ちょっと待って! 次はあたしがやるから話は後!」
そこにユウが割り込み、ストッフェルに向かって両手を伸ばす。
「よろしくお願いします!」
ストッフェルは笑みを浮かべ、ユウの手を取った。