二日目
時刻は深夜、テントから出たナオヒトはヘルメットだけを手に取って外に出た。
「起きたのか」
それに気がついたアライアルからすぐに声がかかる。ナオヒトがそこに顔を向けると、ランタンを傍らに置いて座っているアライアルの姿があった。ナオヒトはその向かい側に腰を下ろすと、夜空を見上げる。
「変わった様子はなさそうだな」
「そうだな、休む間もなく出てこられたらさすがに困る。それよりちょうどいいから、少し話につき合ってくれよ」
「それなら私から頼みたいくらいだ」
「よし」
アライアルはランタンを二人の中心に動かす。
「お前達は傭兵だっていうのは聞いたが、あんなでかいものをただの傭兵は持てないよな」
「そうだな、我々の世界では大陸の一つがあのミュータルによって砂漠化している。基本的にどの国家もそれを奪還するほどの力はなく、防衛だけで手一杯だ。だが、一つの傭兵団だけは世界中からの支援を受けて、砂漠化した大陸に直接乗り込んでいる」
「それがお前達か。ずいぶん物好きな連中が集まってるみたいだな」
「誰かがやらないといけないことだ。それに、報酬は悪くない」
「なるほどな」
アライアルはうなずき、口元に笑みを浮かべた。
「まあ、俺達と似てなくもないか」
「そういう君達の組織はどの程度の規模なんだ?」
「人数が多いってわけじゃない、特に俺みたいな実働部隊は少ないんだよ。いつも人手不足だ」
「それを聞いて安心した。この世界の住人が極端に強力なわけではないんだな」
「そりゃあな。でも強いのは強いぜ、今の副団長なんか、はっきり言って俺よりも上だからな」
「君よりも強いか。会ってみたいな」
「でも、お前達には技術の連中が会いたがるな。あのでかぶつには連中飛びつくぞ」
そう言われ、ナオヒトは後ろを振り返って自分の機体を見上げる。
「あれをいじらせる覚悟は決めておけよ。特に一人すごいのがいるからな」
「それはどういう意味でなんだ?」
「発明家なんだよ。間違いなくあれをいじりたがるだろうけど、できれば許してやってほしいな。たぶんパワーアップするぜ」
「まさか、飛んだりするようになるのか」
「さあ、あのサイズだとさすがに俺達みたいに飛ぶのは難しいんじゃないか。まあ、まずいじるなら防御のほうだろうけどな」
「防御か」
ナオヒトはデレクの機体が持つ盾に目を向けた。
「あの盾を強化する方法があるのか」
「ま、俺の専門じゃないからわからないけどな。あれだけでかければ色々仕込めるだろうから、だいぶびっくり装備になるぞ」
「装備の強化は大歓迎だ。武器も強化できるものなのだろうか」
「さあな。でもまあ、うちの技術ならなんとか考えるはずだ」
そう言ってアライアルは立ち上がると、後ろを向いて手を上げた。
「隊長、特に変わったところはありませんでした」
アライアルと同じように手を上げたアイダンが報告をする。
「ご苦労さん。そろそろ交代の時間だからインジットとエルディを起こしてきてくれ」
「はい」
アイダンはすぐに背を向けると、二人が眠っているテントに向かっていった。それを見送ったアライアルはナオヒトに向き直る。
「俺は休む。ナオヒト、お前はどうするんだ?」
「起きてることにしよう。目が冴えてしまったからな」
「そうか、なにかあったら頼むぜ」
アライアルはそう言ってテントに向かっていき、それを見送ったナオヒトは自分の機体の元に移動すると、コックピットに乗り込んだ。
「眠れないのですか」
ハッチを閉じると同時にレイヴンからの声が響いた。
「少し気が高ぶっているんだろう。それより、サンプルの解析はどうだ」
「詳細な結果を得るにはまだ時間がかかりますが、核が分裂をしようとしている兆候がわずかにありました」
「分裂だと?」
「はい、今までには見られなかった現象です。どのようなことが引き起こされるのか推測もできません」
「そうだな、倒しにくくなる程度だといいが、間違いなくそれでは済まないだろう」
「私もそう考えます」
それから数秒の沈黙が流れ、ナオヒトはため息をついた。
「厄介なことになりそうだな。とにかくお前はサンプルの解析に集中してくれ」
「了解しました。それから、新しいデータでシミュレーションプログラムの更新をしておいたので試してみてください」
「わかった、すぐにやってみよう」
ナオヒトはヘルメットをかぶるとコンソールを操作してシミュレーションプログラムを起動した。
翌朝、結局ずっとコックピットにこもっていたナオヒトがハッチを開けると、すでにパイロフィストの隊員達が動き回っていた。
「そこにいたのか」
アライアルがナオヒトを見つけて声をかけると、ナオヒトも手を上げてそれに応えてからコックピットから地面に降り立った。
「あれからずっと起きてたのか?」
「戦闘の訓練をしていたんだ。シミュレーションといってな、仮想の戦闘訓練ができる」
「へえ、なんだかよくわからないが熱心だな。それはそうとして朝食だ、来いよ」
「そうか、皆を起こしてこよう」
ナオヒトはそう言うとテントに向かい、まずはデレクとカロンゾを起こし、それからユウとセレンも起こす。
「隊長はずっとシミュレーションやってたんですか?」
目をこすりながらユウがたずねると、ナオヒトは苦笑いを浮かべてうなずいた。
「私はお前達ほど神経が太くなくてな」
「それより早く朝飯にしようぜ、きっとうまいぜ」
カロンゾはそう言ってさっさと歩いて行ってしまう。ユウもそれについていき、デレクとセレンはため息をついた。ナオヒトはその二人の肩を軽く叩く。
「今はあの二人のほうが正しい。食える時に食っておこう」
そうして三人は朝食が用意されている場所にたどり着いたが、そこにあったのは簡易とは言えない大きなテーブルと、パンやスープにソーセージやチーズもあった。すでにテーブルについていたカロンゾとユウはそれぞれ好きなものを勢いよく食べている。
「これはずいぶん豪華だな」
ナオヒトがそうつぶやくと、背中を向けて立っていたアライアルが振り向いた。
「近くの村から買ってきたんだよ、食い物だけは豊富なところだ。ま、俺達はもう済ませたから、遠慮せずに食ってくれ」
「そういうことなら遠慮せずに頂こうか」
ナオヒト達三人もテーブルについた。ナオヒトはまずは豆と芋らしいものが入ったスープを手に取って金属のスプーンで一口飲んでみた。
「なるほど、これはがっつくのもわかるな」
そうつぶやいてカロンゾとユウを見ると、二人はそろってソーセージをかじったところだった。
「お前達、もう少し落ち着け」
ナオヒトは微笑を浮かべて言うと、自分もフォークを手に取ってソーセージに手を伸ばした。
数十分後、食べ過ぎたカロンゾとユウはテーブルに突っ伏し、デレクとセレンはお茶を飲みながらそれを呆れたように見ていた。
「だから落ち着けと言ったろう」
「でも隊長、こんなうまい飯は久しぶりだったんだよ」
カロンゾは反論し、ユウもうなずく。
「わかった、お前達はしばらくそうして休んでいろ。デレクとセレンはそいつらの面倒を見てやってくれ」
そう言ってからナオヒトは立ち上がり、アライアルに声をかけにいった。そのアライアルはヤルメルと何か話していたが、ナオヒトが声をかける前に振り返った。
「たっぷり食ったか?」
「まさかキャンプであんなうまいものが出てくるとは思っていなかった。それで、今日の予定は何かあるのか」
「ああ、とりあえず増援一名と技術二名におまけがもうすぐ到着するらしい。技術はお前達のでかぶつを調べたがるだろうから、協力してやってくれ」
「わかった。私の機体を提供しよう。彼らはいつ到着するんだ?」
アライアルはすぐには答えず、一度空を見上げ、それからナオヒトの背後に目を向けると、ため息をついた。
「アーリエ、無駄に先行するなと言ったはずだがな」
「あー、やっぱりばれてました?」
軽い声と同時に、パイロフィストの鎧に身を包んだ、少女と言えそうな年齢の女が突然ナオヒトの後ろに姿を現した。
ナオヒトは驚いて振り返るが、その時にはすでにアーリエの姿はなく、今度はアライアルの横に姿を現していた。
「イタタタッ!」
だが、その頭にはアライアルの指が食い込んでいる。
「超能力の無駄遣いをするな」
「わかりました、わかりましたよ」
アーリエが手を振り回して言うとアライアルは手を放し、その背中を強く叩いた。
「まあ、お前がだいぶしごかれたのはわかる。他の連中はどうした」
「あたしが戻ったらすぐに来ますよ」
「なら、さっさと呼んで来い。いや、とりあえずキーツとおまけをまず連れてきてくれ」
「はーい」
アーリエの姿がまた消え、それから一分程度経つと、今度は二つの人影を連れて戻ってきた。
「久しぶりだな、キーツ」
アライアルはローブを身にまとった青年に声をかける。
「ご無沙汰してます、アライアルさん」
「それとケイツ、お前もな」
続けてキーツの横にいる、青い髪と狼のような耳を持った少女にも声をかけた。
「こんにちは、おじさん」
ケイツと呼ばれた少女はにこっと笑って頭を下げる。すると、その腰のあたりにある尻尾が嫌でも目に入った。黙って驚いているナオヒトに、アライアルはその肩を叩いて口を開く。
「その反応じゃ、そっちの世界にこういう奴はいないようだが、安心しろ、こっちでもこいつだけだ」
「そうなのか、それなら彼女は一体?」
「それは話せば長くなるから、また後でな。それより、キーツにお前達のでかぶつを見せてやってくれ」
そう言われてナオヒトは目を輝かせて自分の機体を見上げるキーツに視線を向ける。するとキーツのほうもそれに気がついて頭を下げた。
「パイロフィスト技術部開発課所属のキーツです。よろしくお願いします」
「ナオヒトだ。こちらこそよろしく頼む」
二人は軽く握手をした。