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群狼部隊  作者: bunz0u
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変異

「レイヴン、あれもミュータルなのか」

「はい、姿も形もは今までにないものですが、あれらも間違いなくミュータルの反応があります」

「そうか、連中は間違いなくこの世界に来てからさらに変異をしてるな。しかし、彼はレウスといったか、ミュータルを圧倒しているぞ」

「小型ですが数が多いミュータルの核を確実に破壊していっています。大型も一撃でしとめていましたし、彼はどうやって核の場所を把握して攻撃しているのでしょうか」

「それは後で聞いてみよう」


 そう言ったナオヒトの視線の先では、人間型ミュータルに周囲を囲まれたレウスの姿があった。すでにミュータルの三分の一はその手にある剣によって切られていたが、まだ数は四十体残っていて、退く様子も見せない。


 右手に剣、左手にその鞘を持ったレウスは全く息が上がったような様子もなく、無造作に足を踏み出した。


 そこにミュータル三体が右側面から一斉に飛びかかってくるが、レウスは最初の一匹を鞘で打ち、残りの二体には軽く右の剣を振るった。切られた二体は勢いを失って地面に落ちると、形を失って動かなくなる。


「すごいな、剣では全部一撃だ」


 レウスとミュータル達を囲むように障壁を展開しているアイダンは、初めて見るレウスの戦いぶりに舌を巻いていた。


「副隊長、こちらはレウスさんが圧倒していて全く問題ありません」

「そのまま油断するな、こっちもとりあえず捕えた」

「了解」


 ヤルメルは通信を切ってから、氷の牢獄で暴れるミュータルを見上げる。


「副隊長、早くこいつに止めを刺さないんですか」

「インジットが来たら始める。ああ、もう来たか」


 言葉通り、インジットが二人の背後に着地すると、ヤルメルはすぐに手招きをした。


「これから私があいつに攻撃を加える。お前達は奴の変化を見極めて、核の場所を突き止めろ」

「見つけたら攻撃してもいいんですか?」

「当然だ」


 エルディの問いにヤルメルはうなずくと、氷の牢獄の前まで歩いていき、両手を組む。


「いくぞ」


 その声と同時に、氷の檻の側面から内部に向かって鋭い氷の槍が突き出た。それは行き場のないミュータルの体に突き刺さる。だが、ミュータルは動きが阻害された以外の反応は見せなかった。


「足りないな。やはり全方位か」


 ヤルメルはつぶやくと、今度は全方位から氷の槍を発生させてミュータルの全身に突き立てる。それでもミュータルに痛みのようなものは観察されなかったが、それでも身をよじり牢獄から脱出しようとしていた。


 エルディは槍を投擲できるように構え、その様子をじっと観察する。


「そこだ!」


 鋭い気合いと同時に槍を投げると、それは一瞬でミュータルの胸のあたりを貫いていた。すると、ミュータルの動きが止まり、その場に崩れ落ちていく。


「さすが」


 インジットは構えていた杖を下げると、ヤルメルのところに戻っていく。ヤルメルはそれを横目で見てから、ミュータルが完全に動かなくなったのを確認し、組んでいた手を放した。


「ここはもう大丈夫そうだな。インジットは一緒に隊長の援護、エルディは武器を新しく持ってきて待機だ」

「わかりました」


 エルディはすぐにキャンプに向かって跳び去り、それを確認したヤルメルはインジットにうなずくと、派手な爆発と衝撃がまだ続いているアライアルの元へと地面を蹴って向かった。


「一体撃破したか、しかしあの氷を作り出す能力は凄まじいな。レイヴン、分析はできるか?」

「見た目は氷ですが、未知の強靭さです。あれも魔法の力ということなのでしょう」

「それにあの槍の一撃もな。ユウのライフルよりも威力がありそうだったぞ」

「ミュータルの核を発見する手際も素晴らしいものでした。我々にはできない手段でしたが」

「そうだな、あんな装備があったら助かるが、ないものねだりか」


 ナオヒトは一度レウスを確認し、そこが順調なのを見ると、派手な戦いが続いているアライアルの方を確認する。


「アライアルさんの戦っているミュータルは反応が強くなってきています」

「この世界で出現するミュータルは明らかに違うな。戦闘中に変態までするのが二体もいて、一体は反応が強くなるか」

「どちらも初めて観測する事態ですね。有意義なデータがとれています」

「この調子なら、彼らが負ける要素もなさそうだから、そっちに集中できるな。これからのためにもしっかり頼むぞ」

「もちろんです」


 その視線の先では、アライアルが巨大な四足のミュータルの頭部に強烈な蹴りをさく裂させていた。ミュータルはその巨体を地面に転がし、アライアルは高度を上げてその様子に首をかしげる。


「おかしいな、少し重くなってきた」


 そこにミュータルが首だけ動かして口を開く。ちょうど三秒後、その口から火球が形成され、アライアルに向かって放たれた。


「さっきよりも収束してるな!」


 アライアルはその火球を一度右手で受け止めると、軌道を変えて空中に受け流した。火球は上空で派手に爆発してアライアルとミュータルを照らす。


「威力もさらに上がってるか。こいつは面白い!」


 すぐにミュータルが突っ込んでくるが、アライアルはそれをかわして一気に地面まで降下した。ミュータルもすぐに着地してアライアルに体を向ける。


「一回り小さくなったのか、今までよりも強そうじゃないかよ」


 そう言ってアライアルが横に移動すると、ミュータルも同じように動く。


「俺の動きを見るか。頭も良くなってきてるらしいな」

「隊長!」

「あっちは片づいたか」


 アライアルは背後に着地したヤルメルとインジットを一瞥すると、腰を落として構えをとった。


「まだ手は出すなよ!」


 ミュータルが先に横に動き、アライアルもそれを追って地面を蹴る。すぐに両者はほぼ同時に方向転換をすると、互いに正面から突っ込む。


 だが、ミュータルがアライアルに激突した瞬間、アライアルの姿が弾け、ミュータルはすかされたことでバランスを崩した。いつの間にか上をとっていたアライアルが体勢を立て直すと、バックパックが弾けてアライアルの両足の装甲となる。


「モードミラージュ!」


 アライアルの上に分身が十体発生すると、それが一斉にアライアルの背中に集中し、強烈な推進力となってその体をミュータルに向けて撃ちだした。


 次の瞬間にはアライアルの右足がミュータルの首にあたる部分を貫き、胴体から切り離していた。アライアルは蹴りの勢いで地面を削りながら反転すると、そこからすぐに足に力を込めて踏み切り、右腕に炎をまとわせてそれをミュータルの首の切断面に突っ込んだ。


「こっちはいらないからなあ!」


 ミュータルの体が内部から赤く光り、アライアルの右腕を中心としてその全身が弾け飛んだ。


「ヤルメル! 頭を凍らせろ!」


 アライアルが指示を出すと、地面に落ちて動いていたミュータルの頭部が一瞬で凍りつき、動きを止めた。それを確認したアライアルは両足の装甲を解除して手を軽く叩くと、氷の塊を拾い上げる。


「よし、レウスのほうはもう終わってるだろうし、この土産を持って戻るか。あの人工知能ってやつに見せれば何かわかるだろ」


 アライアルは地面を蹴り、ヤルメルとインジットの二人もその後に続いた。


 その三人が戻ると、すでにアイダンは障壁を解除していて、レウスも剣を杖に戻していた。


「ああ、やっぱり終わってたか」


 そうつぶやいてから、アライアルがレイヴンの方を見ると、そこではナオヒトがレイヴンと何かを話していた。


「とりあえず警戒を続けておいてくれ。俺はナオヒトと話してくる」


 氷の塊を放り上げながらアライアルが歩いていくと、ナオヒトは顔を上げる。


「あらためてすごいな、これだけ早く終わるとは思わなかった」

「それより、ミュータルってやつの核を一つ確保したんだ。調べられるか?」


 アライアルが氷の塊を差し出すと、ナオヒトはその内部に閉じ込められているものを見て驚きの表情を浮かべた。


「これは、初めてだな。レイヴン、この状態で調べることはできるか?」


 数秒経ってから、レイヴンの返事が返ってくる。


「可能です。その氷は大丈夫なのでしょうか」

「これは普通の氷じゃないからな、このままでも三日は大丈夫だ」


 アライアルが氷の塊をナオヒトに手渡すと、ナオヒトはそれをレイブンの外部モニターの前に持っていった。


「非破壊検査で出来るだけの調査をしてみます。それでも今までにない情報が得られると思いますが」

「それならすぐに頼む。これはサンプル室に入れておくからな」

「はい」


 ナオヒトはコンソールを操作して小さなハッチを開けると、その中に氷の塊を収め、そこを閉じる。


「これで、ミュータルが今までにない姿に変異した原因が探れるかもしれんな」

「まあとりあえずそっちはお前達に任せるよ。とりあえず晩飯にしよう。大したものも用意できないけどな」

「いや、何から何まで本当に助かってる」

「気にするなよ、これが俺達の仕事なんだから」


 そう言ってアライアルは手を振りながらキャンプの方に歩いて行った。

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